この町にはこんな噂がある。
道端に突如、押し売りのような大男が現れて子供達に無償で物を売ってくれると。
ただし売るものはただ1つ、それは『正義』。
悪を憎み、善行を積むことこそ我が喜びと語る大男は、その見返りとして人々に様々なものを授けるらしい。
そして子供から大人まで、この話を聞いて何も思わない者はいないという。
何故なら誰もが子供の頃に夢見たヒーローが目の前に現れるかもしれないのだから。
その商人の名は……
『ピポクリッター』
……
半年前、ピポクリッターから『正義』を買ったある少年が居た。
願いを叶えてもらったのではなく、純粋にヒーローのような存在に憧れていたからだ。
少年はある日、ピポクリッターに出会った。
そして、白い光を与えられたあの日から彼は超人的パワーと能力を得た。
その日から少年は自分が正真正銘のヒーローになった。そう、まるで物語の主人公のように。
少年は夜の街に繰り出し、人々に善行を施すようになった。
ある時はいじめっ子に暴力を振るう子供を見かけて止めに入り、またある時は強盗を殴り飛ばす大人達を救うなど、とにかく様々な人を救った。
時には通りすがりの困ってる人の手伝いをしたりもしていた。
時には、他人に感謝されたりもして、それが何よりも嬉しかった。
しかし彼は気づいてなかった。
自分が救った者達は、次第に恐怖を抱き始めたことに。
いつしか少年は畏怖の対象となっていた。
時には彼を尊敬し、崇拝する人々もいたが、それは決して良い意味ではなかった。
何故なら少年は本物の
正義の味方などではなかったから……。
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この町にはこんな噂がある。
道端に突如、押し売りのような大男が現れて子供達に無償で物を売ってくれると。
ただし売るものはただ1つ、それは『正義』。
その人の為に正義を売り、力を与えて望みを実現させる
その名は……
騙されてはいけない、ヒポクリッター…ヒポクリットは日本語で『偽善者』
彼は人々から慕われていたが、その実態はただ自分の力を誇示するだけの自己顕示欲の塊だった。
人々の為に善行を尽くすような事など無く、ただ自分が満足する為だけに動いていたのだ。
彼の通った後には、必ずといっていいほど不幸な出来事が起こる。だがそれは自業自得として、破滅に導く。
『正義』という人には過ぎた力を人々は持たされた。
だが、その『正義』は他人の為のものではなく、自分自身の欲望を満たすためのものなのだから皮肉なものだ。
ヒポクリッターは今日も正義を売る。
最終更新:2023年11月21日 20:52