044-098 死の理由 @穴熊



「本陣!予定時間を過ぎても合流部隊が来ないぞどうなってる!応答しろ本陣!」
通信機に向かって怒鳴るが聞こえてくるのはノイズと怒号と散発的な銃声のみ。
どうなっている?01:00に合流の予定がすでに二十分は立つのに集まっているのは予定数の三分の一ほどだけだ。
本陣との連絡もつかず引くか進むか判断がつかない。
「本陣聞こえているか!応答しろ!」
再度通信を入れるがやはりまともな応答はない。仕方ないこの人数で政庁に攻め込むか。そう決意したとき前方からKMFの駆動音が聞こえる。
合流部隊かと思いカメラを向けるが、映ったのはサザーランド。
「馬鹿な!ブリタニア軍は政庁に篭城しているはずではないのか!?」
現れたサザーランドは九機編成の中隊クラス、本体からはぐれたにしては多すぎるし統率が取れている。
前線部隊が突破された?一瞬そんな考えが浮かぶがそれはありえない。なぜなら前線部隊で指揮を執っているのは自分が知る限り最高の武人である藤堂中佐だ。
ではどうして敵部隊がここにいる?混乱しながら応戦の指示をだす。
どんな理由にせよこちらの方が数は多い。油断しなければ大丈夫だ。
しかし、部隊の大部分は戦の心得もない民兵。案の定一人がその油断に取り付かれ飛び出す。
「素人が不用意に飛びだすな!」
飛び出した兵のフォローに入るために俺も隠れていた瓦礫から飛び出る。
それを待っていたかのように左側のビルの三階部分からグロースターが一機ランスを構えて飛び降りてくる。
ランスはまっすぐに俺の月下を向き、重力を味方につけ加速する。その一撃をかわせばサザーランドからの銃撃に会う。どん詰まり、だが!
「ただでは死なん!」
回避を完全に諦め回転刃刀を右肩の前に垂直に八相の構えを取る。ランスの攻撃は直線のみ、ならばその槍先が届いた瞬間こちらも刃を振り下ろし相討ちにする。
直前に迫った死に感覚が研ぎ澄まされていき周りの景色がやけに遅く感じる。
遅れていた時間が徐々に戻ってくる。いよいよと思ったとき敵機の軌道が前のめりに変わり、俺の頭上を飛び越えてゆく。

あっけに取られる俺の目に映ったのは体勢を崩したグロースターとビルの二階から頭を出している無頼数機、そして蒼い月下。
『大丈夫ですか?』
通信機から聞きなれた声が聞こえる。蒼い月下のパイロット、ライ少尉だ。
「少尉!すまない助かった」
言葉を交わしながらも敵から目を離さない。少尉がサザーランドたちに威嚇射撃を撃ち、俺がグロースターに切りかかる。
突然の乱入に動揺した敵が立ち直る前に動く。大上段に回転刃刀を構える。
通常ならこれは隙の多い必殺の構えだが今回は誘い。
動揺した敵がこちらの隙を突こうとランスを構え突撃を仕掛けてくる。俺はそれにハーケンで答えてやる。
ハーケンを食らった敵からコックピットが射出され、それを確認した少尉は前方のサザーランドに向かって走り出す。
今度はこちらが援護に回ってやり、銃弾をばら撒く。
グロースターという戦力の中枢を失った敵の動きは鈍り陣形に僅かな隙間が見える。少尉はその隙間に潜り込みまず一機、輻射波動で沈める。
輻射波動の威力を見せ付けられた他の敵はその左腕を向けられただけで距離をとる。
少尉から離れた敵に俺たちの銃撃が襲い掛かる。それで二機、少尉自身の射撃でもう一機落とす。
味方の爆発で体勢を崩す残りのサザーランドに少尉が切りかかり、俺もそれに続く。
まず、爆発のダメージが一番大きかったヤツが起き上がる前に地面を抉りながら真っ二つに切り裂く。その勢いのまま回転するようにすぐ後ろに迫っていた敵に垂直に刃を振り下ろす。
次の敵をと思いカメラを回すが、すでに一機は少尉に切り捨てられもう一機も左腕につかまれ弾ける。
残った一機が少尉に銃を向ける。まずいと思い俺も銃を向けるが敵の方が早い。
が、少尉はその近距離射撃を腰を落として紙一重でかわし、機体のバネを生かした突撃で最後のサザーランドをしとめた。
進軍前、朝比奈が少尉はもうだめかもしれないと言ったときは心配したが騙されたか?むしろ前よりも動きがよくなっている。
機械じみた精密さと獣じみた激しさ。相反する二つの動きの融合。剣術の到達点の一つ。そんなことを考えてしまう。
周囲を警戒しもう敵が隠れていないことを確認すると少尉に通信を入れる。
「救援感謝する。しかしなんでここに?」
確か少尉は租界外周部で取りこぼした敵の掃討に当たっていたはずだ。
『藤堂中佐からの指示です』
そう言う少尉の声には普段の柔らかさはなく、苦渋がほのかににじみ出ていた。
『僕らはこのまま可能な限り兵を集め退避せよと』
はじめその言葉の意味が分からなかった。しかしすぐにその意味を理解し問い詰める。
「退避だと!前線はどうなってる!それに中佐の指示だと?ゼロはどうした!」
『ゼロはこの戦域にはいません。前線は、突破されるのは時間の問題だと』
ゼロがいない!?まさか本当に俺たちを裏切ったのか!いや、この際それは置いておこう。それよりも前線が心配だ。
「わかった。少尉はこのままこいつらと退避を、俺は前線の援護に向かう」
そのまま転進しようとした俺の月下の肩を少尉が掴む。
『僕だけでは彼らを守りきれません。僕が道を切り開きますからしんがりをお願いします』
「今も中佐たちは戦っているんだぞ!お前だって千葉が心配じゃないのか!」
千葉の名前が出た瞬間少尉の月下が僅かに揺れる。そうだ少尉が中佐たちを心配しないはずがない。とくに千葉とは男女のそれに行かないまでも互いに大切に思っているのは周知の事実なのだから。
「すまない。軽率だった」
『いえ、ですが彼らだけでは退避は無理です。だからお願いします』
自分も駆けつけたいのを押し殺して少尉はそう言う。
「わかった。先導は任せたぞ」
はい、と短く答え少尉の月下が走り出しそれに団員たちが続くの眺めながら政庁の方角に目を向ける。
いつか必ず助けます。だからどうかそのときまで耐えてください。胸のうちにそう呟き、最後尾について租界から脱出する。

あれから一年もたつのか。
特殊な薬品を使った紫色の炎に囲まれた廃墟の中で少年に頭を垂れながらそんなことを考えていた。
少年はルルーシュ・ランペルージ、またの名をゼロ。日本の救世主でありながら一年前俺たちを裏切った仮面のテロリスト。
『ブリタニア軍がすでに動いている、作戦の引継ぎが済み次第諸君にも前線に向かってもらう』
ゼロがその年齢にそぐわない口調で話す。
『それなら僕ひとりで十分だ。二人は皆の下に戻ってくれ』
そう言うのは少尉だ。ブラックリベリオン以後指令代行として黒の騎士団を率いていたのは彼だし、この作戦も彼の立案であるのだからこの言葉は最もなのだが、頷ききれない。
『でも、二人だけで大丈夫?』
紅月も同じことを思ったのか心配そうに声をかける。誰よりも仲間を大切にする少尉、その仲間を一度は捨てたゼロに対する怒りはもしかしたら俺たち以上かもしれない。
『大丈夫だよ。C.C.もいるしね』
普段道理の温和な口調で冗談めかして言う。この調子なら大丈夫だろう、C.C.も普段はああだが意外と人間味のようなモノがないこともない。
「わかった、紅月いくぞ。それから少尉」
紅月を促しながら、通信を全軍と繋ぐものから個人同士のプライベート通信に切り替える。
「俺はお前について行く覚悟は出来ている」
そう、俺たちに必要なのは奇跡を起こすゼロであり、本物のゼロである必要はない。
『ありがとうございます。でも、その必要はありませんよ』
微笑み一つ通信が切れる。
後のことは少尉に任せ俺も紅月に続いてみなの元に向かう。

『次!十メートル先の天井に銃撃!』
通信から聞こえる指示に従い銃弾をばら撒くと上階から傷だらけのサザーランド三機が落ちてくる。落下の衝撃がとどめになったらしくコックピットが勢いよく窓から飛び出していく。
指揮官交代からわずか十数分で敵勢力の半数近くが無力化されている。
「くやしいがものが違う」
知らずそんな呟きがこぼれる。自分など比べ物にもならない、藤堂中佐とてここまで圧倒的ではない。
そもそも指揮とは戦場全てを見て部隊単位で動かすか、一つの部隊を率いて個別に動かすかのどちらかだ。これで言えば中佐はどちらもこなせるが、一度に両方行えといわれても無理だろう。
全体を見れば単体が見えず、単体を見れば全体が見えない。天賦の才がなせる業か、想像も出来ないほどの修練の賜物か。
『飛行船の煙幕がもうじき切れる、ライは井上たちの迎えに向かってくれ。残りは所定の持ち場につけ』
もうじき作戦も終了か、当初の予定時間よりも随分と早い。
『新型機を発見!形状からランスロットの量産型かと!』
このタイミングで新戦力の投入?ランスロットの活躍は知っているが、量産型にそれほどの性能を待たせられたのか?
疑問は尽きないが警戒は必要だろう。
「ゼロ、ここは俺が」
通信を入れるが、返事は否定的なものだった。
『いや、量産型とはいえランスロットほどの能力はないはずだ。それに狙いは私のようだ、そのままこちらに合流してくれ』
「了解した」
答えてゼロの元へ向かうが、その間に聞こえてくる仲間たちの撃墜報告に拳を握り締めるしかできない。

『例の量産型がくるぞ、3、2、1、発射っ!』
ゼロの号令のもと俺と紅月が通路の曲がり角から僅かに見えた金色の機体へ向かって銃弾の雨を浴びせる。着弾の影響で粉塵が酷く敵機を確認出来ないが、あのタイミングでは回避は不可能だろう。
その油断のせいで反応が遅れた。真後ろに気配を感じ、咄嗟にアクセルを踏み込み何とかその剣戟を回避したが浅くコックピットの装甲を削られる。
振り返れば先ほど倒したはずのランスロットを模した姿の金色の機体がMVSを構えている。
「馬鹿な!あれを避けたのか!」
驚愕しながらも相手を観察するが傷はおろか煤すらついていない。もう一機いたのか!
「紅月挟み込むぞ!」
『了解!』
言葉と同時に回転刃刀を横に薙ぐ。紅月もそれに合わせるように右腕の輻射波動を唸らせ敵機の背後から襲い掛かる。
しかし、刃が届いたと思った瞬間目の前から金色の機体が消えうせ紅蓮と向かい合う。
機体に急制動をかけて同士討ちを防ぎ、回りを見渡すと敵機がゼロに刃を向けている。
『させるかぁ!』
叫びながら紅月がハーケンを打ち込むが、またしても敵機が消える。
「瞬間移動だと!?」
予備動作もなく離れた場所に移動している。先ほどの通路に目を向けるがやはり残骸の類はない。
紅月が尚も飛び掛るがことごとく避けられる。しかし、こうして外から見ていれば分かるがあれは素人の動きだ。
『カレン闇雲に突っ込むな!ヤツの動きは単純で直線的だ、動きを読め』
ゼロもそのことに気づいたのか指示が飛んでくるが、あの瞬間移動の種が分からないのか後手に回っている。
何度か同じ攻防を繰り返したが、ヤツがゼロに狙いを絞ってくる。やはり素人、不利になれば大将を狙ってくる。
ゼロを狙ってくるだろうとヤツの姿が消えるのに合わせて機体をゼロに向ける。
「くらえ!」
現れた金色の背中に向けて刃を振り下ろすが、又しても姿が消え背後に殺気を感じる。嵌められた!?
素人と侮った。ヤツにつられてこちらも単純な戦い方をしていた。
気配で敵がMVSを振り下ろすのを感じる。だが、不思議と俺の気持ちは落ち着いていた。
ゼロと少尉がいれば中佐たちを助け出し日本解放の悲願を果たせるだろう。
ならば俺の役目は彼らを守ること、そしてここが俺の死に場所だ。
思えば一年前少尉に助けられたのはこのためだったのかもしれない。あのときとは違う穏やかな心で死を受け入れる。
回転刃刀を逆手に持ち替え月下の腹部に突き刺す。これで俺とヤツは刃で繋がった。
「四聖剣は虚名にあらず!」
遺言と共に自爆装置のスイッチに指をかけ、静かに押し込んでいく。

『卜部さん!死ぬな!』
スイッチを押し切る寸前、叫びと共に衝撃に襲われる。
体勢を直す頃にはまた瞬間移動で距離をとられる。舌打ちと共にカメラを衝撃の正体、少尉に向ける。
「なぜ邪魔をした!今なら確実にヤツを討てたのに!」
『死んだら!』
怒鳴りこんだこちらの声より大きい怒声が返ってくる。普段の彼からは想像も出来ない怒りのこもった声で。
『死んだら悲しいだけです!そこに意味や理由なんてない!』
『その通りだ!』
少尉の叫び同意の声を上げたのは意外なことにゼロだった。
『死に意味はない!生きて事を成して初めてそこに意味が生まれるのだ!』
死に意味はない、か。軍人として死に場所を求めていた俺のこの八年間を否定する言葉だが不快じゃない。
動けなくなった俺の機体を囲むように少尉たちの機体が集まってくる。そしてゼロから通信が入る
『だから君も生きろ。その命に確固とした意味があると証明するために!』
『盛り上がっているところ悪いが時間だ』
C.C.が通信に割り込んでくる。全ての準備が整ったようだ。
程なくして建物全体が激しい揺れに襲われ俺たちのいたフロアがゆっくりと沈んでゆく。
金色の敵機もさすがに追撃を諦めたのか撤退していく。それを見ながら先ほどの少尉とゼロの言葉を思い出す。
「少尉、ゼロさっきはすまなかった」
俺の謝罪に二人は笑いながら答える。
『かまいませんよ。でも、ああいうのはもうやめてください』
『そうだな、すまないと思うならこれからの働きで報いてもらおうか』
と、二人の言葉に耳を向けながら決意を新たにする。
この卜部巧雪、老いぼれて朽ち果てるまで命の意味を証明して行こう。

side-B 共犯の理由

『大丈夫だよ。C.C.もいるしね』
そう言うライの言葉にカレンと卜部の二人が機体を走らせる。
それを見届けてからライが機体から降りてルルーシュの元まで歩み寄ってくる。
ルルーシュは身構えるがそれを無視してライは口を開く。
「すでに作戦の半分近くは完了している。後は飛行船の皆の回収と退路の確保だけだがそれはこっちの資料に」
差し出されたメモリースティックを受け取りつつ、ルルーシュが困惑した声を上げる。
「それだけか?」
疑問の声にライは首をかしげる。本当にこいつらは世話が焼ける。
「お前に殴り飛ばされるとでも思ったんだよ、この坊やは」
私に言われてようやく納得がいったと頷くライがもう一度ルルーシュに向き直る。今度こそ覚悟したようにルルーシュが歯を食いしばる。
「君を許す」
ライの言葉にルルーシュは目を見開く。
「確かに君は僕らを裏切った、嘘もついていた。だけど僕は君を許す」
固まってしまったルルーシュにもう一度、明確に断言する。
「な、なぜだ?」
悲劇の主人公気取りで許されるなど思っても見なかったのか。だから童貞坊やなんだ。
「君の生まれ、戦う理由全て聞いた。それは僕も共感できるところが会った、だから今は君を許す」
共感できるというところに引っかかったようだが、許されたという事実を受けてルルーシュが脱力する。
「だけど、二度目はない。忘れないでくれ」
静かな、しかし確かな殺気をこめた言葉にルルーシュの背が震える。
「ああ、わかった。誓おう俺はもう二度とお前たちを裏切らない」
まっすぐに目を見つめて宣言するその言葉に納得したのかライは微笑む。
こんなことで人を許し、信じられるのだから随分と甘い物だ。もっとも私はそれを羨んでるのかもしれないがな。
気づくと二人とも私のほうを見ている。
「なんだ?」
私の疑問にルルーシュが訝しげに答える。
「どうした?珍しく普通に笑っていたようだが?」
笑っていたか、自分でも珍しいと思うがこの言いようが気に入らず不機嫌な声を上げて機体に戻る。
「気のせいだろ?そんなことよりさっさと作戦を始めるぞ」
私の言葉に二人は肩をすくめながらそれぞれの機体に戻っていく。
そう、坊やたちは黙って働けばいいんだ。
せめてお前たちは私のように悲しみも喜びも何もかも忘れてしまわないように。


最終更新:2010年04月18日 00:37
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。