強くある為に

任天正樹は能力者である。
しかし彼は今大きな問題を抱えていた、そこで………

リモートで桜井彩月に連絡を入れる。

「彩月、いるか」

「あ、任天さん、私へ電話なんて珍しいこともあるね」

「色々あってな………声が聞こえにくいが、そっちは何があった?」

「あー……なんというか、少し仕事でやらかして……そっちには来れないんだよ」

「時々お前がまだ小学生ということを忘れそうになる」

「それで、私になにか相談?」

「それなんだが………」
そう言って、正樹は自分の悩みを打ち明ける。
その話を聞いて、彩月は…
それは、ある意味では自分にとって衝撃的な言葉だった。
──────

「カードヒーローをもっと深く使いこなしたい?」

「ああ、カードヒーロー……俺の任天堂戦士としての能力であり、元になったゲーム」

「お前達の物と違って俺のはカードゲームだ、だから……」
正樹は彩月に自分の考えを伝える。

「つまり、私にゲーム知識を教えて欲しいと」

「そういうことだ、俺もまた経験してみたかったんだが……どうにも苦手だ」

「まぁ、確かにね」

彩月は改めて任天正樹について考える。
彼はいわゆるほぼ普通の一般人である。
普通というのは何を持ってして普通なのか?という話になるが……
あまり戦闘とかには関わってないので無理は無い。

「一応ゲームに出てくるモンスターを召喚できるまでは言ったが、どうにも扱い慣れてない感じでな」

「確かにカードゲームが元となると召喚は出来ても処理が複雑だからね……カードヒーロー自体、そこまで知られているゲームじゃないし」

「………となると、ミラクル版も知らないよね任天さん」

「カードヒーローってリアルワールドだとニンテンドーDSで終わってるけど、向こうでは違うのか?」

「ううん、こっちでもリアルワールド基準で完結しているよ。ただミラクル版はちょっと特殊というか……」

「特殊?」

「こっちじゃ既に発売されていないんだけど、バーチャルリアリティの機器を使って遊べるようにしたソフトがあるんだよ」

彩月はリモート先から機械を操作して、バーチャルリアリティのゲームを見せる。
そこには見覚えのある建物があり、多くのプレイヤー達が遊んでいる光景が見える。

「どんなマイナーゲームでも熱狂的なファンはいるからね、時空になると大規模になるんだ」

「なるほど……今でもあるWiFi対戦を何倍にもパワーアップしたようなものか」
すると画面内に……二人の人物が現れた。
その二人は……正樹もよく知っている人物達だった、カードヒーローのゲームのキャラだ。

「折角だからちょっと相手してよ、私と」

「カードヒーローか……お前が幼稚園児の時以来か、だが俺は……」

「分かってるよ、新しいカードヒーローだもの、ちゃんとデッキも用意するよ」

そう言うと彩月はまた機械を操作して、大きなBOXを転送した。

「ゲームでも実際にパックを剥くシーンあったでしょ?今回はデッキ一個分組めるレベルだよ!」

「結局は運か……だが、カードゲームとはそういうところだな」

正樹は出てきたパックを一枚ずつ剥いて、カードを見ていく。
昔を思い出す、こんなカードをゲームで集めながら自分だけのデッキを作っていたあの子供時代……
「このカード懐かしいな……」

「任天さん、何か言った?」

「いや……」

しばらくして、正樹は全てのパックを剥き終わりカードを確認する。

「マジックカードはともかく…スーパーカードは進化元になるモンスターがなければ意味を成さない、モンスターも慎重に選ばなくてはな…」

「任天さん、まだ~?」

「待ってくれ、俺だって久々のカードヒーローなんだ」
「もう……早く私と戦って欲しいな」

正樹は確認を終え、ついに自分のデッキを作る。

「まずは……前衛と後衛の数を合わせるか、内容は?」

「スピードバトルだよ、最近はそれが主流だね」

「なら前衛も後衛もフィールドは1つずつか……分かった、少し待ってろ」

しばらくして、正樹は準備を終えた。
画面に映るのは……桜井彩月である。
桜井彩月は天才である。
1度戦ったからわかる、相手が手加減してもまだ勝てる気がしないことを、それでも……

「いくぞ、彩月」

「いいよ、面白くなってきた!」

ゲームがコインを投げて、先行後攻を決める……今回は表が出たので正樹が先行だ。


「プログラムを組んで任天さんが先行になるようにしておいたよ、これくらいのハンデはいるでしょ?」

「ルールは一応説明しておくね、スピードバトルは前衛と後衛の2エリアのみ、プレイヤーはどのターンでもエリアが空いていたら必ずモンスターを召喚しないといけない」

「そして前衛、後衛それぞれ得意なタイプが分かれている………もちろん覚えている」

ゲーム開始時、まず手札を5枚引いてそこから前衛と後衛にモンスターを置く。次に各プレイヤーにストーンが割り振られる。

「カードヒーロー!スタート!」

掛け声とともにバーチャル技術でモンスターが実物のように浮き出してくる。
正樹の前には前衛に大きなイカのような生物、後衛には大砲を背負ったカメが現れる。

彩月の前には……前衛に小さなドラゴン、後衛に巨大な機械の鳥が現れた。
どちらも空を飛ぶモンスターである。

「あれは氷の竜アドラ……確か、スーパーカードの1つ『氷帝コルドラ』の進化元…」

「前戦った時はアンノウンで踏み倒したけど、今回はちゃんと正規進化させたいからね」

「その後ろのやつはなんだ……?ヤンバルにしては機械チックだが」

「新カードだよ、カードプールもDS版の10倍近くに増えているからね」

「ブレイバー、その実力はお楽しみにってことで」

「任天さんが出したのは前衛にゲイラ、後衛にガンタス……なるほどね」
彩月の出したのは前衛に氷の恐竜、後衛に機械の鷹である。
両方とも飛行能力を持っているので、前線にいるゲイラやガンタスへ空中戦が出来る。

正樹のガンタスはバズーカによる後方射撃が行える。
ガンタスを残すために前衛はHPの多いゲイラを採用した。
彩月は前衛にコルドを配置して、攻撃に備える。

「先行だから俺のターンだ……」(避けたいのはアドラのレベルが上がって進化することだ、ここは……)

「ゲイラでアドラに攻撃!そしてストーンを消費して、ガンタスのバズーカ攻撃!」
アドラもHPが多い方だが、初手の連続攻撃で一気にHPが2に経過する。

「う……流石に露骨過ぎたね、こっちのターン!アドラでゲイラに攻撃!そしてストーンを消費してブレイバーのカッター!ストーンを消費すればダメージ+1で3だよ!」

彩月も負けずに攻撃して、ゲイラのHPを一気に1に追い詰める。

「任天さん……でも、そっちも甘いよ!ガンタスに攻撃を当てさせないために、体力が多いゲイラを盾にしたつもりなんだろうけど……それは間違っているよ!」

彩月のコルドは上空を飛び回り、ゲイラの背後から奇襲を仕掛ける。
そして、コルドの攻撃でゲイラはあと一撃で戦闘不能になる。
ゲーム開始早々、正樹のモンスターは半分以上が瀕死になっていた。

「任天さんはガンタスを耐えさせて、多分ガンタスのスーパーカードを持っているんだね、でもそれじゃダメだよ!」
「彩月……お前……」

「……まだだ!俺のターン!ガンタスのバズーカ!攻撃力2でアドラをちょうど撃破し……」


「………!」

「レベルが上がらない……!」
正樹のガンタスは、彩月のアドラをゲイはした
しかし、正樹のゲイラのレベルは上がらない。
その理由はすぐ考えれば分かった。


「ガンタスには致命的な弱点があるの、それはバズーカ攻撃しか出来ず、使用にはストーンを消費すること」

「そして、モンスターはレベルアップの為にもストーンを必要とする……」

「つまりガンタスはまだ誰も倒されてない状態だと、どんなに攻撃してもレベルが上がらないの!」

ゲイラのHPの多さが仇となった、生き残ったことでストーンが増やせず、ガンタスのレベルアップに使用する量が残っていなかった。
更に、ゲイラの遠距離技であるダークブレスもストーンを消費するため、後衛を攻撃することも出来ない。

「くっ……!だったら、次のターンにはゲイラが倒される!そこからストーンを補充し、時間はかかるが立ててガンタスを……」

「次…?どのカードゲームでもそうだけど、戦略に次を考えてる余裕は無い!」

「私のターン!ブレイバーを後衛に戻し、神斬丸を召喚!神斬丸で攻撃してゲイラを撃破!ストーンを消費してレベルアップ!」

「!」

(神斬丸……あれは確かストーンを2個消費して後衛を攻撃できるカード…しかも、レベルが上がったことでその攻撃力は3…!)

彩月の神斬丸はゲイラのHPを貫通して倒すことに成功する。
これで彩月がまた優勢になった。最大ストーンが9あり、これが全て溜まってしまう敗北となる。

「まだだよ、マジックカード『命削り』を発動、モンスターをリリースしてレベルの数だけストーンを獲得するよ」

「な……自分のモンスターをわざと破壊!?」

「私ね、カードゲームだと最近リスク系にハマってるんだ、よくあるでしょ?わざとダメージをうけて自分を追い込み、ギリギリなるとパワーアップするみたいな」

「そしてまた枠が空いたからモンスターを召喚!おいで、ボムジロー!!」

「ボムジローの『超ジバク』発動!ストーンを2つ消費して、全て吹き飛ばす!」
「なっ……!」

彩月はフィールドに、巨大な爆弾を配置する!
このボムジローは攻撃も防御も普通な性能だが、代わりにストーン消費することで自爆して全てを焼き払う。

その威力はボムゾウの比ではない。

「ボムジローの自爆で1ストーン!爆破の余波でブレイバーもやられて更に1ストーン!」

「だが、ガンタスは3ダメージならまだ生き残っている!それにそれでお前のストーン数は6だ!」

「分かってるよ!そこで残りのモンスター2枚と残った2ストーン全部使うの!」

「前衛にマリブラ、後衛にヤンバルを召喚!」

「なっ……ヤンバルはストーン無しで遠くに攻撃出来るモンスター!」

「そう!ワイルドクロウでガンタス撃破!ストーンを消費してヤンバルをレベルアップ!」

「更にマジックカード!ストーンを1つ消費してエナジー吸収を発動!ヤンバルをリリースしてレベル2をライブラに分け与える!」


「そして……」

彩月は輝くカードを取り出す。
それは正樹も見たことがないものだった。
それは正樹が彩月のデッキに組み込んだものと
彩月はそのカードをバトルゾーンに置く。

「それは……スーパーカード!?何故だ、それは……」

「私は『氷帝コルドラ』のスーパーカードを使うとは言ってないよ」

「ライブラをレベル3にする時!スーパーカード『ギルティマント』に進化させる!!」
《ギルティマント》
遂にスーパーカードが場に出た、それも今まで見たことないほどの……

「ギルティマントは正規進化に成功した時、このターンに消費したストーンを相手にも与える!」

「………!まさかこの為に!」

「私が使ったストーンは6!任天さんは2体倒されてるからストーン数は3!」

「これで任天さんのストーン数は合計9になり、任天さんは敗北となる!!」


………

「く……完膚なきまでに叩きのめされた」

「なんかごめん、私も任天さん相手だし今度は手加減しようと思ったんだけど」

「いや……俺のミスもあったからな」

「しかし、本当に見たことないカードも結構あったな……さすが時空、こういうゲームでも凄い進歩するんだな」

二人はカードショップ画面についていた。
正樹が彩月に負けたので、買い物に付き合うことになったのだ。
リモート越しで行うのでそこまで時間はかからない。

「本当ならバーチャルじゃなくて本物の買い物がしたかったけど仕方ない」

「お前をすぐそばに置くと何が起こるか分かったものじゃないからな……」

「……彩月」


「ん、分かったよ」


「私が任天さんを強豪カードヒーロープレイヤーにしてあげる」
ーーー ーー
最終更新:2023年05月20日 16:53