アニメ:前回までのシオンさん

「おいたくっちスノー!!大変だオラァ!!」

「おい着メロくらいは流せ!」

 呑気にラーメンもすすれない、問題が解決したかと思えばまた次の問題が来る……時空規模な物が不可解な理由である。
 野獣先輩が突然の電話報告、たくっちスノーにとってはコイツからの電話ほど厄介事なので受けたくないが仕方なく電話する。

「何の事業で何が起こったのかだけ簡潔に話せ!こっちはラーメン食ってんだよ!」

「スープを堪能する暇もねえゾ!良いかよく聞け!!前回までのシオンさんがアニメ化決定した!!」

「何!?ウチの連載作品の……って良いことじゃないのか?」

「アホか!!まだ1年もやってねえマンガ雑誌のどこにアニメ化するほどのストックがあると思ってんだ!!」

「わ、わかったっての!飯食ったらすぐ向かうからちょっと待ってろ!」

 たくっちスノーはラーメンを一気に呑み込んでミリィを連れて時空監理局へ大急ぎで向かう、徹先生はそんな二人の後ろ姿と聞いていた内容で立ち止まらずには居られなかった。

「確かピーナッツ広島先生の作品だったよな……念の為連絡入れてみるか」

 ◇

「来たぞ田所!状況はどんな感じだ!」

「どんなも何も意味わかんね〜つってんだろうが!てかマジでラーメン食ってから来やがったなアンタ!」

 EXEと野獣先輩は既に資料を用意して頭を悩ませていた。
 前回までのシオンさんはネオジャンプでも1,2を争う氷点下の帝王に並ぶ看板漫画だ、アニメ化する実績はある。
 あるのだがあまりにも早すぎる、シオンさんはまだコミックス2巻が発売されたばかりでろくなストックすら存在しない。
 更にいえば肝心な作者であるピーナッツ広島先生にも自分達編集者にも知らされておらず今週の誌面で唐突に発表されたのだ。

「いや落ち着けよ、アニメ化と言っても1クールやるわけじゃないだろ……配信サイトでCM告知とか、OVAとかそれくらいの規模だろ?まだウチの雑誌はそれくらいの……」

「残念だがティー、メイがもう独断で決めたことだ……前回までのシオンさんは次のシーズンで12話!!無論全時空放映!!」

「つ、つつつつつ次のシーズンんんん!?それつまり今やってるアニメ終わったら始まる枠にシオンさん入ってるのか!?」

 大体の作品ならアニメ化が決定されても実際にお茶の間に提供されるまで1年以上はかかる、それだけアニメ作りというのは時間がかかる。
 だがシオンさんは遅くて2ヶ月でテレビ放映、いくらなんでも間に合わない。
 制作スタジオも放映する曜日すらも把握してないのにこの異例通り越してエイプリルフールとか嘘バレレベルのスカスカ内容、しかし紛れもなく公式報告で黒影の考案。
 どうしてこんな速い!?とツッコミを入れようとして気付く、同じなのだ。

「まさか黒影の目的は!!」

「そうだよ!どこよりも早く!誰よりも先に!全時空共通で見られるアニメを流したいんだよ!次のシーズンでどのチャンネルで見れるのはシオンさんだけだ!」

「今ポチが話を聞いているところなんだけど……」


「どういうことなの、俺」

「同一存在みたいに言うのやめなよ、ポチ……ここ毎日直談判ばかりでデスクに座りっぱなしなんだよ」

 黒影の所でポチは長居していた、アニメ化は結構だが時空アニメ最速を狙うからっていくらなんでもプロジェクトがめちゃくちゃ過ぎる、何より前回までのシオンさんはネオジャンプ人気だがまだ時空規模には及ばないし早すぎる、まるで井の中の蛙のように公開処刑されるだけだという。

「時空で最初の全世界共通アニメを早いもの勝ちしたいなら俺がオリジナルアニメでも作るよ!まだネオジャンプは育成段階で……!」

「放送局は優秀だよ、たくっちスノーから聞いたけど世の中はタイトル借りてほぼオリジナルエピソードで作れるって聞くね、アイドル物でロボアニメまでやったんだろ?」

「そいつは基本賛否両論の諸刃の剣だ!右も左も分からないシオンさんという作品には綱渡り過ぎる!お前、趣味でやってる俺と違ってメディアミックスというのは簡単なことじゃないんだぞ……!!」

 好きなように働いている監理局には重すぎる責任、アニメ一つ……絵柄、演技、脚本、原作者の振る舞い……様々な要素が交差して一つでも誤ると親の仇のように全部燃やされるのがアニメという世界。
 ポチみたいに気軽に一人だけでやっていけるものではない。

「確かにピーナッツって人にはメールで伝えられなかったのは悪いと思ってるけど、善は急げ!全部片付いたら改めて話そうと思って」

「異世界軽音部みたいなのだったらどうしようかと……というか、アニメ市場まで独占するのは無理があるよ局長さん」

「なんで?アニメ化するだけでファンは増えて爆発的にイラストは増える、その手のサブカルに俺以上に触れていたポチなら分かると思うけど……あっ、時空新時代からはエロイラスト禁止なのは知ってるよね?」

「……アニメになって簡単に触れやすくなって話題になり、その時だけ流行に乗ってイラストなどを作る……俺たちの界隈じゃ『イナゴ』とは呼ばれてる連中はいる、俺は触れたからには一生付き合えなんて言わないからイナゴも悪くないと思ってるけど」

「ならいいじゃないかイナゴでもヤゴでも」

「皆が気になるのはね、シオンさんの制作スタジオ、あと新須詩音の声優は決まってるのかとか……たくっちスノー達にアニメ作れって言うのは無理だよ、出来るけどこんな短い期間では無理だ」

 仮にたくっちスノー達がやってなかったとしてもこんなハードスケジュールでは落書き以下の出来にしかならないし、最悪時空監理局やネオジャンプが妥当な理由で告発される。
 まだネオジャンプ偽装の件も忘れられてないのに火元を増やされたらいよいよネオジャンプは終わりだ。

 「善意の為……って言うのならいくらでも聞くよ、ピーナッツくんにも俺の方から納得がいくように説明する」

 「ありがとう、昔の話になるんだけどね……俺がまだ旅人だった頃……」

 ♢

 「やっべ、長くなりそうだぞこの話……」

 「肝心なアニメ制作についてはどうなってるんだ……」

 たくっちスノーは途中からミリィの技、ブラックテレホンで音声を成分越しで繋いで盗聴していたが黒影が急に昔の話をしだしたので本筋が入り込めず困っていた、黒影によると昔……時空監理局も無かったころの昔の話。
 旅をしていると一人の青年と会った、その青年はダンサー志望であり世界中の人々を魅了させることが夢だったという。
 黒影はその願いを叶えたかった、だからダンスをしている彼の元に世界中の色んな人間を呼び出してショーをさせてあげた。
 自分の芸術を沢山の人が喜んでくれるなんて最高だろう?そんな話声が聞こえてくる。
 この時ミリィが脳裏に浮かんだのは『雑巾を虐める一番の手段とは』という漫画の有名なワンシーン。
 汚いモノを痛めつける時一番効くのは派手に飾り付けて注目させる事……。

 「いいことしてやったって顔だね、そんなに注目されるのが好きなんだ……俺とはそこらへん正反対だね」

 「俺は絵を描いても父親が何か言うだけで終わったからね、あんな寂しい思いは全人類にはさせない」

 「そうか……じゃあ、その話とは関係ないんだけどなんでアニメが終わったら前回までのシオンさんを打ち切ろうとしてるの?」

 「えっ!?」

 その発言でたくっちスノー達は騒ぎ立てそうになるが野獣先輩に留められる。
 ポチの発言に黒影は何か言った、言ったとしか言いようがない。
 ミリィは冷静に聞き逃さないようにしたのだが、その時の黒影の声はノイズまみれで耳が潰れそうだった。
 だがポチは何も動じずたくっちスノーの所へ戻り最後に振り返る。

 「そういえばその話に出てきたダンサーくんってさ、それ以降踊らなかったりする?」

 「なんでわかったの?もったいないことするよね」

 「……創作者の勘だよ」

 ◇

「おいポチ、シオンさんが終わるってマジか……?」

 あり得ない、不祥事を起こしたわけでもないしマンネリでもない。
 ピーナッツ広島先生もまだまだネタを続ける気でいる。
 ならば何故……ポチに黒影は何を言っていたのか聞き取ろうとする。

「君等盗聴って本当は感心しない行為なんだけどな……まあいいや、黒影局長が何を言っていたのかね、秘密」

 ポチはのらりくらりとかわしてピーナッツ広島先生に電話する、本当に黒影との約束通り自分から説明を入れてくれるようだ。
 アニメ化が決まったことに色々と唐突過ぎること、そして……アニメが始まる頃に打ち切られること。
 衝撃的過ぎる発言だがなんとかポチは宥めようとしている、そして……切る。

「はあ……それにしても参ったな、次のシーズンなんて早すぎて紙芝居も出来る気がしない、そもそもこんな納期で引き受けてくれる所なんてあるわけないし、時空監理局の奴らは当てにならない」

「使うだけ使えるようになったら、すぐに捨てて新しい作品へ……」

「ミリィ?」

「ああごめん、ひとまずアニメのことなんとかしないとね……なあなあにするっていうのは黒影は認めないと思う」

「そうだよ、黒影は善意でオレの見つけた漫画を時空の晒し者にする気なんだ、頭にきますよ……」

「お前、シオンさんはキャラ人気だけの生贄作品とか言ってなかったか?」

「それとこれとは別なんだよハリネズミ野郎」

 ネットではあまりにも突拍子も時間もなさすぎてジョークを疑われているが時空で最初の共通アニメとして前回までのシオンさんを作るしかない。
 スタジオ以前によく枠ねじ込めたなと思ったが、黒影なら無理矢理にでもやりかねない。
 ひとまずアニメをどう誤魔化すか考えていると、ミリィがリストを貰う。

「ネオジャンプの打ち切りが決まった漫画だ、ブランフェットが突然切れた……ということになってるから正式な打ち切り作品はここからだ」

「この中に売れてたシオンさんもあるからネット騒ぎになるだろうな……打ち切られるのは?」

「マリアとアリア……配神者……!?」

「いやちょっと待って!?それどっちも打ち切りラインには入ってない作品じゃん!ネットとかも荒れてないし中堅だよそれ!」

「マジすか……俺めっちゃネットで不評なフラッシュモブ辺りかと思ってたゾ……」

「……実はね、俺さっき徹先生が話していたことが引っかかる事があってポチの話を聞いてる時調べてることがあったんだ」

「たくっちスノー、徹っちゃんと何話してたの?」

「自分の漫画にもメイドウィンがいてその世界で生きてるって不思議な気分だよなー、頭で考えたネタでも実際にあるけど俺たちは見たことない的な事、その直後にシオンさんのアニメ化決定で今に至るってわけよ」

「そう、俺たちは存在しているはずなのに実際にあると判断するまで見たことがない……ここは深く掘り下げたらキリがないから話を逸らすとして肝心なのはネオジャンプのマンガになってる元の世界……メイドウィン陣営の方を調べてみたらオークションサイトに出たんだ」

メイドウィン達は過去に星野アイがクラウドファンディングや事前交渉でメイドウィンになりかけていたように手段を問わずメイドウィンになる手段はいくらでも存在する、金でもなりすましでも……正当な手段以外でも。
 ミリィが(こっそり松山達の手も借りて)暴いたのはオークションサイト、セキュリティを調べてみると監理局にも付いているもの……というよりはゼロ・ラグナロクをした時のメイドウィン集会と同じ。
 監理局公認のサイト……!

「何をオークションしてるんだ?」

はじまりの書だよ……つまりこれを買えばメイドウィンになれるんだ、金さえあれば!バレないようにブラックアカウントでシークレットモードも使用して履歴を辿ってみたよ……そしたら最近落札されてたんだ!さっき打ち切り作品に含まれてたシオンさん、マリアリ、配神者のはじまりの書が!」

 つまりネオジャンプの本来の目的は……漫画を持ち込ませることではじまりの書を作り、それを売買してメイドウィンを増やしながら裏でオークションで稼ぐ。
 漫画雑誌の経営と別で黒影がやっていたのはこんなことだったのだ。

「ウッソだろお前……漫画を打ち切るってのはアイツに言わせれば在庫補充!気に入らなくても読み切りをどんどん集めさせたのはこうしてメイドウィンと作品世界を増やすためか!」

「いや……メイドウィンを増やしたら漫画を減らすなんて理屈が分からん、アニメ化とも関係ないではないか」

「アニメがあれば安く読めるし映像なんだから漫画を動かすまでもない……黒影局長の聞き取れなかったさっきの言葉の答えだよ、アニメ化自体は多分メイドウィンの要望なんだろう……といってもそのメイドウィンもこんな早くからやれとも言ってないだろうに」

「……ミリィ、多分それ調べるのに博士の力を借りたな?」

「うん、俺一人じゃ忙しすぎるからね」

「……ちょっと待っててくれ、頼みたいことがあるんだ」

 何かを思い付いたたくっちスノーは一旦サイトを開いているパソコンを預かり、監理局では探知できないプライベートルーム(ポチの私室)へと避難してからある人物に電話を入れた。

 ◇

「もしもし……あれ、たくっちスノー先生?原稿はまだですが……」

「メノン先生お疲れ様、ちゃんとミネラル飲んでるかー?」

 たくっちスノーが連絡を入れたのはネオジャンプトップクラスの人気漫画家メノン・タケグチ。
 たくっちスノーは息をのみ込み緊張ながらに伝えた。

「いいか……その、まだ可能性の話だ、貴方は悪くないんだけど超絶断絶ザンザザーンが突然打ち切られるかもしれないんだ、そうなったら謝罪して詫びを入れたいと」

「どうしたんですか?全時空規模というだけあって俺の漫画が何らかの理由で怒られることなんて想定済みですよ」

「……怒らないのか?」

「もしつまらない以外で打ち切られたら、また読み切りから這い上がりますよ……何か訳ありなんですね?」

「強がりとかじゃないんだな?悪いね、ちゃんと説明いれるよ……ネオジャンプ作者の皆にもね」

 メノン先生との通話を切った後にミリィに通話してこっそり呼び出してメノンに電話したこと、自分が思い付いた計画のことを話す。
 実験の為の犠牲になってしまうことに胸が痛いが……ザンザザーンの始まりの書を購入するという。

「博士の関係者にザンザザーンのメイドウィンになってほしい、もしこれでザンザザーンが打ち切りになればミリィの推測は正しかったことになる」

「……それでメノン先生が納得はいくのか?」

「いかないだろうな、こだわってる作品だし口ではああ言ってるが自分に失望してもおかしくない、これを明かしたらネオジャンプへのヘイトなんにせよ終わり。」

 ジーカは馴染みのユメミファイナンスで借りてこようとするが、お金はあるというのでミリィに止められる。
 ジルトー陣営は実際カネはある、本来アクアがアイをメイドウィンにする為に用意していた買収用の金をそのままオークションに仕掛ける。
 ザンザザーンは雰囲気や絵柄もあって多くの金を要求するされるので一旦研究所に戻り稼げそうなものを用意することに。

 ◇

「あっ、アニメシオンさんのこと忘れてた」

 改めてアニメをどうするか……ドクター・ジルトーにアニメ製造マシーンでも作ってもらうか?と考えている。
 どう考えても全力出して第一話を作るだけで燃え尽きてしまう、これを12話分4週間近くは続けるなんて無謀を超えた無謀。
 というかこういう時こそ黒影の『善意』の見せ所ではないのか?お仕事と人助けは別なのか?しかし黒影は本当に気分で動く、オークションの件で脅してもこっちまで不利になるだけだ、責任は全部自分達が背負わされているのだから。
 ポチ達にもザンザザーンの事を話してミリィが暫く抜けることを告げた後自分達はアニメについて考える。

「いやさぁ杞憂じゃね?……ここまで早くしなくても時空最初の共通アニメなんてないでしょ」

「つーか時空放送局もまだ全然共通放送番組作れてもいないじゃないスか、専用チャンネル押しても昔からつまんねーニュースしかやってねえでしょ、そんな中身もないのに誰が見たがるんスか」

「ネオジャンプ以上に敷居が広いからな……なんならこちらもジャンプのブランドを思い切り利用している」

 その時空専用チャンネルを押してニュースを見ながら少しずつシオンさんアニメ化において状況を整理していく。
 とりあえずグダグダ文句を言っても仕方ないので手を動かそうとしていたその時、アニメ化に引き続きてまたしても問題が発生する。
 遠くない未来いつかは来ると想定していた大きな壁、黒影も想定していなければおかしいくらいの積み重なっていた一つの課題、それはニュースから流れてきた。

『速報です、時空全規模……つまりはどんな世界でも売られている漫画雑誌として時空出版局が週刊ファンタジーを発表しました』

「……つ、遂に来たか、ネオジャンプ以外のどんな世界でも買って読める漫画雑誌!」

「しかもこちらは最初から電子版発売を公表して値段もオレ達より少し安いぞ……」

「ここからがマジの勝負スよね、これまでの時空規模出版はライバルがいなかったから得意顔出来てただけだが下手したらもう終わりだぁ!(レ)」

「黒影は知ってるよねこれくらい、勝負に出るのが早すぎるよ」

 ……。

「ネオジャンプ以外に時空規模の雑誌かぁ……どうしようかな、俺は正真正銘の神になったから全ての存在に優しくする義務があるけど……少しでも俺を追い越そうとするのはなんか違う気がするんだよね」
最終更新:2025年02月25日 19:16