俺の名前はメイドウィン

「ちょっと〜!あたしのマジレンジャーセンタイリング返してよ!」

「そういえば一緒に紛れてたか、確かにお前とはまだやってなかったな」

 すっかり忘れていた真銀のリングを返してもらい、テガソードの里に当たり前のようにうろついている、本来ゴジュウジャーからすれば敵同士のはずだが彼女はエノルミータをほっとけないと言っているし元の世界に帰った後でも出来るので後回しにしていた、真銀としても5対1は不利なのでとにかくトレスマジアというかマジアサルファの三下に徹することにしている。
 ゴジュウジャー全員がまほあこ世界に無理矢理転移されて早くも1週間、ポチの持ってきた発明品のおかげで禽次郎は何事もなく学校に行けるのだが日本なようで絶妙に文化が異なるので五人揃って馴染むのに時間がかかっていた。
 ゴジュウジャーの世界でノーワンという存在が現れた時どうすればいいのか……というのもある。
 ただ一人吠だけがいち早く適応してはるかの妹達の面倒を見て、はるかからバイト代を貰いテガソードの里のツケを着々と支払っている。

「ま、まさか遠野がここまで金を得られるとは……」

「なんというか……子供からお金貰ってるのもわりとアレなんだけど、よくアンタは別世界行ってもそんなのほほんとしていられるわね」

「別にこれが初めてでもないからな……ノーワンワールドに比べたら元の世界に似ているだけマシだ」

「……え?今アンタ初めてじゃないって言った!?別世界に行ったことがあるって……」

 真銀が無理矢理でも問い詰めて吠は嫌々ながらも話した。
 10年前にノーワンワールドという世界に迷い込み、逃亡生活を続けて家族とも離れ離れになりなんとか元の場所に生きて帰った……時空新時代が訪れて別世界の存在が明らかになってもこれを話そうとしなかったのは、別にこれから珍しいことでもなくなっていくから持て囃されることもないだろうということらしい。
 はぐれものの魔法少女である真銀も唖然として即座にメールでトレスマジアに連絡してビックリするくらい早くポチがマゼンタ達を引き連れて情報を集めようとする。
 吠はたいしたことないと思っていたが監理局からすれば旧時代の時空漂流者なんて見過ごせない時代である。

「ま……まさかリアルにそんな奴いるとは、なるほど黒影局長が目をつけるのも頷ける」

「こういうパターンって前にもあるの?」

「ネットで神隠し事件とかよく見ない?アレもだいたい時空絡み」

「吠っちのこともだけど、いつになったら元の世界に帰れるんだ?」

 と、色んな話題がカオスに入り混じって吠はうっとおしいと思っている雰囲気の中を一蹴するようにたった一言でかき消される。

「ゴジュウジャーはまだ頑張ってもらう、俺がそう決めたんだ」

 テガソードの里の扉を開けたのはポチに瓜二つだが糸目で派手なスーツに身を包んだ一言で言うなら王の中の王、神以上としか称することは出来ない怪物のようなオーラを放った。
 嫌でも分かる、初めて見ても遠慮なく断言できる。
 この男はシャドー・メイドウィン・黒影……時空監理局局長。

「改めて俺が時空監理局の局長、君らの世界も含めて数百数万、いやそれをはるかに越して京?それだけの世界をまとめて維持してサポートしている神様だよ」

「あ、貴方が……例の胡散臭い男?」

「……ポチ、俺のこと魔法少女達にどう伝えてたの?」

「これまでの件も含めて適切な評価だと思います、俺の持論ですが」

 メイドウィンは何食わぬ顔でテーブルに座り、注文もせず自分でコーヒーを魔法で作り出して飲みながら堂々と振る舞っている。
 聞きたいことを何でも答えるのスタンスを目で表現しているので、吠は遠慮なくマゼンタ達の分まで聞くことにした。

「どうして俺たちを元の世界に返さない?俺はともかくこいつらまで巻き込んでいる」

「マジアベーゼを倒す為には君らの協力が必要なんだよ〜、彼女が大物の時空犯罪者として将来脅威になりそうな話ってポチから聞いた?」

「確かに聞いたけど……ゴジュウジャーを出すのと何か繋がりが?」

 黒影は時空の渦から資料を見せる、トレスマジアとエノルミータの戦闘時の魔力の反応をデータ化したものであり、マジアベーゼはトレスマジアと戦う時魔力がかなり跳ね上がっているが時空ヒーローや犯罪者をしばいている時はそれが十分の一以下にまで落ちる。
 更に革新に至ったのは真銀が召喚された時に魔法少女と聞いて魔力が更に跳ね上がったがその姿はまじれっどなので「なんか違う」と一気に急落した。
 そのことからマジアベーゼは気分がいい時、つまり魔法少女と戦って楽しんでいる時に戦闘力が急上昇するのだ。
 そういえば初めてゴジュウジャーを相手にした時は自らやる気が出ないと言って乗り気ではなかったので、本人も気付いているのかもしれない。

「なるほど、魔法少女相手じゃ相性が悪いから彼女の気分が優れない我々をけしかけて倒してもらうと」

「それを別世界の何の関係もない人達に?だって貴方の情報が本当ならマジアベーゼは……トレスマジアが相手しなくて魔力が落ちても時空犯罪者をあっさり倒せるってことでしょ?」

真銀の言うことも一理あった、戦隊は強いとはいえ無関係な所から連れてきて歴戦の実力を得た時空犯罪者にけしかけるのはリスクが高い、黒影はポチとの通話から「面白くなりそう」と答えているので真面目に選出していないのは目に見えてわかる。
 確かにマジアベーゼに群がっていたような時空犯罪者は低ランクの雑魚だが数が多ければ面倒だし一人や二人は純粋に力試しをして負けたものもいる。
 確か吠はコンビニバイトした時にマジアベーゼはD級と聞いている、それ以上となるともう世界を1つ滅ぼしてるレベルであり異例の数値である。

「ウチからも言いたいことあるわ、アンタが時空から来たヒーローにお前に金出さんと他世界で活動すんなとかやって、そんなに金が大事か?」

「お金っていうか監理局がこれから時空の中心になっていくから色々必死なんだよ、好きで存在を秘匿してたわけじゃないしさぁ……ごめんね」

 この男はなんて楽観的に答えるのだろうか、ある意味では神様らしく無責任でふざけているようにも見えるがポチが言っていたように見栄っ張りにはとても見えない。
 マゼンタもいざ本物を目にしてみると口が開けず「マジアベーゼをわざと時空犯罪者のトップにして代わりにする気なのでは?」というポチと一緒に抱えてる悩みに答えられなかったし、それ以上に恐怖が渦巻く。
 ――この人は自分達とマジアベーゼをどうするつもりなのだろう?

「局長ー、それはいいんですけどゴジュウジャーを店ごと送り出すのはわりと問題案件ですよ、ウチらの組織イメージ改善必死なんですから」

「皆が俺を理解出来てないと思って、こうして宣伝までしてきたんじゃないか……というか、魔法少女タイアップ順調なんだよね?いずれは監理局と契約して何かあった時に即座に派遣できるようにしたいんだけど」

「えっ俺そんなの聞いてませんけど?」

「出来ることは有効活用しないと!特にトレスマジアはマジアベーゼのライバルとして時空で名前を広める必要があるからね、タイアップなんて簡単だよ例えばコレ!」

 黒影が服から取り出したのは小さな貯金箱、トレスマジアデザインの貯金箱自体は普通にこの世界でも売られており、うてなも私室に置いてあるくらいにはオタクにも馴染み深いものだがその内容は少し異なる。
 中にはトレスマジア募金と書いておりお金を入れるとトレスマジアに貢献される形でお金が消える、配信業のスパチャから思いついたものでリアルにトレスマジアへの投げ銭が行えるというアイデアでありとりあえずうてなが手に入れたら間違いなく破産するのは目に見えている。
 黒影は魔法少女募金という事業で人々を応援する企画を時空に公表してきたと自信満々に語る、既にトレスマジア以外にも数々の魔法少女のバージョンを用意しているという。

「なるほどね、魔法少女達が他世界で活躍するにはお金が必要だけどそれをこの募金を使うことで解決すると」

「狡いわね……一見すると魔法少女の助けになってるようで実際にお金が入ってるのは時空監理局じゃない」

「でも騙してるわけじゃないでしょ?俺たちがお金を確保して出動出来るようにしてるんだから」

「私達はいつから貴方の所有物になったの?」

「まあまあ……ここは1つ話題を変えて、そんな局長さんについて知るために聞きたいことがあるんだよね、なんでそこまで善行に拘るの」

 禽次郎が黒影に関する話題を出すと実に嬉しそうな反応をする、めちゃくちゃ聞いて欲しくてたまらないような様子で神々しさを感じさせる光を意図的に作り出していかにも自分が凄いということを語りそうな演出で魅せる。
 アズールは彼が見栄っ張りなことは事実であることを改めて理解する。

「少し昔の話をしようか、俺は子供の頃に恵まれない環境で育った……まあ恵まれないと言っても出来なかった事が多かっただけなんだけどね?時空で生きている皆には俺と同じ気持ちになってほしくないからさ、神の力を手に入れてからはもうボランティア精神だよ、俺が味わうことが出来なかったことを、俺がしてほしかったことを皆にして……せめて俺の分までいい思いをしてほしい、それだけさ」

 黒影は完全なる慈善事業、これまでのことは本気で皆が喜ぶと思ってやっていると話してあくまで自分は味方であるという姿勢を崩さずに語りかけてくる。
 ポチはというと目を逸らしているし、そんな事言われても胡散臭いとしか思えないのがゴジュウジャーとアズール、もう何を信用すればいいのか分からなくて冷や汗が止まらないマゼンタ。
 そして吠は……。

「……お前は大きい事は言ってるが、あいつとは全然違うな」

「あいつって誰のこと?」

「俺の世界の総理大臣だ、名前は熱海常夏……異例の若さで総理大臣になって色んな奴から愛されてたような俺には縁がなさそうな奴だったよ」

「あっ、あたしも知ってるその人」

「ドンモモタロウの指輪の戦士だよね?確かに俺は彼とは違うね、熱海は自己人気の為に完璧という仮面を被っているだけの才能があるだけの小物だ、その点俺は心から君を愛して」

「分かってないな、あいつのこと……マジアベーゼを倒すのが俺じゃなくていいなら俺はやらない、個人的に俺はお前が嫌いだ」

「ウチも同意見って所やな、アンタの方こそ自分がやれなかったことをウチらにって言うが、ウチらを利用して好き放題したいだけと違うか?」

「……タダ付き合えとは言わない、全てのセンタイリングをあげるといったら?」

「テガソードがそんなインチキを許すと思う?」

「如何にも、このお方から聞きましたが我々にとっての神はこの店のシンボルでもあるテガソード様、貴方様ではございません」

「ああ大丈夫俺はテガソードよりよっぽどランク高いから、君らで言えばメイドウィンナンバーワンの言うことを信じてよ」

 黒影はダンボールいっぱいのセンタイリングを取り出して吠の前に置いていく。
 一つ一つ別の指輪でありもしかしたら本当に全部入っているのかもしれないがそれを確認する気はしなかった。
 ゴジュウジャーなくてもトレスマジアや真銀がそれを受け取る権利も一応あるにはあるが手に取るものはいなかった。

「一応聞いておくけど局長、どうやって集めてきたの?」

「俺の知り合いにリングハンターっていう凄い人がいる、心配しなくても願いに関してはアフターケアするよ、俺はテガソードと違って平等だからね」

「……じゃあアズールが前に予想してたけど、遠野さんが願いを持ってないことを利用して自分の願いを叶えようとしてるのは」

「ないない!なんでテガソードに頼まないといけないの?さっきも言ったけどランクは上だし、やりたいことがあったら俺は好きになんでも出来るよ!……そういえばトレスマジア、君はうちの監理局専属魔法少女に相応しいと思うから任命させてもらうことにした……要件は以上!帰るね!」

「あっ待って黒影局長!」

「お断りします」

「え?」

 マゼンタはこの言葉だけははっきりと言えた、怖くてもここだけは臆してはいけないと本能で感じ取って口に出すことが出来た。
「私達は貴方の所有物ではない」「自分達を利用して自分の承認欲求を満たしたいだけ」アズールとサルファが言ったこの言葉が確信を得られるか少しだけかかるかもしれないがこれだけは分かる。

「私達やこの世界の人々は、遠野さんのところも含めて……貴方にこんな助け方をされるほど惨めじゃない、私達は精一杯生きているんです、本当に私達を想ってるなら何もしないでくれますか?」

「……マゼンタ、君もしかして怒ってる?」

「まあ別にこれは俺が気分でやってるだけだから、君等がどうこう言うことではないけどポチ、引き続きマジアベーゼの討伐と魔法少女タイアップグッズ頑張ってね」

 黒影は言うだけ言ったのかそのまま代金も払わずに時空の渦で帰還しようとする、代金と言ってもコーヒーも軽食も全部自分で作って自分で出したものなので関係ないのだが、それ他の店行ってやる?というツッコミどころに反応して欲しくてやってるのだからこれまためんどくさい。
 ……去っていく際に黒影が呟いた言葉を異常聴覚の陸王が聞き逃さなかった。

「マゼンタ……やっぱり気に入らないなぁ……」

 こうして消えてなくなった後に真銀はダンボールいっぱいのセンタイリングを眺める、どうやら全部本物のようだが真銀も全て使おうという気分にはならなかった。

「それで?トレスマジアは一方的に時空監理局の仲間にされちゃったみたいだけど姉御はどうするの?」

「聞くまでもないやろ……アンタらもそうよな?ゴジュウジャー」

「私の信じる神は……あくまでテガソード様のみ」

「元の世界に帰るためにはあの男が言った通り、私達が自分の力でなんとかするしかなさそうね」

 ここまで黒影が意気揚々と語ってくれたが要はマジアベーゼさえなんとかすれば自分達は帰れることは分かったのでトレスマジアには悪いが自分達が始末しなくては戻ることは出来ない。
 彼らはいずれ指輪を奪い合うために戦い合う関係、それに相手が悪の組織でもあるので躊躇いはなかった。
 問題はトレスマジアだ、自分達がいつも通り振る舞おうとしても黒影が何かしらの介入をしてくるだろう。
 自分には関係ないが通用しない。

「というか局長……指輪持ってきたらこの人達が元の世界に帰る意味なくなるじゃん」

「ポチさん、貴方はこれからどうするの?」

「どうするってそりゃ……俺はあの人の部下だ、魔法少女のタイアップグッズを作るって仕事を遂行したいけど……俺はあの売り方ちょっと反対なんだよね、クリエイターとしてのこだわりとしてあのやり方は……って問題じゃないよね」

「あたしは……その、あんなこと言ってよかったのか分からないけど、あたしが生まれたこの場所は魔法少女として自分の手で守りたい」

「うん、君の判断が合っているかどうかは俺や君達じゃなくて民衆に決めてみようか、監理局は平等って言ったのは局長だしね」

 ポチはせっかく黒影が楽しそうに話してくれたのでマガフォンで全部録音してその情報を一旦まほあこ世界とゴジュウジャー世界に一斉配信。
 動きが出たのは常夏総理を一時辞任した後も変わらず支持する者が多い民衆やキビダンゴ党の関係者であった、常夏は向こうの世界で黒影の配信をバネにしてのし上がり「自己人気の仮面を被っただけの男」に出し抜かれることになる。
 何故これを知っているのかと言うと、吠が常夏に電話して直接聞いたからである。

 そしてまほあこ世界のトレスマジアファンから募金に対して電話が殺到してポチが代わりに会見に応えて監理局がトレスマジアに契約したこと、専属魔法少女となり時空で戦うことになることを改めて公表した。
 それはもちろんエノルミータと直接対峙するため。
 その日の会場に堂々とマジアベーゼが現れた、部下も誰一人連れず総帥自ら直々に足を踏み入れた。
 権力は違えど立場としては黒影と変わらない。

『時空監理局専属魔法少女チーム』トレスマジアと『史上最悪の犯罪組織筆頭』エノルミータ。
 マジアマゼンタとマジアベーゼ。
 この戦いはもはや一つの世界に収まりきれない。

「こういう時はおめでとうございますと祝福するべきでしょうか?マジアマゼンタ」

「マジアベーゼ……私はこんなやり方を望んで……」

「いえ、こちらとしては都合が良かったので本当に祝うためにきましたよ?…………これで貴方と戦えばあいつの所に辿り着ける、貴方が根本となり最終的にはアレまで引っ張り出せる」

 ベーゼはカメラの方を見て怪物のような……いや、蜘蛛のようなぎょろりとした人間とは思えない瞳を向けてその先に居る「かみさま」に向かって宣言する。


「貴方はまるでイチゴの前に食べられるショートケーキ、確実に殺すからな待ってろよ」

 この日黒影並びに時空監理局へ堂々と宣戦布告を起こったマジアベーゼはこれまでたくっちスノー以外に該当者が存在しなかった便宜上の一番上。A級時空犯罪者まで格上げ。
 更にたくっちスノーは本人も知らないが副局長兼メイドウィンになった際に犯罪者ランクを撤廃されているため……。

 マジアベーゼは名実ともに新たな史上最悪の時空犯罪者へと変貌してしまった。
 魔法少女にあこがれて、女幹部になって、総帥に成り上がって、時空犯罪者に祭り上げられて……それでもやることは変わらない。
 魔法少女押し活を邪魔するならたとえ創造神だって相手しよう。
最終更新:2025年04月30日 20:40