042-712 歌姫、舞う!! 第2話「すれ違い」 @名無し



「実はな、ライ……」
ゼロが言いにくそうに僕を社長室に呼び、そう言いかける。
だが、その言葉は続かない。
それが、ますます僕を不安にさせている。
「どうせなら、はっきり言ってください」
ついに、我慢できなくなって、僕はそう言ってしまっていた。
「わかった。言おう……。お前に出演依頼が来ている」
その言葉の意味がわからず、僕は呆気にとられてしまった。
なぜ、僕なんだ?!
その思いが顔に出ていたのだろう。
ゼロは、僕に1冊の写真雑誌を投げてよこす。
「172ページ目だ……」
言われるままそのページを開き、僕は節句した。
そこには……。


《OPスタート OP曲「彼と私の世界は……」TVサイズバージョン 歌/紅月カレン》


歌姫、舞う!! 第2話「すれ違い」


《スポンサー紹介 メインスポンサー/万歳なみこー サブスポンサー/べくたー 》

「カレンの宣伝になればと思って許可したのだがな……。こっちの思惑と別の方向に走ってしまったのだ」
そこには、大きなタイトルで「イケメン・マネージャー!!この正体はっ……」と書かれており、いろいろな僕の情報が面白おかしく書かれている。
それに隠し撮りされた写真が何枚も載っており、まるでスター扱いのようだ。
そういや、今週に入ってからというものよく見られている感じはしてたなぁ……。
別に気にしてなかったけど、もしかして……原因、これ?
なんか、ぐったりしてしまう。
つまり、これからますます見られることになるわけだ。
勘弁してくれよ。
「おいおい、そんな顔をするなよ、ライ」
「だって……、これじゃあ、外もろくに出れないじゃないですか……。それに出演依頼って……勘弁してください」
その言葉に「ふむー……」と言って黙り込むゼロ。
だが、決心したのだろう。
おもむろに口を開いた。
「確かに、お前にとってはマイナスかもしれん。だがな……」
そこで言葉を切る。
しばしの沈黙。
それがすごく長く感じられる。
「カレンにとってはプラスに働く……」
その言葉に、驚いて聞き返す。
「どういうことですかっ……」
「実はな、その番組に出てくれたら、ベストヒットロードで30分のカレンの特集を組むという条件がつけられているのだよ」
ベストヒットロード。
今、日本で一番視聴率の高い歌番組で、最低でも20%、高いときには40%近くになる2時間のモンスター番組だ。
そこで、30分の特集を組む……。
その意味は、とても大きいだろう。
この番組は、神聖ブリタニア帝国がメインになっており、我々芸能プロダクション黒の騎士団有限会社では、3分でさえも出演出来る番組ではない。
歌謡ランキングで、30秒の曲紹介がせいぜいなのだ。
そこで……30分の、しかも……特集……。
破格の条件も条件……。
そこで考える。
なぜだ……。
なぜ、こんな条件を……。
「裏情報なのだが、どうやらブリタニアのユーフェミアがお前を気に入ったという話がある」
「へ?! でも……直接会ったことはないと思うんだけど……」
そう言いかけて、思い出す。
まさか、あの時の……。
「ふむー……。思いつくことがあったようだな……。で、どうするよ、ライ……」
そのゼロの言葉に、僕はすぐには答えられなかった。

「どういうことよっ!!」
カレンが、ゼロに噛み付くように文句を言っていた。
「何度も言っているだろう。今日から1週間、お前のマネージャーは井上にやってもらう」
「だから、私が聞きたいことは、そういうことじゃなくてっ……」
二人の言い合いに、横で苦笑してみていることしか出来ない井上。
彼女にしてみれば、別にカレンとは姉妹当然のような付き合いもあり問題はない。
だが、カレンの言い分もわかる。
理由もなく恋人と離されてしまったからだ。
そして、1週間は連絡すらするなとまで言われている。
実際、今日からライは泊り込みらしい。
「1週間だけだ。我慢しろっ」
「我慢とかそういう事じゃないっ。納得できないのよっ」
話は完全に平行線になっていた。
理由を言いたくないゼロ。
理由を聞かないと納得できないカレン。
これではどうしようもない。
「ふぅ~、勘弁してよっ……」
溜息を吐いた後、井上はそう心の中で言ったのだった
僕が出演依頼を受けて、当日現場に到着すると、自販機のときの少女、ユーフェミアがニコニコ顔で僕を待っていた。
「いらっしゃいまし、ライさんっ」
その微笑みは、柔らかなやさしい感じで、まさに美少女、アイドルといった感じを受ける。
さすが、ブリタニアの中でもNo.1といわれる人だ。
あの自販機の時には感じられなかったが、人を惹きつける魅力のオーラというものが今はとても感じられる。
事実、僕の心はかなりドキドキもので、興奮しているというか、高鳴っているといった感じになってしまっていた。
ごめん、カレン……。
心の中でカレンに謝る。
でも、男なら、こんなにならないほうがおかしいと思うんだとか言い訳を付け加えておく。
「えーっと……、どうも……。で、僕は何をすれば……」
しどろもどろになりながら、なんとかそう言うのが精一杯だった。
まさか、いきなりこんなになるとは……。
ゼロから「ユーフェミアがお前を気に入った」という一言なかったらどうなっていたことか。
「あら、ライさんって仕事熱心な方なのですね。くすくすくす……」
「いやぁ、そういうわけでは……」
真っ赤になって照れて頭をかいてしまう僕。
多分、舞い上がってしまっているんだろう。
だが、脳裏に怒ったカレンの顔が浮かび、その気分もすぐに冷めてしまう。
あははは……。
心の中で苦笑する。
僕は、やっぱりカレンが好きなんだと実感してしまう。
「でも、仕事できたんですから……」
そう言うと、ユーフェミアは少し残念そうな顔をしたものの、僕を案内しつつどんな内容かを説明を始めた。


《アイキャッチ ユーフェミアバージョン》

《万歳なみこー PS●ゲーム「歌姫舞う!」CM》
《べくたー OP、EDシングルCD CM》

《アイキャッチ カレンバージョン》



「もうっ……。ゼロのばかっ。なんなのよっ」
怒り心頭のカレンがぷりぷり文句を言っている。
その様子を苦笑しつつ、なだめる井上。
「でも、いいニュースがあるわよ」
「え?! いいニュース?!」
「そうなのよぉ~、カレン、おめでとーっ」
きょとんとしたカレンを置き去りにして、喜ぶ井上。
案外、井上の方が興奮しているのかもしれない。
「これで貴方の人気は、もっとブレイクするわよぉ~っ」
「な、なによぉ~」
「うふふふ、ベストヒットロードにゲスト出演が決定しました。それも特集が組まれるの」
その言葉の意味が理解できず、きょとんとしたままのカレン。
いや、実感できないという感じなのかもしれない。
「えーっと……、ベストヒットロードって、あの歌番組の?」
「そうそう」
「視聴率20%以下になったことのない、モンスター番組の?」
「うんうん」
「それにゲスト出演?!」
「そうよぉ~」
「ほ、本当に?」
「本当よぉ~」
カレンは、井上に抱きついた。
そして、泣き出す。
歌手としてデビューし、草の根活動みたいな事をやってきて少しずつがんばってきているものの、大型タイアップもなくてかなり苦しい状態のカレンにしてみれば、それはまさに夢のような出来ごとだ。
確かにカレンの歌はうまいし、曲も悪くない。
だが、聞いてもらえなければ、なかなか難しいのがこの世界。
それを実感することが多かった矢先にそのチャンスがやってきたのだ。
喜びの涙が出ても不思議ではないだろう。
「やったーっ。やったよーっ……」
「よしよし、がんばったね……」
やさしく背中をなでる井上。
彼女もカレンの苦労を知っているだけにその喜びがわかるのだろう。
だが、カレンの涙が止まる。
そうだ。
ライにも知らせなきゃ……。
そうなのだ。
こんな嬉しいことを、今まで一緒にがんばってきた彼に知らせなきゃいけない。
そう思ったのか、井上から離れると笑いながら言った。
「ライにも……言わなきゃ……。だって……彼と二人でがんばってきたんだもん」
そんなカレンの様子に井上もうなづく。
彼女にしてみれば、カレンが妹のようなものなら、ライは弟のようなものである。
二人が喜びを分かち合おうと考えることを嬉しく思ってしまう。
「ふふふ、相変わらず仲がいいわね、二人とも……」
「だってぇ……、ライとがんばってきたんだもん。だから……」
「わかってるわよ。ほら、連絡入れなさいな」
そう言って携帯を渡す井上。
それを受け取り、ライに電話をかけるカレン。
だが、電話先には、無感情の留守番メッセージだけが聞こえるだけだった。


「えーっと……、僕、こういう事やったことないんだけど……」
思わず尻込みする。
だが、逃げ出すことは出来ない。
はぁ……。
溜息を吐いて、諦めるしかなかった。
今、僕は水着。
それも身体にぴったりのビキニタイプを穿いて、プールサイドに立っている。
その周りには、撮影スタッフが何人もいて、準備していた。
「はいっ、もっとにこやかにーっ」
カメラマンの声が響く。
それにあわせて、微笑んでみるけれど、役者でもモデルでもない僕にとってそれは無理な注文だった。
そんな僕を見かねたのか、ユーフェミアが近づく。
ちなみに彼女も水着姿だ。
「もう~、表情硬いですよ、ライさんっ」
少し怒ったような表情で、僕の顔を覗き込んでくる。
あ…、カレンとは違う香りだ。
ふとそんなことを思っていたら、彼女がにこりと笑う。
「え?!」
その瞬間だった。
「えいっ……」
ユーフェミアが僕に抱きついた。
胸が押し付けられる。
それに驚いてよろけてしまい、二人ともプールの中へ……。
どぼーーーんっ。
派手な水音が響く。
慌てて水から顔を出すと、笑っているユーフェミアの顔。
それにつられ、僕も笑い出していた。
「はいっ。おっけーです。次いきますっ」
「へ?!」
僕は慌てて、水からあがるとカメラマンの方に近づいた。
それを何か勘違いしたのだろう。
「あ、きちんと撮れたかの確認ですね。どうぞ……」
そう言ってモニターに映し出されたのは、抱き合ってプールに落ちる僕らとその後に笑いあう姿だった。

「も~っ、ライに連絡つかないよぉ~っ」
口から愚痴が漏れる。
だが、それも仕方ないだろう。
なぜなら、あれから3日が過ぎていた。
すでに何十回も電話したものの、繋がらないばかりか、連絡すらない。
カレンにとってみれば、ライが傍にいるのが普通なのだ。
ずーっと一緒だった。
それが今、まったく連絡が取れない。
そして、理由を知っているゼロは何も言ってくれない。
イライラが積もっていくばかり。
あーんっ。
もう……。
ライのばかぁっ。
連絡ぐらいしなさいよぉ~っ。
それに何も教えてくれないゼロのあほーっ。
本当に、もう……。
気分転換に、歌謡曲ランキングでも見ようかしら……。
そう思って、PCの電源を入れる。
そして、いつものhpを開いた瞬間、ある記事が目に入った。
そこには、数枚の写真と簡単な記事があった。

――ブリタニアのアイドル、ユーフェミア様、只今写真集撮影中!!――
今回の写真集は、なんと、あのイケメンマネージャーとして人気NO.1のライと共演。
撮影現場を覗いた記者によると実に熱々ぶりだったとか……。
今回は、その時に撮影された写真を何点か公開~♪

そして、プールの中で笑いあう二人や微笑ましく談話する二人の写真等があった。

「う……嘘……」
それだけを言うのが精一杯。
それ以上、言葉が出ない。
ただ、そこに映し出される写真に目は釘付けだが、それを否定する気持ちだけがカレンの心を支配していた。
だが……、いくらそう思ってみても、そこに映し出される現実は消え去ることはなかった。

つ・づ・く


《EDスタート ED曲「貴方が好き好き~、大好きなの」TVサイズバージョン 歌/ユーフェミア・リ・ブリタニア》


次回予告
「……ライのばかっ………」
「あ、あのぉ……、カレン。これには……」
「……ばかっ、ばかっ……はかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……」
「だから……、これは……」
「次回 歌姫、舞う!!第3話『思い』……」
「頼む……話を……」
「…………」
逃げ出すカレン。
(音声、画面フェードアウト……)


最終更新:2009年09月17日 21:55
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