中華連邦総領事館前で起こった騎士団員奪還から早くも一週間がたとうとしていた。
そして領事館内の一室では昼夜を問わず騎士団幹部たちによる会議が続いていた。その議題の一つが、
「だから俺たちと同じでいいじゃねぇか!」
「そもそもこの“制服”は少尉をモデルにデザインしたって言ってるだろ!」
ライ少尉の制服をどれにするかである。
始めは玉城と卜部の個人的な言い合いであったのが、ライがどっちでもいいと言ってずるずると引き伸ばした結果、
- 一般制服(玉城たちと同じ)
- 軍服型制服(朝比奈たちと同じ)
- 旧日本解放戦線軍服
- ゼロ衣装
- 学生服
- 紋付袴
- 猫耳メイド
etc…etc…
かなり早い段階で方向性がずれていき、参加者と制服?は増える一方でまとまる気配も無く当事者であるライはお茶片手に見物している始末である。
「少尉いいでしょうか?」
目の前の喧騒を他人事のようにお茶片手に眺めていたライの元に一人の団員が声を忍ばせてよってくる。
「どうしました?」
菩薩の様な笑顔を向けられその団員はとても言いにくそう進言する。
「C.C.が消えてこのような置手紙が」
手渡された手紙に目を落とす。
『アッシュフォード学園にアレを取りに行って来る。帰りは夜になるからピザを用意しておけ』
ライは笑顔のままその紙切れを破り捨てると抑揚のない声でしゃべりだす。
「彼女は一人でどうにかするだろうから放っておいて構わない。一応このことは皆には内緒で」
言い切ると再び喧騒に目を向けようとするが、その途中で団員が更なる厄介事を口にする。
「すみません。すでに紅月体長が学園に向かっています」
それを聞いたライは飲みかけのお茶を一息に飲み干すと手近にあった制服?候補の中から一つを手に取ると会議室からこっそりと抜けていった。
一方そのアッシュフォード学園では枢木スザク復学記念のお祭り騒ぎの真っ最中だった。
その学園の中を一組の男女が露店を見ては騒いでいる。
「おい!このゲームはどうやるんだ!というかこのハンマーを使うのか?素手でいいだろ?」
男の方が店員に一般常識の範囲の事柄まで質問すれば、
「記録」
っと、女もとい少女が手作りと思わしき店内をやたらと携帯のカメラで撮影する。
二人が去った後の露店では店員たちが囁き会う。『あの二人ラウンズじゃないか?』
彼らの疑問は正解していた。男の正体はナイトオブスリー“ジノ・ヴァインベルグ”、少女はナイトオブシックス“アーニャ・アールストレイム”。
しかし、二人のあまりに堂々とした立ち振る舞いと奇天烈な行動のせいで誰も本気にしていないが。
そんな二人が次はどの店に行こうかと思案していると前方に人垣が見える。
「面白そうだな。行ってみようぜ!」
言いながらもすでにその方向に足を進めている。アーニャもそれに興味を引かれたのか素直についていく。
そして二人はヒーローに出会う。
人垣を掻き分けて前に出るとそこには露店などはなくかわりに大きな木が生えていた。
なぜこんな物に人が集まっているのかと衆人たちに振り返るとみんな木の上を見ている。
視線を追うとなんと少年が枝の先にしがみ付いている。
少年の手には風船が握られており、おそらくこれを取るために登って降りられなくなったのだろう。
「しょうがねぇな」
ジノはするすると木に登っていきあっという間に少年と同じ高さまで登ってしまう。
「ほら、ゆっくりこっちに来い」
手を差し伸べながら優しく言うジノに安心したのか少年がその手を取ろうと身をよじった瞬間、足を滑らせた。
ジノも身を乗り出して手を伸ばすが届かない。皆が最悪の事態を予想し目を閉じる。
だが、落下音はいつまでも聞こえない。
覚悟を決めた者から一人、また一人と目を開くと少年は男に抱きとめられ見事に無事だった。
安堵の息をつき少年を抱きとめた男に目を向けると皆が凍りついた。
ナイトオブセブン・枢木スザクの活躍を受けて生み出された特撮ヒーロー“ランスロット仮面”。そのランスロット仮面の後を追うようにして中華連邦で生まれた特撮ヒーロー“槍杖蟹”。
青い角がトレードマークのそのヒーローの覆面をその男はつけていた。
誰もが、助けられた少年さえもどうしていいのか分からず固まっているとピロリッと機械音が響く。
「記録」
その声で少年は自分が木の上から落ちたのを思い出し覆面の男にお礼を言う。
「あ、ありがとうございますぅ」
それで周りの者たちも我にかえり一斉に騒ぎ出す。その中から一人の女性が飛び出してくる。
「うちの子を本当にありがとうございました!ありがとうございました!」
少年の母と思わしき女性はお礼をまくし立てると少年の手を引いて逃げるように去っていった。まあ、覆面の男が相手ではしょうがないが。
その母親の後を追うように集まっていた者たちは皆散っていった。
覆面の男もそれにまぎれてどこかえと去ろうとしたが、それをジノが引き止める。
「待てよ!あんたさっきはすごかったな!」
男はジェスチャーで謙遜しているようだがそんなことお構いなしにジノがまくし立てる。
「その覆面は?こんなところうろついてるって事はヒーローショーがあるわけじゃないみたいだけど。まぁ、祭りだからいいか!」
朗らかに笑いながら話しかけてくるがその腕はがっしりと肩を組んで放さない。
もがきながらようやくジノから逃れた覆面の男はジェスチャーを試みる。
「私たちと回りたいのか?もちろん大歓迎だ!」
また肩を組もうとするのを拒みもう一度ジェスチャー。
今度はジノもアーニャもじっくりと凝視する。右手を額に当てて周りをキョロキョロ、左手を耳元に当ててグルグル、何かに気づいたようにハッとする。
それを3セットほど見てからアーニャがポツリと呟く。
「誰か探してる?」
正解だと言いたいようでアーニャをビシッ!と指差す。
「人探しか、よし!手伝ってやるよ!」
覆面男が断る前にアーニャが追撃をかけてくる。
「どんな人?」
観念したように覆面男は地面に探し人の絵を描き始めたそれは。
「なんだこりゃ?」
「ラッコ?」
覆面コクリ。
覆面男がラッコを探している。常人ならそのまま逃げるところだが流石ラウンズまったく動じず、むしろやる気を出していた。
「そりゃ面白そうだ!あっちにはいなかったから次はこっちに行ってみよう!」
「記録する」
そんな二人に呆れながらも覆面男は歩き始めた。
そのラッコは校舎裏で一人の男子生徒を頭から飲み込んでいた。
「カレン!お前までここで何をしているんだ!」
飲み込まれたいた男子生徒ルルーシュがラッコの中身カレンに声を潜めてたずねる。
「ピザ女を捜しに来たのよ。まったくこの大変なときにフラフラと」
声を潜めて愚痴をこぼすカレンだが、自分も同じ厄介事に分類されているとは知らなかった。
「C.C.ならコンテナの中だトラックごともってぇぇぇ!」
ラッコの中で密談していた二人はすっかりその場に居合わせたもう一人の存在を忘れていた。
「ちょっと貴方いきなり失礼じゃない!」
もう一人の存在シャーリー・フェネットはラッコの口からルルーシュを引きずりだすとその頭を掴みながら抗議の声を上げる。
「とりあえずそのかぶり物はずしなさいよ!」
しかしシャーリーとは知り合いのカレン。お尋ね者としては顔をさらせないし声も出せない。ルルーシュにシャーリーを止めることなど出来るはずも無く、おたおたしているとさらにややこしい人間たちがやってくる。
「ルルーシュ、シャーリーもなにやってるの?」
やってきたのはミレイ・アッシュフォード。このアッシュフォード学園の生徒会長であり大のバカ騒ぎ好き、事情を聞けば面白半分で正体を暴かれる。
血の気が引くルルーシュとカレンだったが、意外なところから助け舟が出される。それはミレイと共にやってきたスザクだ。
「アーサーを探してるんだけど見なかったかい?」
ルルーシュが内心よくやった!よくここで空気を読まなかった!と侮辱とも取れる賞賛を送ったのもつかの間コンテナの中からガンガンと音が響く。
「もしかしてこの中にアーサーが!?」
言いながらコンテナに近づくスザクをルルーシュが静止する。
「待て!猫とトマトはセットじゃない!」
訳の分からないことを口走るルルーシュだがその叫びは背後から登場したKMFにかき消される。
『こいつをピザ釜のところまで運べばいいんだな』
本来スザクが乗る予定の基本フレームのみのKMFからジノの声が響く。
「ラッコはいいの?」
KMFの足元からアーニャが声を上げる。
『こいつで走ってれば目立って向こうから出てくるだろ!』
そう言い残すと傍らにそのラッコがいることに気づかないまま走り出す。そしてKMFの進路上にいた一匹の黒猫“アーサー”が逃げていく。
「あっ!アーサー!」
「ま、待て!」
「!!」
「待ちなさいよ!」
「何?何?何なのよ!?」
スザクがアーサーを、ルルーシュとカレンがコンテナのC.C.を、シャーリーがラッコの着ぐるみのカレンを、ミレイがとりあえずそんな皆をそれぞれ追いかけ始める。
そこでアーニャも探し人であるラッコに気づき覆面を見上げる。
「いたよ」
覆面は大きく頷くと感謝の気持ちをこめてアーニャの頭をなでると先に走り始めた彼らを追いかけた。
その後ルルーシュとカレンはC.C.を回収し覆面も合流し屋上にでた。
「それでカレンの顔を見たのは一人何だな」
難しい顔で質問するルルーシュ、カレンが見つかれば学園での自分の監視もきつくなるため真剣だ。
「たぶん水泳部の人、だけど生徒じゃない」
一瞬の記憶を思い出しながら答える。
「ヴィレッタか?」
まずい人間に見つかったとより眉間のしわを深くする。
「名前まではわからないけど。でも変なの、前に学園祭のときに扇さんと一緒にいた人だから南さんの言ってた扇さんの直属の諜報員の人だと思ったけど」
そこまで聞いてルルーシュの顔に今までとは別種の困惑が浮かぶ。
「扇の?」
あの男が自分に秘密でそんなことをするとは思えず声に出してしまったが、それをC.C.が鼻で笑う。
「タコさんウィンナーの女だろ。井上たちが話していた」
「タコさん?」
訳の分からないことを言うなと睨みつけるがまた鼻で笑われる。
「だからお前は坊やなんだよ。扇の女と言うことだ」
そこまではっきり言われてようやく気づいたルルーシュが悪人顔で笑う。
「はじめからそう言え!だが、それならこれから色々とやりやすくなるな。学園のことはもう心配ない、そちらの迎えも準備できているんだろうライ?」
声をかけられて覆面の男ライが答える。
「ああ、中華連邦の公用車だからブリタニアの干渉も無い。あと30分くらいかな?」
時計を見ながらそう言うライを三人がモノ言いたげに見つめる。C.C.がその疑問を一番に口にした。
「ところでその覆面はどうした?そんな趣味があるとは知らなかったな」
それで自分の姿を思い出したライは慌てながら否定する。
「ち、違う!たまたま手元にあっただけだ!」
「なんでそんなモノが手元にあるのよ?」
「恥ずかしがることはない。そんなお前でもいいという女は山ほどいる」
「だから違うって言ってるだろ!」
結局迎えが来るまでC.C.とカレンにからかわれるライであった。
なお、ライの制服はその後開かれた大じゃんけん大会の末、無駄な才能の一つを発揮した玉城の優勝によって通常の制服となった。
最終更新:2010年05月14日 05:08