オッス!オラ漫画家

 全時空共通漫画雑誌『週刊少年ネオジャンプ』作成プロジェクトから早くも1週間が経過。
 厳選された読み切りからセルフ新人賞を選び、ポチ以外の各編集者が5人見込みのある新人作家を決めて今度は連載作品を決める。
 1作品自分で描くポチを除き残り19人、ここでようやくネオジャンプで描くためのスタートラインに立ったともいえるのだ。
 しかしそれ以外でもネオジャンプ運営のためにやることは多いのでどんどん忙しくなっていく。

「ポチなにしてんの?」

「無事入賞された読み切りを厳選して無料公開してるんだ、作者達とは前もって話はつけてあるよ」

 ポチが選ばれた読み切り作品をネットに掲載して編集部のプロフィールや紹介ページを作成、なんというか公式漫画雑誌のホームページなのに一昔の個人サイトのような雰囲気を漂わせている。
 こう言ったデザイン面は近頃はプロの業者に頼む人もいるというが、ポチはひたすらこだわりたかった。

「変なエフェクトとか効果音とかつけないでよー?」

「まぁやってみる、それにしても載せない漫画まで欲しいって言う黒影はびっくりしたね」

「ああ、連載の方も載せられなくても面白くなくても回収してって……あいつそんなに漫画欲しいのか?」

「まぁ思ったより積極的なのは良いことだけど……」

 この企画に一番乗り気なのは黒影である、漫画を集めまくってはどこかに入れている……というかそこまで漫画欲しいのならお前も漫画家と相手すればいいのにと思うが、あいつもあいつなりに忙しいのかもしれない。
 それ以前にたくっちスノーは問題を抱えていた。

「1人で5作品担当という想定だったよな?今連載決まったの何本くらいだっけ?」

「EXEが意外と頑張ってるよね、もう2本取ってる……ミリィと野獣もいい線行ってるし俺もぼちぼち取れるって感じかな?……その様子だとたくっちスノーはまだっぽい感じだな」

「うぐ……なんというかほら、なんでか分からないけど自分が届く連載尽くネタの時点で通用するか怪しいんだよ、連載するからには短くするのはまだしも、売れた時に話を長くしておきたいけど」

「じゃあ実際どんなのが来たのかざっと教えて?」

「ああ……ちょっと愚痴っぽくなるがな」

 たくっちスノーはメモで少し前に起きた出来事を思い出すように箇条書きにして振り返ろうとする……。


「いやさ、確かに追放系以外でネタ考えてみてとは言ったよ……それで出てきたのがコレなのか」

 またしても小説サイトで見たことあるような題材、もしかしてコミカライズ志望なのかなとかここまでくると募集要望にも不備があったんじゃないか色々気になってくるがちゃんとよみすさめていく。

「一度異世界転移して全て終わらせてステータスそのままジャパニーズ世界に帰還する……導入としては面白いよ、ネタの広げようはあるしよくやったと思う。」

 世界と世界を繋ぐ物語は時空を超えられる者としても評価が高い、似たような題材で流行りだと他世界で自世界の料理を振る舞う題材。
 あの系統は本当に大体の所で人気があるしたくっちスノーも何かしら好きな作品がある、しかし持ち出されたものは持ち帰ったチートスキルで無双生活。

「……ここ(舞台)はもうドラゴンファンタジーじゃない、ジャパニーズなんだ、万物を焼き尽くす炎の魔法も自由自在に空を飛べるスキルもさりげなくでも使っちゃいけないよ、その世界にはその世界なりのルール、生き方があるんだ」

「しかし……元の世界で酷い思いをしていたのが異世界の体験を通して変われたんですから」

「確かに命懸けの冒険って世界変えなければ戦争帰りみたいなものだけど、その力を学校内でムカつく奴にさりげなく使うってなると別だよ、やってることは拳銃突きつけて脅してる危ない人だよ……何も自分は追放ネタも元世界帰還も否定しているわけではない、ここまで大々的に世界観を解放してやることが小石を蹴るくらいしょうもないからもっと広い所に目を通して欲しいってわけだ」


「たくっちスノー、ちょっと厳しいんじゃない」

「うーん……そうなのかな」

 回想など様々な異世界系の話をポチは淡々と頷きながら聞いてこの結論を見せる。
 時空新時代になっても異世界転生・転移の人気のジャンル……それどころか実際に他世界が存在するということが分かり勢いは強まるだろうとたくっちスノーは考えているが、そこに野獣先輩が割り込む。

「いや新時代になったら消えるまでは行かなくても停滞するんじゃないスか、異世界転移はともかくチートスキルで無双とかその手のやつ」

「おっと、珍しい所から話題が来たね」

「どういうことだ?田所」

 実は野獣先輩の方でも異世界転生や俺TUEEE、チートスキルの類の作品が持ち込まれてきたがそれらをたくっちスノーとは別のやり方であしらってきたという。
 曰くそもそもチートスキルとは何がチートたらしめるのか?野獣先輩が結論付けたのは唯一性と希少性、とても強い能力を自分一人だけが使える、ゴミ扱いされる技の真価を自分だけが知っている。
 重要なのは利点を独り占め出来る事だ。

「たくっちスノーが相手した現実帰還モノはまんまそれっスね、ウザい奴らが何言っても自分と違ってアイツは魔法も使えないからという気持ち……でもこれからはそうもいかないスよ、新時代なんだから」

「ああそうか気軽に他世界行けるんだからスキルなんかは皆覚えられるもんね……でも強さの唯一性はそうでもなくない?」

「時空全土なめるんじゃない、そんな一人だけおかしい奴居たらたちまちネットに晒されて成り上がりどころか同業者やアンチから針の筵だ……まあ大丈夫だろ、ネタとは時代に合わせて適応されるだろうて」

 野獣先輩とこんな形で話せると思わなかった二人はどんどん漫画を通して話を広げていく、主な題材は新時代の影響でどんな漫画が流行りそうかだが、主に種族や世界を超えた恋愛、未知のスポーツ……異世界転生も数々の新要素とワクワクを引き出せば面白いものが出てくるのではないかと夢が広がる。
 そうこうと話しているとEXEとミリィも合流、漫画の話は盛り上がっていった。

「そういえば5人集まったんだし連載開始決定になった作品を共有しない?」

「……それ、自分は完全に聞き手に回れと?」

「悔い改めて」

「そのフィルトナ先生の新作だけでもないの?」

「あの漫画家ジャンプマニアなのはいいんだけどジャンプ作品の二番煎じみたいなものしか作ってこないからな……」

 まず最初に2本連載が通ったEXEからだ、皆に見せたのは【氷点下の帝王】というタイトル。
 読んでみるとスポーツ物らしいがアイスホッケーを題材としている、最近では珍しい題材ではないが惹かれるものがある……必殺技などの超次元要素もありジャンプの雰囲気には合っているかもしれない。

「氷が舞台なのに炎の能力っていう矛盾感がたまらんな」

「しかしまぁ評価としては中の下くらいにはなりそうっスね忌憚のない意見」

 色々言ってはいるがスポーツが何かしらあったほうが少年雑誌らしくていいだろう。
 ネオジャンプに載せるにはピッタリだ、EXEも既にアドバイスの為にアイスホッケーの本を読んでおり素人にしてはよくやっている。
 次に見せたのは『カブトウォーズ』、元になった世界観が大自然が広がり緑豊かな『ユグドラシル』なのはいいが、その題材というのが昆虫相撲のバトル物。
 漫画チックにデフォルメされてはいるが主人公になっているメルティクスオオカブトが中々異質で人を選びそうだ。
 ちなみにこの漫画の作者は、過去にEXEと二人三脚で漫画の勉強をしていたあの新人である。

「か……カブトムシが主人公って思い切ったな」

「俺だったら虫取り少年主人公にしてたよ〜」

「オレとしてはまだ最初でお互い慣れていないからな、彼は自然生物を描くのが好きだったからユグドラシル風の世界系を推奨してみたが……」

 最近の漫画描きの進め方は好きな世界の雰囲気を知ることにある、かつてはフィクションとされていた数々も現地に出向くことで生の体験をどれでも実感できるのだから創作者にとってはある意味夢のような時代になったのかもしれない、その一方で空想力が薄れそうになるのかもしれないが……。

「次、田所!」

「しょうがねぇなぁ……入って、どうぞ。」

「なっ!?お、お前がコレを!?」

 野獣先輩が出してきた新連載『前回までのシオンさん』、世界観は『プリティハイスクール』でヒロインの新須詩音を軸とした典型的なラブコメディ。
 大筋としては大分ありがちな物ではあるが、これをコイツが持ってきたという衝撃が大きすぎて内容が入ってこない。

「嘘?え、これ君が!?凄いな!ゲイポルノのことしか分かんないと思ってた!」

「ポチ殺して良いスか?」

「この手の個性強いヒロインで引っ張る話……ジャンプっぽくはないけどあるよな、色んな雑誌で」

「おい、まさか俺が本気でこれ面白いと思って通したと思ってるんスか?生贄だよ」

「えっ」

 野獣先輩が言うにはこのジャンプで連載するからには必ず何かしら新しい作品を呼び出すために打ち切られる物が出来る、かといってそこそこ人気がある作品が代表的作品の煽りで消えるのも商売的に困る。
 その為の生贄として消えても問題ない漫画を用意するということだ、かといって目に見えてつまらない漫画を通してしまうとそれはそれで編集部の信用問題に関わる、それでこの手の作品だ。

「キャラクターだけが人気になる漫画は二次創作で使い潰されるだけで作品そのモノの人気は出ない、そもそも最近はアニメ化した時安上がりになることもあり完結するまでコミックスは買わない選択肢もある……ってことでこの手の漫画は人気は出ても売れないんスよ」

「確かに8巻とかの漫画買っててアニメ化するとなんかお金無駄にしたような気分になるよなぁ……3巻前後で既に完結した漫画なら絶対にあり得ないしそっちを買うかもだけど」

「それはそれとして編集者がこんなこと言うのも大分カスじゃない?田所はシオンさんの作者に刺される権利あるよ」

 この編集者5人は不死身なので肉体的攻撃ならいくらでも喰らう覚悟をしてきてるスゴ味は抱えている、この他にもポチが七色に輝く魚を追いかける冒険譚『ジェリーフィッシュ』を送ってきたり、ミリィはあのとんでもない作画でロボットを描きギャグ漫画にした物を連載にした『超絶断絶ザンザザーン』などラインナップは充実してきた……だが足りない。

「ネオジャンプっていうからにはもっとこう熱い大冒険が欲しいんだよ!ドラゴンボールのパクリとかと別で!なんかこう……各地を飛び回って色んな奴と戦って!」

「でもドラゴンボールって冒険要素はウケないとか言われてるじゃないスか」


「……とは言ってもバトル物とかコスト凄いしなぁ、それとは別で俺の方で新しい恋愛モノ持ってきたんだけどさ、どうしようかな?俺たち恋愛には詳しくないけど」

「二次元の色恋なら俺詳しいから見せてよ」

「それ自分で言ってて虚しくならないの?これなんだけど」

「ほー……『フラッシュモブ』か、タイトルとしては中々面白そうだけど」

 既に連載枠を確保している4人の会話に対して自分は居た堪れなくなりいそいそと退散するたくっちスノー、裏でマガフォンを手に取りいつまでも良い感じの作品が作られないフィルトナに催促する。

「……いつになったらジャンプのパクリ以外の作品持ってこれるの?」

「そうは言われてもジャンプの連載作品って何十作もあるから何のネタやってもパクリにならない?」

「そちらの場合はそれが露骨に浮き出てるから言ってるの、頼むから絶妙な既視感のある主人公から離れてくれ」

 最初がるろうに剣心、その次がチェンソーマン、少し前には北斗の拳……。
 様々なデザインと題材のネタを持ってくるのは良いのだがどれもこれも見覚えがある上に劣化版じみた内容。

「頼むよ、他の奴らはもう大体連載決まってるんだって……最初から確定してるのにまだちゃんとした作品が作れてないとか困るんだよ」

「そんなのそっちが勝手に決めたことぞゃたい、文句は貴方の上司に言ってくれる」

 現在フィルトナ以外でもどうにもネオジャンプに載せていいのか怪しい作品ばかりで焦りに焦っていた。
 このままでは自分だけが足手まといになってしまうが自分の中にある評価のハードルをゆるめるのはプライドが許さなかった、面白いとかより続きそうな作品がいい。

「そもそも貴方、ボツにしても漫画持っていくじゃない」

「それは黒影がどんな出来でも欲しいって言うからだ……言っとくが載せる気はないからな!」

「それはいいけどいつまでも私の相手してていいの?他の作者にも目を向けたら?いつネオジャンプ始めるかも決めてないんでしょ?私以外にあと3作。」

 刺さるような発言を言い残して電話が切れる、この様子ではまた次の作品も期待できそうにないが彼女の言う通り他の作者も見つけてこなくてはならない。
 EXEのように試行錯誤も出来ず野獣のように最初から切ることを想定して漫画を捨て石にすることも出来ない。
 ポチみたいに自分で作るのも考えたがフィルトナと同じでどうにもオリジナリティが浮いてこない。
 目が肥えてしまうのも考えものである、だがまだまだ時空各地から持ち込みが来る……重い腰を上げていつものファミレスに向かわなくては。


「このマンガに出てくるのって……あのポイ活?最近流行ってるよね」

「はい、最近はマナー講師もバトル物になったりしてますし皆やってますからポイ活をバトル物にアレンジしたら面白くなるのではとまとめてきたんです」

「なるほど……根本のストーリーはシンプルでありふれているが『ポイ活』という最新かつ身近な物を取り入れることでチープではなく取っつきやすい話に昇華しているわけか、面白い発想だしネタが続きやすい……いいねこれ検討しとくよ」

「ありがとうございます」

 ようやくたくっちスノーは良さげなネタを掴み取った、フィルトナはもう少し待てば良いがようやく一歩踏み出した。
 とはいえまだまだネオジャンプ完成には程遠い、頭を悩ませていると珍しく黒影の方からたくっちスノーに誘ってくる。

「たまには飯行かない?」

「黒影の奢りな、自分こんな頑張ってるんだから」

「はいはい」

 黒影はたくっちスノーをドラゴンファンタジー系世界に存在するハンバーガーショップ『ジュルドーバーガー』へ連れて行き近況を聞く。
 たくっちスノーはハンバーガーショップで奢りするとか普通ありえるか?と思いつつも黒影の金で食べられるなんて贅沢を1人で味わえるので一旦気にしないことにした。
 当の黒影は魔界の果実で作ったソースでナゲットとポテトをかじり、魔獣の肉をふんだんに使用したバーガーを丸ごと食い千切る、この姿を見てると神であり時空で一番偉い人とは思えない。

「順調そうだね、俺も色んなマンガ手に入って助かるよ」

「この際聞いておくけど、アンタ自分達が回収した没読み切り並びに没連載一体何を……」

「すみません追加でジャンバチーズL二つ」

「聞けよ!!というかアンタどんだけ食う気なんだよ!そりゃ過去のメイドウィン達も不満溜まるわ!」

 次々と黒影の腹の中に収まっていくバーガーを前にしていると、たくっちスノーの悩みもバカらしくなってくる。
 最終的に支払いは万を超えたが殆ど黒影が食ったものになりそうだ、改めて赤色のポテトを共有しながら仕事の話をする。

「たくっちスノーはさ、編集者として真面目すぎるんだよ……もう少し漫画家に優しくしたら?」

「優しくしろと言われてもさ……なんか気になることがあったら追求するのが編集者の仕事だろ?」

「うーんそういうもの?でもそれで自分が漫画確保できなくて自分の首絞めてるわけじゃん?」

「そりゃそうだけど〜……あー黒影はいいよなぁ動かなくて?漫画一通り回収してるんだからリモートでアドバイスくらいしてくれてもいいんじゃないの〜?」

「えっ?俺が?漫画家にアドバイス?」

「編集長なんだから1本や2本くらいいいだろ?」

 黒影はポテトを指で潰しながら、ぼんやりと上を眺める。
 アドバイスしてみろと言われても何も浮かばないらしくそのままポテトを食べるのを再開する。

「そういえば漫画家題材の作品だとキャラクターの個性がどうの〜とかあるけど君等言わないのね」

「新時代の弊害だな、漫画の向こうに居るのが存在しない物ではなくなった以上差別的発言に引っかかる……まあキャラの個性なんて皆そこまで気にしてないだろうし、いいさ」

「あっそうだ、ハンバーガー題材で……」

「嫌だ、その流れから言うのは漫画じゃなくて新しい事情だろ!」

「ちぇー」

 結局ちょっとご飯を食べたぐらいでたくっちスノーと黒影は出る、飯を奢ってもらったことで野獣先輩に文句は言われるだろうが自分も奢っとけばいいと考えることにした、飯食う時間があればの話だが。
 たくっちスノーがまた仕事に戻った後黒影が自室に帰るとEXE達が送った分の漫画がまた増えていた。
 黒影はそれを一通り眺めて更に奥深くの穴へと入れる……これはゴミ箱に捨てているわけではない、ちゃんと有効活用しているのだ。
 工業地帯のように大きな音を建てて黒影のデスクにある穴から次々と本が発行されていく、黒影にとっては馴染み深い『はじまりの書』が……。

「どんどんネタを作ってくれ、漫画のネタを作れば作るほどこの時空が発展していく仕組みになっていくんだから!」
最終更新:2025年02月25日 19:14