拳銃が人を殺すのか? ナイフが人を殺すのか?
否 武器は人を殺さない 殺すのはそれを使う人だから…
Action02 動きだす 歯車
「会長も何を考えているんだか…」
ルルーシュは先日の件について納得していなかった。
ライという得体のしれない人物をこの学園で看病していたこともそうだし、
結局彼が場所は違うにしても自分やナナリーと同じクラブハウスで生活をするになり自分達の秘密を知られてしまうかもしれないからだ。
(ギアスがあってもそういう芽は潰しておきたいしな。)
ルルーシュはライという青年が目を覚ます前に彼についてある程度調べていた。
しかし、彼のような人物は捜索依頼、行方不明者のリスト、軍人関係やレジスタンス関係の全てを調べてもでてこなかった。
そのような人物は存在しないとデータは物語っている。
(まぁ、いざとなればあの力を使うだけだしな…)
ルルーシュがそんな事を思っていると携帯が震え着信が入ったことを告げる。
「私だ。何の用だ?連絡は定時に行えと言ったはずだが…」
さき程と同じ人物だとは思えない口調。
「ああ、その件はすでにクリアしてある。」
威圧感。
「緊急以外でもう連絡はとるな。こちらから用があれば掛ける、切るぞ。」
相手の了承の言葉を待たずに電話を切った。まるで王のように…
「もっといい駒が欲しいものだが…」
切実な声でルルーシュが呟くと、下から聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
「今日はゲットーに行ってみたいんだけど…」
最近の悩みの種の一つである彼の声だった。
「いいわよ、行ってみましょうか。」
それに返事したのは彼のお世話係である、カレン・シュタットフェルトであった。病弱である為、学校を休みがちにしているという事になっている。
なぜ彼女がライのお世話係なのかというと
『カレンも最近学校に来るようになったし、ライの面倒みてあげたら?』
『えぇ?私がですか?』
『そうよ、お願いできないかしら?』
『……』
『カレンが嫌がっているなら僕は独りでも構わない』
『……分かりましたよ。』
といった具合で、決まった。
その場の勢いというのは凄まじく善くも悪くも止めることができないものである。
「ゲットーか…嫌な予感がするな、扇に連絡を取るか…」
ルルーシュは携帯に番号を打ち込んだ。この時のルルーシュの判断が彼の悩みを解決する遠因になるのだがそれは少し先のお話。
〇
「しかし、本当に化け物じみてるねぇ。普通、完治に1ヵ月ぐらいかかるのにたった三日でほとんど完治するなんてねぇ。」
研究室の前の廊下でロイドはライツに向かって感心したのか、呆れたのか、溜息まじりにそう言った。
「治ったんだから日数なんて別にどうでもいいだろ?……それよりアレ誰だ?」
ドアを開いて、ライツが指を指した先にはシュミレーターがあった。
「見る限り、相当の腕前だが?」
モニターに映し出されるシュミレーションの映像を数秒見ただけであるが、ライツはそのパイロットがタダ者ではないことを瞬時に嗅ぎ取った。
敵KMFは8機、種類は無頼・改。シュミレーターの方の味方は0。
それにも関わらず敵を撃破していく姿は芸術のようにも感じられる。
(荒削りなところもあるが、反射速度が並じゃねぇ、相当な猛者だぞ…)
「あ、ロイドさん遅いですよ。スザク君はもうシュミレー…あら?」
技術局員であろう若い女の人がライツに気付いた。
「ロイドさん、その人が?」
「うん。彼がライツ君、顔に火傷して包帯を巻いているけどね。彼自身の希望で見学してるんだ。」
ライツは顔に包帯を巻いていた。これは、彼が追われている立場の人間だから素顔を見せない方が良いとロイドが提案したからである。
自分の知り合いを探すには顔を見せた方が良いが、それが追手だった場合のリスクもある。それにライツ自身が顔を見られるのは落ち着かないのでちょうど良かったのだ
「ライツだ。よろしく頼む。」
ライツが手を差し出す。
「私はセシル・クルーミーです、セシルって呼んでね。」
セシルはその手を握り握手する。
「セシルさん。シュミレート終わりましたよ…」
シュミレータから出て来たのはライツの想像とは違うイメージの男だった。
茶色でパーマがかった髪、優しそうな顔、ライツのイメージとはかけ離れた青年がシュミレータから降りて来た。
「あれ?その人ってもしかして…」
スザクがライツに気付いた。
「今度ここで働くことになったライツだ。よろしく頼む。」
「僕は枢木スザク。こちらこそよろしくね。」
二人は握手をした。するとライツはロイドの方へ顔を向けて
「なぁ、ロイド俺もシュミレータに乗ってもいいか?」
と言った。もちろんロイドは
「あはぁ、面白そうだね。」
と返答した。
ライツの思いがけない言葉にスザクとセシルは少し驚き、ロイドは喜んだ。
「そんな体で大丈夫なの?」
スザクが心配そうに聞いてくる。体中に包帯巻いていて、顔にまで包帯が巻かれていたらそう聞くのはごく自然のことなのだ。
「そうよ、病み上がりなんでしょう?そんなに無理したらまた風邪をひいてしまうわよ。」
「風邪?」
不思議に思いロイドの方を向くと、違う方向を見ているふりしてこちらの様子をチラチラ見ている彼の姿があった。
(なるほどねぇ…もう少しマシな嘘なかったのか?まぁ仕方ないか)
「あぁ、それならすっかり治ったよ。心配しなくていい。」
そうライツは言うが、
「今日のセッティングはランスロット用だから、サザーランド仕様にするのは明日になるの。」
「そうなのか?」
ロイドに確認すると、
「うん、今日はランスロット用だから、サザーランドと違って癖が強いんだ。だから君の正確なデータはサザーランドで計らないと分からないんだ。けど…」
「『けど』?」
ロイドは顔をニタニタさせた。
「試しに乗ってみるかい?」
「願ってもない、恩に着る。」
ロイドの問いに即座に答えた。
「ロイドさん!?本当に良いんですか?」
セシルは驚き、慌てて上司に聞いた。
「うん。彼なら大丈夫でしょう、これシュミレータだしね、それに…」
「それに何ですか?」
「スザク君のデータとも比べてみたいしね。」
セシルはため息がでた。この上司はKMF開発では超一流なのだが、困ったことにそれが日常に影響が出るのだ。やりたいと思ったらその日の内にほば絶対やってしまう人間なのだ。
もちろんセシルも技術者なのでそんな事をするときもある。
しかし、このロイドという男は別格なのだ。人との会話中でも、会議中でも、おそらく地球がなくなる瞬間でも、研究を優先させる男なのだ。
「分かりました…スザク君、今日はこの辺で帰っていいわよ、今日はもう仕事はお終いよ。」
「いえ、僕も彼に興味があるので残ります。だって、特派の局員になるかもしれないんですから。」
そんなやりとりをしていると
「…でね、この赤いボタンを押してシュミレートできるんだ。」
「なるほど、お~い、もう準備できたぞ。」
スザクとセシルが話している間にロイドとライツはシュミレートの準備を終わらせていた。
「ははは、やる気満々だ。」
スザクは2人をみて思わず笑ってしまった。
「…はぁ」
セシルはため息を深くつくと、敵KMFのデータをシュミレータに送った。
〇
ゲットー
それはブリタニアが支配する日本の真実の姿、ここでは法律で守られるはずの人権なんてものは無く治安が乱れている。
良識のブリタニア人は決して近づかない、人が人をゴミとして扱い、強制的な力で支配されている事が分かる場所だと知っているからだ。この場所に住む子供は大人からこう教えられる。
『ブリタニア人には近づくな。もし逢ったらどんな事をされても何もするな。命が惜しいのなら』と……
ライは租界からチラッと見た程度だったが、知識とは違う「なつかしさ」がそこに見たので、ゲットーに行ってみたかった。
しかし、「なつかしさ」を感じる前に違う感情が彼に生まれていた。
租界とはまるで別世界、天と地の差ほどあるこんな場所で生活をしなければならない人達も、かつては平和に暮らしていたのだ。
そんな日常を簡単に壊されたのだ、ブリタニアによる宣戦布告によって
戦争という殺し合いで…
近くに花が供えられていた。その花には少量だが、血が付着していた。そこらじゅうに血が飛び散っている。
灰色の壁、コンクリートの道路、そして片方だけ残っていた赤黒い革靴。
誰かが死んで花を供えられ、すぐに虐殺でも行われたのだろう。
「これが……これが同じ人間のする事なのか?」
ライは供えてあった花を見ながら呟いた。カレンからは表情が見えないが、彼が握りこぶしを震わせているのが分かった。
「そうよ……これがブリタニアのやり方よ。日本人なんて道具ぐらいにしか思ってないわ。」
カレンは悲しみとも怒りともとれる複雑な口調で述べた。
その時だった。
「我々は黒の騎士団、日本人よ今こそ立ち上がる時だ!ブリタニア人を皆殺しにするんだ!」
どこかにスピーカーをつけているのだろうか?何機か数を確認することはできないが無頼がゲットーの廃墟を駆け巡る。それを知ったのか警察や軍やらが出てきた。
それに気付いたテロリスト達はKMFを使って逃げる。逃げ惑うゲットーの住民を引きずりながら…
「酷い、一体誰なの!?」
「黒の騎士団じゃないのか?」
「違う!黒の騎士団じゃない!黒の騎士団は弱い者の味方だ!」
ライの言葉にカレンが咆哮する。
「…それじゃあ、アレは黒の騎士団を語る仲間外れのテロリストという事になるな。」
「大方、キョウトに支援してもらえないから、黒の騎士団の振りをして人員の確保でもしてるんでしょうね。」
「ずいぶんと詳しいんだな…カレンは…」
ライのその言葉に激情に任せた先程の勢いはなくなった。
「まぁね…学園のウワサ話でも聞いていたら中々詳しくなるものなのよ…」
「そうなのか…」
こんな会話をしていると、軍からサザーランドまで出てきた。
これでもう安心だろうと思っていると、
「ここにいるのはテロリストだけだ…そうだな?」
サザーランドは音声を外部に聞こえるように会話をしている。
「そうです中尉、ここにいるのはテロリストだけです。」
そんなはずはない、明らかに子供、女、老人までいるのだ。一般人も残っているのは誰でもわかること。しかし、
「なら、ここにいる全てを殺せ。もうブリタニアに逆らえる気を失くしてしまえ!」
「Yes , my load. イレブン全てを殺します!」
その言葉通りとなった。
素足のまま逃げる5歳児ぐらいの少女をサザーランドは踏みつぶす。
骨の軋む音、鈍い骨の折れる音、内蔵が潰れる音、それら全ての音が一度の踏みつけで聞こえてくる。軋み、折れ、破裂する音が…
内蔵が潰れて肝が出る瞬間は、戦争をやってる人間でも見るに見れない光景で、残酷以外の何物でもない。
しかし、それらの行為は道端の蟻を踏みつぶした時のように、何事も無かったかのようにブリタニア軍は前に進む。
泣く赤ん坊を抱き抱えて逃げまわる母親をマシンガンで打ち抜く。
母親は盾となり赤ん坊を庇っていたが、銃弾はそれすらも突き破り、赤ん坊は泣かなくなり、母親は血の海の中を赤ん坊の名をか細い声で何度か呟くと動かなくなった。
「イレブンが子供を産むな、汚らわしい!その赤ん坊も同罪だ。」
操縦士はそう吐き捨てた。
このあまりに酷い惨劇をライは握り拳を自分の血で汚しながら見ていた。
「酷い…酷過ぎる……」
あまりの惨劇にカレンは下を向いていた。あまりの怒りで体を震わせながら、涙を堪えながら…
ドカーン
急に爆発音がしたと思うと、何かがカレンに向かって倒れてきた。
「カレン!」
ライはとっさにカレンを庇った。幸いにもその何かはライ達にぶつかる前に止まった。
「ライ!大丈夫なの!?」
カレンがライを心配する声、それと同時に中年男性が悲鳴と共に逃げ出した。どうやらテロリストのようである。
ライ達に向かって倒れてきたのは無頼だった。どうやらさっきの爆発に驚いてパイロットが操縦ミスをし、こけてそのまま逃げたのだろう。
「ああ大丈夫だ。それよりカレン。」
「何?」
カレンは心配そうに聞いた。
「カレンはKMFの操縦は?」
「え?できる…できるわけないじゃない!」
戸惑いながらも否定する。
「そうか…なら僕がこの無頼を操縦するよ。」
「え!?できるの?」
「できる、できないは関係ない…やらなきゃ死ぬんだ!」
「………」
カレンは黙り、二人は無頼に乗り込んだ
ライは不思議な気分だった。ペダル、メーター、操縦桿、全ての装置が何を意味するのかを理解できるからだ。しかし今はそんな事は言ってられない、それに…
「それに、意地があるんだよ。女の子は護らないといけないし」
「えっ?」
予想外の言葉にカレンは驚きの声をあげる、ライは無頼のキーがつけっぱなしである事を確認し微笑みながらこう言った。
「これでも男だからね。」
心配させまいと彼なりのフォローであるが、カレンはそう言ったライの顔を何故かますっぐ見れずに、俯いてしまった。
ライは無頼を起動させる、これからが問題だ。とにかくカレンを死なす訳にはいかないそれに、記憶が失ったまま死ぬのもゴメンだ。
ガレキの脇から3体のサザーランドが出てきて、こちらにマシンガンを撃ってきた。
「くっ…こんな奴らに負ける訳にはいかないんだ!」
操縦桿を前に倒した、その間にペダルを20回弱踏み込む、力加減もバラバラで緩急をつけて、敵KMFに突っ込んでいく。銃弾の嵐の中をすり抜けるかのように…
ライの操る無頼はマシンガンの弾を一つも浴びる事なく、スタントンファンで相手サザーランドを1体破壊した。
「す、凄い…」
カレンが横で何かを言っていたがそんな事を気にする余裕などライにはない。
残りの2体が動揺している間に破壊しなければ、こちらが死ぬことになるからだ。ライはスタントンファンをもう一度使い破壊しようとするがそれはさすがに読まれてしまい避けられた。
「ならっ!」
ライはまたスタントンファンを使った。それは、当然のように避けられる。しかしサザーランドの避けた先には壁があった。
「これで終わりだ!」
ライはスラッシュハーケンをサザーランドに打ち込み見事に沈めた。
「残りは1体だ…」
無頼を最後のサザーランドの方へ向ける。サザーランドも無頼の方に向けている。しばしの静寂……
時間にすれば数秒であるが、命のやり取りを行う戦闘の場合は何分にも感じられる。それ程、空気は張り詰めていた。
痺れを切らし先に静寂を打ち破ったのはサザーランド。マシンガンで弾幕を張り、撃ち尽くす勢いで無頼に向かっていく。
しかし無頼に銃弾が当たるどころか、カスリもしない。
「これでチェックメイトだ。」
サザーランドの視界から無頼が消えたと思った瞬間、無頼はサザーランドの後ろでスタントンファンを振り上げ、強打し大破させた。
(何て腕なの?無頼でこれだけ動きをするなんて見たことないわ…)
「これで少しは安心でき…ないか…」
ライの目の前に現れたのは無頼である。テロリストの識別番号とは違っているし、逃げ惑う人達を守りながら、サザーランドも破壊している。
「正義のヒーロー登場ってね。」
「玉城、あんまり調子にのるなよ。」
「分かってるって扇。」
オープンチャンネルを開きっぱなしあちらの会話を聞く、どうやらまた違う組織のようだ。こちらに気づき4機の無頼に囲まれる。
こちらの無頼はテロリストのものであり、彼らから見たら唯の敵だ。
「次から次へとピンチが続くな…(残りのエナジーは約29%、マシンガンの残量は元々0だ。銃で威嚇もできない。ここで戦ったらエナジーが空っぽになる…)」
数も武器も負けている、圧倒的不利な状況だった。しかし絶対に生き残なければならない。
その時、両目が熱くなるのを感じた。焼けるような感覚であるが痛みはない不思議な感覚が彼に刻まれていくのと同時に彼に何かが宿りついたのを感じた。
(不思議な気分だ。この力ならこの戦況を抜けれることができる!)
ライがハッチから出ようとすると、
「彼らが黒の騎士団よ!」
と言って無頼のハッチから出て手を振った。カレンは学生服のままここにいるので、民間人だとわかってくれれば、助けてくれると思ったのだろう。しかしライは操縦桿を握りしめた。向こうがどんな対応をしてもいいように。
しかし、無頼はライ達に道をゆずった。
「私達が敵じゃないって分かってくれたみたい。」
はたして本当にそうなのかどうかは分からないが、今はカレンの言葉を信じた方が良いようである。
「これで、終わりならいいんだけど…」
ライはペダルを踏み込み無頼を前進させた。
〇
「やっぱり全然だったかぁ…スザクのようにうまく扱えないな。」
「そんな事ないよ充分凄いよ!」
ライツはシュミレータから降りてそう言った。しかしその事についてロイドとスザク以外の人間は返答ができない。なぜなら…
「あはは、君最高だねぇ。適合率91%だよ?普通そんな数字出ないよ。65%あれば合格ラインなのにさ。しかもそのシュミレータはスザク君用にカスタマイズしてるのに…」
そうなのだ。スザクが一番適合率が高く、さらに所属が緩かった為もうこれ以上のデヴァイサーはいないとロイドが判断し、徹底的にスザクにあわせたKMFそれこそが現在の嚮導兵器z-01 ランスロット。
黒の騎士団からは「白兜」と恐れられている特派最高のKMFだ。
それを扱えるパイロットなどスザク以外では帝国最強の12騎士、ラウンズくらいのはずだった…
「そうか?スザクに比べるとまだランドスピナーを充分に使えていないぞ?」
この男は自分が何をやらかしたのか分かっていない。
ロイドが急ぎすぎたのでスザク用完全カスタマイズの操縦席のままであったのに、この適合率はありえない。
スザクは今では適合率98%以上でランスロットを扱えるようになった。最初の搭乗時も94%でありライツより上ではある。しかしスザクとて他人に徹底的に合わせセッティングされたランスロットを91%以上扱えるかは分からない。
適合率はすなわちランスロットの相性。ランスロットはその性能の高さから人を選ぶ機体、座席の高さ一つにとっても数%は誤差が生じてしまう。
それをスザクに徹底的に合わせた機体でしかもシュミレートとはいえ初運転でランスロットをこうもあっさり扱える存在の人間にロイド以外の人物は口が開くことができないほど驚いたのだ。
専門家ならそうなるのは当然と言えるだろう、それ程の事なのだ。
「いやー、でも嬉しい限りだよ。優秀なデヴァイサーが二人もいるなんて。ぐふ…ぐふふふ…」
ロイドは頬を赤らめながらニタニタ笑う、傍目からみたら変態としか思えない程とてつもなく嬉しいらしく子供のように騒いでいる。
「これからもよろしくね、ライツ。」
スザクは改めて握手を求めた。
「あぁ、こちらこそよろしくスザク。」
二人は固く握手した。これから作ろうとする絆の為に…
〇
「はぁー、助かった。」
ここは、もうアッシュフォード学園の近くであり、危機を脱したのは言うまでもない。
ライは危険を脱した事に喜びでいっぱいだったが、赤髪の少女は複雑な気持ちで満たされていた。
(なぜ記憶喪失の彼がKMFを扱えるの?それに腕も良い…もしかしたら私と同じぐらいかもしれない…)
的確に敵を撃ち落とし、相手を自らの罠にかけそれを実行する。それは彼女が尊敬するゼロと被る程だった。
「色々とすまないカレン…無理に連れてきてしまって…」
カレンがその言葉に気付きライの方へ振り向くとライは申し訳なさそうな表情でカレンを見ていた。それはそうであろう、病弱でありお嬢様である彼女を恐ろしい目に遭わせたのだ。そうなるのは当然と言えるだろう。
「いいわよ、もう済んだことだしね。」
カレンは頬笑みながらそう言った。しかし、ライにとってはこんな目に遭わせてしまった負い目があるので、
「今度この埋め合わせとして、僕ができる範囲なら君の願いを叶えるよ。」
と言った。
「分かったわ、約束ね。」
カレンは小指を出した。ライも小指を出した
「「指きりげんまん、ウソついたら針千本のーます、指きった」」
歌い終わり、カレンは疑問が頭に浮かんだ。
「あれ?ライ何でこの歌知ってるの?」
カレンは頸を傾げた。明らかにライはブリタニア系の顔をしているし、記憶も無いはずの彼がこの歌を知っている事を不思議に思ったのだ。
「そういえばなんでだろう?昔から知ってた気がする。」
『お兄ちゃんなんだから の面倒見てあげてね。』
『えー、ボクお外で遊びたいのに。』
『あのね、お外で遊んでる時に自分だけが仲間外れにされたら嫌でしょ?』
『うん、嫌だよ。』
『それは も同じ気持ちなの、自分がされて嫌なことは人にしないって約束だよね?』
『うん…』
『じゃあ もお外で一緒に遊んであげる?』
『うん!約束する!』
『じゃあ小指出して。』
『『指きりげんまん、ウソついたら針千本のーます、指きった』』
『約束よ。』
『うん、分かった!』
(何だ?これは…小さい頃の僕?隣にいるのは誰だ?うっ…頭が…)
「ライ?大丈夫なの?」
カレンはライを心配そうに見ている、ライは頭を抱えておりとても苦しそうだった。
「はぁ…はぁ…もう大丈夫だよ、ごめん心配させて…急に頭が…痛くなってさ…」
息も絶え絶えにライは言った。しかしライの顔は蒼い。
「今日は色々あって疲れてるのよ、もう帰りましょう。」
そのカレンの言葉にライはうなづき、別れの挨拶をすると学園の方向へ歩いて行った。
「…ゼロに報告しよう。」
カレンはそう呟くともと来た道へ歩きだした。
某所 黒の騎士団基地
「ブリキ野郎の他にもあんなくだらねぇ事するなんてよぉ。」
「全くだ。同じ日本人として恥ずかしい。」
乱暴そうな男は酒を飲みながら背の高い男が話し合っていた。
「ったくよー、カレンも何で学生服であんなとこにいたんだ?」
「さぁな?俺から聞いてみるよ。」
「頼むぞぉ、扇ぃー、カレンに何かあったらナオトに何言っていいかわかんねぇぞ?」
「あぁ、そうだな玉城。ナオトの分もカレンを守らないとな。」
「ナオトぉー、早く帰ってこいよ…カレンが可哀想だろぉーが!」
「玉城その辺にしておけ、ナオトはいつか帰ってくるよ。皆そう信じてる。」
「うぅーー、ナモチョォー。」
玉城は酒を飲みすぎ呂律が回っていない。顔は真っ赤である。
「ったく、酒を飲むといつもこれだ…」
「ぐがぁ~むにゃむにゃ…」
扇は文句を言いながらも眠った玉城を担ぎ、ソファーに寝かせた。
「…ナオト…生きてるよな?」
扇は独り呟いた。ナオトというのは扇の親友であり、黒の騎士団の元となったレジスタンスのリーダーだった男であり、カレンの兄でもある人物だ。
とあるレジスタンスの活動の最中に爆発に巻き込まれ生死不明となった。
扇達は懸命に捜索していたが、彼の手がかりとなる物は発見できず、見つけたのは中にカレンと母が写っているロケットのみだった。
カレンや母親にその事を告げたときは胸が痛かった。
カレンは泣き崩れ、母は何も言わなかったが、カレンの話では夜な夜な泣いていたらしい。そしてカレンは兄の意志を受け継ぎ、
そして兄を探す為にレジスタンスに入ったのだ。
「それにしてもやっぱり兄妹だよな、KMFの運転にしたってカレンは上手いし、今日だって無頼であんな動きができるなんて…」
玉城を部屋で寝かしたあと扇は家と帰ろうとすると見慣れた赤髪の少女に逢った。
「あっ、扇さん。もう帰りですか?」
「あぁ、今日は家に帰っていいとゼロが言ってたからな。」
「そうですか。じゃあ私、今日の事報告しなきゃいけないいで失礼します。お疲れさまでした。」
「カレン」
カレンが立ち去ろうとするのを扇は呼び止めた。
「はい?」
不思議そうな顔をして扇を見ている。
「あんまり、無理しすぎるなよ…お前は俺達のエースでもあるが、親友の妹でもあるんだ。お前に何かあったら、ナオトにあわす顔がないんだ。」
「扇さん…」
「こんな事を言うのも変な話だがな、いつ死ぬか分からないレジスタンスにお前を入れているのに…」
「………」
「言いたい事はそれだけだ。悪かったな止めてしまって…」
無言のカレンを見るに見兼ねた扇はその場を離れようとする。
「扇さん」
カレンは立ち去ろうとした扇を呼び止めた。
「ん?何だ?」
「私は、死ぬわけにはいかないんです。それがナオトお兄ちゃんとの約束ですから…」
そう言って扇に一礼をして司令官室に向かって歩き出した。
「ナオト…俺はどうすればいいんだ?」
誰もいない廊下にその悩みだけが響いていた。
「失礼しますゼロ。」
ノックをした後「入れ」という短い許可をもらいカレンはドアを開けた。
「今回はとんだ災難だったようだが…君が無事で何よりだ。」
仮面を被り、マントをした人物、傍から見ても怪しい格好の人物が黒の騎士団総司令官ゼロであり、カレンが尊敬してやまない人物。
何やら資料を見ていたらしく、机の上にキチンと並べてあった。
「お邪魔でしたか?」
「いや、かまわない。で何の用だ?」
「ゼロ今回の件で一つお話があります。」
「その場にいた青年のことか?」
「ご存知でしたか?」
「あぁ、中々に面白い人物であると報告を受けたが…その人物にKMFを操縦した事がバレタという事だろう。」
ゼロはそういう事だろうと思い手回しをしている最中であったのだが、
「いえ、操縦していたのは私ではありません、その彼です。」
「何だと?」
予想外のカレンの返答に驚きを隠せないゼロ。
「どういうことだ?報告では記憶喪失だという事であるが…」
「詳しくは分かりませんが…あのKMFの操縦技術は黒の騎士団に必要かと…」
「うむ…カレン君はその青年の観察を頼む。私も独自に調べてみよう。」
カレンはこれ以上報告することはなかったが、先ほどの扇の事を思い出した。
「あの…ゼロ、私事ですがお願いがあります…」
「何だ?(カレンが私にお願いとは珍しいな…)」
いつも従順な部下として働いてくれるカレンがゼロにお願い事をする事はなかった。なぜなら彼女の一番の願いは日本の解放であり、その為にゼロの元に集まったのだから。
それ以上をゼロに求めていないと思っていたからだ。
「…紅月ナオト、私の兄について分かった事があったら教えてください。」
「…君の兄か……分かった。調べておこう。」
「あ、ありがとうございます。」
「では、もう下がっていいぞ。」
「はい、失礼しました。」
扉が閉まり、足音が遠ざかっていき聞こえなくなり、誰もいない事を確認するとゼロは机に置いてあった資料の一つを手に取り視線を落とした。
「プロジェクトR2…」
先日、ブリタニア軍の研究施設にハッキングをした時“プロジェクトR2”なるものを発見し、その資料をゼロは見ている。
「これが本当に行われているという事か?…」
その計画はあまりに単純でもっとも得難いもの。人材の換わりがいくらでもきくような、人を人と思わない計画内容であった。
「……クローンか………」
(確かにクローンならIDはない。人権問題で貴族や皇族の間でも騒がれているから、表向きには公表できないからな…)
内容は単純なもの。ラウンズクラスの身体能力を持っているものを効率良く増やす為に考えられた計画であり、それ自体は3年前に考えられたものである。
可にはなっているが、表向きにバレタ時の保険とも考えられる。計画の正式名称は
“Rounds 2nd Project”(二世代目のラウンズ計画)という事らしい。
ラウンズクラスの人間が捨て身の覚悟で任務を遂行する。替え玉はいくらでもいるから、何人死んでも構わないというもの。
計画の情報は少ない。元々のデータはプロジェクト案のみで、実際に実行されたかどうかも分からないからだ。
(ライは誰かのクローン?整形などすれば、分からなくなるしな…いや、血液検査をしてみなければわからない。可能性はある。が…確証に至るデータはない。)
クローンが誕生したかどうかは不明。しかも現在の自分の知っている限りの技術で言えば、再生医療で幹細胞を利用する体細胞クローンの方が合理的である。
何故なら臓器を複製し機能の損なわれた臓器と取り換える事ができ、戦争の医療技術においてそれは魔法とも言える技術であるからだ。
(まぁ、情報は真実のみとは限らないしな…)
この事に関してはライの血液検査をしてから考えることにし、机の上においてあったもう一つの資料を手に取った。
そこに書かれている資料を見る事はゼロ以外禁止している。何故なら…
「カレンの兄の件か……おしい人材だったな。優秀な人材だったんだが…」
2つ目の資料にはブリタニア軍が調べた死亡者リストその中には、はっきりと彼女の兄の名が刻まれていたから………
お・ま・け
「うー、ナオトォー。」
「この酔っぱらいの相手をしないとはね。」
「ナオトーー!」
「ったく何でこの私が玉城の面倒みなきゃいけないのかしら」
「そりゃぁ扇に頼まれたからだろ?俺たち今日何もしてないしな。」
「うっさい、少し黙りなさい!玉城も起起きる!」
「うーん。」
「おっ?起きたぞ井上。」
「見たらわかるわよ」
「ナオト生きてたのか?心配したんだぞー」
「ダメだこりゃ完全に寝ぼけてるわ…」
「ナオトー!」
「コラ!玉城アンタ抱きついてくんな!」
「ナオトー良かった、良かった。」
「コラ、髭をなすりつけるな!杉山も手伝いなさいよ!」
「お~、あんなに殴られても止めようとしないとは…」
「あ、ちょっと玉城!そこは触るな!あん…耳に息をふきかけるな! ふんっ!」
ボゴっ、メシメシ
「ぐひゃ…お、おえ~~~~~~~~~~」
「おぉ、女のボディブローは初めて見たぜ…しかもモロ入った。」
「あぁ~ん、私、玉城に汚された~~」
「玉城、可哀想に…ゲ○吐いて、泡吹いてる。」
「井上…無茶しないといいけど…」
「模擬戦ですか?」
涙を流すのは 悲しみ 怒り 喜び 何らかの感情が許容範囲を超えた時におこる
彼は涙を流さない 許容範囲を超えることがないから……
次回 コードギアス LC ~反逆者達の願い~ Action03 帝国 最強の 騎士
「男が涙を流す時は、全てを終えたときだけだぜ。」
「危なかった…ギリギリだよ…」
動きだした運命はさらに加速する
最終更新:2009年06月23日 03:37