丼の人様より
「あー。今日も疲れた~。」
舞人は仕事後の薄汚れた体を引きずって歩いていた。
「さ~、ひとっ風呂浴びてさっぱりするかなー。」
舞人は5秒で真っ裸になる。昔から早食いと早便と早脱ぎは得意なのだ。
「ふんふふふふ~ん♪」
鼻歌を歌いながら勢い良く扉を開ける舞人。
「あれ?」
もうもうと立ち込める湯気の中、かすかに背中が見える。
良く見えないのが、逆に本能を刺激する。
ぼんやりと見える白い肌が妙に艶かしく、ボーっと見とれる。
その背中が翻り、こちらを向いた。
「あら、舞人君も入りに来たのね。」
声を聞いてはっとする。
「エ・・・エレナさん!くぁwせdrftgyふじこlp;@:」
エレナは前をタオルで軽く抑えているだけで、ことさら隠そうとしなかった。
「ちょ、前、見える、うはwww」
舞人の方が照れてしまい、急いで後ろを向こうとし・・・・足を滑らせる。
丁度振り返ろうとしたために、エレナの方へと倒れこんだ。
「あんっ」
「ちょおおおおおこの後頭部のやわらか~~~~い感触わあああああああああ!」
エレナは倒れてきた舞人をしっかかりと抱きかかえる。
「んもう。舞人君大丈夫?」
「うひゃうぃぃぃい」
舞人は奇声を上げつつ体制を立て直す。
「ほら、舞人君、ここ座って。」
頭の沸騰した舞人は言われるままに座る。
「さ、お背中流しましょうね♪」
「ちょwww何言っちゃってるのwwww」
「あら、もう家族同然なんだから遠慮しないの。」
そう言ってエレナは舞人にお湯をかける。
かけられたお湯と一緒になにやら大事なものまで流れて行ってしまった気になる。
「んふ、やっぱり男の子の背中ね。広いわぁ」
エレナは妙に楽しそうに背中を擦る。
(ふぉぉぉおぉぉぉおおおおお!)
絶妙な力加減で撫で回され、あまりの気持ち良さに脳内で絶叫する。
「それじゃ、すすぐねー。」
ざぱぁーとお湯をかける。
「はい、キレイキレイ。」
自分の仕事に満足したエレナはぺちぺちと舞人の背中を叩いた。
「あざーっす。すげー気持ちよかったです(*´▽`)」
「んふ。良かった。次は頭洗おうか?」
気分がノって来たエレナは次なる獲物を狙う。
「いや、されてばかりもわるいっすお。今度は俺が背中ながしますお。」
やられてばかりじゃぁ癪だとばかりに申し出る。
単にエレナに触れてみたいというスケベ心かもしれないが。
しかし、エレナは少し困った顔をする。
「私は・・・遠慮しておくわ。」
「そんなこと言わないで下さいよ!何時もお世話になりっぱなしですし!」
鼻息荒く熱弁する舞人。
その熱意に打たれたのか・・・
「それじゃぁ、お願いしようかしら。でも、そのね、」
なぜか上目使いになり、不安そうにする。
「驚かないでね。」
そう言って背中を向ける。
そこには、陶磁のような滑らかな肌と、大きな傷跡があった。
お風呂に入ったときは湯気で気付かなかったのだが、左右両方の肩甲骨辺りに痛々しい姿を晒している。
舞人はそっと手を伸ばし、傷跡に優しく触れる。
「あの・・・これ・・・」
「驚いちゃうよね・・・・ごめんね。」
心底申し訳なさそうな声に、舞人は焦る。
「いや、そんなこと無いッスよ!肌キレイですよ!ほら!たこも吸い付きそうなくらい!」
「ふふ。」
舞人の妙なフォローにエレナの顔が綻ぶ。
「ありがとう、大丈夫よ。その・・・舞人君に嫌がられるんじゃないかと思って・・・」
気恥ずかしそうに、背中まで赤く染めもじもじする。
何と言うか、もーたまらんです。
「それじゃあ、洗いますね」
ドギマギしつつも、微笑ましい物を感じ、優しくエレナの背中を洗い始める。
舞人が黙っていると、エレナがポツリと話し出した。
「背中の傷ね。」
「え?」
「気になるでしょ?」
「いえ、あの・・・・・はい。」
ごまかした方が傷つけるかな、と思い、素直に頷く。
「背中の傷はね、戦争で怪我したの。」
「戦争、ですか?」
「そう、戦争。モンブランと同じくらいの歳だったかな。ちょっとした小競り合いだったの。
私の村が戦場になってね。村人全員捕虜にされてね、その時に切られたの。」
戦争、捕虜、切られた。
衝撃的な言葉に絶句する舞人。
改めて傷跡を見つめ、心が締め付けられる。
「2回も、切りつけられたんですね。」
口に出した瞬間、不躾な事を聞いたと悔やむ。
「・・・ええ。」
(ああ、やっぱり詳しく聞かれたくないよな。)
何だか自分のことのように悲しくなり、舞人の目から涙がこぼれる。
それに気付いたエレナは振り返り、優しく舞人を抱きしめる。
「優しいのね、舞人君は。」
「ごっ、ごめんあさい。俺。」
「いいのよ。」
舞人は泣くのを止め、目を開ける。
目を開けたは良いが、目の前の光景に固まってしまう。
さっきまでエレナの背中を洗っていた。
洗っていた最中なのだから、当然隠してなどいない。
そして今エレナに抱きしめられている。
つまり、頬に当たる柔らかい感触、そして目の前の頂。
それらは高々と自己主張を叫んでいた
我 輩 は お っ ぱ い で あ る 。
「くぁwせdrftgyふじこlp;@:」
今までのシリアスな雰囲気など一気に吹っ飛ぶ。
頭と、股間に急激に血が回る。
エレナから体を引き剥がし、股間の起ち上がったものを開陳しながら立ち上がる。
当然、今度はエレナの目の前に息子がハロー。
「あ・・・はふぅ」
エレナはまじまじと見つめ、なにやら色っぽい吐息を吐く。
「あぎゃああああああああああ!」
あまりの状況について行けず、舞人は思いっきり叫ぶ。
そこに不意に、第三者の声が混じる。
「お母さん?なに騒いでるの?」
モンブランが扉から顔を覗かせている。
叫ぶのに精一杯で、お風呂場の扉が開いたことに二人共気付かなかったのだ。
モンブランはお母さんと一緒に入ろうと思ったのか、全裸にタオルを巻いた状態である。
(ああ、何か死んでも良い・・・)
舞人は真面目にそう思った。
が、下手をしたら実際死にそうなシチュエーションである事に気付く。
モンブランが、凄まじい怒気を発していた。
「お母さん?これは、一体、どういう、ことなのかしら?」
モンブランは俯き、地の底から這い出てくる亡者のような声を出す。
「えーとね、もんちゃん?怒らないで聞いて?」
「ええ、怒らないので、さっさと、言ってくださいな。」
いちいち区切っているところが怒り具合をあらわし、すっごい怖い。
舞人は矛先がエレナに向いているのを良いことに、そそくさと逃げ出そうとする。
のだが、
「ちょっと、そこのお下劣大百科、どこいくのかしら?」
「あは、あははは、いやね、親子の水入らず邪魔しちゃいけないかなーと。」
「言い訳なんて聞かないんだもん!」
きっ、と舞人を睨みつける目には涙が浮かんでいた。
焦った舞人はなおも弁明しようとモンブランの方に手を置く。
その拍子に、はらり、とモンブランの体に巻いていたタオルが落ちる。
「あ・・・」
「え・・・」
思わず顔を見合わせる舞人とモンブラン。
モンブランの顔は赤く染まっていき、舞人の顔は血が引いて青くなる。
「あは、あは、あはははは・・・」
舞人が青い顔でかたかたと身を震わせながら笑う。
モンブランは拳を硬く握り締め、
「舞人の、ばかあああああああああああああああああ!」
舞人の顔面へとおもいっきり打ち付けた。
「だって!昨日おかあさんの胸に、か、か、顔、う、うず、うずめてたんだもん!!」
「おまっ!ちげーよ!あれはエレナさんが・・・」
「なによ!お母さんのせいにするつもり!?」
舞人の言う事など聞いちゃいない。
しかも、目には涙が浮かんでいる。
「私だってねぇ、私だって!」
髪を振り乱し、頬を赤く染め、いやんいやんと体を振る。
「私だってそのうちおっぱい大きくなるもん!」
「・・・・へ?」
「あ・・・」
しまった、という顔をするモンブラン。
益々顔を赤くし、おろおろとうろたえまくる。
「何だ、もんもんはそれを気にしてたのか(・∀・)ニヤニヤ 」
「ちがっ」
「まぁ、なんだ。確かにエレナさんはすごかった(*´д`)」
「うっ、うっ」
モンブランの目には今にもこぼれそうな程に涙が盛り上がり、今にも泣きそうである。
その様子を見て、流石に言いすぎかなと反省する。
「まぁ、ほら。モンにはモンの良いとこがあるじゃないか」
柄にも無く、フォローを入れる。
「ひっぐ、えっぐっ、ほんとに?ひっ、えうっ、例えば?」
「え?あー、ほら」
「ひぅっ、ほら?うえっ」
「スレンダーな所とか・・・」
「っ!」
可愛らしい泣き顔が、だんだんと怒気を帯びていく。
「どうせ!どうせ幼児体系だもん!」
そういってぽかぽかと舞人を叩く。
「はは、いたっ、いいじゃないか。モンはモンだろ?」
「うるさいうるさい!」
半笑いで逃げ回る舞人を追いかけながら、ぽかぽかとたたき続ける。
そこに、ぱたぱたと楽しそうな足音を伴い、良い匂いが漂ってきた。
「ごめんね舞人君、おそくなっちゃった。」
爽やかな朝を台無しにする惨状を目の前にしても、エレナは自分を見失わない。
「こら、モンブラン、舞人君にじゃれついてるんじゃないの。2階の掃除始めなさい?」
「う~、後で憶えておきなさいよ!」
可愛らしく指を付きつけ宣言すると、ダッシュで2階へ上がっていった。
「ふふ、あの子も大変ね。」
なぜか楽しそうにするエレナ。
机に朝食を並べ、舞人を席に座らせる。
座った舞人の耳元に口を寄せ、
「舞人君も、後でお買い物手伝ってね♪」
これまた楽しそうに告げ、踊るような足取りで仕込へと戻って行った。
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最終更新:2007年12月09日 22:03