東京・東村山市議、矢野穂積と朝木直子(「草の根市民クラブ」)が市民グループを提訴していた裁判で、平成17年3月17日、東京地裁八王子支部は原告矢野らの請求を棄却する判決を言い渡した。矢野らの提訴が棄却されるのは珍しいことではないが、特筆されるのは、この判決が公人である矢野の特異さに言及するものだったことである。
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平成17年3月17日、東京地裁八王子支部で判決が言い渡された裁判の発端は、矢野と朝木の異常なまで自尊と比類のない市民軽視、さらにその結果として企図されたこの議席譲渡事件にあった。
「草の根」による議席譲渡の反社会性を追及したのは「草の根グループの議席の私物化を許さない会」(以下=「許さない会」)である。
「許さない会」は矢野ら「草の根」にとってこの上なく目障りな存在となった。
矢野と朝木は自己正当化するために自らの政治宣伝ビラ『東村山市民新聞』で「許さない会」に対する誹謗中傷を繰り返していたが、ついに平成9年12月11日、彼らは「許さない会」を名誉毀損で提訴したのである。
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さて、平成9年の(※議席譲渡をめぐる)最高裁判決後、「許さない会」は市民に向けて最高裁判決の内容と意味を伝えるためにビラを発行したが、市民の支援に対する謝辞の中でこう述べた。
〈矢野氏は物事を自分本位に解釈して、訴訟を計画し、これをもって時には脅し、執拗なまでに実行します。また自分の臆測を理屈づけ、朝木直子さんという媒体を巧みに利用し、多くの市民を味方に惹きつけようとしています。精神分析のリポートによりますと、パラノイヤ(偏執病・妄想病)の中でも好訴妄想者がこうした傾向を示す場合が多いといいます。〉(平成9年9月1日付『手を結ぶ市民のニュース』〉
またその三カ月後に発行したビラでは次のような市民の声を紹介した。
〈一人の異常と思える人間とこれにマインドコントロールされた人達とが、一見正常とも見える反社会的行為を繰り返しているのが「草の根」の真の姿だと思います。〉(平成9年12月1日付『同』)
「許さない会」が発行したビラにおけるこれらの主張の前提には、矢野が朝木を巻き込む形で議席譲渡を計画し、また最高裁判決後も、既述したようにきわめて独善的な解釈に基づいて議席譲渡を正当化しようとしている事実、さらに矢野がこれまで行政や市民に対して50件近い裁判を起こし、そのほとんどで敗訴しているという事実の裏付けがあった。しかし、これらの箇所が今回の裁判の争点の一つとなったのは当然である。裁判所の判断はどうだったのか。
裁判所はまず、〈「一人の異常と思える人間」が矢野を、「これにマインドコントロールされた人達」の一人が朝木直子を指すことは容易に想像し得る〉とした上で、矢野について「一人の異常と思える人間」「物事を自分本位に解釈する」「自分の臆測を理屈づける」とした表現に相当の根拠があるかどうかを検討している。
この点について裁判所は、まず議席譲渡事件において矢野と朝木が「理念としての当選者交代について」と題する書面などで主張した内容は「公選法上は想定されていない考え方であるといえる」とし、また最高裁判決後の『東村山市民新聞』での「最高裁は、……市議会に繰上当選の手続きをはじめからやり直しをすべきというもの」とする矢野の主張について「最高裁はそのような判断をしたものではない」と結論づけた。
その上で、矢野について「一人の異常と思える人間」とした「許さない会」の論評には、その前提において相応の根拠があると認定、さらに朝木直子が矢野に「マインドコントロール」されているとする趣旨の表現についても、そのように論評されても「やむを得ない」とした。
では、矢野があたかも「パラノイア」であるかのように表現した点についてはどうだったのか。この点について裁判所が重視したのは、矢野がこれまでに数多くの裁判を提起するとともに、自分を批判する市民や市議会議員に対して「裁判するぞ」「新聞に書くぞ」などと脅していたという事実である。
すでに平成15年6月19日、東村山市議会の超党派議員で発行した『超党派でつくる新聞』をめぐって矢野が興した裁判〔
「超党派でつくる新聞」裁判〕でも、東京高裁は「矢野が裁判を脅しに利用する」とする論評について「事実の裏付けがある」と認定して矢野の請求を棄却している。
今回の裁判でも東京地裁八王子支部は、矢野が自分を批判する者に対して「裁判するぞ」と脅していた事実を認定し、矢野があたかも「パラノイア」であるかのような「許さない会」の表現について「(この)論評の前提たる事実もまた相応の根拠がある」と認定し、違法性を欠くものと結論づけたのである。