お前の雑誌は売れ残りの虚無漫画!

 それはあまりにも衝撃的なこと、本屋に向かいネオジャンプのコミックス最新刊や出てきたばかりのときめきジャンプの初巻コミックスを確認したりで久しぶりに5人が揃って買い物していた時の事だ。

「お、おい見ろよ見ろよ」

 おそるおそる野獣先輩が指を指した先にあったのは黒影が今でも手を付けているまんがタイムつばめ。
 たくっちスノーはそういえばあの漫画からコミックスになっているところを見たことないと近付いてみるがものの見事に山積みである。

「黒影が需要も理解せずめちゃくちゃ刷ったとか?」

「それもあり得なくないが、これはどう考えてもメイ……」

全員の思いは一致した、まんがタイムつばめ……もしかしなくても滅茶苦茶売れてないんじゃないのか?と。
 ミリィとポチは出版局に行ったあと売上データベースを見せてもらい時空に存在する全ての雑誌の売上グラフを見せてもらうことに。

「つばめはどこだ?念の為下から探してみようよポチ」

「……い、いやちょっと待って、出ないんだけどつばめ、検索方法間違えたかな?」

 だがまんがタイムつばめはどんな調べ方をしてもデータに出てこない、本屋にしっかり売られていた以上この場所に載っていないなんてことがありえるのだろうかと二人で試行錯誤していると坂口が通りかかる。

「おやデータベースに用事ですか?お二方なら悪用しないとは思っていますが何をして?」

ミリィは坂口に事情を説明して一緒にデータベースを検索するが何度試行錯誤してもそれらしきデータは出てこない、どんなマイナーな雑誌でも少しはグラフが出てくるというのに探しても見つからない……坂口はこれを見て1つの結論を出す。
 どんな雑誌でも売れればデータが残りここに蓄積される、それなのに出ないというのはもう答えは1つしかない。

「まんがタイムつばめは……1冊も売れてないのでは……?」

「え……いやいや、つばめだって時空規模の雑誌ですよ?時空に本屋さんが何万……何百万あると思ってるんですか?」

「それだけじゃない、今月号のあの本屋見ただけでも分かるあの積み上げられた売れ残りの量!それが他の店でも同じで……今12冊目でしょ?溜まりに溜まった在庫のこたを考えると身の毛がよだつ!!」

 まんがタイムつばめはこれまで1冊も売れずに在庫を無駄に圧迫し続けるのに次々と刷っていき邪魔な荷物として本屋を苦しめていた。
 時空のシェア独占どころかワーストトップで大赤字、ネオジャンプやホワイト以上に大問題となりつつある。
 そしてそれは同じタイミングで調査していた残りのバカ3人も部屋が埋め尽くされる程に積まれた返品つばめを見てジョジョのモブキャラの如く狼狽える。
 あんなに自信満々に黒影が描いて、盗作騒ぎに便乗して出しておいて現実はコレ……!1冊目2冊目の段階でファンも掴めずあの騒ぎで知ったから買っただけで終わりというところだったのだろう。

「これ……どうするんスか、ケツ拭く紙にもなんないでしょコレ」

「黒影のことだもう次の話ザッと描いてるぞ……売れてないと気付いてないのか?」

「実際どうなんだつばめは、ティーは見たことあるだろう?」

「言えるわけないだろアイツにクオリティの話!お前らも観てみるか」

「きっしょ、もう描くな ガバガバどころかスカスカ 傲慢の末路」

 EXEや野獣先輩もはじめてつばめをちょっと確認してみたが酷いものである。
 ポチに影響されて全編自分で描く!と思いついたのだろう、奴隷に出来ることが完璧な自分なら出来ると透けて見える。
 しかし性欲というぶっちぎりの自己満足で覚醒していたポチと違い上っ面を真似ていた黒影の絵は描き分けされておらず10作品あって作者名も変えているが全部同じ人間が描いているとバレた上にネオジャンプの山田グレンも同じ人間と気付かれた。
 ギャグやコメディ要素も相変わらずの倫理観で見ていて気分は良くない、ストーリーはよく分からないと何故か魔法を作った時より中身が劣化しており、虚無と意味不明が入り混じる無限地獄、ページを開いても進んでいるのか分からない。

 こんなものが上からのゴリ押しで世界各地の本屋にジャンプ以上に積まれて大人気雑誌みたいな面構えで場所を取るのだから同情を禁じえない。
 これまで溜まりに溜まった在庫が全てここに送り返されてきたのだろう。

「このままじゃ監理局全部部屋が埋め尽くされる上につばめを売るほど大赤字だぞ!!」

「だがオレ達はそれぞれ他の雑誌の面倒を見るので精一杯だ!もう一種類相手するなんて……」

「おい待てい、どの道こいつほっといたら時空そのモノにも悪影響与えるゾ、パパパっと描いて終わり!なあのバカの性根なんとかしないことには……」

 つばめの後始末に困っているとマガフォンでメールが来る、最近は電話だけでは応対しきれないのでメール機能も付けた。
 確認してみると数々のつばめへのクレームであり、売れないのにこんなに送られてきても困ると決別のようなメッセージが送られてくる。
 1年も売り出して本屋はもう二度とつばめを売らないという意思表明をしたのだ。
 いや……キャラクターは物語の都合で歳を取らないとはいえこんなことを始めてもう1年も経つという事実に驚く。

「ひとまず自分は黒影にメールを見せてどうするか聞いてくる、EXEはポチに……」

「もう連絡入れてるッスよあいつ、マジメだなぁ……」


「ふむ……そうかありがとう、そっちも……」

 ポチはEXEの発信を受け取り、つばめの惨状に頭を抱える。
 黒影のチートや善意は基本的にその場しのぎが多い、先の先まで考えてないのは漫画なんかが顕著であり、新時代ではやるだけやっておいて滅茶苦茶になってばかりな気がする。
 記者会見のアレコレや盗作騒ぎでもつばめの事は知っていたのでここまで商売が下手くそなことに狼狽えていた。

「お前ら監理局離れてここに移住するか?」

「そういうわけにもいかないよ、俺等だって目的あってアソコに残っているから……しかしまんがタイムつばめが残した影響はまずいな、俺達出版局にも風評被害が及ぶよ」

「うーん……でもこれ替えようがないし出版局がそこまでやる義理がないんだよなぁ……本屋が取り扱わないって言ったところで諦めるような黒影じゃないよ」

 時空共通雑誌のブランドにも関わってくるし今更載っている漫画の全てを改変することはポチでも出来ない。
 一応月刊誌なので出来るっちゃ出来るがときめきジャンプの気力も残しておきたいし今更作り替えたら違和感がとてつもなく凄い。
 もう廃刊にならないかと思いたいが、黒影が余計にとんでもない雑誌を作ってくる可能性の方が高い。

「……とりあえず、つばめのコントロールを黒影から離そう……もしもしたくっちスノー、つばめの権利をポチが買い取りたいって言うんだけど」

「えっ」

「……あいつらときめきジャンプの助っ人として坂口が持ってきたんだよな?」

「本当に彼らにとっては私たちの事業もまだ楽な方みたいね……」

「あいつ何かやるなら俺たちも手伝ったほうが良さそうだな……」

 気が付けば出版局の職員達もあの二人の過酷を越えた過酷に同情しており、ときめきジャンプ以外でも何かとサポートしてくれるようになった。
 一番のキッカケは最悪と言われた副局長の件と殴られた痕跡のミリィだろうか?
 この二人はときめきジャンプの協力をさせているはずなのにずっと監理局から離れられず尻拭いばかりさせられてないか?

「弁当お裾分けでーす」

「ほらお前らも食え」

「ゴチりまーす」


「え?まんがタイムつばめが本屋で取り扱ってくれなくなった?」

 描いてる途中の黒影にもたくっちスノーから報告が届き、ようやく自分の作ったまんがタイムつばめの人気と需要の無さを思い知らされた。
 何がそんなにウケないのかと不思議そうな顔をしているが、キャラ萌え漫画専門雑誌なのにキャラクターが全然可愛くないんだから当然だろとツッコミを入れようとして黙る。

「くっ……うう、そこまで俺も時空の奴らもセンスがないと思わなかった!」

「自分は悪くないと言わないだけマシって言ってほしいの黒影……キルミーベイベーのアニメを5倍くらい薄めたような内容の四コマ詰め合わせってそりゃウケないだろ、月刊誌なんだしじっくり描けばもう少しマシな出来には……」

「じっくりってどれくらい?これでも監理局の勤務時間の倍以上は労力を使ってるんだよね」

 「じゃあ10分程度で全編作ってるんじゃねーか!この漫画に出てくるハンバーガーより気力使ってないぞ!せめて二時間だ!」

 「長くない?■描いて人描いて……あとは大喜利みたいに台詞を指スタンプでポン」

 「お前boketeみたいなノリでマンガ作ってたのかよ!お前そのポン!の指の動きやめろポン!の動き!」

 黒影は指に付いたインクみたいなものを漫画に押し当てると、魔法の力でうねうねと動き文字になっていく、黒影がその場で書いた絵を見てこんな事言ってそうというノリで作られたコマ、これを四コマ繋げただけで話として成立しておらず漫画というかオリジナルの素材を使っただけの素人の大喜利サイトを見ているような感じになっていく。
 一年もこんな形で雑誌作っていたのか……と心から漫画を作る技術しかないことに戦慄した。


「貴方がルーシアちゃん?一度会ってみたかったのよ〜」

「……私、ネオジャンプに知り合いなんていないはずだけど……」

「いいのいいの、同じ作者同士で話してみたかっただけだから」

 焼肉の席で共演するフィルトナとルーシア、肉を焼きながら談笑して猟兵の話ついでに漫画について盛り上がろうとする。
 ちなみにこの間のギリギリすぎるネタに関しては『ジャンプだって逃げ上手が凄いボカしてやりきったじゃない』と反論してきたが『ジャンプ界隈ぶっちぎりの奇才と比較するな』であっさり修正させられた。
 なおこの焼肉会、何故かポチと野獣先輩までいた。

「あのー……女の子二人水入らずならともかくなんで俺たちまで?」

「お互いの編集者だから当たり前だよなぁ?タダで高い焼肉満喫させてハッ……アッ!アーツィ!アーツ!アーツェ!アツゥイ! ヒュゥー、アッツ!アツウィー!!」

「お前はもう少し遠慮しなさい!」

 ポチでも野獣先輩が相手ならわりと遠慮なくやる、燃える金網に顔面押し付けてセルフ焼き土下座(頭部)させていると電話がかかり、黒影がまんがタイムつばめについて応対してくる。

「うん……このままじゃ本屋でも相手してくれないからね、俺が出版局で得た流通ルートで売るようにしておくから、うん……そういうわけでね局長さん」

 話の流れでポチがまんがタイムつばめの権利を手に入れてしまった、ホワイトのように誰か欲しがっているわけでもないし出版局も在庫の山にしかならないものを受け取ろうとしないだろう、完全にポチとミリィの独断で動かざるをえなくなってしまった。

「貴方の所のリーダー……思い切りがいいのね」

「思い切りがいいんじゃなくて自分が楽しいだけよ、その瞬間満足することしか考えてないからお話も破綻してるし……つばめだって落書きにスタンプみたいに台詞貼り付けてるだけなんでしょ?」

「その程度のクオリティってどんなちょっと手直ししても別物になる……ならなくない?」

「だから俺も困ってるんだよね、直すこと自体ミリィでも出来るんだけど局長さんは自分の作品が独占してることにこだわるからね」

「……でも正直、ネオジャンプそんなにパッとしてない、面白い漫画はあるけどブランド力……ないわ」

「酷いわルーシアちゃん!適当に作って危うく盗作騒ぎになったり、その場凌ぎでゲーム作ってるとかネットで馬鹿にされてるゲームチャンピオンよりはマシじゃないの!」

「フィルトナちゃん君のほうが結構酷いこと言ってるよ!」

「まあ事実だからね、しょうがないね」

 時空雑誌はあれから結構出たが、未だに黒影が作ったあれこれだけは爪痕を残しきれてない。
 それは漫画に限らず色んな事業が真っ先に初めてシェアを支配しようとしては失敗して撤退……これから先こんな未来が続き新時代のスタートダッシュは大体ガタガタであった。
 監理局といえば?と聞けば大体変なことしてはどっか行く組織と思われてるだろう、こんなことのためにバタバタしてるバカ5人以外。

「それで実際つばめをどんな状態で売るんスか?こんなゴミ俺だったら全部燃やすけど」

「全然燃えきらない……山火事になるくらい火をつけても……まだ山のようにある……」

「作戦自体はある、たくっちスノー君からまんがタイムつばめがどう作られているかを聞いた……スタンプみたいに思い付きで後付けで台詞を貼っているから話になってないんだ、だからルーシアちゃんの力で魔法のインクを吸い取る」

 「まあ……出来なくはないけど」

 ルーシアはマンガの山にペンを当てると瞬く間に大量のインクがペン先に吸い取られていき、残ったのは台詞の無い白黒の絵の集まりだけだ。
 辺り一面女の子がいっぱいの作りかけの漫画にデッサンマンに作って貰った新しい表紙を上から張り付ける、『まんがタイムつばめ』であることに変わりはないがその性質は過去のものとは大きく異なる。

「局長さんがこの作品を大喜利みたいなノリで作っていたのなら実際に大喜利にさせる、子供向けの塗り絵のように枠だけ用意して台詞を好きに描いてもいい……君だけのオリジナル漫画を作れる……そういう触れ込みでまんがタイムつばめから全てのセリフを取り売り直す」

「ジャンルを変えるってことね?」

「漫画っていうか好きなように遊ぶための玩具ってことね……一定の人気は得られそうだけど、それだけであの量をさばける?」

「大喜利に特化すれば難しいことでもない、専用のサイトを立ち上げて面白いネタや台詞になるようにコンテストも開く、優秀なネタには賞金を与えたりでもすれば数々の層を味方につけられるぞ」

 ネットに精通するポチは学んでいる、1から作るより既存の物を利用してペタペタと後からネタを貼り付ける大喜利サイトは様々な層に人気があるし萌え漫画なら見栄えもいいので単純に女の子を鑑賞する目的でも売り出せる。
 在庫の一部は大喜利の為に会社で転用させれば本屋で売られなくてもなんとかなる。
 まんがタイムつばめは虚無のような萌え四コマ雑誌から誰でも好きなように楽しめる塗り絵へと変貌したのだ。
 大衆ウケはしないだろうがこれだけで売れるものには変化するだろう。

「貴方……どうしてそこまでやるの……?」

「ただの好奇心だよ、局長さんには何の忠誠心もありゃしないけどせっかく作ったものを無駄遣いしたくないっていうちょっとした気持ち」

 実際ネオジャンプもホワイトもまんがタイムつばめ出版局のときめきジャンプでさえ、ほとんど根本を担っているのはポチだ。
 漫画業界は黒影の面白がる気持ちとポチの好奇心によって支えられており、その過程の為に苦節ありながらも創作者としての変態じみた実験によって成り立っている。
 何故ポチはここまで黒影というより雑誌に尽くしているのか?ただの創作好きの変態がここまでする必要はあるのか?たくっちスノーも思っているが答えは単純なことだ、ポチは漫画を作るのが好きな以上にエロに対する探究を欠かすことはない。
 実のところポチは自身の邪心の為、己の目的の為に監理局に尽くしているのだ、要するに性欲!

(多分もうちょっと活躍すれば時空規模のエロ本刷っても罰は軽く済むだろうな!)

 ポチは怒られることは前提で時空規模のアダルトコミックを作りたいと前から思っていたのだ、そのために最大限リスクや増える借金を減らすため自分の得意分野では率先して活躍する……ちなみに気付いているのは野獣先輩だけ!

「でもこのやり方……その黒影が認めてくれるの?」

「そこら辺は大丈夫じゃないの?売り方を彼が一任してるんだし内容自体を書き換えてるわけじゃないから文句のつけようがないわ」

「あっおい待てい、出し抜かれたことに文句は言うはずだぞ」

「それはそれ!もっともっと頑張りたいな!楽しいし逆にワクワクしてきた!」

 狂人みたいに笑う彼だが要はエロ本を作りたい一心でここまで尽くしているのでみたいというか狂人そのもの、時空での振る舞い方は覚えたがエロい物を作りたいという意思は変わらないポチは野獣先輩に言わせれば棒を掴む右手の為ならたとえ左手が折れても動じない男!

 そんなこともありやりたいことも自分だけが知ってた野獣先輩はあっさりとババを解放するとたくっちスノー含めた出版局に詰め寄られるポチ。

「正気かお前、あれだけキツく言われたのにエロ本作る気だったの?」

「いやだってまだ需要あるし普通に本屋とかで売られてたじゃんっ……!アダルトコミックって言っても合体とか夜のお楽しみじゃなくて乳首とか映るたけで……!」

「時空全土に自分の乳首晒されるとかどんな罰ゲームだこいつ、性欲の塊とは聞いたがここまでとは……」

「待ってやめて、ここで話さないで、ほらここミリィいるから、たくっちスノーも清純なままでいてほしいって気を使ってたから」

「うっ……確かにそうだ、自分としてもミリィに余計な知識を与えたくは……」

「あっ……大丈夫だよたくっちスノー、俺もちゃんと勉強はしてるし……その、そういうことだって分かってる……経験も……」

「……ん?経験」

「詳しく……説明してくれないか、今僕は冷静さを欠こうとしている」

 その日、ポチを通してムゲンダイ研究所は大パニックになった。
最終更新:2025年03月23日 20:42