「飽きた」
南国都市トコナ。
朝眼を覚ましてからどこか不機嫌だったミレイアは、開口一番そう言い放った。
「?」
「バカンス、飽きちゃった」
「おやおや、また唐突ですね……」
「あ、そうだ! 勇者! 勇者どうなった? 確か異世界から召喚されたとか聞いてた気がするけど」
「……ようやく重い腰を上げる気になられましたかな? 異世界より召喚された勇者は……」
「前にやっつけてやった勇者
ルーシィと手を組んで特訓してるお!」
ここぞとばかりにベアを押しのけ発言するブン。
ちなみにバカンスの間、こういった勇者たちの動向を逐一真面目に調査していたのはすべてベアである。
「……そういうことです」
「ふーん。そっか。じゃあ勇者とあんたたち、戦ってきてよ。そっちのが面白そう!」
「やれやれ。魔王様の思いつきにも困ったもんだぜ」
そういいながらも楽しげなアーヴェ。異世界の勇者が男だからだろうか。
「よし、じゃあまずブン。あんた行ってきなさい」
「任せるお!!」
「よーし。今日の特訓はここまで」
「だへー……」
終了の合図を聞くなり、舞人は持っていた剣を杖代わりにしてずるずると地面にへたり込んだ。
今日は剣技の特訓だったが、舞人の体はあちこちあざだらけになっている。
舞人が使っている剣は、練習用に刃を潰したものだった。
「にしても、酷いね……もし真剣だったらバラバラになってんじゃないの?」
「))」
「こんなアザだらけになって……仕方ないなぁ」
(これは手当てイベントの予感!!)
舞人のテンションはどん底から一気にマックスバリューである。
「ほらマイト、上脱いで」
「お、おう……」
「あーあ、こんなとこまで傷だらけで……痛い?」
「こ、これくらい平気だぜ」
「やせ我慢しないの。えいっ」
「いでででで!!」
「ほら。じゃ、お薬つけてあげるから。まず腕からね」
「いっつ!!」
「あっ、ごめんねマイト……ふー、ふー……」
「く、くすぐったいぞルーシィ」
「ふおおおおおお!!」
脳内で展開されたイベント内容に一人盛り上がる舞人。
「……なんだ。案外元気だね」
「うおっ、いてぇ!! 内臓がねじれるくらいいてぇ!!」
ルーシィの言葉に脊椎反射的に地面を転げまわる舞人。
「……ホントに?」
「マジマジ、マジカルひよりんくらいマジだって!!」
「わけわかんないけど……しょうがないなぁ」
(ktkrwwww)
ルーシィは転げまわる舞人の傍に膝をついた。
そしてその手をむんずと掴み、
「………リ・ゲイン」
短い呪文詠唱の後、手を舞人の体に翳す。
次の瞬間、淡い光が舞人を包んだかと思うと、舞人の全身のアザは綺麗に治っていた。
「(゜д゜)」
「はい、これで終わり。さっさと帰り支度しなよ」
(期待はずれもいいとこですね……こうなったら)
ゴクリと唾を飲み込み、己を捨てる覚悟を決める舞人。
(こうなったらあれをやるしかない!)
〃〃∩ _, ,_
⊂⌒( `Д´) < ヤダヤダ!
`ヽ_つ ⊂ノ
ジタバタ
↑アレ
「ヤダヤd……」
舞人がヤダヤダの構えに入った瞬間だった。
「!! なんかくる!」
「へ?」
ルーシィが太もものロストルムに手を伸ばし、鋭い声を発する。
舞人が間抜けな声を上げた次の瞬間だった。
「ブ――――――ン!!」
どぐぉぉ!!
「ティモテッ!!!」
舞人は突如飛来した謎の物体に思い切り体当たりされ、無様な悲鳴を上げて吹っ飛んだ。
「おっおっおっ。さすがは勇者ルーシィだお。いい勘してるお」
「お前は……!!」
吹っ飛ぶ舞人には目もくれず、両手を広げたポーズでしゅたっとポーズを決める謎の男。
その姿から魔族だと容易に想像がついた。
額から生える二本角、ざんばらの髪、スマートだが程よく鍛えられた肉体を持っている。
だが、
「うー……いてぇ……なんだお前は……ブッ!!」
よろよろと立ち上がった舞人は、自分をぶっ飛ばした魔族を見て思わず噴出していた。
「ぶはははは!! 顔っ、顔がブタバナッ!! なんだこいつ、怪人ブタバナ男か!?」
「おっおっ! 失礼な奴だお!」
「ぎゃーはははは!! 鳴き声までブタバナでやんの!!」
舞人は指をさし、腹を抱えて爆笑する。
その魔族は、舞人の指摘どおり、顔はザコモンスターブタバナそのものだったのだ。
「マイト! 笑ってる場合じゃないよ!」
「これが笑わずにいられるかってーの!」
「そいつは魔王四天王のひとり、ブン・ブブーンだよ!」
「こいつが? ウソだろ?」
「ホントだよ! 今の君じゃ、万に一つも勝つ可能性のない相手だよ!」
「マジで!?」
ルーシィのクソ真面目な言葉に、ようやく事態を飲み込めてきた舞人。
「おっおっ。どうやらおいらの強さがやっとわかったようだお。そして、お前が異世界の勇者だお!?」
「ぎくぅ!! お、俺は勇者なんかじゃないぞ、通行人Aだ」
「バレバレだお」
舞人の見え透いた嘘を意図も簡単に見抜いたブンは、両腕を広げたままゆっくりと歩き出した。
「おいらは長い前フリとかは嫌いだお。最初からクライマックスでいかせてもらうお!!」
「……見るからに頭悪そうだからな。口上を考えられないんじゃね?」
「ギクゥ!だお!!」
「お前もバレバレだな」
「バ、バカにするなお!!」
ブンは額に青筋を浮かべながら、ゆっくり、実にゆっくりと舞人とルーシィの周りをぐるぐると歩き始める。
「何をする気……!」
「おっおっおっ。最初からクライマックスといったお。残念だけど、おまいたちにはおいらのトッテオキで倒される運命なんだお!」
ルーシィは自分たちの周囲をぐるぐると回るブンから目を離さず、ロストルムをドリルレイピアに変化させる。
そして、油断なくブンの出方を伺う。
だが、ブンは仕掛けてこない。にらみ合いが続き、硬直状態に陥る。
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最終更新:2007年12月09日 22:07