これはいずれあなたにも起こるかもしれない話。
今となってはありふれた事かもしれないが、異世界転移。
突如RPGのような空間に招かれて、勇者となって魔王を倒し世界を救えとアポなしで言われる、社会人から見れば人生最大級の無茶振りをされるアレである。
ここに居る町田天吾も、数日の連勤からどうにかして帰還できた瞬間に招かれてしまった。
異世界『ブレンシュトルム』へと。
そこは現代社会とは似ても似つかない世界だった。
魔法という超常現象が存在し、人々は魔物の脅威にさらされている。
その脅威に対抗するために国同士が戦争を行い、また魔物との戦いに明け暮れていた。
そんな世界に、町田天吾は召喚されたのだ。
「おぉ、よくぞ参られた勇者殿! この国の王として歓迎しよう!」
自分の他にも召喚されたであろう人物は3人居た。
話を聞くと皆唐突にここに召喚されたという。
かくして小学生の勇者、社畜の魔法使い、人妻の僧侶、オタクの騎士という歪な異世界転移パーティで魔王討伐へと向かい、壮大な冒険がある程度行われていたのだが……
そこで事件は起こった。
しばらく旅をしていると、人間界の王から進みが遅いとクレームが来た。
(まああっちでもよくある仕事に無茶な要求するクレームみたいなものですね)
だが、この時の町田の判断は間違っていた。
冒険で疲労していた町田は、社蓄時代に覚えたある事が頭に抜けていた。
それは『決して事実を淡々と述べてはいけない』ということ。
誰しも期待以上を求める物、それが有り得ないという現実を決して論理的に証明してはならない。
町田はリーマンとして自分達の世界の詳細を王に話してしまった。
自分達の世界は少なくとも自国では戦争もしていない平和な国で、自衛する職業でもない為強くないのは当たり前、強さの源はここで与えられた力のみだと言う事を。
王は激怒し、そして激怒したまま勇者一行に死刑宣告を言い渡した。
「そうだ! お前達には死んでもらう!」
王がそう言い放つと同時に、周囲に居た兵士達が一斉に襲いかかってきた。
戦いが始まる中、町田は仲間達に告げる。
「すみません、こうなったのは私の責任です」
「私としても、このまま死にたくない……という気持ちでもあるので、少し賭けに出ます」
「失敗したら責任を負って頭を下げ、やり直しを利かせるのがサラリーマンですから」
町田は一発勝負に出て大きな魔法を使う。
新しく別世界から誰かを召喚しようとする事を利用し、逆流させて元の世界に帰還する事を考えたのだ。
しかし、魔法が使われるその瞬間眩い光が世界を包み__
………
「おい町田!この資料……」
「はい…はい、すみません」
アレから、異世界転移された4人は無事に現実に帰還する事が出来た。
町田もまた上司に頭を下げ、机に向かって淡々と会社での仕事をこなそうとしていた。
「ただいま戻りました」
また毎日が仕事の繰り返し、いつ家に帰れるかも分からない状況になる。
その為、町田は気付いていなかった。
この世界の異変に。
「おい町田……」
「すみません、今仕事が立て込んでいるのでこれ以上は無理です」
………
町田がまた外に出て状況を理解したのは、3連勤目辺りで上司に無理矢理外に出された時だった。
空になにか飛んでいる、ドラゴンだ。
ブレンシュトルムではよく見た光景だが、幻覚と思うことにした。
だがそういう訳でもなかった、現実の光景もあるが、ブレンシュトルムで見たものも数多くある。
「町田!お前ニュースも見ていないのか!!突然日本が、世界がこんな風に………」
「すみません」
「これ多分私のせいです」
最終更新:2023年08月08日 20:00