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※この話はENDING2に続いています。

【みゆきサイド裏】

私が稜桜に入学して少し時間が経ちました。
かがみさん、その妹のつかささん、そして泉さん。
私は自分の“運命”というものに驚きを隠せませんでした。

泉さん…
少し髪は長くなっていましたが、泉さんはあの時のまま。
隣に男さんはいませんでしたが。

こなた「よろしくね、みゆきさん。」
みゆき「はい、こちらこそよろしくお願いします。」

泉さんにとって私は初対面なのです。
しかし私にとっては泉さんは『隣のクラスの泉さん』で、『男君の友達の泉さん』でした。

私は何度も言いそうになりました。
『男さんは今何しているんですか?』
でも私は我慢しました。

泉さんが転校して間もなく、私はお祖父様に泉さんと男さんがお父さんの死に関わっている事を聞きました。
でも私は二人を憎むことはできなかった。
お父さんの死に本当に関わっていても、それを忘れてしまうには十分なくらい、男さんが私の中で大きくなっていたんです。
…話したことさえなかったのに。

追うように男さんが転校したとき、私はこっそりと涙を流しました。
男さんに話しかける勇気がなかった自分を責めました。
…同時に私は悪い想像をしてしまいました。
…二人の転校はもしかしたらお祖父様が“何か”をしたから…?

二年生になりました。
私は皆さんと仲良くやっています。
小学校の頃の内気な自分が嘘のように、皆さんに溶け込めている気がします。

泉さんは私の事を“もえぞくせい”などとよく分からない事を時々言いますが、少なくとも泉さんの中で私は友達でいられているようです。
親のこととか、いろいろあったけど私は泉さんの事を大切な友達だと思います。
もちろんかがみさんも、つかささんも。
仲が悪いより、仲が良い方が、絶対に良いに決まってます。

お祖父様は、泉さんの事を良く思わないかもしれない。
でも私にとっては大切な友達です。
だから私は、今の関係が一番いいと思いました。
きっと皆さんとはずっと友達です。
そしてそうあるように努力していきます。
ずっと。

そう思える日が続いていました。
先生が転校生を連れてくるあの日までは。

黒井先生「…という訳で初日から遅刻してきた勇気ある男君や。」

みゆき『お…とこ…さん…』

みゆき『男さん…』
みゆき『男さん…』

私、泉さん、男さん。
今度は私たちは同じ教室にいる。

私は男さんを見ていました。
泉さんを一瞬見て、すぐに目をそらす男さん。
男さんをずっと見ている、泉さん。

『…二人は気づいているんですね…』
『…私だけがまた、気づいてもらえないんですね…』

男さんは魅力的になっていました。
何より、自分に自信がある。でもそれを表には出そうとしない。
私にはすぐにわかりました。
かがみさんも、つかささんも、男さんが好き。
もちろん泉さんも。

私は…


つかささんの提案で、皆さんと遊園地に行くことになりました。
私はこんな日が来るなんて思ってなかった。
友達と、男さんと、遊びに行けるなんて。
私は純粋にその日を楽しむことにしました。
…帰りの電車で男さんが私に寄りかかって眠るまでは。

私の肩に寄りかかって眠る男さん。
この時間がずっと続いたら…
もし男さんが、かがみさんでも、つかささんでも、泉さんでもなく、私を選んでくれたら…
そう思ってしまったとき、私の中で悪魔が囁いたんです。


皆さんが、男さんに愛想を尽かせばいい。
男さんが皆さんに嫌われるくらいの事をするように仕向ければいい。
ソレデモワタシハオトコサンガスキダカラ

私の予想通りに進んでいきました。
つかささんは男さんを十分好きになった。
かがみさんも男さんを十分好きになった。
泉さんはもとから男さんが十分好きだった。

でも私の中に、また良くない感情が芽生えてきました。
皆さんが男さんを好きになって、それぞれ男さんにアプローチをする。
でも私は、何もできない。
皆さんが男さんに愛想を尽かすまで、見ているしかない。
ワタシダッテオトコサントナカヨクシタイノニ

気づいたら私は駅のプラットフォームに居ました。
朝のふらふら歩く男さんの背中に手をのばします。
…瞬間、電車が来ました。

『私は…今…男さんを……殺そうとした』
『男さんは悪くないのに!』
『男さんを陥れようとしているのは私なのに!!』
『私は大好きな人を殺そうとした!!!』

しばらく私は茫然自失でその場に立ち尽くしました。

『…私に…男さんを好きでいる資格なんてない…』


週が明けも私はぼーっとしていました。
でもそんな時ほど、周りが冷静に見えたりします。
つかささんの、男さんに対する態度がおかしい。
男さんもそう。
なんだかつかささんと一緒にいるところを皆さんに見られないようにしているみたい。
…もしかして…

次の日。
泉さんの様子がおかしい。
昨日までの泉さんとどこか違う?
男さんを“見てる”と言うよりも“感じてる”。
しかも落ち着いて。
…なにかあったんですね。

…私のせいですね…
…私が播いた種ですね…
…もう戻れないんですね…

私の表情は壊れそうでした。
最初はこれを望んだはずなのに。
今は、確信ではないけれど、自分の罪が痛いです。

みゆき「あっ、私家に取りに行くものがあるので一旦帰りますね!」

私は耐え切れずにその場から逃げだしました。

また次の日。
かがみさんの様子が違いました。
いつもなら、『テストが悪かったのを誰かに励ましてもらったんだろう』と思えたはずです。
でも今の私にはそんな楽観的な想像はできませんでした。
男さんとの距離。
私には分かります。

…もう戻れないところまで来てしまった事が。


それから何日かして、男さんに『勉強を教えてほしい』と言われました。
男さんは、私より全然頭がいいはず。
…来るべき時が来た事を感じました。

男「ごめんね、急に。」

みゆき「いいえ、大丈夫ですよ。どこでやりますか?」

男「うーん…教えてもらうとなると声出すから図書館じゃダメだよね。…みゆきさんが良ければ家でもいいかな?」

みゆき「私の家ですか?」

男「うん。」

みゆき「…私としては構わないのですが、つかささんに要らぬ誤解を与えたくないですね…。」

男「あっ今日みゆきさんと勉強する事は言ってあるし、家に行く場合はメールとかするつもりだよ。」

みゆき「それなら平気ですね。では、行きましょうー!」


…お互い、見え透いた演技でした。
でも私たちには、そんな一時の安らぎさえ必要でした。

そして男さんは私に話しました。

男さんの…いいえ、“私の”罪を。

「…男さんにとって、一番大切なものは何か、一番守るべきことは何か、それを考える事が重要なんだと思います。」
…その言葉は自分に言いました。過去の、正しい選択をできなかった自分に。

私が一番大切だったのは、みんなと過ごす時間だったはず。
それを忘れて、私は自分のためだけに皆さんの嫉妬心を煽った。
『高翌良』から男さんや泉さんを守ることも忘れた。
男さんのお父さんを消したのはきっとお祖父様でしょう。
隠していた泉さんが再びクラスメートになったという事実も、もうお祖父様の知るところでしょう。

「…自分の気持ちに正直になって、自分にとって一番大切なものを守らなければいけないんだって。………それは、とても勇気のいる事ですが。」

…男さんなら、もしかしたらまだ何とかできるかもしれません…
それに一縷の願いを託してそう言いました。

『…そのためには、私はどんなことだってします…』
『…自分の命だって…それで元通りの明日が来るなら…』


何日か掛けて、男さんはこなたさん、かがみさんと距離を置くことができた様です。
あとはつかささんだけ。

もし全ての事が解決できたなら、私も本当の事を男さんに言おう…。
私の方が、ずっと軽蔑されるでしょう。
でも…言わなければいけないんです…。
そうすることで私は泉さんや男さんを『高翌良』から守れるかもしれない。

…そんなことを思ってた日、黒井先生が消えました。
…私は…
…無力です…
…ごめんなさい…
…ごめんなさい…
…ごめんなさい…


そして事態は一番想像したくない方向に進みました。

男さんから『きょうつかささんに言う』という旨の話を聞いた、次の日の放課後でした。

男「みゆきさん!!なんだか分からないけど嫌な予感がするんだ!!さっきつかさに会って、話しかけても気付いてないみたいで、学校の方に歩いていったんだ。俺も今学校に向かってる!」

電車の中で私は大声になっていました。
「私も今すぐ向かいます!!!!!」

…私です。
…つかささんの、かがみさんの、泉さんの心をここまで傷つけたのは私です。

私は着ている服が汗でびしょびしょになるのも忘れて鍵を取りに走ったとこ辺りから、記憶がはっきりしません。

気づいたら私は屋上に走り出てかがみさんの前に立っていました。

私の胸は熱く、燃えているみたいでした。

たぶん肺まで達したんでしょう。

息がうまくできません。

…罰です。

これは罰なんです。

最後に私が見たのは、男さんの顔でした。

それを幸せと感じてしまうなんて

だから、罰なんです。

光が消えて、意識が消えるまでのわずかな時間、私は祈りました。

『どうか…男さんと…泉さんだけでも…』
『…もし次があるなら…私は…もっと皆さんの気持ちを…』
『…』
『…』
『…』

あとは闇。
ずっと闇。
意識とか
考えとか
そういうものが及ばない闇を彷徨って
私はたぶん“天国”じゃない所へ行くのでしょう。

…気がつくと私は大きな扉の前に居ました。
扉の上には大きく『知性の間』という文字。

みゆき「ここは……?」

私は混濁した記憶を手繰り寄せて、必死に考えました。

かがみさんが刀を抜いた瞬間。


男さんの顔。
消えていく意識。

…私は…死んだんでしたね…。
……じゃあここは…あの世……?

大きな扉。
そうか、きっとこれはイリグチなんですね。
この扉の向こうに閻魔翌様がいて、私はきっと罪を償わなければならないんですね。
…当然です。私は許されない事をしたんですから…。

そう思った瞬間、扉が開きました。

みゆき「………。」

私は勇気を出して歩き出しました。

…地獄とはどんなとこなんでしょう?
…どんな恐ろしい事をされるんでしょう?
…………………怖いです。

声「恐がらなくてもいいよ?高翌良先輩。」

みゆき「………え?」

私はその声が女の子の声であることに驚きました。
私の中では閻魔翌様は怖い顔をしてもっと貫禄のある男性であると思っていましたから。
『閻魔翌様って女性だったんですね…』

女の子「私は閻魔翌様じゃないよー!」

みゆき「!!」

声に出した訳ではないのに、私の思った事はその女の子に届いていたようです。
その様子に、少なくともその女の子が“人間”ではない事を感じました。

女の子は背が低く、中学生くらい。
ピンクの髪を左右で束ねていました。
そしてなぜかネコの耳の付いたカチューシャをし、ネコのしっぽのアクセサリーを付けていました。

みゆき「あ…あの…。」

女の子「私の事は“ゆーちゃん”て呼んでくれると嬉しいな。」
女の子「ここは高翌良先輩の考えてるとこじゃないよ。」
女の子「でも、高翌良先輩は*んだよ。」
女の子「男お兄ちゃんはここに来るか分からない。確率は1/2。開けてみなければ分からない。」
女の子「この格好は気にしないでいいよ☆」

『ゆーちゃん』と名乗る女の子は私が質問したいことの答えを、私の質問を待たずに一気に答えました。

ゆーちゃん「…で、高翌良先輩は何が聞きたいのかな?」

何もかもお見通しなのです。
『ゆーちゃん』は私の一番聞きたいことだけは答えていませんでした。
私の口から、その質問を聞きたいのでしょう。

みゆき「ゆーちゃんさん…」

ゆーちゃん「なんですかぁ?」

みゆき「私は…してはいけない事を沢山しました…。」

ゆーちゃん「ストップ・ストップー!!ここは教会の懺悔室じゃあないんだよ?」

みゆき「……!」

ゆーちゃん「そういう事はもう聞き飽きたよ。高翌良先輩ももう言い飽きたでしょ?言いたいこと言えばいいんだよ?」

『ゆーちゃん』はにっこり笑いました。
普通“人間”なら、笑顔は他人に癒しを与えます。
でもその笑顔は、癒しどころか、怒りも、憐れみも、悲しみも、喜びも感じられず、ただただ『笑顔』でした。
まるでそれは人間の女の子の形をした無機物と喋っているようでした。

みゆき「……男さんは………男さんは無事なんですか?!!」

ゆーちゃん「だから言ってるじゃないですか。男お兄ちゃんがここに来る確率は1/2なの!それを選ぶのは男お兄ちゃん。だから箱の中にいる私には分からないのっ!」

私には意味の分からない単語がいくつか出ましたが、とにかく私の質問は『ゆーちゃん』を怒らせてしまった様です。

みゆき「ご…ごめんなさい…。」

ゆーちゃん「はぁ…しょうがないなー……じゃあ私が質問してあげるよ。」

みゆき「…?」

ゆーちゃん「高翌良先輩はさぁ…どっちがいい?」

みゆき「……どっち?」

ゆーちゃん「そっ!ここに来た高翌良先輩には選ぶ権利があるよ?」

みゆき「何を…ですか?」

そう言うと『ゆーちゃん』は天井を見上げました。
周囲の壁には何か良く分からない幾何学模様が描かれ、その壁は天井に向かって伸びていますが、天井は高すぎてその限界が私には見えません。

ゆーちゃん「ここは大きな箱なの。…でもね考え方を変えればここが“外”でこの箱の外が“中”なのかもね。」

みゆき「箱…?」

ゆーちゃん「“中”には何があると思う?」

みゆき「……」

ゆーちゃん「高翌良先輩でも分からない?…案外“中”には高翌良先輩の望む『未来』があるかもよ?」

みゆき「私が望む…『未来』?」

私の脳裏にはみなさんの顔が浮かびました。
かがみさんの、つかささんの、こなたさんの、そして男さんの顔が。

ゆーちゃん「望んでみれば?『未来』へ行けるかもよ?『過去』を変えて。」

みゆき「でも…もう遅いです…それに私の罪は…」

ゆーちゃん「だーかーらー!ここは懺悔室じゃないよーー!!!」

ゆーちゃん「分かんないかなー?高翌良先輩の望みがかなう手助けをしてあげようと思ってるんだよー?」

私にはそれが正に悪魔のささやきとなって耳に届きました。

私の望み?
皆さんが無事なこと?
そもそも私が嫉妬に駆られてあんなことをしなかった未来?
かがみさんと、つかささんと、こなたさんとずっと友達でいられる世界?
…それとも…男さんと…?

ゆーちゃん「そうそう!そういう事だよ!」

みゆき「本当に…そんな事が…?」

ゆーちゃん「高翌良先輩は*んだんだよ?親友に胸を切られて。覚えてるでしょ?痛かったこと、苦しかったこと。」

そう言われると胸のあたりが苦しくなったような気さえしました。

ゆーちゃん「もう*んでるんだし、これは『渡りに船』ってやつだよ?ダメでもともと。せっかくだから可能性に賭けてみれば?」

その言葉は、まさにその通り。
もう“終わった”私にとって、それが真実ならなんていう救いなんでしょう。
これは『蜘蛛の糸』かもしれない。
でももしかしたら『悪魔の囁き』かもしれない。
私はそれを望むことが、どんな反作用を生むのか、必死に考えました。
でも答えは出ません。

ゆーちゃん「高翌良先輩が選んだ望みがどんな結末を生み出すかなんて分からないよ?少なくとも人間には。」

その言葉は私に、今目の前にいる女の子の姿をしたそれが“人間”じゃないと語っているように感じました。

みゆき「…代償は」

ゆーちゃん「んー?」

みゆき「…私がそれを望む代償は何なんですか?」

ゆーちゃん「ふふ…やっぱり高翌良先輩は賢い。」

みゆき「…」

ゆーちゃん「勘違いしないでくださいね?私、ちゃんと説明するつもりだったよ?」

みゆき「…はい。」

ゆーちゃん「…記憶。」

みゆき「記憶?」

ゆーちゃん「高翌良先輩が望んで、もしその世界に行けたとしても、今までの事はきっと忘れるよ?…みんなが*しあえばいいとか思ってた事とかは。」

みゆき「…それは…」

ゆーちゃん「そう!高翌良先輩にとってはむしろ好都合なんじゃないですか?高翌良先輩があんなこと思わなければみんなが*し…」

みゆき「ゆーちゃんさん!!!」

ゆーちゃん「…なんですかぁ?」

みゆき「それだけですか…?」

ゆーちゃん「うん、それだけだよ。」

みゆき「…」

ゆーちゃん「じゃあ決まったら早めに言ってねー?…後がつかえてるし。」

みゆき「…望みます。」

ゆーちゃん「何を?」

みゆき「私は…皆さんが傷つかなかった世界に行きたい…!もう一度、やり直したい…!!」

ゆーちゃん「えへへ…。いいよ。チカラを貸してあげる。」

みゆき「……どうすれば…?」

ゆーちゃん「目を閉じて、思い浮かべるの。“そう在りたい自分”を。」

みゆき「“そう在りたい自分”…。」

ゆーちゃん「でもね、選べるのはどっちかだよ?」

みゆき「…?どっちか?」

ゆーちゃん「トモダチとカレシ両方は無理かなー。まあどっち選んでもその世界で努力しなきゃどっちも手には入らないけどね。」

そう言う『ゆーちゃん』の顔はまたあの笑顔でした。
私は分かっていました。
男さんと一緒に歩ける世界に泉さん達は居ない。
泉さんたちと一緒に過ごせる未来には男さんは居ない。
『ゆーちゃん』はその事を言ってるんです。

ゆーちゃん「準備はいい?」

みゆき「はい…。」

私は目を閉じて“そう在りたい自分”を思い浮かべました。

ゆーちゃん「じゃあ箱を開けるよ。」

『ゆーちゃん』
がそう言った瞬間、私の体を何かが掴みました。
そして私の体は徐々に感覚を失っていきました。

感覚が遠のいていく中、最後に思い浮かべた顔は…

(オートセーブしました。重要分岐⑧)


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最終更新:2008年11月14日 21:42