「おええええええ」
日も沈みかけた町外れの一角に、舞人のゲロオーシャンが広がっていく。
「もうっ、マイトはホント役に立たないんだか……らッ!!」
その舞人から少し離れたところで、ドリル状に形成したロストルムを振るう
ルーシィ。
レイピアの何倍もの貫通力でどてっぱらに大穴を穿たれて倒れるモンスター。
腐汁を撒き散らしながら倒れるのは、生きる屍だった。
2人は今、町外れの墓地でゾンビの群れと戦っていた。
ルーシィによる地獄の特訓が終わってギコナへ戻った2人は、町外れにある墓地から突然ゾンビたちが湧き出したという話を耳にした。
襲われたのは墓守の老人で、ゾンビに噛まれたらしく、出血する腕を抱えて町へ逃げ帰ってきたところらしかった。
ルーシィの魔法により怪我を治したあと、ゾンビを退治するべく舞人を引っ張り墓地へとやってきたのだが――
「うえぇぇぇぇ」
「だらしなさすぎっ!!」
舞人はあたりに充満する腐臭に、1人リバース祭り開催中だった。
もっとも、土葬が普通でゾンビなどは割りとポピュラーなモンスターであるフォスタリアと、火葬主流の現代日本で育った舞人とでは耐性が違って当然といえば当然ではあるが。
「りゃああああ!!」
ルーシィは飛び散る腐汁をうまくかわしながらロストルムを振るい続ける。
あるときは刺し貫き、あるときは力任せにたたきつけ。
ロストルムを振るうたびに、ルーシィのたわわなおっぱいがぶるんぶるんと揺れているが、舞人にそれをじっくり観察する余裕はなかった。
舞人が復活する頃には、すべてのゾンビたちが退治されていた。
「うっぷ……さ、さすがに勇者だな。凄……」
「これくらいはただの冒険者でもやれるよ。君がショボすぎるんだって……」
「う……」
「もっとスマートに終わらせる人もいるしね。高位の僧侶ならこれだけの数でも魔法一発で臭いごと浄化させることだって出来るんだよ」
「……そいつはいいよな」
舞人は体に染み付いた腐臭に顔をしかめて、すっぱい唾を吐く。
「ゲームじゃザコ扱いしてたけど、実際には強敵だぜ……」
ゾンビのもっともいやらしい攻撃がその臭いであることを改めて思い知り、舞人は辟易した。
「さっ、問題も解決したし早いトコ………ッ!?」
「お?」
一振りするだけで血のりだの腐汁だのが綺麗に振り落とされる便利魔力を持ったロストルムをリボンに戻した瞬間、ルーシィは絶句した。
「どうした? おーい、ルーシィ?」
舞人が不審に思ってルーシィの顔の前で手をひらひらさせる。
「い……」
「い? 胃でも痛いのか? それとも今頃臭いがキたのか?」
「い……」
そこで舞人は、ルーシィが自分の背後を指差してガタガタ震えているのに気がついた。
くるりと振り返り、視線の先を追う。
「モケケケケケケケケピロピロピロ」
そこには半透明のナニカが浮遊して、不気味な笑い声を上げていた。
「うおっ! こ、これはゴーストってヤツか!? 剣とかは効きそうにないよな……」
舞人の想像通り、それはゾンビの肉体から離れた霊魂が集合して生まれたゴーストであった。
がしっ
「おっ!? る、るーしぃ、そんないきなり大胆だな……」
「い……」
ぐわっ
「ニョホッ!?」
「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ぶおんっ!!
「オバケはイヤあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「ニャホニャホタマクロ―――ッ!?」
舞人の肩を掴んだルーシィは、意外に女の子らしい悲鳴を上げて、舞人の体にリボン状のロストルムをぐるぐると巻きつける。
そしてぐるぐると振り回し、十分な加速をつけたところで舞人の体をロストルムごと思いっきり投擲した。
どぎゃあああああああんっ!!
「カッパドキアッ!!」
「モゲラッ!!」
投擲された舞人は、狙いたがわずゴーストにブチあたった。
「なんでやねんっ!? ぐへっ!!」
てっきりゴーストの体をすり抜けると思っていたのに、思わぬ衝撃に突っ込む舞人。
体に巻かれたロストルムが持つ魔力で、非実体のゴーストに物理的に干渉できるようになったことなど想像もつかない。
そのままゴースト共々大木にブチ当たって舞人の意識は闇に飲まれていった。
「ふぇぇぇぇん……オバケやだぁー……」
意識を失う直前、微かに耳に届くルーシィのすすり泣く声。
気力を振り絞ってうっすら目を開けると、女の子っぽくへたり込み、両手で顔を覆い隠してめそめそと泣きじゃくる姿が映った。
(うはwwwwルーシィかわいいよルーシィwwwwガクリ)
それきり、舞人の意識は完全にブラックアウトした。
最終更新:2007年05月12日 17:37