「じゃ、任天さんお願い」
「ああ、送るぞ」
任天正樹はゲーム作品『カードヒーロー』の能力者。
能力を鍛えるために実際にカードヒーローのスキルを鍛えているところだった。
今は先程作成し、使用したデッキを送信して彩月に見てもらっているところだ。
「うーん……前衛後衛の数はバランス取れてるね」
「前みたいにスパルタスって雑魚カード使ってるわけでもないし」
「あ……あの時は時間が無かったんだ」
「それで……あ、やっぱりガンタスが3枚にスーパーカードはメガンタスを採用してるんだ」
「あのパックを剥いたらメガンタスが出たからな、ガンタスは馴染みのあるモンスターだしこいつを中心にしたデッキを組もうとな」
彩月は正樹に対して、彩月も知らないような知識を話すことが多い。
彩月は正樹と話すのが嬉しいのか任天正樹に対して好意を持っているように思える。
しかし彩月はその感情が何なのか理解していない様子だ。
彩月は任天正樹のデッキについて考察していく。
「ガンタスはさっき話した時も言ったけど……大積みして序盤から出すのには向いてないモンスターだよ」
「ストーンを消費しないとバズーカ攻撃が出来ないのに、このゲームはレベルアップにもストーンが必要だから序盤は絶対にガンタスがレベル1のままになっちゃう」
「前衛を壁役にしてガンタスを温存させるよりは、低耐久でさっさと死なせてガンタスのバズーカに使う分とレベルアップの分を確保した方が良さそうだな」
「うん、でもこのカードを使うとね…」
正樹は彩月の説明を聞きながら納得している。
彩月の説明は非常に分かりやすい。
特に今回は彩月が正樹のために分かりやすく説明しているため、正樹はすぐにデッキを組める。
「ガンタスから進化するメガンタスはバズーカがメガバスターになって攻撃力は5…しかもストーン無しで攻撃も出来る、進化させ出来れば」
「と言いたいけど、カードゲームでは避けられない上位互換があるんだよねガンタスって」
「ああ…さっき彩月が出したヤンバルやビヨンドはガンタスと違いノーコストで遠距離攻撃が出来る上に、攻撃力はガンタスと同じ…」
「まぁ……ゲームだからそこはしょうがないよ」
彩月は正樹の言葉を否定しなかった。
ゲームである以上、そのゲームで遊んでいるプレイヤーにとって都合の良いゲームバランスになっているのだ。
ゲームのバランス調整が悪いという声もあるが、それはゲームの楽しみ方が違うだけのことだ。
「でもガンタス使うんだね?」
「こればかりはこだわりになってしまうがな」
「うんうん、収集系ゲームっていかに推しを活躍させるかもあるしね」
「となると、ガンタス以外は一新しちゃおうか」
………
「彩月、まず何を入れればいい?」
「前衛は直ぐに退場しやすくて、なおかつそこそこ戦えるキャラがいいよね」
「…となるとボムゾウか、ストームボムで遠距離攻撃も出来るし、自爆攻撃で自分のライフを減らしながら攻撃出来る、ストーンも消費しないからガンタスが無駄打ちにならない」
「ディンもいいよ、2〜5のランダムダメージというロマンがありながら自傷で即退場出来る。」
「そして、充分ストーンが溜まった時の壁役として新カードのマナスビーだよ!」
桜井彩月はカードヒーロー上級者でカードヒーローに詳しい。
彩月のアドバイスを受けつつ、任天正樹はデッキを組み直していく。
…………
「よし、メガンタス、ガンタス中心の後方砲撃特化デッキ……完成したか」
「やった!」
任天正樹は桜井彩月のサポートを受けて、ようやくデッキを完成させたようだ。
桜井彩月は任天正樹と話すのが楽しいのか笑顔だ。
そんな彩月に対して、正樹はふと思ったことを質問してみる。
「彩月、俺は所謂ファンデッキのようなものを作ったが……カードヒーローのミラクル版はこんな風にテーマのあるデッキは沢山あるのか?」
「もちろんあるよ、ロマンと言えぱケントゥリアスは知ってる?」
「ああ、攻撃力が高いが失敗することもある……みたいな奴か」
「ケントゥリアスを中心に体力を下げたり上がったりするスラゴン、レベルが上がるか下がるかするマジックカードなどを入れたギャンブルデッキなんかが有名だね」
「なるほど……決まれば強そうだ」
「他だとね、攻撃を受け止めて倍にして返すワンフーっていうカウンターの特性を持つキャラがいるんだよ」
「そんな見え見えの技、相手にされずヤンバルとかで後衛を狙われたりマジックカードで潰されるんじゃないか?」
「もちろん使う人はそれも想定しているよ、だから特技無効化のゴーストシープや魔法封じで絶対にワンフーを攻撃させるようにするんだって」
知れば知るほど奥が深い。カードゲームの世界に正樹と彩月は魅了されていた。
しかし、彩月が正樹に対して話しているのはカードゲームのことだけではない。
カードゲーム以外にも正樹に話したいことは山程あったが、今は正樹と話せるだけでも充分だった。
「これでデッキは組めた、あとはどうする?」
「1回組んで完成じゃないでしょ、カードヒーローはスピードバトル限定でbotと戦える機能があるから、これで試行錯誤してデッキを調整しないと」
「結局は数と経験か……」
………
何戦かし終わった頃、彩月は正樹に聞く。
「任天さんが昔ゲームが嫌いになったのって、あの人……四羽龍桜って人に酷い目に合わされたからだよね」
「そうだな、負けるのってあんなに怖いのかと思ったよ」
「………だからその、私も結構気を使ったんだけど、つい…デッキのコンボが決まると止まらなくて」
「気にするな」
「そこから、本当のゲームの楽しみ方を教えてくれたのはお前だ」
「………そっか」
………
しばらくして、botと戦い、勝負の度にカードを交換しては試行錯誤し、新しいカードも試しながら何十戦もして……
「よし、そろそろいいだろう」
「自分の中で納得のいくデッキが出来た?」
「ああ……これからは能力で召喚する時もこのデッキを使おうと思う」
任天正樹は桜井彩月に自信満々で答えた。
桜井彩月も満足そうに答える。
桜井彩月と任天正樹がカードヒーローで遊んでいる間、彩月の家のリビングでは……
「遅いなぁさっちゃん…1ヶ月行方不明になってやっと繋がったかと思えば、しばらく帰ってこないなんて」
彩月が上がり込んでいる家の主人であり、ほぼ親代わりの
鈴蘭音牟が帰りを待っていた。
「電波は繋がるようになったんだし、さっちゃんに連絡入れちゃお!」
と、携帯を取りだして彩月に連絡を入れるのだった。
…………
「じゃあ、本当に帰れない状況なんだ……その、またやらかしたんだね」
「またって言わないでよ……本当に私が原因でとんでもないことになったのは今回が初めてなんだから」
「改めて彩月は普段どんな生活しているんだ、小学生という自覚を持って欲しい」
「それにしても任天先生、やっぱり今でもカードヒーローやってるんだねぇ、やっぱりさっちゃんからミラクル版勧められたみたいだし」
「あ、そうだ……折角だからおねむと一緒にカードヒーローの試合どうかな」
「何?出来るのか?」
「さっちゃん、任天先生の能力を見て別れてからもずっとカードヒーローは欠かさずやっていたから、不思議とおねむもデッキ作っちゃったんだよね」
「お、いいじゃんねむ姉、任天さんも出来たばかりのデッキで対人戦を試すいい機会じゃない?」
「そうだな……」
任天正樹は少し考えるような素振りを見せる。
彩月が正樹のカードヒーローについて話しているのを聞いて、任天正樹は自分が昔やったゲームを思い出していたのだ。
……
「分かった、相手しよう」
「やった!」
(こうしてみれば……大人になってから彩月以外の相手をするのはこれが初めてだな)
(鈴蘭音牟がゲームをやっている姿も動画でしか見たことない…)
(だが……ずっと彩月のそばに居たやつだ、油断は出来ん………)
「先行は譲るよ〜」
「「カードヒーロー ファイト!」」
ゲーム開始と共にそれぞれのモンスターが召喚される。
正樹の前衛はボムゾウ、後衛にガンタス。
音牟の前衛はタコッケー、後衛はルージュだ。
「あっ、ボムゾウにガンタス……うーん、危なそうだねぇ」
「くっ……あれはストーン一つでどんな距離にも攻撃出来るラブフラッシュを使えるルージュか……」
先制は正樹。
後衛のガンタスがバズーカで遠距離攻撃を仕掛けるが……
敵であるタコッケーはバズーカを難なく耐える。
しかし、そこから正樹のボムゾウが自爆攻撃で更にダメージを与え、タコッケーを満身創痍にしてターンを終える。
「ど、どうしよ〜……タコッケーやルージュの攻撃じゃボムゾウを倒しきれないし、ボムゾウがレベルアップしたら体力回復しちゃうから意味が無い……」
「……」
「よし!こうなったら、マジックカード発動!」
音牟は手札からマジックカードを一枚取り出す。
「マジックカード『エスケープ』!ストーンを1つ消費してタコッケーをリリースするよ!」
「そして空いた後衛にシトラスを召喚!ルージュを後ろに下げてシトラスでボムゾウに攻撃してターンエンド!」
「俺のターン」
(ガンタスのバズーカを使えばシトラスは倒せるが、ストーンを無くしてボムゾウのレベルアップが出来ない……ここは)
「ボムゾウの自爆攻撃でシトラスにダメージを与えて、マジックカード『パワーダウン』!ルージュの攻撃力を下げてターンエンドだ!」
ボムゾウの自爆でシトラスのライフが2になり、ライフを削って残り1となる。
次のターンにシトラスの攻撃でボムゾウは撃破されるが、パワーダウンで攻撃力0になったルージュではガンタスを攻撃出来ない。
「あっ…ターンエンドだよ」
「俺のターン!ガンタスを後衛に下げてカムロを召喚!」
「えっ、か、か、カムロ!?」
「カムロでシトラスを攻撃し撃破!レベルはそのままにしてストーンを残す!」
この様子を彩月は考察する。
(カムロ…ライフはたったの1しかないから出した次のターンに倒されるようなモンスターだけど、カムロは倒された時相手を呪い、倒したモンスターのライフを強制的に1にす
る…)
「うぅ……シトラスがやられちゃった……おねむのターンいいかな?」
「いや、まだだ」
「ストーンを2つ消費して『守護の構え』発動、後衛モンスターが受けるダメージを全て前衛が受ける。」
「っ!」
「やるね、任天さん……ルージュは後衛に下げないといけないから次のねむ姉のターンは攻撃出来ないし、モンスターは空いたら絶対召喚しないといけないルールだから、前衛モンスターは絶対にカムロを攻撃する…」
音牟もまたカードヒーローをやり込んでいる様子だ。
しかし、正樹は焦っていた。
なぜなら…一見優位に見えるようで、実際は危機が迫っていたからだ。
実は、ガンタスのストーン処理の為にライフの少ない前衛を多く積んでいるため、流れに乗って速攻されてしまうと次々に片付けられてしまい、あっという間に敗北するという弱点がある。
(まずいな……鈴蘭のデッキはまだ分からんが、攻撃力が高い奴が来られると勝てなくなる)
(だが、ここで手加減はしない……)
「お、おねむのターン!ルージュを後ろに下げて……」
「キラービを召喚するよ」
「……ッ!?」
「甘いよ任天さん、ねむ姉は私とよくカードヒーローに付き合ってくれたんだよ」
「うん、カムロの呪いはやったばかりなら焦ったけど、色々テクニックを教えてもらったからね」
正樹もここで作戦をどう読んで突破したかに気付く。
「そうか…目の前の的には一切のダメージが通らない後衛モンスターを正面に置けば、攻撃しても0ダメージ、カムロは倒れず呪いも発動しない…!」
「……いやねむ姉」
「キラービのHP2しかないからガンタスのバズーカで即死圏内なんだけど」
「あっ」
ガンタスのバズーカがキラービに直撃。
キラービはバズーカの爆発で吹き飛び、正樹のストーンにぶつかって砕け散る。
キラービは撃破される、音牟のストーンは3になった。
「ガンタスは当然レベルアップさせてターンエンド」
「いやーっ!」
(あと少し……あと少しだ)
{メガンタスに進化さえさせられれば……!}
「…………」
(任天さん、凄いや……あれから本当にガンタス中心で引き立てるようにデッキを作ったんだね)
(ねむ姉も確か
リアルワールドで発売されたカード中心に組んでるから、任天さんも予測しやすいんだろうね)
(でもね、カードゲームってのは……最後まで結果が分からないものだよ)
最終更新:2023年05月20日 16:53