044-027 闘う理由 @穴熊



彼女が。
優しかった彼女が。
美しかった彼女が。
ともに歩むはずだった彼女が。
優しい世界を創るはずだった彼女が。

彼女が死んだ。

だから、俺は!

トウキョウ租界は戦場とかしていた。騎士団の策によって外延部がパージされ、内側にも多くの騎士団員がなだれ込みブリタニア軍と銃火を交えている。
租界到着直後眼下に三機のKMFを見つけ急降下する。本当は早くヤツを探したかったが、この租界にはまだ友達がいる、無視は出来ない。
突然目の前に現れた俺に驚いたらしく敵機の反応が遅れる。先頭に立っていた隊長機と思わしき機体に照準を合わせ引き金を引こうとしたとき、横から銃撃が来る。
何とかヴレイズルミナスを展開して防いだがヴァリスをやられた。舌打ちして銃撃のあったほうを向くと蒼い機体がいる。
なにか通信のやり取りがあったようで、最初に狙った三機の無頼がこの区域を離脱する。俺はそれを追おうとしたが、蒼い機体に阻まれる。
邪魔をする敵機にMVSで切りかかるが、敵はそれを右手に持った刀で受ける。
『少し話がしたい』
オープンチャンネルでいきなり語りかけられる。この声を俺は知っている。学園でともに勉学に励んだ銀髪の彼。
「ラ、イ?」
そんなはずはない、彼が騎士団にいる分けない。彼までヤツの手先になっているなんて、そんなことある分けない。
必死に否定しようとするが、追い討ちをかけるように再び語りかけられる。
『安心してくれ、アッシュフォードに危害は加えない。だから僕の話を聞いてくれ』
間違いない。ライだ、ヤツはライまで利用して!
蒼い機体の正体が友だと分かった瞬間、今まで体の内で燃えていたものがよりいっそう大きくなる。
いや、落ち着け。彼は話をしたがっている、まだ説得の余地がある。
「ライ、すぐにその機体を捨ててアッシュフォードに戻るんだ。今なら騎士団との関係を隠せる」
頼む、君まで俺を裏切らないでくれ。そんな切なる願いも彼には届かなかった。
『それは出来ない。君こそこれ以上闘うな、特区の惨状を見ただろう?もう、夢は終わったんだ』
夢はおわった?違う、違うよ、壊されたんだ、ヤツに!
「だからって!こんな戦いなんの意味がある!」
溢れる激情のままに、彼に詰め寄る。
「君たちは騙されてるんだ!全ての元凶はゼロなんだ!」
届くと思っていなかったその言葉にライの動きが鈍る。
『…それは、どういう意味だ?』
距離をとりながら、問われる。まさか、彼はまだヤツの力に冒されていない?
それは俺にとって救いにもなる希望だった。そうだ、彼に全てを打ち明け共にゼロを討てば夢は、彼女の望んだ優しい世界は取り戻せる。
「信じられないかもしれないが聞いてくれ。ゼロは―――…」
俺は“あの人”から聞かされた全てを彼に話した。正直自分でも半信半疑な話だったが、彼はその話を真剣に聞いてくれた。
「…―――これが、全ての真実だ。だからライ、君も俺と一緒にゼロを討とう」
機体の右手を差し出しながら願う、手をとってくれ。君は俺とともに歩いてくれ。
しかし、彼の答えは“左手”だった。
彼に拒絶されたことに呆然として何も行動できない。そのまま左手から流れる輻射波動が右腕を伝わって本体に達しようとしたとき、俺の中のあの力がささやく『生きろ』と―――

―――次に気づいたときには右腕を失って空中から彼を見下ろしていた。遅れて彼に拒絶されたことを思い出し通信を入れる。
「なぜだ!君もあの力に冒されているというのか!」
言いながら残った左手で切りかかる。
『君の話は信じよう。今までの辻褄も合う』
「ならなんで!」
あいつの為の戦いなんか続けるんだ!そう続けようとしたがそれは彼の言葉に遮られる。
『騎士団には仲間がいる!』
言葉と共に鋭い剣戟が迫る。片腕を失った今、それを捌くこともままならず後退を余儀なくされる。
『生きろと言ってくれた大切な人がいる!』
後ろにさがる俺に更に彼の言葉と刃が襲い掛かる。
『だから僕は!皆の願いのために闘う!』
居合い抜きのような切り上げにMVSが弾かれる。がら空きになった胴体に左腕が迫る。
先ほど右腕を破壊されたことが頭をよぎり、飛翔しようとして自分が架橋下に誘導されていたことに気づく。
勢いそのままに背中から道路裏に突っ込み機体が激しく揺れる。警告表示の浮かぶモニターに映る彼の機体が突きの体勢を取っている。
身をよじりその突きをかわすが、左胸から頭部にかけて刃が走る。
地面に落ちると先ほどの突きでファクトスフィアを失い何も見えない左側から衝撃が走る。おそらく蹴りを食らったんだろう。
「くそ!」
悪態をつきながら立ち上がろうとするが、彼に左腕を踏みつけられ、刃をコックピットの前に突きつけられる。
『これはもうゼロだけの戦いじゃない、全日本人の望みなんだ』
彼があと少しでけ刃を進めれば俺は死ぬだろう。だけどヤツに会ってすらいないのに立ち止まるわけにはいかない!
フロートの浮力を利用して彼を押しのけ立ち上がる。
「ライ、すまない」
短く謝る。彼を倒すいや、殺さなくてはヤツのところまでたどり着けない。
ランドスピナーとフロートを両方使った突撃。今までも他のKMFとは段違いだったGが一層強くなる。
彼もまた駆ける。
「おぉぉぉーーー!」
『はぁぁぁーーー!』
叫びと共に二機が激突しようとした瞬間、あの合成音声が響く。
『そこまでだ!両者とも引け!』
その声に俺もライもとっさに後方に飛び下がる。
声の元を探せば、ヤツ“ゼロ”の乗るガウェインが上空からこちらを見下ろしている。
『貴様との決着は私がつけよう。ついて来い』
傲慢に命令し背を向けてしまう。その後姿を追おうとしたが、そこでライが声を上げる。
『待ってくれ!彼との決着なら僕が!』
『お前にそいつが殺せるのか、“友達”なんだろ?』
ライには出来ない。まるでそう言うようにゼロは振り向かずに飛んでいってしまう。
なおも言葉を続けるライに申し訳ないと思いつつも俺も飛び立つ。
ライが俺にも叫ぶが、振り返らない。ゼロと決着がつけられるのなら彼には用はない。

ゼロの言葉を信じた俺は馬鹿だ!
導かれ到着したのはアッシュフォード学園、しかもヤツはいまクラブハウスに右手のハーケンを向けている。
「卑怯だぞ!俺と決着をつけるんじゃなかったのか!」
『人質も立派な兵法だよ。さあ、決着をつけようか!』
言葉が終わる前に両肩からハドロン砲が発射される。
それを地面に降下してかわし、MVSで切りかかる。
「これでぇーー!」
刃がガウェインに届く前に突如機体が停止する。コックピットのライトも消え、全てのシステムがダウンする。
以前式根島で仕掛けられたものと同じ罠。
『あとはお前たちに任せたぞ』
動かない分かりつつ操縦幹をガチャガチャと動かしているとそういってゼロが再び飛び立とうとしている。
「待て!どこに行く!」
『私はお前と遊んでいる場合じゃないんだよ』
それきり飛び立ってしまいすぐに見えなくなる。
周りでは騎士団員が様々な機材を持ち出し俺をここから出そうとしている。
ゼロを目の前にして何も出来なかった。いや、それ以前にヤツがまともに戦闘に応じると思ったのが間違いだった。
くそ!俺は何をやっていいるんだ!友達でありながら覚悟を決めて挑んできたライに背を向けてまで来たというのにこの様か!
自己嫌悪に陥っていた俺の耳に聞きなれた生徒会の仲間の声が届いた。
まさかと思い顔を上げると、会長、リヴァル、シャーリーの三人が団員に銃を向けられている。
「ゼロと話をさせて!ゼロが私たちを傷つけるわけないんだから!」
シャーリーが二人を庇いながら叫ぶ。なぜそんなことが彼女にわかる?まさか彼女もゼロの正体に気づいているのか!
「ゼロのことなら親友の俺が一番よくわかってるよ!こういうとき容赦しないってな!」
「やめろ!」
彼女たちを傷つける分けにはいかないと思いとっさにコックピットから身を乗り出す。
「けっ、ブリキのためなら出てくるってかよ。だけど機体さえ手に入ればお前はいらねんだよ!」
そう言いながら一人の団員が銃の引き金に指をかける。
「うおぉ!」
引き金が引かれる瞬間アーサーが銃に飛び掛り明後日の方向に弾丸が放たれる。
そのことに驚いていると、畳み掛けるように今度は空から銃撃が降ってくる。
何事かと上を向くと、フロートユニットを取り付けた白いサザーランドと空中戦艦アヴァロンがいる。
そのサザーランドが機体を束縛している罠を壊しながら降りてくる。
『大丈夫?』
「セシルさん!?」
サザーランドのパイロットはなんと普段お世話になっているセシルさんだった。なぜ彼女がKMFに乗っているのか。
混乱している俺に説明もなしに話しを進めていく。
『今エナジーを交換するから、それに右腕もね』
「いったいどうしてここに?」
『取り返しにね、いろいろと』
やっとのことで紡ぎだした言葉に答えたのはロイドさんだった。
『それに、ゼロを追うんでしょ?だったらこんなところでぐずぐずしてちゃダメだよ』
命令違反の上機体を奪った俺にまるで茶化すように言う彼なりの優しさにこみ上げてきた涙を堪える。
今はまだ泣いている場合じゃない。
「はい。学園と皆のことはお願いします」
そういって再び飛び立つ。
右腕はサザーランドのモノに交換したが、接続に問題はない。ゼロはどこに行った?
空から租界を見渡していると通信が入る。
「ロイヤルプライベート?」
皇族専用回線からなんで俺に?
疑問に思いながらも通信を開くと、そこに映し出されたのは血まみれのコーネリア殿下だった。
『ゼロの行方について話しい』
怪我のことなど気にした風もなくそう言うコーネリア殿下に俺はこの言葉しか返せなかった。
「イエス・ユアハイネス」

到着したそこはかつて彼女が愛した庭園とは思えないほど荒れていた。
土はえぐれ、草花は燃えKMFの残骸が今なを炎を上げている。コーネリア殿下はその残骸の一つに背を預けながらぐったりとしていた。
「ゼロは神根島に向かった」
殿下の第一声がそれだった。
「神根島に?それよりお怪我は?」
ゼロのことも気になるが、彼女の大切な人を放ってはおけない。
「私のことはよい、それよりもユフィの仇をとってくれ」
傷だらけの体に反した力強い眼差しで頼まれる。そうだ俺は彼女の、ユフィの仇をとらなければならない。
「略式ではあるが、貴候に騎士候の爵位を与える。ブリタニアの騎士としてゼロを討て」
殿下が片手で剣の形を取り、短く儀礼の型を取る。
「イエス・ユアハイネス。必ずやゼロをこの手で」
飛び立つ前にギルフォード卿に連絡を入れようとしたが、殿下に止められる。
「私の怪我のことは口外するな。軍に動揺が走る」
自分の命よりも勝利を。そういう殿下の姿に自分よりも俺や日本人の身を案じていたユフィが重なる。
そうだ、彼女は死んだかもしれない。でも、彼女の意思は、彼女の夢は無くなっていない。

夜通し飛び続け神根島についたときには夜が明けていた。
上陸し、あの遺跡に向かう。この島にゼロの目的になるものなどは他にないだろう。
銃を片手に慎重に遺跡の奥に足を進める。しばらく進むと最奥にたどり着き、あの後ろ姿が見える。
いた!ゼロ!
遺跡の壁に向かっていたゼロのすぐ横に発砲する。
「こちらを向け。ゆっくりとだ」
俺の言葉にゼロがこちらを振り向く。
「ユフィの仇とらせてもらう」
銃を構えたままゆっくりとゼロに歩み寄る。
すると気を取り直したゼロが語りだす。
「ユーフェミアの凶行は見ただろう?あれがブリタニアの本質だよ。だから君も「便利な力だな、“ギアス”とは」
“ギアス”の言葉にゼロが動揺を見せる。未だに信じたくはなかったがやはりあの話は本当だったか。
「人を操り自分は陰に隠れ決して手を汚さない。傲慢、卑劣、姑息それがお前の本性だ!カレン、君もゼロの正体を知りたいだろう?」
意識はゼロに集中しつつも、後ろから忍び寄るカレンに言葉をかける。追跡には気づいていたが、泳がせていたのはこのためだ。
二人の動揺をよそにゼロの仮面の上部を打ち抜く。
着弾点からゆっくりとひびが広がり、ついには二つにわかれて床に転がり落ちる。
その仮面の下から現れた親友の顔。
「うそ、でしょ、あなたが」
信じられないと言う様にカレンがかすれた声をあげる。
「信じたくはなかったよ、ルルーシュ」
「そうだ、俺がゼロだ!ブリタニアを破壊し!世界を手にいれ、創り直す男だ!」
額から血を流しながらルルーシュが高らかに宣言する。
「それじゃ、あなたは私たちを、日本人を利用していたの?」
目を見開きカレンが問う。
「結果的に日本は救われる。それで充分だろう」
彼はそう言い切った。やはりルルーシュにとって日本人はその程度の存在なのか、こんなヤツにユフィの夢は汚されたのか!
「なぜだルルーシュ!なぜ嘘をついた!俺やユフィに、ナナリーにまで!」
「そのナナリーが攫われた!だから俺と手を組もう。俺とお前が協力すれば出来ないことなんて何もない」
ナナリーが!いや、これはルルーシュの作戦だ。たとえ本当のことだとしても、彼とは協力なんて出来ない。
「お前にはできない!君が手を取るべきはユフィだった!それを踏みにじったお前は、世界を拒絶したお前はもう世界からはじき出されたんだ!」
彼の行動、信念、存在そのものすら否定する俺の言葉にルルーシュの表情が崩れる。
「黙れ!お前に俺の何が分かる!」
激昂したルルーシュが懐から銃を取り出し俺に突きつける。
「分かるものか!彼女の夢を、理想を壊す理由など!」
そして二つの銃の引き金が絞られ、神根島に銃声が響いた―――

―――豪奢な装飾が施された巨大な扉が左右に開き広い謁見の間に入る。
そのまま真紅の絨毯の上を歩く。居並ぶ貴族や皇族の面々は皆僕に訝しげな視線を向けてくる。
それはそうだろう、本来この場には僕は入ることすら許されない神聖な場なのだから。
やがて、謁見の間の最奥玉座に座った男の前まで歩み跪く。
かつて僕の国を奪った男。親友とその妹を見殺しにした男。そして今僕が忠誠を誓う男。神聖ブリタニア帝国第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニア。
「枢木スザク、汝ここに騎士たる誓約を誓うか」
低くそれでいて相手を威圧するような力強い声で儀式を始める。
「イエス・ユア・マジェスティ」
この男の前で唯一許された言葉。
「汝、我欲を捨て正義のための剣となり盾となることを誓うか」
「イエス・ユア・マジェスティ」
「汝、勇気、知識、力その全てをブリタニアの発展と栄光に捧げることを誓うか」
「イエス・ユア・マジェスティ」
儀式は着々と進みいよいよ最後の誓いとなる。
腰に挿した剣を抜き自分に衝きたてた格好で差し出す。
皇帝がその剣を手に取り僕の頭の左右にそれぞれ一度づつ突きつけてから返す。
「ここに、枢木スザクを神聖ブリタニア帝国第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアが騎士、ナイト・オブ・ラウンズの一柱と認める」
皇帝から剣を受け取り、集まった貴族たちに振り返る。
皇帝の怒りを買うのを恐れた拍手が木霊する謁見の間を見渡して、かつて僕を騎士に選んだユフィの笑顔を思い出す。
ライ、君は夢は終わったといったが、終わらせない。
彼女の夢は必ず僕が叶えて見せる。たとえそれが彼女の望まない方法だろうと。
僕はこの身を血で汚し続ける。


最終更新:2010年02月21日 22:59
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