さらば、二重世界。

「しゃあっ!!」

ルボワールは即座にアルシュウ大国跡地にワープし、今も尚稼働し続ける機械を真っ二つにする。
しかし空は裂け、大地は砕けつつある。

「もうダメだ、自分で作っておいて……神はこの世界を放棄しやがった」

……

「悪い、もうダメだ、世界が壊れるのも時間の問題だ」


「そんな!?」

「落ち着け、このまま一緒に滅ぶってわけじゃねえだろ」

「とりあえずこの世界の神は俺がなんとかしてやる(通報ぐらいだけど)、お前らも全人類も巻き込まれた被害者なんだから助ける理由くらいはある」

「何とか出来ないんですか……?」

「とりあえず総理は今起きてる状況を全国民に伝えろ!あと首脳会談でも開いて他の国にも情報を広げとけ!」

「世界の崩壊は止められんが、代わりの住処ぐらいなら用意できる!」

「前に言ったろ!ブレンシュトルム以外にも別世界ってのは山ほどある!」

………かくして、総理の一言と共に全人類に衝撃が走り、人々が殺到していく。

……

「やっべ、全人類数億人となると渦1つじゃ足りんな……時空航空局や列車にも声掛けた方がいいか……」

「本当にこれで大丈夫なんですか……?」

「今回は状況が状況だ!誰が聞いても仕方ないって言ってくれる!」

「後は次に行くところが今よりマシな神様であることを天にでも祈っておけ!!」
ルボワールはそう言うと、準備の為にその空間ごと次元の彼方へと消えていった。
…………
それから、もう数千人は入っていったがまだ全員の脱出には足りず、待機している人間も多い。

「総理、貴方は先に行くべきでは」

「何を言うか、私はこの日本の代表だぞ、この民が全員安全に脱出する姿を見る義務がある」

「それに、ここから出れば私も総理では無くただの人だ、優先するような存在でもない」

「………貴方は別の世界に行っても誇りのある人物になれますよ」


「あっ……では、小生は武具屋の皆が向かう頃なのでそろそろ失礼しますぞ、先に行って申し訳ないのは山々ではあるのですが」

「ええ、ご武運を……」

「魔王達は?」

「どうやらひと足早く我々とは別の所から逃げたようですね」

「なんだか不安だな……でもそこは、その世界の勇者達に任せるしかないんだな」

「願わくば、我々のように他所から呼び出される事が無いといいですがね」
……
そして数十分後、ほぼ全ての人間が脱出を終え、新たな世界に希望を託して旅立っていく。
残ったのは町田、真奈美、総理だった。

「君はまだ残っていたのか?」

「私は結果はどうあれ、この世界を崩壊させる要因を生んでしまいましたからね」

「ふらっと現れた彼が居なければ、恐らく私は後悔というものをしていたでしょう」


「………後ろは、もう何もありませんね、会社もないし、仕事もない、財産は元々なかったのでいいですが………」


「………さあ、後は君達が入って全て終わりだ、名残惜しいがこの世界にも別れを告げよう」

「いえ、生まれて初めての不敬ですが……お許しください」

「え……?」

町田は、総理の体を軽く押し出して、時空の渦へと突っ込ませた。

「………」


「町田さん、貴方最初からこの世界と共にするつもりだったんですね」


「はあ………」

「まあ、私は世界を救うために転移された魔法使いとか以前に、サラリーマンですから」

「問題起こした社員が首を切られるのと同じで、世界に問題を起こした私がのうのうと皆と一緒に脱出する道理はありませんからね」

「真奈美さんこそ、何故ここまで残ったんですか」

「……うーん」


「私、死ぬまで働かされて……というより、1回死んで蘇生されて、本当なら生きてないはずだから」

「もうゾンビになってるんだから、必死になって足掻いて生きたところで……もういいかなって思っちゃって」


「………そうでしたか」

「止めたりはしないのね?」

「いえ、私にそこまでの権限はありませんし、貴方がそう思ってるのでしたら」

2人が後ろを見ると、既に世界は光に包まれていた。
総理の姿は既になく、町田と真奈美だけがそこにいる。
空を見上げると、雲1つ無い快晴、太陽が2人を照らすように昇っている。
それはまるで、これからの2人の人生を祝福しているかのようだ。

「まるで世界の始まりのようね」

「今から訪れるのは、何も無い終わりですけどね」
それから、彼らはしばらく歩いていた。
すると、目の前に扉のようなものが見えてくる。
その先には、光が満ち溢れており、どうやらここが出口である事が伺える。
しかし、時空の渦とは違う、また別の……

だが2人は恐れることなく、扉の中へ………

「この馬鹿!!!」


と、ここでルボワールが2人を掴み、改めて世界を抜けていった


こうして何も残らなくなった二つの世界は、静かに粉のように消えていった………



「貴方、行ってなかったんですか」

「行ったけど嫌な予感がしたからUターンしてきたんだよ!!」


「確かに経緯はどうあれ、世界がこんな風になったのはアンタのせいもあるかもしれない!ゾンビには人権が無いかもしれない!!」


「だが!!どんな理由があっても!!寿命も充分有り余ってるのに勝手に心中しようとすることは俺が許さねえよ!!」


「………」


「彼らは、無事に旅立てましたか」

「そこは俺が保証する、だからお前らも……」


「旅立つ場所が違うだろ」

「………」


「しかし、我々はこれからどうしましょうか」

「魔王ゼノバースをどうこうと考えても場所なんて分からないですし、もうサラリーマンでもなんでもありませんよ」


「…………働き手は欲しいのか?」


「まあ、無職だけは避けたいところですが」


「………あるよ、アテなら一応」


「ちょっとしんどいかもしれないが、ブラック企業じゃない意味でアットホームだし、身の安全は確保出来る」
ルボワールは少し考えた後、2人に提案した。…
…………
その提案は、3人とも納得のいくものだった。
しかし、それでも尚、この男にとっては大きな決断であり、その重みは計り知れないものだろう。
……

ルボワールは2人を『大きな船』に乗せたあと、またすぐに出ていってしまった。


「………ルボワール・オール……おそらく彼もまた、私のように」


………


「………ああ、ちょっとした旅の予定だったのに、変なもの見ちまった」


「次に行く世界では、もう少し穏やかに過ごしてみたいものだな………俺の全身が」



「拒否反応起こしてやがる………」

最終更新:2023年08月08日 20:23