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「な―――に……?」

 え? まって、何を。
 何を、言って。
 柊かがみを何を言った?
 何がどうなって、そうなる?
 冷静に考えよう。
 冷静に、考え、よう。
 冷静に……っ!

 混乱するな。言葉の意味を考えろ。

 今話された話の真意を考えろ。

 何故、わざわざそれを告白したのか考えろ!

 「柊かがみがこなたを刺した犯人」?

 「柊かがみは俺の事が好き」?

 その二つの事実が、関連しているとしたら―――


 ……そして、



 全ての欠片が、不意に繋がった。

『……どうしてよ?』

 なぜあの時、かがみはつかさを妙に疑っていた? ―――それは罪をかぶせようとしていたから。

『あ、はは』

 なぜあの時、かがみは笑ってたんだ? ―――それは計画が崩れて、引けなくなったから。

『あ、おはよ、男』

 なぜあの時、かがみは俺を迎えにきた? ―――好きだったっから。

『……しょうがない。帰るわよ、皆』

 なぜあの時、かがみはすぐに諦めた? ―――知られたくないことがあったから。

 そして、



『―――男はまだ、何にも解ってないんだから』



 ……そう、俺は。
 何もわかっちゃいなかった。
 彼女の気持ちに、気付けなかった。
 こなたが必死に守ろうとしてたことにも。

 ―――ああ、それなら。
 俺の出番なんて、最初っからなかったのかもしれない。

「……そう、か」


 理解、した。
 自分でも驚くくらいに頭が冴えている。


 ……俺はこの数カ月何をしていたのか。
 全てはあの日、こなたが病院で倒れた日に、終わっていたことだったのに。


「お、男……?」


 俺をうかがってくるかがみ。
 ……そうだな、でもとりあえずは話を聞かなければ。
 あの日、かがみはきっとこなたと会って、何かを話したはずだ。
 あの日、病院で、何があったのか。
 何が、終わったのか。
 俺は、聞かなきゃいけない気がする。
 たとえ、そこに何の意味がないとしても。


 ……でもその前に、一つの返事をしなければならない。
 それは精一杯の言葉だったから。
 だから、いくら大事なことがあろうとも、それだけは無下にしちゃいけないコト。

 ……そう、彼女の気持ちに、ちゃんと答えなくてはいけない。


「―――かがみ」

 それは彼女にとっては聞きたくない言葉になるだろう。
 彼女とて、そのことは解っての告白だったのだろう。

 ―――だから何よりも、嘘偽りない返答を。

 俺の本心を。
 裏表ない、真の感情を。
 決して嘘はつかずに、正々堂々答えよう。


「―――っ、はい」


 前には怯える一人の少女。
 この町で最初に触れ合った、憧れさえ抱いた少女。
 ……だけど、この気持ちは恋じゃない。
 俺の好きな人は、別にちゃんといるから。
 優しくて、気が利いて、俺を好きでいてくれる。
 そう、その人は―――



「……お、ねえ、ちゃ、ん……?」



 ―――何故か、かがみの後ろにいた。

 その手に、何か鋭く光るものを持って。

 思えば、何故俺はすぐに全てを理解出来たのか。
 俺はそんな立派な脳みそは持ち合わせてはいない。
 いつもの俺なら、早とちりをして何をしていたか分からなかっただろう。

 ……でも、そうだ。
 それはきっと、『そんなこと』よりもっと重要な、危険なコトが、待っていたから。
 本能の警告。
 あるいは虫の知らせ。
 そしてあるいは―――

「つ……か、さ?」

 ふるえる声がかがみからあがる。今の話はどこを聞かれていても不味い。
 事情を知らなければ、勘違いしか産まない。
 ……つまり、
 この状況は、言うまでもなく危険だった。

 ―――つかさの手が挙がる。
 握られているのは、鋭い刃物。
 表情が見える。その顔は、あの日の屋上のような、不安と狂気に呑まれた顔。
 虚ろで、何物も信じられなくて、……まるで、アノ頃ノ俺ノヨウ―――


 ……そして、その腕は振り下ろされる。
 それは確かに目の前のかがみを狙って―――


「やめろぉぉおお―――!!」


 それだけは駄目だ。

 この二人が傷つけあうのは。

 家族が、傷つけあうなんて。

 絶対に、あっちゃいけない……っ!

「ぁ……」

「ぇ……?」

 ぐい、とかがみの身体を引き寄せる。
 その反動で、自然、俺の体は前にのめって、

 ざくりと、その刃は俺の腹に、突き立った。

「ぐ、う……っ」

 やばい、結構深くに入ったぞ、これ……!
 視線を降ろし、刺さったものを見る。
 ―――なるほど、彫刻刀か。
 今、つかさは美術で使ってるはずだ。
 小さな、たいした威力もない刃物だ。

「……っ、は、つか、さ……っ」

 ……でも、なんだろう。
 めちゃくちゃ痛い……!

「……………………」

「あ……あ、あ……いや、嘘、男ぉ!」

 この夕日に染まる教室で。

 放心して立ち尽くすつかさと、俺にすがって泣くかがみ。

 俺の横腹には授業で使うような彫刻刀が墓標のように突き立っていて、夕日とは違う赤色が広がっている。

 真っ赤な血液は水溜まりのように広がり、俺の服やかがみの服に染みを作っていた。

 ……頭は、意外と冷静だった。

 血液が抜けて、頭が冴えてきてるのかもしれない。

 そして、今までの、つさかやかがみ、こなた達との思い出を、走馬灯のように思い出して―――


「つかさ……あんた」


 怒気に塗れた、かがみの声を聞いた。

 ゆらりと、かがみは立ち上がる。
 その手には―――ナイフ。

「なに……してんのよ」

 その眼は怒りと、混乱と、狂気に淀んでいる。

「ぁ……わた、私……男、くん……お、ねえ……?」

 そして、その視線を向けられるつかさはまだ、放心状態のさなかにあった。

「ぐ、づ……やめろ、かがみ! 俺は、俺は大丈夫だから!」

「つかさ……あんた、男を……男を……っ」

 かがみは興奮しているのか、こちらの声が聞こえていない。
 まずい。
 俺は今、ろくに動けない状況だ。
 こんな状態じゃ、かがみを止められない。
 かがみは、そのまま少しずつ、つかさに歩いて、近づいていく。

 俺は―――




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最終更新:2009年09月05日 07:43