正樹は後方砲撃を得意とするガンタスを中心に、ライフが少ないモンスターなどで命削りを行いながら、ガンタスを強化していく逆境型デッキを作成し速攻、優勢に追い込む。
音牟の方は手札が回らず、中々いいカードが来ない状況だ。
「お、おねむのターン!ルージュを後ろに下げて……えーとHP3以上の……いや、カムロの攻撃力もあるから5より上じゃないと……」
「そんなモンスターここに無いよ!ピグミィ召喚!スパイクボールでガンタスを攻撃!2回攻撃だよ!」
「ねむ姉、ねむ姉!!」
「今ガンタスはレベルアップしてるからバズーカの攻撃力は3だよ!!」
「あっ!!」
そしてターンが回り、ガンタスのバズーカがピグミィを撃破し……
「ガンタスをレベルアップ!そして……ガンタスをレベル3にさせる時!」
「スーパーカード『メガンタス』に進化させる事が出来る!」
「!」
ガンタスの姿が大きく変化し、大砲や見た目が一新され………メガンタスに生まれ変わる。
進化の衝撃で音牟のフィールドのモンスターは全て消し飛んだ。
「うっ……そっか、スーパーカードは登場するだけで相手のモンスターを全て破壊する……」
(ひとまず、最初の目標はなんとかなった……だが安心は出来ない、スーパーカードは強い、だが無敵という訳では無い)
スーパーカードの対策方法はいくらでもある、進化させないこともそうだがレベルを下げる魔法を使えばまたガンタスに戻ってしまうし、速攻により沢山ストーンを得た音牟はそれらのマジックカードを発動させるためのコスト自体は持っている。
「もう何も出来ない、ターンエンドだ」
「え、えーと、おねむのターン!えっと、モンスターがスーパーカードの登場で全滅してるから……前衛後衛全部立てないと!」
「こんな事なら悪魔のダンス入れておけばよかった………どうしよ……」
「ねむ姉!攻撃するマジックカードが無いならもうカムロの呪いは受けるしかないよ!後衛モンスターでやればメガバスターは届かないはずだし!」
「そうは言っても……!手札にその後衛が得意なモンスターしかないの!」
「は!?」
桜井彩月、驚愕の声。
音牟の手札にあるのは後衛系モンスターのみ、それも……
「キラービとヤンバル召喚……」
「もうやるしかないよねむ姉!メガンタスの弱点はスーパーカードだけどHPが低いこと!
遠くから狙ってHPを0にしてしまえば問題無いよ!」
「うぅ~……わかったよぉ……」
前衛に置いたヤンバルがメガンタスを攻撃、キラービがキラーニードルでカムロを倒して呪いが発動するが、元々HPが低いキラービにはあまり効果は無い。
「後衛に倒されることは想定内だ、俺のターン…ボムゾウを召喚してメガンタスと場所を交代、ストームボムでキラービを撃破する」
「レベルアップは行わない、マジックカード『ヒーリング』を発動し、ストーンを3つ消費してメガンタスの体力を回復し、ターンエンド」
「えっと……こっちのターン、やっと前衛が来た!切り札!」
「ポリスピナーを召喚!」
「あぁ~!!ダメだよねむ姉!!」
「え?」
「そのモンスター、2回攻撃だから実質攻撃力は4になるけど、それじゃボムゾウのHPは6だから倒しきれないよ!」
「だからマジックカード!『パワーアップ』で攻撃力アップ!これで攻撃力3の2回攻撃!」
ポリスピナーがボムゾウを破壊し、ヤンバルがまたメガンタスを攻撃する。
「ポリスピナーをレベルアップ!これで次のターンにはメガンタスを倒せるよ!」
(鈴蘭はポリスピナーを切り札と言っていたな……となると、あいつの持っているスーパーカードはT3-00か)
(T3-00は攻撃力は3だが三回攻撃が出来る、つまり実質的な数値は9…殴られれば基本誰でも負けてしまう)
「まあポリスピナーもHP低いからやられたらまずいんだけどね」
「うわーん!どうしてぇ?どうして勝てないのぉ!?」
「大丈夫だよねむ姉!きっと何か見落としがあるんだよ!」
「……」
正樹は何も言わず、自分のターンを回す。
「俺のターン…仕方ない、メガンタスを倒された時の事も考えておいてよかった」
「入れ替えは行わない、後衛にバルパスを召喚」
「メガンタスのメガバスターでヤンバルを撃破、ターンエンド」
「じゃあ、おねむのターン!マナトットを召喚して……ポリスピナーの攻撃で……メガンタスを撃破!レベルアップ……で!」
「ポリスピナーがレベル3になるとき、スーパーカード『T3-00』に進化させるよ!」
スーパーカード降臨によって、正樹のフィールドはがらんどう。
だが正樹は余裕の表情で、音牟を見つめる。
音牟はそれに気づき、慌てて相手の手札やフィールドを見るが……
(あっ!)
前衛に見たことないモンスターが立っていた。
「あっそっか……さっき任天さんが召喚したバルパス!あいつは倒されると『パフ』に転生するんだ!」
「そう……俺のターン!鉄拳シグマを後衛に召喚!入れ替えは行わない!」
「パフの特技『福音の花』を発動!ストーンを3つ消費し、その身を犠牲にすることでモンスターを一体レベルアップさせる!鉄拳シグマをレベル2に上げる!」
「T3-00の三回攻撃は強い…だが耐久力が低いのは変わらない!鉄拳シグマの攻撃!」
t3-00が破壊され、音牟のストーンが一つ増える。
音牟はストーンが現在8以上ある、このままでは正樹が勝つのは確実だったからだ。
しかも鉄拳シグマは更にレベルアップ、最大までレベルアップが上がると攻撃力6になる。
「うっ……」
「どうする?まだ続けるか?」
「………このゲーム、サレンダーってあったっけ?」
「賢明な判断だよねむ姉」
………
「あーもう〜!後半でちょっと追いついてきたのに〜!」
「いや……実の所俺もT3を先に出されてたら勝てなかったかもしれないな」
「でもまさか任天さんが鉄拳シグマを入れてるなんて、ガンタスメインにしてるのに」
「あのシトラスやパフもそうだが、とにかく早めにレベルを上げて殴るデッキに変えたからな、メガンタスがやられたなら他の強いモンスターを育成する」
「他にもHPを回復するラフィーヌや囮役になるフールなんかも入れたぞ」
ガンタスとメガンタスはどちらも後方射撃に優れたカードだ。
ガンタスは攻撃力が高く、メガンタスは高い回復力を持つ。
しかしメガンタスはHPが低く、ガンタスはコストがかかる。
そのため正樹はガンタスを素早くレベルアップさせたり、壁役でなく支援役を並べたデッキを作成したのだ。
「ねむ姉はポリスピナーを切り札にしてるんだね」
「うん……といっても、さっちゃんが集めたカードの中から強そうなものをまとめただけなんだけどね」
「彩月、ポリスピナーを切り札に添えるとするなら……お前はどう考える?」
「んー……ポリスピナーの進化先は二つあるけど、やっぱりスーパーカードレベル3じゃないと進化できないし、そのままだと耐久力不足だと思うよ」
「じゃあさ、ポリスピナーのスーパーカードT3-00は3回攻撃、エルスピナーは攻撃力5の2回攻撃、どっちもロマンはあるけど扱いにくいんだよね」
「何より、HPはどんなにレベルアップしても低いままだから返しのターンで簡単に落ちるのが期待出来ないんだよね……」
「うーん、じゃあ上手く1ターンで2体まとめて倒すのはどうかな?」
「ストーンが足りない序盤はまだしも、スーパーカードになる時無条件で相手を倒せる……それも返しのターンで簡単に倒されるぞ」
「盾カードで相手の攻撃力を減らしたり、任天さんみたいにラフィーヌで回復してもジリ貧になっちゃうね……」
「ええ〜……?」
「ま、主軸デッキも出来ないわけじゃないけど」
彩月はスマホを操作して何かを確認する。
そこにはゲーム画面が映っており、音牟のデッキを集計したものだった。
それも、ミラクル版の。
「確かにミラクル版はカードプールが十倍以上にも増えている……」
「ゲームっていうのは昔の遺産を尊重するからね、遊戯王もそうだけもリメイクカードとかサポートカード、テーマ化も組まれてるんだよ」
「じゃあなんで任天さんはガンタスのテーマ化組まなかったの?」
「彩月にも色々勧められたが、なるべく旧版のカードで揃えたくてな」
「ふーん……でもさ、任天さんの言ってることって、ただ単に新しいカードを使わない理由を作ってるだけじゃない?」
「かもな…今に追いつけなくなった」
音牟は目を輝かせて言った。
「あっ、『ポリスピナー覚醒』?こんなマジックカードがあるんだ!」
正樹も思い出したように言った。
「そういえばDS版にも『スパルタス覚醒』というカードがあったな。あれはスパルタスが最弱カードだから許されたロマンチックなカードだったが」
彩月は微笑みながら続けた。
「スパルタスも単体性能的には何の効果もない雑魚カードなのは変わらないけど、コンボカードとかカードプールの敷居が広くなって中堅ファンデッキくらいにはなったんだよね」
「ガンタス覚醒もある……ストーンが5つも必要なのか」
「スパルタスですら3だからね」
彩月は呆れた表情で呟いた。
……
次の日。
音牟は仕事場に向かい、その間に彩月と正樹が机の上にカードを広げていた。
「今日は何をするんだ?」
「んー……決めてない、リミットレギュレーションはまだ先だし、カードはあらかた生成しておいたし、ワンキルとか特殊勝利とか出来るゲームじゃないからさ…」
「あのライブラを使ったコンボは?」
「あのコンボも別に私が作ったわけじゃないし……2枚のフィールドで殴り合うから環境とかも作られにくいんだよね」
「そうなのか」
「任天さんこそ、なんかあれから捗ってないみたいだけど」
「ああ…デッキは早い内に出来てしまったし、強くなること自体が目的だったからな」
「お前のようにプロ級になるほど強くなりたい訳でもないし、ガチデッキを作ろうとも思わないからな、自己防衛ぐらいの力があればいい」
「んー……よし分かった」
彩月は正樹を指差す。
その瞬間、正樹の姿は一瞬にして消えた。
いや、正しく言えば、その場から消えたように見えたのだ。
「なんのつもりだ」
「まさかこの程度のガンタスデッキで満足するつもり?この世の中には色んなロマンデッキがあるんだよ」
「いつどんな敵が来るかも分かんないんだから、まずは100個分くらい……」
と、その時だった。突然、部屋の景色が切り替わる。
それはどこかの森のような場所。
木々が生い茂り、鳥が鳴き、木漏れ日が差し込むような神秘的な場所……
のような映像に切り替わっていく。
「彩月…」
「いや、これ私がやってるわけじゃないけど」
「何?」
彩月の細工によるものではない、ゲームが勝手に起動するとも思えない。
これは一体……と、考えていると、前方からモンスターが現れる、これは……
カードヒーローのモンスターの一つである『マナトット』の集団だ。
「ワレワレ は ウチュウジン だ」
「このホシを 支配 する!」
「…………」
「彩月、これはなんだ」
「いや、本当にゲームの仕掛けとかイベントとかじゃない、本当に宇宙人みたい、マナトット星人とかそんなの?」
「それが、ここに?」
「うん」
「本当にゲームとは一切関係ないんだな」
「関係ない」
彩月は淡々と言った。
そして、正樹は彩月の肩を叩く。
すると彩月は消え、正樹だけが残った。
どうやら本気でこの宇宙人を自分が相手しなくてはならないらしい。
それもカードヒーローで。
「………彩月」
「何?」
「これカードヒーローでなんとかなるのか?」
「漫画版とかだと異生物とかもカードヒーローで解決してたし大丈夫でしょ、それに……任天さんの能力そんな感じでしょ」
「少なくとも最初にやることでは無いだろう……」
頭を抱えながらも、正樹はカードヒーローのデッキを構えて、フィールドを出すが……
「そういえばスピードバトルだけなのか?」
「今ドキはタイムパフォーマンス優先だからね、早めに終わらせられるスピードバトルが主流になって、メインが廃止されたんだ」
「それはそれでカードヒーローとしてはどうかと思うがな……」
かくして、正樹とマナトット星人の戦いが始まる……!
最終更新:2023年05月20日 16:54