俺は全てを黒井先生に打ち明け、相談する事にした。
それに黒井先生のあの言葉…
『泉はやめときーや』
…先生は何か知っている。そう直感が告げた。
放課後。
俺はHRの後黒井先生を呼び止めた。
男「先生、ちょっといいですか?」
黒井先生「なんやー?」
男「ちょっと相談したいことがあります。お時間大丈夫ですか?」
黒井先生「……………泉の事か?」
男「えっ?!……………そうです。」
黒井先生「30分待ち。仕事片づけてくるわー。」
男「…はい。」
俺はやはり黒井先生が何かを知っているのだろう事を確信した。
30分後。
黒井先生が職員室から出てきた。
黒井先生「さ、行こかー」
俺は黒井先生の車に乗せてもらった。
男「あの、どこに行くんですか?」
黒井先生「うちや。」
男「黒井先生の…家ですか?」
黒井先生「そうやで。」
男「あの、悪いですよ突然。」
黒井先生「……別に大丈夫やで。」
その後黒井先生は無言になって車を運転した。
郊外のマンション。
黒井先生の部屋だ。
男「お…お邪魔します。」
黒井先生「おー。なんか飲むかー?」
男「あ…いえお構いなく。」
俺はテーブルの前のクッションに座った。
黒井先生は麦茶を持って来た。自分の分は歩きながら飲んでいる。
黒井先生「ちょっと着替えるから待っとってやー。」
そう言うと黒井先生はスーツを脱ぎ始めた。
男「ちょっ!!!」
黒井先生「…」
素早く先生に背を向けたが一瞬見えた。
…黒でした。
黒井先生「どうしたんや?」
黒井先生はシャツに着替えてこちら側に来た。
頭の中のこなた『フラグ…。』
男「うるさい。違うから。」
テーブルを挟んで先生と向かい合った。
黒井先生がじっとこっちを見つめながら言う。
黒井先生「…で、どうしたんや?」
男「…」
男「…」
男「実は…。」
俺はこなたに、つかさに、かがみに告白され、そして三人が険悪になってしまった事、そのタイミングでかがみが失踪した事を話した。
黒井先生「で…男は泉か柊(つかさ)を疑っとるんか?」
男「違います!ただ…二人が何か関係しているような気がするんです。」
黒井先生「男は違うんか?」
男「へ?」
黒井先生「その話だけ聞くと男も容疑者の可能性アリやで?」
男「ちっ…違います!俺は…!!」
黒井先生「あー分かっとる!冗談や!!」
男「…え?」
黒井先生「男がそんなことする子じゃ無いことはうちが一番分かっとる。」
男「…先生…。」
黒井先生「ただな…一つだけ確認しておきたいことがあんねん。」
男「なんでしょう…?」
黒井先生「男は誰を選ぶんや?」
男「そ…その事は必要なんですか?」
黒井先生「…そこが一番大事なんや。」
男「…」
男「…こなたです。あいつはオタクでバカでつるぺただけど、俺にはあいつとの大切な思い出があるんです!」
俺がそう言うと黒井先生は静かに立ち上がってこちらに歩いてきた。
そして俺の後ろにひざを突いて座ると、後ろから俺を抱きしめた。
男「!!!」
黒井先生「あー…やっぱこうなると思っとったわー。」
男「え??!!」
黒井先生「にしても幼なじみに『つるぺた』は酷いんやないかー?」
男「…事実ですし。……ってあれ?…おさな…なじみ…?」
黒井先生「ホントは男だけは巻き込みたくなかったんやで…?…なのにやっぱりガンコやなー。昔と同じやな。」
男「…巻き込み…?どういう事ですか?」
黒井先生「…もう少しこうさせててや…ずっとこうしたかったんやで…?」
男「…」
不思議と興奮はしなかった。
嫌な感じもしなかった。
ただ、何だか懐かしい感じがした…。
10分程して先生はしゃべり始めた。
黒井先生「…ええよ。応援したるわ。男と泉の事。ただな、泉の事好きなら泉の全てを守ってやる覚悟しーや。」
男「…そのつもりです。」
黒井先生「全く…男らしくなったなー…」
男「先生は…誰なんですか?なんで色々と知っているんですか?」
黒井先生「まだ言えん…。全て終わったら話すわ。…今日男はうちに世界史の質問をしに来た…ええな?」
男「…はい。」
黒井先生「…そうじろうさんのとこへ行きや。」
男「え?」
黒井先生「泉の父親や。」
男「こなたの父親…なぜ…?」
黒井先生「えーから行って全てを教えてもらい。うちに言われたってな。」
男「…わかりました。」
俺が立ち上がり黒井先生の家を後にする時、黒井先生は小さな声で言った。
黒井先生「…えーか…高翌良には気をつけるんや。」
男「えっ?!」
黒井先生はドアを閉めた。
先生が渡してくれた地図とタクシー代を片手に、俺はタクシーに乗ってこなたの家に直接向かった。
黒井先生は男が出て行くと小さな声で呟いた。
「あの子を…守ってください…。」
こなたの家。
俺は少し緊張してインターホンを押した。
ピンポーン…。
…昨日こなたとあんな別れ方をして、ちょっとこなたに会うのは気が引けるな…
ガチャ
そうじろう「はい、おっ男君じゃないか。」
俺の気持ちを察してか、玄関口に現れたのはこなた父だった。
そうじろう「こなたはまだ帰ってないぞ。」
男「いえ…違うんです。今日はおじさんと話したいことがあって…」
そうじろう「…まさか、娘さんを下さいとか…!」
男「違います。」
そうじろう「えっ?…ああ…。」
男「今、黒井先生と話してきました。」
俺がそういうと、おじさんは一瞬真剣な顔になった。
そうじろう「…それで?」
男「教えてください。こなたは何を知ってるんですか?」
そうじろう「まぁ取りあえず家にあがりなさい。…先に聞いておきたいことがあるんだが。」
こなたの家のリビングでこなた父と向き合う。
男「…なんですか?」
そうじろう「こなたを…あの子を選んでくれたのか?」
男「………はい。」
そうじろう「そうか……。」
男「守ります……何があっても。」
そうじろう「…いいのかい?きっと話を聞いたらもう戻れないぞ。」
男「覚悟できてます。」
こなたの父親は静かに話し始めた。
そうじろう「君はかなたを…こなたの母親の事を知っているかい?」
男「はい…こなたがすごく小さい頃亡くなられたと…。」
そうじろう「それ以上のことは知らないね?」
男「はい…。」
そうじろう「君のお母さん、かなた、オレは同じ小学校、中学、高校だった。」
男「え?」
そうじろう「君とこなたが一緒だったあの小学校だ。」
男「そんな話…初めて聞きました…。」
そうじろう「君には言わない約束だったからな。」
男「確か父と母は高校で会ったって…」
そうじろう「うん。高校からは男父さんも一緒だったな。」
男「うちの両親とおじさんが仲良かったのは近所だったからだけじゃなかったんですね…」
自分が知らない時代の事を垣間見た気がした。
若い頃の父さんは…母さんは…どんなだったんだろう…。
そうじろう「君の両親が結婚して、程なくしてオレ達も結婚した。」
そうじろう「こなたから聞いているかも知れないが、かなたは生まれつき体が弱かった。だからこなたが生まれるとき、大きな病院に入院させた。」
そうじろう「男父さんは、自分の奥さんもお腹が大きいのによく見舞いに来てくれたんだよ。」
男「そうだったんですか…。」
そうじろう「…だがな、やっぱりかなたは出産の影響で体力をだいぶ落としてしまった。」
男「…」
そうじろう「…君とこなたが一歳の時、かなたは病院で逝った。オレとこなたと男母さんと君に見守られて。男父さんは仕事で国内に居なかったからな。」
男「…すみません…俺…覚えてなくて…。」
そうじろう「ははっ。一歳の君が覚えてるはずないよ。たぶんこなただって忘れてる。」
男「…でもこなたは…ちゃんとお母さんが亡くなるときそばに居れたんですね。」
そうじろう「…かなたは言ってたよ。短い時間でも家族三人で居られたことが幸せって。こなたもそうくんも悪くないよ、私が体弱かったからって…。」
そこまで言うと、おじさんは少し目を押さえて『ごめん』と言って顔を伏せた。
おじさんの中には、まだ強く、かなたさんが居るんだと分かった。
少しして、おじさんは続けた。
そうじろう「…かなたは体が弱かったから、かなたが言うように、せめてあいつに家族三人の時間をあげられてよかったと思った…その時はね。」
男「…え?」
そうじろう「…かなたが亡くなって、何日かして男父さんが来てくれた。…そして精一杯悲しんでくれた後、かなたのカルテを見て言った。」
男「…?」
そうじろう「…そうじろう、こんなこと聞くのは非常識だと分かってるんだが…かなたさんは貧血性の肝腎不全で亡くなったんじゃないのか…?って。」
男「??どういう事ですか?」
そうじろう「男父さんはカルテを見て薬の投与がおかしいことに気付いたんだ。私も、男母さんも文系だから全く分からなかったんだがな…。」
男「…なにが…あったんですか?」
そうじろう「かなたが亡くなる一週間前から大量の抗生物質の投与が始まっていた。しかも男父さんが言うにはその抗生物質は副作用がとても強いものらしい。」
男「な…なぜそんな?!」
そうじろう「男父さんは優秀だったからな…あっと言う間に答えを出してくれた。」
そうじろう「どうやらかなたは薬剤耐性を持つ細菌に感染したらしい…。強い副作用を持つ抗生物質をあれだけ投与する理由はそれしか無いと…。」
男「…まさか院内感染…?」
そうじろう「…おそらくそうだった。オレ達は病院の院長に掛け合った。…しかし病院はそれを隠蔽した。カルテを改ざんして。」
男「そんな事って…」
そうじろう「…かなたを担当した医者が院長の娘婿だった。たぶんそれが災いしたんだな…。」
男「…」
そうじろう「オレ達は戦うことにした。だけど相手は大病院だ…。勝てるはずがなかったのかもしれない。脅迫や嫌がらせをたびたび受けて、オレはこなたを守るため遠くに引っ越し、二人で生きていくことにした。」
男「…突然引っ越したのはそう言う訳だったんですか。」
そうじろう「…すまなかった…。」
男「いえ…いいです。またこうして会えたんですし…。」
そうじろう「…」
そうじろう「…引っ越すとき、君の両親と話した。もう病院の責任を問うのはやめる、と。だが…」
男「?」
そうじろう「だが君の両親はかなたのために証拠を探し続けた。…そして…男母さんは…」
男「…ま…さか…母さんを轢き逃げしたのは……!まさか…父さんも…!!」
そうじろう「おそらく…あの病院長が……本当にすまない…オレのせいで…」
男「…母さんと父さんが選んだことです。おじさんは悪くないです。」
そうじろう「…すまない」
そうじろう「……それから程なくして男父さんから連絡があった…引っ越すと。」
男「じゃあ俺とこなたが再会するのはその時に決まっていたんですね?」
そうじろう「いや…出来れば君やこなたは巻き込みたくなかった…。反対者も居たしね。」
男「反対者?」
そうじろう「い…いや、何でもない。」
そうじろう「とにかく、オレと男父さんは二人で時期を伺ってた。男父さんは情報を集め、オレはそれを原稿にして社会に発表するために。」
男「…時期?」
そうじろう「病院長は、1ヶ月程前から病床で昏睡状態だ。その時期に合わせて男父さんは引っ越しをしたんだ。」
男「…危険ではないですか?」
そうじろう「危険だけど、今しかないんだ。…危なくなったら、こなたを頼む。」
男「…父から…ものすごい額の預金通帳を預かってます。…こなたは…守ります。でも逃げるときはおじさんも一緒です。こなたが…悲しみます。」
そうじろう「……こなたが…オトコを見る目は確かだったな…」
暫く沈黙になった。
時計を見るともう九時近かった。
男「…それにしても、こなたは遅いですね。どこ行ってるんですか?」
そうじろう「どこって、学校だよ。ゲマズも閉まったしもう帰ってくるんじゃないかな?」
俺は背中に冷たいものを感じた。
男「お…おじさん…こ…こなたは…今日学校来てませんよ!!!!」
そうじろう「なん…だと…?!!」
そうじろう「こなたを…!!こなたを捜さなければ!!!」
男「おっ…落ち着いて下さい!こなたがその病院長に捕まったとは限らないですよ!第一病院長は意識無いんじゃないですか?」
そうじろう「いや…!実は一週間位前、こなたに問い詰められて全て喋ってしまったんだ!オレの原稿を見たらしい。」
男「でもだからと言って…」
そうじろう「こなたは…きっと一人で乗り込んだんだ!」
男「いくらこなたでも知らない病院に一人で乗り込んだりしませんよ!」
そうじろう「…知らなく無いんだよ。」
男「…え?」
そうじろう「こなたは君と一度行っている。…それにあそこは…」
男「…ま…さか…その病院て…」
そうじろう「…高翌良総合病院。君の…こなたの…クラスメートの実家だ…。」
…俺は理解した。最近のみゆきさんの様子が少し変だった理由を。
…俺とこなたの事をしつこく聞いてきた理由を。
みゆきさんは知っていたんだ…。
…知っていて様子をうかがってた。
…そしてもし、こなたが過去を知ってみゆきさんのところに行ったのだとすれば…
こなたが危ない!!!
いや、みゆきさんがこなたを危険な目に遭わせるとは考えたくない。
しかし今日1日みゆきさんはこなたの事に関して何も言ってなかった。
それはつまり、『みゆきさんはこなたの失踪について何も知らないが、みゆきさんの親などがこなたを拉致した』か『みゆきさんは全てを知っていて、かつこなたの事に関して嘘をついている』のどちらかだ。
もうこの際、みゆきさんは関係ないなどと考えていたら、こなたにたどり着けない。
確かニアもそんな事言っていた気がする。
俺は考えがまとまり、おじさんに言った。
男「俺が行きます。みゆきさんは俺がこなたの事を知っているとは思っていないはずです。」
そうじろう「オレも行く。このままじゃこなたが…!」
男「おじさんは今行ってはいけないと思います。今行けばこれまでの事がフイになるかもしれないです。」
そうじろう「しかし…!」
男「命に代えても、こなたを守りますから!」
夜の糖武鉄道に乗る。
糟日部に近付いて俺はかがみの事を思い出した。
かがみは『糟日部駅にいた』…。
もしかしたらかがみは、何らかの事情でみゆきさんの秘密に気付いたのかもしれない。
そしてやはり一人で乗り込んだ…?
どちらにしろ急がなければならない気がした。
もうすぐ最寄り駅に着く。
みゆきさんの、そしてかつての俺とこなたの最寄り駅だ。
こなたの言葉を思い出す。
『私の周りはテキばっかりだ!』
…あの時の言葉の意味が、やっと今になって分かった気がする。
こなたは…俺の事だけはミカタだったって言った。
でも俺がつかさと手をつないで歩いていたのを見て、もう誰も信じられなくなったのかもしれない…。
こなたが一人で乗り込むきっかけを作ったのは…俺かもしれない…。
駅を出た。
…よく考えたら、なんて言ってみゆきさんの家に行けばいいんだ…?
完全にノープランだった…
少し考えた末、俺はみゆきさんに電話をした。
トゥルルル…
トゥルルル…
ピッ
みゆき『男さんですか?どうしたんですか?』
男『あ、みゆきさん?実はさ、かがみが失踪した日に、かがみを昔の俺の家の近くで見たって人が居たから今その辺まで来たんだけど、ちょっと道に迷っちゃってみゆきさんの家の方まで来ちゃったみたいなんだ。それで、本当に悪いんだけどちょっと道教えてくれない?』
みゆき『…分かりました。では、とりあえず家に来ていただけますか?』
男『うん、ありがとう。』
ふぅ…何とか不自然じゃない程度にみゆきさんの家に行けそうだ。
それにこう言っておけば、かがみの事も探れる気がした。
みゆきさんの家の前に行くと、玄関にはすでにみゆきさんの姿があった。
みゆき「こんばんは、男さん。」
少し緊張した。
今日学校で会ったみゆきさんとは、何か違う気がした。
男「あ、こんばんは、みゆきさん。」
みゆき「…折角なので、お茶でも飲んでいきますか?」
男「うん、ありがとう。」
みゆきさんに家に通され、リビングのソファに座った。
男「あの…家の人は誰もいないの?」
みゆき「…ええ、つい先ほど祖父が亡くなりまして、母はそちらにいます。」
男「えっ?!みゆきさん、行かないでいいの?!」
みゆき「大丈夫です。男さんの話を聞いた後に向かいますから。」
男「ご…ごめん。」
みゆき「いえ、気になさらないでいいんですよ。」
男『みゆきさんの祖父…たぶん病院長のことだな…』
みゆき「では、本題に入りましょうか?」
みゆき「かがみさんがいなくなった日…男さんの昔の家の付近でかがみさんを見た、と仰る方がいたという事ですが…」
男「う…うん、そうなんだよ。それで俺も気になって今日この付近で手がかり無いか探してたんだけどさ。」
みゆき「それで…収穫はありました?」
男「残念ながら何も。」
みゆき「そうですか…。男さんの昔の家と言えば私の家も近所という事ですよね?私も調べてみます。何かあればご連絡致しますね。」
男「う…うん。」
男『ダメだ…みゆきさん動じたりしないな…やっぱりかがみの事は何も知らないのか?』
埒があかないと思った俺は、少し大胆な事を言ってみることにした。
男「…ところでさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
みゆき「なんですか?」
男「実は昨日こなたとケンカしてさ…さっき謝りにいったら家にいないみたいなんだ。…みゆきさん、知らない?」
みゆき「…こなたさんですか。」
男「うん。」
みゆき「…知ってますよ。今日、家にきました。」
男「……え?」
みゆき「こなたさんは言っていました。男さんもテキになったと。」
男「…こなたは…」
みゆき「それで安心していました。でもこうして男さんが来たという事は、やっぱり嘘だったんですね。」
男「…みゆきさん?」
みゆきさんはそう言うと、紅茶を飲み、無言で立ち上がるとこちらに歩いてきた。
男「みゆきさん…何を…っっ?!!!」
一瞬だった。みゆきさんの唇が俺の唇に触れた。
そしてみゆきさんの手が俺の首筋と頭を抑えると、舌が少し強引に俺の口をこじ開け、何かが俺の中に流れ込んできた。
流れ込んできた紅茶は少しにがかった。余りの出来事に驚いた俺はそれを飲み込んだ。
みゆき「ふふふ…びっくりしました?」
みゆきさんは微笑みながら元の自分の席に戻る。
みゆき「男さんが自分から来ていただいて本当に助かりました。」
俺はまだ目がパチパチして何も言えない。
みゆき「やっぱり…男さんにも喋ってしまったんですね、泉さんは。」
男「あ……みゆきさん…?」
みゆき「お祖父様は死にました。…だからここからは私がやらなければならないんです。」
体に力が入らなくなってきた。
みゆき「ごめんなさい…みなさん…。」
俺は意識を失った。
遡ること五時間前。
その日の放課後。
つかさ『今日はこなちゃん来てないや…昨日ちょっと言い過ぎたかな…まぁいいや、今日は男君と一緒に帰ろっ!』
つかさ「男君、一緒にかえ…」
男、急いで教室を出ていく。
つかさ「かえ…かえ…かえ………」
みゆき「どうしました、つかささん?」
つかさ「…なんでもないよー一緒に帰ろう、ゆきちゃん。」
みゆき「はい。」
みゆき「……。」
帰り道。
つかさ「……」
みゆき「…つかささん、どうかなさったんですか?」
つかさ「!!!な…なんでもないよー!」
みゆき「そうですか…?」
つかさ「…」
つかさ「…あのさ…ゆきちゃん。」
みゆき「はい。」
つかさ「…ゆきちゃんは…好きな人っている?」
みゆき「そうですね…お友達として好きな人は居ますが、男性として意識してる方は居ないかもしれないですね。」
つかさ「…そっかぁ。」
みゆき「つかささんはいらっしゃるんですか?」
つかさ「わわわわわわ私もいないかなぁ!!!」
みゆき「……」
つかさ「…///」
みゆき「…男さんですか?」
つかさ「っっ!!!」
みゆき「でも男さんは…」
つかさ「分かってるよ!!!」
つかさ「……ごめん…ゆきちゃん…。」
みゆき「…いえ、平気です。…その…一回話し合ってみてはどうですか?」
つかさ「…男君と?」
みゆき「いえ、こなたさんと。」
つかさ「……でも、私何言っていいか分かんないよ…」
みゆき「思ってることを正直に言えばいいんですよ。」
つかさ「うん…でも…」
みゆき「では今日はうちで作戦会議といきませんか?」
つかさ「……いいの?」
みゆき「ええ。」
つかさ「…ありがとう、ゆきちゃん…。」
みゆき「気になさらないでください。」
つかさ「おじゃましまーす!」
みゆき「どうぞ、あ、私麦茶を用意してきますね。」
つかさ「あ、お構いなく!」
みゆきの部屋。
みゆき「麦茶です、どうぞ。」
つかさ「あ、ありがとうー!」
ごくごく
つかさ「でね、男君の事なんだけどね、」
みゆき「はい。」
つかさ「…」
みゆき「…つかささん?」
つかさ「すーすー」
みゆき「…。」
みゆき「…ゆっくり…話し合ってくださいね?」
…
…
男「……うっ…。」
男「……みゆきさん!!」
気がつくと俺は見慣れない部屋にいた。
両手足は縛られ、身動きはとれない。
部屋の向かいにはモニターがあり、みゆきさんがモニターの方を向いている。
みゆき「…男さん。」
みゆきさんはモニターを見ながら喋り出した。
みゆき「この部屋はお祖父様が使っていた部屋です。」
みゆき「見てください。このモニター…私の部屋に監視カメラが付いていたんですね。お祖父様は随分と過保護な方でした。」
モニターにはみゆきさんの部屋に横たわるこなたとつかさが映し出されていた。
男「こなたっ!…つかさまで!」
みゆき「大丈夫です。お二人とも寝てるだけですから。それにつかささんはこなたさんとお話ししに来たんですよ?」
男「みゆきさん…君は…」
みゆきさんは俺の言葉は聞こえてないかのように続ける。
みゆき「…でもお祖父様はとても優しい人だったんですよ。」
男「…」
みゆき「男さんは…覚えてらっしゃいますか?」
男「…なにを?」
みゆきさんは相変わらずモニターを見ながらしゃべる。
みゆき「男さんとこなたさんは昔から仲がよろしかったですね…。」
男「…え?」
みゆき「…私も隣のクラスに居たのを知っていますか?」
男「そう…だったんだ。」
みゆき「ま…それは別にいいことですね。」
みゆき「で…男さんは知ってしまったんですよね?」
男「…俺は…」
みゆき「こなたさんのお父様を医療ミスで死なせてしまったのは、私のお父様です。」
男「…でも…その事とみゆきさんは関係ないじゃないか…!」
みゆき「…私のお父様は…心労から神経を病んでしまい…自ら命を絶ってしまいました。…それは知っていますか?」
男「…!!」
みゆき「全てお祖父様が教えてくれたんです。…こなたさんが引っ越した後のことです。」
男「……でもみゆきさん…みゆきさんがこなたを怨むのは間違ってる!…友達だろ!!」
みゆき「…何を言ってるんですか?」
男「え?」
みゆき「あなたの…両親を…殺した人の孫が目の前に居るんですよ?…憎くないんですか?」
男「…やっぱり…そうだったのか…」
みゆき「…」
男「人を[ピーーー]なんて…許される事じゃない…でもみゆきさんは関係無い…。…みゆきさんは友達だ。それ以外の何者でもないよ!」
みゆき「………迷惑なんですよ。あなたのそういう考え方が。」
みゆき「あなたは私と同じ。…自分を偽っています。本当は勉強だって私より出来るでしょう?」
みゆき「それと同じです。…あなただって私が憎いでしょう?…ただあなたの好きな泉さんの身に危険が迫っているからここに来た。…違いますか?」
男「そんな事はない!こなたは確かに大切な幼なじみだ。でも、かがみもつかさも、みゆきさんだって、同じくらい大切な友達だ!!」
みゆき「…」
男「…みゆきさんは違うのか?みゆきさんにとって、みんなは友達じゃなかったのか?!」
みゆき「……やれやれ、ですね。」
男「え?」
みゆき「…あなたの優しさが、みなさんを傷付けたんですよ?」
みゆき「私はそうなるように少し手を貸しただけ。」
みゆき「みなさんの気持ちが分からないんですか?」
みゆき「人には優先順位というものがあるんです。あなたはそれを理解していない。」
みゆきさんの言葉は一見煩雑な散文詩の様に発せられた。
でも俺にはその言葉の意味がよく分かっていた。
みゆき「あなたは…私の気持ちだって…理解していない。」
…でも最後の言葉はうまく理解できなかった。
みゆき「私の気持ちが理解できますか?」
みゆき「私もあなたと同じでした。幼い頃一人で友達らしい友達はいませんでした。」
みゆき「だから私と同じ、孤独だったあなたに興味を持ちました。」
みゆき「でもあなたには泉さんがいた。内気な私はあなたや泉さんに声をかけることができなかった。」
みゆき「泉さんがなぜか転校して、私にやっとあなたに話しかける勇気が宿ったとき、お祖父様に全てを聞きました。」
みゆき「あなたや泉さんは『テキ』だったんだと。」
男「でも…俺達は…」
みゆき「男さん。見てください。」
みゆきさんはモニターを見つめたまま言った。
モニターに映し出されたこなたは目を覚ましたようだ。
ゆっくりと起き上がった。
みゆき「…お二人はこれから『話し合う』んですよ。…男さんを巡って。」
モニターの向こうの部屋には机の上に置かれたナイフが光っていた。
こなたは、おそらく状況が理解できていないんだろう。
ぼーっとした眼差しで辺りをキョロキョロ見ている。
みゆき「後はつかささんが目を覚ますのを待つばかりです。」
みゆき「…お二人が眠っている間に、微量ですがアルコール様物質を静注しておきました。…男さんならどういうことか分かりますよね?」
…たぶん二人は目を覚ましたとき軽い酩酊状態だ。つまり『酔って』いる。
そんな二人が冷静に話し合えるとは思えない。
…………そして机の上にはナイフ。
男「みゆきさん!みゆきさんのしようとしてる事は…間違ってる!!」
みゆき「間違ってるか、正しいかは関係ないんです。…私がこうすることを選んだんです。」
みゆき「第一『正しいこと』って何ですか?私のお父様が医療ミスを招いてしまった…それは防げた間違いだったんですか?泉さんやあなたのご両親が私達に復讐をする事は正しいことなんですか?私がお父様を『殺した』人達を憎むのは間違ったことなんですか?」
みゆき「…男さんは黙って見ていればいいんです…。」
男「みゆきさんは…そんな事できる人じゃない。」
みゆき「…いい加減にしてください。」
男「…俺には分かるよ。みゆきさんは努めて復讐者になろうとしてるだけだ。」
みゆき「…そんなこと有りません!」
男「まだ遅くないよ。こなたもつかさも、きっと分かってくれる。かがみだって…」
みゆき「そんな事は無いと言ってるんです!」
みゆきさんは激昂すると振り返り、男を睨んだ。
みゆき「そんなに言うんでしたら、男さんが最初ですね。」
みゆきの手にはフェンシングで使うような突剣が握られていた。
(オートセーブしました。重要分岐F)
最終更新:2008年08月24日 01:44