ドアが激しく開かれる。
来たか……。思ったより早かったな。
ゼロはそう思いつつ、入ってきたカレンの方を向いた。
その瞬間、プリントされた紙がディスクに手と一緒に叩きつけられた。
「これはどういうことなんですかっ」
その語尾は怒りに震えている。
その紙には、見つけた記事がプリントされていた。
「ふむ……。そういうことだが……」
そのゼロの言葉に、カレンの怒りが爆発する。
「何考えてんのよっ、あんたはっ!!」
怒りに任せ、ゼロの胸元を締め上げる。
今までのカレンなら絶対にしないことだろう。
ゼロは、絶対の尊敬すべき人物であり、彼にしたがっていればいいと考えていたからだ。
だが、今のカレンは違う。
そう、カレンは変わってしまった。
ライという愛する人を見つけてからというもの。
そして、彼を失うことを恐れ、彼の為なら何でもするだろう。
それは、ゼロにとって少し寂しいことだった。
だが、これで……。
ゼロは、仮面の中でニヤリと笑った。
《OPスタート OP曲「彼と私の世界は……」TVサイズバージョン 歌/紅月カレン》
歌姫、舞う!! 第3話「思い」
《スポンサー紹介 メインスポンサー/万歳なみこー サブスポンサー/べくたー 》
「痛いじゃないか、カレン。まずは放して欲しいものだ。これでは、言い訳も出来ない」
ぬけぬけしく言うゼロの言葉に、ますますカレンの怒りが燃え上がる。
私の大切な人を……よくも……。
だが、その怒りを抑え、何とか手を放す。
「ふう~……。助かった……」
ぎろりと怒りの炎に燃えるカレンの目がゼロを睨みつける。
それにも、怯えるどころか、楽しむかのようにゼロはしゃべりだした。
「先に言っておくが、今回のことは、私は何も強要もしていないし、私が考えたわけでもない。それだけは、絶対だ」
だが、その言葉を鵜呑みに出来るほどの余力は今のカレンにはない。
「じゃあ、どういうことなのよ。説明してよ」
その剣幕を受け流すかのように、ゼロは話し出す。
「今回の件は、ブリタニアかにり提案なのだ。そして、ライは応じた。ただ、それだけなのだよ」
「信じられないわ」
ばっさりと切り捨てるカレンの言葉に、苦笑するゼロ。
だが、すぐに言葉を続けた。
「そういえば、今度、ベストヒットロードに出ることが決まったな。何でだと思うかね」
まるでからかう様な口調。
だが、その方が効果的だったのだろう。
怒りに燃え上がるカレンの頭の中で、点と点が繋がっていく。
「まさか……」
「そう、そのまさかだよ。君のベストヒットロード出演を条件に提案されたのだよ、今回のことは……」
その言葉に、カレンの膝から力が抜け、ガクガクと身体が振るえ、その場に力なく座り込む。
「そんな……。そんなことって………」
そんなカレンを見下ろして、言葉を続けるゼロ。
「君と一緒にいたからこそ、ライはこのチャンスを逃したくなかったのだと思う」
ゼロの諭すような言葉。
だが、それはカレンにとって受け入れられない言葉だった。
「じゃあ、出ないっ。ベストヒットロードなんて、もう出ないっ。だから……、だから……ライを呼び戻してよぉ……」
カレンの顔がくしゃくしゃに歪み、目から涙があふれ始める。
怒りが一気に心細さと悲しみに変わっていく。
そして、気が付く。
彼がいつもカレンを支えていたことを……。
そのやさしい思いにいつも包まれていたことを。
だから、言葉が……。
出演を拒絶する言葉が、無意識のうちに漏れる。
だが、それは間違いなく彼女の本音だった。
だが、それは一喝された。
ゼロの言葉で……。
「馬鹿か、貴様はっ!!!」
その言葉に、悲しみと心細さに溺れかけていたカレンの心が我に返る。
「何の為に、ライはやりたくもないことをやっていると思っているんだっ。いい加減にしろっ。ライの努力を無駄にするつもりかっ!!!!」
次々と言葉の刃が、弱いカレンの心に突き刺さる。
だが、そうなのだ。
ゼロの言葉。それは正論。
なのに……、カレンにはそれがとても辛い。
愛とは、強さであり、そして、弱さなのだ。
今、カレンの心を支配しているのは、弱さ。
そして、ゼロの言葉は、強さを求めている言葉なのだ。
「でも……」
言葉に詰まるカレン。
彼女にしてみれば、正論など関係ない。
ただ、彼が傍にいて欲しいだけなのだ。
しばしの沈黙が部屋を支配する。
ただ、嗚咽を繰りかえすカレンの声だけが響く居心地の悪い時間。
そして、最初に折れたのはゼロだった。
「はぁ……。ライの言うとおりだな……」
その言葉にカレンの涙が止まる。
「え?!」
「ほらっ……。ライからの手紙だっ」
机の中から出された封筒をカレンに渡すゼロ。
それを奪うような勢いで受け取り、中の手紙を開いて貪るように読むカレン。
泣き顔だったカレンの顔が、ほっとしたものに変わっていく。
それを溜息交じりで見るゼロの心境は複雑だった。
「でだ。落ち着いたな……」
「……はい。済みませんでした」
「ふう……。わかればよろしい。ただ、今の気持ちを忘れるな。それが今回の肝だからな……」
ゼロの言葉にきょとんとするカレン。
それはそうだろう。
意味がわからない。
「まぁ、待て。今から説明する」
ゼロはそういうと1枚の紙を渡す。
そこには、歌の歌詞らしきものが書き込まれていた。
「連中がきちんと約束を守るとは限らんからな。その曲で一波乱起こすぞ。以前のお前なら無理だが、今のお前ならその曲は十分歌えるだろう」
ゼロはそう言い切る。
そして、楽しそうに笑い出した。
「ふふふはぁははははははははははははははっ……。シャナイゼルめ、お前の思ったとおりに進むと思うなよっ」
《アイキャッチ カレンバージョン》
《万歳 ブルーレイソフト「歌姫舞う!」1巻 予約CM》
予約特典----初回限定版 カレン等身大抱き枕
全巻購入特典----ライ抱き枕
《べくたー OP、EDシングルCD + オリジナルサウンドトラック CM》
3点を集めて、劇中に出てきたユーフェミアの写真集をゲットしようキャンペーン開催
《アイキャッチ ユーフェミアバージョン》
「どうですか、ライさんっ」
「すごいですね……。ユーフェミアさま」
そう聞かれ、僕は笑って誤魔化すしかなかった。
もちろん、味はまったくわからないほど、緊張していた。
そりゃそうだろう。
ずらりと並ぶ面子を知っていれば、言葉も選ぶし、緊張もする。
なぜなら、夕食を招待されて行ってみたら……。
「ふふふふ、君がライ君だね。実際に会うのを楽しみにしていたんだよ。今夜は楽しんでいってほしい」
やさしそうな2枚目の男性が、呆然としている僕にそう話しかけてくる。
ブリタニアのシャナイゼル福社長だ。
「あ、ありがとうございます。でも、僕なんかこんなところにいてもいいのでしょうか……」
そんな僕にシュナイゼルは苦笑する。
「なぁに、今夜の君は主催者のパートナーだからね。いてもらわなくては困るよ」
そうなのだ。
今日は……ユーフェミアの誕生日であり、誕生会に僕は呼ばれたのだった。
そして、来てみたら……ずらりと並ぶブリタニアの関係者。
あ、あそこに見えるは、世界的有名なコミックバンド「純潔派」のヴォーカリストのオレンジこと……。
えーと……名前なんだっけ……。
まぁいいや。
うわー……。
伝説のロックバンド「ラウンドオブナイツ」のメンバーまでいるぞ……。
すごすぎ……。
本当にすごすぎる豪華なメンバーばかり……。
それに、ユーフェミアの身内の人も多く来ている。
姉のコーネリアや社長のオデッセウス……。
これって、本当に僕はいていいのかよ。
困惑している僕をシュナイゼルは楽しそうに見ていたが、すぐに秘書のカノンに呼ばれ、「では、失礼するよ。楽しんでいって欲しい」という言葉を残して別の人の方に行ってしまった。
で、ユーフェミアは、祝いを述べる人々と楽しそうにおしゃべりをしている。
ふう……。
困ったよなぁ。
帰るに帰れず、仕方なく壁際でぼんやりと見ていると、「貴様がライか……」と声をかけられる。
その声には、とてつもない威圧感と僕を吟味するものがあった。
「え?!」
慌ててその声のほうを向くと、白髪の大男が立っていた。
その圧倒的な威圧感と存在感。
そして、僕を値踏みする視線。
そう、この男こそ、ブリタニアの会長であり、世界の芸能界の三分の一を支配するブリタニアの王 シャルル・ジ・ブリタニア。
ぎろりっ……。
その視線の前に、僕は威圧され身動きが取れない。
これが……王の風格というものなのかもしれない。
「ふむ……」
しばらく僕を見た後、シャルルは豪快に笑いだす。
「ふはははははははははははっ。気に入ったぞ、ライとやらっ。ユーフェミアのやつは、男を見る目はしっかりしているようだな」
その言葉を残し、シャルルは僕の傍から離れていった。
その瞬間、緊張が解ける。
ふう……。
生きた心地がしなかった。
それがシャルルと始めて会ったライの感想だった。
「よしっ、いい感じだっ」
ゼロが歌い終わったカレンに言う。
「だがまだだっ、カレン。今のお前なら、その場にいる全員の心を虜にするほどのものが出来るはずだっ」
そう、ここは、黒の騎士団のスタジオ。
そこでは、ライの手紙を読み、まるで別人のような決心をしたカレンが歌の特訓をしていた。
2日後の番組生放送出演を前にして……。
つまり、出演に新曲披露を行い、よりインパクトを強くする。
それが、ゼロとライの作戦であった。
その為に長年温存していた歌の封印を解除することを決心したのだ。
今のカレンなら、歌えると確信して……。
だが、そんな二人に茶々を入れる人物がいた。
演奏をつき合わされている玉城だ。
「おい、親友よ。これきちんとこなしたら、約束どおり役職と出番増やしてくれるんだろうな……」
その言葉にめんどくさそうにゼロが答える。
「わかっているとも。玉城、だから心配しないで手伝ってくれないかっ」
「よしっ。任しとけっ。このゼロの親友を信じろって」
そう言うと、ころっと態度を変えてニコニコとしている。
ふー……。簡単に騙される小物の典型的なタイプだな。
そんなことをゼロが思っていることを知らずに……。
「シュナイゼル様、これが例の報告書や書類関係でございます」
秘書のカノンが書類の束を差し出す。
それに目を通すシュナイゼル。
彼らの姿は、パーティ会場から少し離れた一室にあった。
「ふー、これでいいか……」
最初は、ここまでやるつもりはなかったが、ライと直接会って決心した。
あの男は、有能だ。
わが駒として、ぜひ欲しい。
そう思った男だった。
「番組の特番放送の映像編集のほうはどうかね」
「はい。無事滞りなく……」
「露骨に変なものにはしないように」
「わかっております」
カノンが恭しく頭を下げる。
これで手は打った。
後は……。
すべては、ベストヒットロードの放送終了後にはっきりすることになる。
つ・づ・く
《EDスタート ED曲「貴方が好き好き~、大好きなの」TVサイズバージョン 歌/ユーフェミア・リ・ブリタニア》
次回予告
「ついにベストヒットロードの放送の当日ね」
「そうだね。がんばって、カレン……」
「ところが、その日………」
「えーと……どうしたんだいっ、カレンっ」
「次回 歌姫、舞う!!第4話『波乱万丈な一日の始まり』にご期待くださいっ」
「どうなるんだっ……」
「えーっと……、ライは見てるだけでいいから……」
「そりゃないよぉーーっ、カレンっ」
(音声、画面フェードアウト……)
最終更新:2009年10月14日 22:32