彼らは得ることを欲した
得れば得るだけ何かを失っていった
そして彼らは失った 記憶という存在を…
Action01 失った 者達
白い天井、白い壁、光の差し込む窓。彼は見覚えのない物だらけの部屋で意識をとりもどした。なぜこんな場所に自分がいるのか分からない。いやそれ以前に…
「あら、やっとお目覚めみたいね。」
ふと聞こえた女性の声の方向を見ると金髪の女性を筆頭に何人か並んでおり彼の方向を見ている。
「ここは一体?」
彼は疑問に思った事を言った。
「ここはアッシュフォード学園よ。私はここの理事長の孫のミレイ、貴方が学園内で倒れていたから看病していたわけ。」
「そうなのか…すまない恩に着る。」
「ところで貴方の名前は?」
「確か…ライ…だったと思う。」
ライがそう答えると
「『だったと思う』とはどういう事だ?」
1人の黒髪の男が話に割り込んできた。
「そのままの意味だ。自分についてよく分からないんだ。」
「その話を信じろと?」
黒髪の男はライを睨む。
「ルルーシュ、そんな言い方しないの。」
「む。」
母親が子供を諭すような口調でミレイは黒髪の男に言った。
「でも、身分を証明するようなもの一切身につけていなかったし、行方不明者のリストも捜索依頼もなかったから貴方の証言待ちだったのに、困ったわねぇ。」
ミレイの困った顔を見ていたライはこう告げた。
「もうこれ以上迷惑をかける訳にはいかない。僕はもう出る、世話になった礼を言う。」
ヨロヨロな体を起こし、立とうするが足が崩れ思うように立てない。それでもライはなんとか立ちあがり、おぼつかない足どりで外へ出ようとする。
その刹那、
「会長チョーップッ!」
「ぐふ」
その掛声と共にライの頭上に衝撃が走った。思わずベットに座り込む。
「「「「会長!?」」」」 「ミレイちゃん?」
その場にいた全員が声をあげた。
「そんな体で無理しないの、今のチョップぐらいで座り込む貴方をほっておけません。」
そういうミレイの目は真剣そのものだったが
「いや、今のは相当強いぜ…」
「あぁ、オレなら確実に座り込むな…」
と男2人のヒソヒソ声が聞こえた。
「そこ、ウルサイ。貴方、自分の関する事も分からないのにどこへ行くつもりなのよ?」
「とりあえず野宿かな?」
「自分の事も分からない、体の調子も悪い。そんな人間を見捨てるようなミレイさんではありません。」
1拍置いた。
「彼をここアッシュフォード学園に住ませます。こんなこともあろうかと、おじいさまにOKもらってるのよねぇ~」
1拍、いや2拍置いて
「「「「「「えええぇぇぇ!!!?」」」」」」
学園中に驚きの声が鳴り響いた…
〇
「ここは一体?」
見覚えのない部屋で彼は眠りから覚めた。部屋は何らかの資料でゴチャゴチャになっており足の踏み場もない。茶色の封筒、ブリタニア語以外の資料、データの総計…色々な物があった。その内の1枚を拾ってみるとサザーランドというKMFの資料だった。
「第5世代のKMFか…量産性を重視してコストを最小限にしている。それにサクラダイトの量も少ない。それでこの機動力に機敏性、火力、戦略性…戦車よりコッチを使うわけだ。」
つい口から出た言葉、それを聞いていた人物がいた。
「あはは、君はやっぱり面白いねぇ。」
眼鏡をかけた変態?
彼の第一印象はそんな感じだった。
やたらニタニタしているし体をクネクネさせているし、不気味としか表現できない。変態としか言いようがなかったのだ
「そんな、変な生き物を見るように僕を見ないでくれる?せっかく助けてあげたのにさ。」
「『助けた』とはどういう事だ?」
そのフレーズが気になったので問いかけた。
「この大学前で倒れていたところを僕が見つけて、手当てとかしたんだよ?君、病院に行っても困るだけだしね」
「俺が?何故そんな事が判るんだ?」
疑問に思う事をそのまま尋ねた。
「あはは、それはね君を見ればね。色々とわかるんだよ。」
「俺を?」
「そう君。」
そう言った男は話を続ける。
「腹部を銃で貫かれて負傷して、しかも腹部以外にも銃痕が数ヶ所ある。それなのに病院にも行かず応急処置で済ましている。まぁこの事から君は一般人ではなく銃が日常で使われる場所にいるということがわかる。」
それでも普通はどっかの闇医者にでも行くんだけどね~、と言う変態眼鏡はただ者ではなかった事が分かった。
「…でここに逃げ込んできた、そういう訳だ。身元調査も当然したんだろ?」
「したよ。でも君のような人物は検索の結果では出てこなかった。」
眼鏡はうなずいた。
「やはり…となると俺は何者なんだ?」
「え?君自分の事分からないの?」
ここにきて初めて眼鏡の方から問いかけられた。
「あぁ、自分に関する事全てが分からない。記憶喪失ってやつだ。」
「KMFに関する記憶はあるのにかい?」
「そうだ…自分が何者か検討もつかない。」
男は顔しかめた。自分がケガをした理由や、銃痕が何時、何所で、どんな状況でできたのかそんな事は分からないのに、KMFに関する知識や世界情勢などは最近のことでも理解できる。
その事が自分を何者か分からなくしている大きな原因の一つであった。
「じゃあ名前も分からない?」
名前すら正直いうと覚えていない。
だが何となくだがこう呼ばれていた名前を言った。そう最近まで銀髪の青年にはそう呼ばれていた名を。
「確か…ライツだったような気がする。」
「ライツ…ねぇ…」
「なぁ、アンタの名前は?」
ライツは眼鏡の男の名前が気になっていた、というよりは彼が何者かを知りたかった。ここまでの事が分かるのは只者じゃないからだと思ったからだ。
「僕?僕の名前はロイド、ロイド=アスプルンド。ここの大学を貸してもらって働いている軍のKMF技術者さ。」
その答えで大体は理解した。が、彼のある一言が頭にひっかかっていた。
「『やっぱり』って最初に言っていたがどういう事だ?」
今までの会話の流れから、ロイドという男は只者ではないという事が分かった。しかし彼が身元不明で、病院にも行けず、
腹部を貫通しているような人間を警察にも軍にも知らさずに看病してくれるような人間には到底思えない。となると、その言葉が謎を解くカギであるとライツは考えたのだ。
「どういう事って?」
ライツは先程の考えを述べた。
「あはは、君やっぱり面白いねぇ~、実に興味深い。」
ニタニタし体をまたクネクネさせた。
「それもね、君が原因だよ。」
「俺が?」
ますます理解できない。ロイドはそんなライツの様子を無視し話を続けた。
「君はKMFの操縦をしたことがある。しかもかなりの長時間。」
「なぜそんな事がわかるんだ?アンタの事だ理由があるんだろ?」
ロイドはまたニヤニヤして、
「KMFの操縦者には体に特徴があるんだ。ペダルを踏む筋肉、Gに耐える筋肉、操縦桿を引いたり押したりする筋肉、まぁ他にも色々あるんだけどね。」
技術者というだけあり、見ただけそういう事が分かるらしい。
「それでか…アンタの考え大体分ったよ。」
大学、軍、技術者、そしてライツ自身。パズルのピースのようにロイドの考えがあてはまった。
つまり軍という組織にいながら大学で研究しているのは、資金不足か軍内の立場が悪いかあるいは両方だ。普通に研究所を貸してもらっていると考えると、
ライツのような不審者を匿う必要は一切ない。そこで答えは絞られた。
「俺がここでKMFの操縦したら良いのか?それとも整備か?」
ロイドはニタニタの顔をもっとニタニタさせて言った。
「あはは、話が速くて助かるよ。」
「仮にもロイドは命の恩人だ、俺ができる範囲の事はやろう。まぁ今は無理だがな…せめて3日間は休養をもらいたい。傷であまり動けないんだ。」
「3日といわず完治してからで良いよ。」
普段のこの男を知る者なら予想外の言葉を言い放った。
「それと君の身体検査を兼ねて血液を鑑定中だよ。」
「それは助かるが………いいのか?」
ロイドはうなずきながら、
「さすがにねぇ…そんな重傷者をKMFに乗せたりしたらセシル君が…」
なにか恐ろしい事でも思い出したのだろうか、「オスシは、オスシだけは…」
とこの世の終わりのような顔をして謎の単語を言った。オスシとはどんな拷問の道具なんだろうか?そんな事をライツは頬を掻きながら考えていた。
お・ま・け
「オスシだけは……お米にそれだけは…」
「なぁ、ルルーシュ。スザクが何かにうなされてるぞ?」
「うん?あぁ、それはなリヴァル。上司にライスにシッロプをかけ、その上に生チョコレートをサンドしたものを食わされたらしいぞ。」
「ライスにシロップゥ?生チョコォ?そりゃぁ不味いだろ…」
「あぁ。不味いという表現では語りきれないと言っていたからな…『食べ物を食べるだけなのに死の恐怖を味わったよ』とも言っていたしな…」
「うぅ……その上に乗るネタは、魚にして…お米にはお酢だってば…それじゃあ『シャリ』じゃなくて『ジャリ』ですよ…」
「…寝汗が半端じゃない。」
「まぁ、その上司が普段は凄く良い人らしいから、マズいと言えずに困っているらしい。」
「技術局も大変なんだなぁー。」
「…僕は間違いを間違えといえない人間なんだ…」
「まぁ、起きたら忘れるだろうからこのままにしておこう。」
「起こしたら逆に可哀想な気もするしな…会長も待ってるし生徒会室に行こうぜ。」
「…父さん、今アナタのもとまで…」
お・ま・けのお・ま・け
「へっ、くちゅん」
「あれシャーリー風邪でも引いたの?」
「別にそういう訳じゃないんですけど…へんだな?」
「風邪は万病の元っていうし今日は早めに帰ったら?仕事はルルーシュとリヴァルに任せたらいいし。」
「いえ、いいです。(今日はルルと久しぶりに一緒にいられるし…)」
「そう?…へ、へ、へっくしゅん、バカルル!」
「…会長?」
「あははは……誰か噂してるわね(まずい…おっさんクシャミをしてしまった…)」
「「…あははは…」」
お・ま・けのお・ま・けのお・ま・け
「…バッチリ録画しましたわ。これでミレイ様に何を買ってもらおうかしら♪」
「くっ…こんな奴らに負ける訳にはいかないんだ!」
きっかけはいつも唐突である 出会いは偶然なのか 必然なのか 運命の歯車がゆっくりと動きだす 終わりへと向かって
次回 コードギアス LC ~反逆者達の願い~
Action02 動きだす 歯車
「これでも男だからね。」
『えー、ボクお外で遊びたいのに』
動き出す運命を止めることなど誰にもできない。
最終更新:2009年06月04日 22:31