最近、僕は考えるようになった。
言い様にこき使われているのではないのだろうかと……。
今日もその1日のほとんどをナナリーと咲世子さんの用事で使いきり、ぐったりと疲れた身体をベッドの上に投げ出した。
そうだよな……。
何か間違っている気がする。
僕はもっと別の一日のすごし方があるはずなんだ。
よしっ。
明日、きちんと言おう。
そうだ。そうしょう……。
ライはそう決心し、眠りの中へ沈み込んでいった。
そして、翌日の朝。
「あ、あのさ、ナナリー……」
そう言いかけたものの言葉が続かない。
そうなのだ。
すっかりナナリーの魔性の可愛さの虜になってしまったライは、あの日以来、彼女に本能的に逆らえなくなっていた。
そんなライの心の迷いに関係なく、ナナリーが微笑む。
「どうかなさったのですか?ライさんっ」
その心まで蕩かせる様な可愛い声と魔的な可愛さ倍増の微笑みの前に、ライの昨日の決心はあっという間に吹き飛んでいた。
「い、いや、なんでもないよ、ナナリー。今日は、用事はないのかなって……」
そんな事を言ってしまう。
その言葉にくすりと笑い、ナナリーが囁く。
「今日は、ずっと私と一緒にいてくださいね、ライさん」
その甘い誘いの言葉に、僕は即答する。
「ああ、今日はずっと一緒だよ、ナナリー」
すーっと跪くと、ナナリーの右手を持って、手の甲にキスをする。
今に思えば、なせそんな事をしたのか、ライ自身もわからない。
ただ、その雰囲気に飲まれてしまったというべきなのかもしれない。
「きゃっ」
その突然のライの行為に、顔を真っ赤にして可愛い悲鳴を上げるナナリー。
「君のためなら、何でもするよ……。君は僕のお姫様だ」
自己陶酔してしまったかのような台詞。
まるで自分じゃないじゃない感覚。
そう。プログラムされていることを実行している感じさえしてしまう。
でも、悪い気はしない。
「うれしいですわ。ライさんっ。じゃあ、ライさんは、私の騎士さまですね」
その言葉に、ナナリーは頬を朱に染めて宣言する。
「ありがたき幸せ。僕は、ナナリー姫のため、身も心も捧げます」
その宣言に、ライも答える。
その時だ。
ナナリーの口がほんの一瞬だがくすりと微笑を浮かべた。
だが、ライは気が付かない。
それほど微妙で、ほんの一瞬だったのだ。
だが、ライにとって気が付かなかった方がいいのかもしれない。
それは悪魔の微笑でもあったのだから……。
こうしてライは、自ら墓穴を掘ってしまった。
二度と這い上がれないほどの穴を……。
その頃の咲世子さん。
場所は、ライの自室。
彼女は、ベッドに隠し付けられていた機械を回収していた。
その機械には、大きな文字で「睡眠学習装置」と書かれており、それにセットされたカセットテープには「好き好きナナリー、咲世子特別編集版」とラベルが書き込まれていた。
こうして、まず1つ、ナナリーのささやかな、本当にささやかな願いが叶えられた。
だが、ナナリーのささやかな願いが、コレだけで終わるはずもなく、その願いの波はより巨大な波を引き起こし、周りの人間を巻き込んでいく。
それは……、ナナリーだから。
そう。
かわいい美少女の願いは、何事においても強力なのだ。
ちゃんちゃん~♪
最終更新:2009年12月22日 21:14