041-111 反逆のルルーシュ。覇道のライ TURN03 「ナイト オブ ラウンズ」 01 @POPPO



日が沈み、中華連邦総領事館の広場は暗闇に包まれていた。そして、黒の騎士団の団員達も混乱の境地に陥っていた。困惑が支配する中、ゼロは姿を現した。団員達の話声は止み、彼らの視線はゼロへと集まっていった。壇上にはゼロを中心に、左右には扇と藤堂が肩を並べていた。団員達の最前列にいた四聖剣の一人、千葉は言葉を紡いだ。
「ゼロ、とりあえず今回のことは感謝する…一年前のことも含めてな」
「…ああ。あの離脱はEU亡命の脱出ルートを確保するためじゃったと聞いた。二〇一七事件は仕組まれた戦争だった…最初から負け戦だと知っておったのじゃな?」
『君たちが何を思おうが構わない。私はただ、ブリタニアに勝つためにやっただけだ』
ゼロは何の謝罪もなく言い放った。その言葉に千葉がゼロに迫ろうとしたが、彼女の肩を朝比奈が掴んだ。
「朝比奈!何故止める!?」
千葉は彼の方に振り返って叫んだが、彼女は息をのんだ。朝比奈はゼロに対する明確な敵意を向けていた。そして、彼も口を開いた。
「……ライ君は、どうして君を裏切ったんだい?」
朝比奈は、団員達を困惑に陥れた驚愕の事実を、ゼロに重い口調で問いただした。他の幹部たちもせきを切ったように声を上げはじめた。その中で、一際大きな叫び声が団員達に響いた。
壱番隊の副隊長だった杉山は叫んだ。
「答えろ!ゼロ!ライはっ、なんでブリタニアなんかに味方してるんだっ!あいつが…あいつが俺たちを裏切るなんてあり得無い!」
「おいっ!なんとか言えよ!ゼロ!」
「そうだ!俺たちが納得のいく説明をしろぉ!!」」
彼らの声は益々大きくなっていく。ゼロの隣にいた藤堂も、ゼロに鋭い視線を向けながらゼロに声をかけた。
「……ゼロ。私も聞きたい。彼は…ライ君は、なぜ、ブリタニアの騎士に、それも帝国最強の騎士、ナイトオブラウンズになったのだ?」
「…まさか、ライがブリタニアのスパイだった、なんてことは…ない、よな?…ははは、カレンを裏切るなんてこと、彼がするはず……っ!」
扇は下に俯き、身を震わせていた。カレンの心情を考え、身が引き裂かれるような思いを味わっているのだろう。彼は唇を強くかみしめた。
『詳しい事情は話せない。だが、これだけは言っておく』

『ライは、敵だ』

ゼロの言葉に、団員達は息を呑んだ。動揺する団員達を見ながら、ゼロは拳を握り締めた。
その姿を見た団員たちもゼロの心情を察し、ゼロにそれ以上追及しなかった。
仮面の下にいる男、ルルーシュ・ランペルージは激しい激怒に身を焦がしていた。
(シャルル…お前は、ナナリーだけではなく、ライまで俺から奪ったのか!!くそっ!何が敵だ!ライは俺の仲間であり、親友だ!)
ルルーシュは全身が凍えるような罪の意識を感じていた。それもそのはず、ギアスのことを説明できず、黒の騎士団の困惑を鎮めるためとは言え、親友であるライを『敵』と口にするのは身を引き裂かれる思いをしていた。
彼の心に宿った復讐の炎は、より激しさを増す。
(…いずれ、取り戻してみせる。待っていろ。シャルル…)

中華連邦領事館の一室で、大きなベッドに横になっているカレンにC.C.が付き添っていた。カレンの瞳に力はなく上半身を起したまま、頭を項垂れていた。重い空気が漂うなか、C.C.はカレンに声をかけた。
「薬は飲んだか?」
「…ええ」
活発な彼女からは想像できないほど弱々しい返事だった。カレンはC.C.と目を合わせない。C.C.はカレンから目を離し、窓に映る夜景に視線を向けていた。月が見えない夜を、ただ見つめていた。幾ばくか時間が経ち、今度はカレンから話を切り出した。
「…ねえ、C.C.」
「…ん?どうした」
C.C.は微笑みながらカレンを見た。だが、カレンはうつむいたまま、視線を合わせない。
「C.C.…私、これからどうすればいいの?」
C.C.は答えなかった。ただ、無言でC.C.は椅子に座ったままカレンを見つめ続けた。
「私は…ライを探すために、黒の騎士団にいる……そして、EUで戦った、あの青いランスロットが…」
「…リリーシャが想定していた、最悪のケースだったな」
その言葉にカレンは両腕を握り締め、体を震わせ始めた。唇も震えだし、C.C.は彼女の異変を察知し、テーブルにあるバッグの中身を見た。そして、ゴミ箱の中身が目に入り、C.C.は驚いた。
「…お前、一日に一体何錠飲んでっ…!」

その時、自動扉が開き、制服姿のリリーシャが部屋に入ってきた。足音が響き、マントを靡かせながらC.C.たちに近づいた。
「カレンさん。具合はどう?」
リリーシャはバッグを担いだまま、カレンに歩み寄った。そして、両手でカレンの手を取った。彼女はカレンに微笑んだが、反対にカレンの表情は険しくなった。突然、カレンの手に力が篭った。
「返してよ…」
カレンの声は震えていた。そして、冷たく、殺気が込められた口調で。
「貴女が、特区日本を…壊さなければ、私はライと…ずっと一緒に、いられたのに…」
彼女はナイトメアのエースパイロットであり、身体能力は平均男性より遙かに上回っている。握力も他の女性とは比較にならないほど強い。その握力で握られたリリーシャは表情を歪めた。
だが、リリーシャはカレンから手を離す事もなく、カレンから目を離さなかった。カレンは一方の手でリリーシャの制服をつかみ、零れおちる涙も拭わずに叫んだ。
「返してよ…ライを返してよぉ!」
リリーシャの隣にいたC.C.は、カレンがリリーシャに暴行を加える気配を感じ取り、カレンの肩を強引に掴んだが、リリーシャはそれを視線で制した。
「カレン!」
リリーシャはカレンの背中に手をまわした。腕に力を入れて、彼女を安心させるために強く抱きしめた。
「返してよぉ…」
体の震えを止めたカレンは、ゆっくりと瞼を閉じていく。リリーシャはカレンの赤い髪を撫でながらも、眠りについた彼女を抱きしめたままだった。
「カレンさん…ごめんね。ごめんなさい…」
C.C.はカレンの赤色のバックから緑色のケースを取り出し、テーブルの上に置いた。その中には数錠の白いカプセルが入っていた。
「カレンは薬なしでは眠られない体になっている。だが、この睡眠薬も限界だ…」
リリーシャはカレンの体をベッドに横たえさせた。彼女の目元にある涙の跡をそっと拭った。ようやく睡眠薬の効果が効いてきたらしい。緊張で張り詰めていた表情が徐々に消えていく。リリーシャは毛布をかけた。
「リリーシャ…お前はこれからどうする?私との契約は果たした。だからといってギアスが無くなるわけではないが…お前が黒の騎士団にいる理由は…」
「あるわ」
C.C.の声を、リリーシャは強い口調で遮った。
バッグを肩に掛け直し、意思が宿った琥珀色の瞳が、魔女を射抜いた。
「ライ先輩を取り戻す…これは、私とカレンさんとの、契約だから」
C.C.はリリーシャにそれ以上、何も言わなかった。


コードギアス LOST COLORS
「反逆のルルーシュ。覇道のライ」

TURN03 「ナイト オブ ラウンズ」



2機のナイトメアフレームの剣が交差する。
一機はナイトオブワンのナイトメア、『ギャラハット』のエクスカリバーであり、もう一機はナイトオブツー、ライ・アッシュフォードが駆る専用機、ランスロット・クラブ・イスカンダルが持つ「黄金の剣」だった。
出力が拮抗し、白い粉塵が一瞬遅れて舞い上がった。
その時、大きな笛の音ともに御前試合終了の合図が鳴った。スピーカーから低い大声が聞こえた。
『そこまでっ!』
『双方、剣を収めよ!只今の勝負、2対2の引き分けとなる!』
周囲から歓声が上がった。
コクピットから降り立ち、ビルマスクと握手を交わすライを、名のある貴族たちは強化ガラスの向こうから見ていた。背もたれの高い椅子に深く腰掛け、使用人からワインの入ったグラスを受け取っていた。
「おおっ、ナイトオブワンと互角とは…」
「武術だけではなく、政治の腕も長けているようで…あのシュナイゼル殿下と並ぶ腕前と聞きますぞ?」
「いやはや…陛下のお目にかなうだけのことはありますな」
「ふん!平民風情が出しゃばりおって…」
また、一方の貴族の令嬢たちはライを見ながら、心を躍らせていた。いくら身分が高いと言えど、所詮は話が好きな少女たちだ。純粋に強く、聡明で美しい人間に心惹かれるのは当然である。
「きゃーっ!あれがライ様よ。女の子のような綺麗な顔立ち。9つの国家を征服した軍人とは、とても思えないわぁ」
「ラウンズ最強、とも名高いって噂よ。あの若さでヴァルトシュタイン卿と肩を並べる実力だなんて…」
「はぁ…ライ様、なんて素敵な殿方なのかしら」

皇帝陛下が御前試合を見物する中央のフロアの真下に、強化ガラスを使用したマジックミラーで覆われている席があった。飾り立てられた12の椅子があり、ガラス張りの観覧鏡の上下には先ほどの戦いがあらゆる角度でリピートされていた。
その中には帝国最強の騎士、ナイトオブラウンズの面々が異なる色のマントを羽織い、先ほどの決闘を観察していた。
12人の席と一人一人に仕える使用人がいるのだが、誰一人として席に座っていない。ラウンズたちは皆、席を立ち、食い入るように見入っていた。
それもそのはず、両者とも帝国の頂点に立つナイトオブラウンズの中でも最強と言われる騎士の頂上決戦なのだ。
戦いを好み、直の殺し合いに身を投じてきた者にとってはこれほど胸を高鳴らせる試合は他には無いだろう。模擬戦と言えど、ナイトメアの戦いは真剣そのものだ。
電子音が鳴る。小型のデジタルカメラにライの笑顔が写っていた。ピンク色のマントを羽織う帝国最強の騎士の一人、ナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイムはデジタルカメラを操る手を止めた。
他のラウンズと比べて露出度の高い服を着ている桃色の髪の少女は不満げな顔で、黄色い声を上げている女性たちを見ながら呟いた。
「……あいつら、うるさい」
緑色のマントに身を包む長身の青年、ナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグは彼女の言葉に苦笑を漏らす。
「おいおい…貴族の令嬢に向かってそれは無いだろ。アーニャ」
反対側と真上から映し出されているモニターを交互に見ながら、ナイトオブナイン、ノネット・エニアグラムは、両腕を組んで思案する褐色肌の女傑、ナイトオブフォー、ドロテア・エルスントに声をかけた。
「…ライに可変ハドロンブラスターを持たせてたらどうだったかな?なぁ、ドロテア」
「ビスマルクの勝ちだ……とは、断言できないな」
彼女たちの年齢は比較的に近いが、性格は正反対である。ノネットは融通が利くお調子者に入るが、ドロテアは融通が利かない真面目な軍人だ。
水色のマントを羽織る彼女は冗談など口にしない性格である。ゆえに、彼女がノネットの話に答えた意見は彼女の本心そのものだった。
ラウンズのメンバーがライの実力を目の当たりにし、競争心を燃やす視線、または好奇の視線を送る中、ナイトオブセブンの枢木スザクは、彼らとはまた違った感情を込めた眼差しで見据えていた。
嫉妬でも、競争心から来る感情でもない。相手を冷静に分析し、彼の一挙一動から何かを探るような視線、そう、敵と対峙したときに見せる敵意に近かった。
スザクの纏う雰囲気を敏感に感じ取った金髪の青年は、彼に陽気な声で話しかけた。頭一つ高い体をのしかけて、甘えるような態度で肩をスザクの頭に乗せた。
「スザクー。どうしたんだよ?そんな怖い顔して」
スザクは瞬時に表情を変え、まだ強張っている部分があるものの、年齢相応の柔和な表情をつくった。
「ん…いや、ライはまた腕を上げたな、と思って…」
桃色の髪の少女は携帯を操作する手を止めて、スザクを細い視線で見つめた。アーニャはスザクが時折ライに向ける表情が嫌いだった。
アーニャの横で手すりに寄りかかりながら、足元の近くにあるモニターを見つめる女性が呟いた。そこには真上から映された御前試合が流されていた。彼女が羽織る黄緑色のマントが揺れる。
「…そうねぇ。フロートユニットの導入でナイトメアも大きく様変わりしてるし、もっと訓練に身を入れなきゃね」
「あははっ。モニカさん。模擬戦なら私がお相手しますよ?もちろん、今夜のパーティーのエスコートも」
「うふふっ。あと3年たったらお相手してあげるわ♪」
「ありゃ…それは残念」
誘いを失敗したジノを見て、スザクは苦笑の表情をつくった。ジノは少しも気にしていないのか、辺りを見回してナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキーに違う話題を振った。
「うん?そういや、ブラッドリー卿はどうした?」
「血が騒ぐって…」
モニカはそう言うと、黒のグローブを付けた手の親指で、ガラス越しに見えているコロッセウムを指した。
それに皆は彼女の意図することに気づいた。その建物はラウンズとその直属部隊、そしてロイヤルガードだけが使用できるトレーニングルームが設備されている場所だった。
白い自動扉が開き、一人の兵士が赤い絨毯で覆われているこの部屋で、膝を折った。
「ナイトオブラウンズ様。食事の席が用意されております。先ほど、ナイトオブファイブ様とナイトオブイレブン様は前線に戻るとのことで、欠席されました」
「…さっきの戦い当てられたのが、3人ってとこか」
ジノが指す人々は、ナイトオブファイブとナイトオブイレブン、そしてナイトオブテンの3人の騎士である。
「4人だよ。ジノ」
ノネット・エニアグラムは唐突につぶやいた。ジノ・ヴァインベルグは呆けた声を出してしまった。
「へ?」
「私の『ヴァンガード』と、ライの『イスカンダル』…どちらが強いか試してみたくなった」
顎に手を当て、口を歪にしながら、ノネットはモニターに映されている先ほどのランスロット・クラブ・イスカンダルの動きをじっくりと観察していた。彼女の表情を見たモニカ・クルシェフスキーは小さくため息をついた。
「…あらあら」
「物好きな奴らだ。私は先に行ってるぞ」
ふん、と鼻を鳴らせた後、ドロテアは不敵な笑みを浮かべた。そのまま水色のマントを靡かせて、ドロテア・エルスントは膝を返し、純白の観覧席から出て行った。 
ドロテアが通り過ぎる時、モニカは彼女の横顔から隠しきれない闘争心を見抜いた。
モニカは皆の予想通りの反応に、今度は大きなため息をついた。彼女とて、ナイトオブワンとの接戦を見せつけられ、戦士としての闘争本能が駆り立てられなかったわけではない。むしろ逆だ。彼女のノネットや他のラウンズ達と同様に、心にともった火は今だに燻っている。
だが、彼女にはそれよりも気になることがあった。モニカは膝を折ったまま仕えている兵士に声をかけた。
「ねえ、控室は空いてるかしら?」
彼女の声に、アーニャが携帯の画面から目を離して反応した。彼女にしては珍しく、瞳には多少の驚きが浮かんでいた。
「…え?モニカ」
「は。空いておりますが…」
「ほら、アーニャ。ライが戻ってくる前に、早く行ってきなさい。持ってきてるんでしょ?『あ・れ』」
「…う、うん」
モニカはアーニャの背中を押すと、兵士と一緒に観覧室を退出する彼女を見送った。ジノとノネットはアーニャの後ろ姿を見ながら、意地悪い笑顔を浮かべていた。スザクも彼らの笑顔の意味を察し、苦笑いをつくる。
モニカは今日何度目か分からない溜息をつくと、彼女の後ろで事態を把握してニヤニヤしている二人に話しかけた。
「見てられないのよね。アーニャの不器用さは」
「そうか?私は好きだぞ。それに、マリーカも加われば賑やかになるじゃないか」
「ははっ、会食の席が楽しみになってきた。なぁ、スザク」
「……重いんだけど」

中華連邦領事館の会議室で、中華連邦の国旗を背に高亥は席に座っていた。星刻は彼の側に立ち、ソファーに座っているC.C.を見ていた。高亥は痺れを切らしたのか、緑色の髪を持つ少女に声をかけた。
「ゼロは?ゼロは何所にいるのですぅ?」
「もう少し待て。直に来る」
「そういえば、紅月カレンさんはどちらに?」
「今は休ませているが…何だ。あの女に興味があるのか?」
C.C.の冗談混じりの言葉を受け、微笑みながら星刻は返事をした。彼の長い髪が揺れる。
「ええ。貴方達、黒の騎士団にね。特に、二〇一七事変でナイトオブラウンズを、それもあのセルゲイ・サザーランドを倒したという「ゼロの双璧」とは、ぜひお会いしたい」
その言葉に、C.C.は声を潜めた。だが、沈黙が訪れることなく、一人の男が扉から彼らの目の前に現れた。3人の視線がその男に注がれた。
その男の背丈は190cmを超え、金髪の長髪を後ろで結わえていた。黒の騎士団の制服を身にまとい、精悍な容姿に鋭い緑色の瞳が宿っている。
高亥に一礼すると、手元にある資料に目を向けながら、容姿に似合わない低い声でC.C.に声をかけた。
「C.C.様。紅蓮可翔式『改』の整備も無事に終わりました。それと…」
星刻は、まだ20代に見える30後半の西洋風の男を見ながら、C.C.に話しかけた。
「レナード・バートランド…もしや貴方が、もう一翼の『ゼロの双璧』で?」
C.C.は星刻の言葉に、敏感に反応した。
「それはっ!…」
「いえ、私は…」

『違うな。彼は『ゼロの双璧』ではない』

星刻の言葉は、レナードの後から入室した『ゼロ』が返事をした。
「おおぅ!ゼロぉ!」
ゼロの姿に高亥は歓喜した。黒いマントを靡かせ、ゼロはソファーに座らず、正面から高亥を見据えた。星刻は目を細め、ゼロの姿を見ていた。
『最も、私の右腕であることには変わりは無いがな』
「おほほほ!EU屈指の軍事産業のバートランド社…その御曹司というわけですかぁ。流石はゼロ…」
星刻は高亥に続いて、ゼロに話しかけた。
「なにやら、先ほどのブリタニアの中継の後で、黒の騎士団に妙なざわつきがありますが…」
『ナイトオブツーとは一度、EUで刃を交えたことがある。しかし、あの『蒼の亡霊(ファントム)』が線の細い青年だったとは…団員達も驚きが隠せないようだ』
「今まで非公開にされていたナイトオブラウンズ…か」
星刻は小さな声で呟き、思慮を巡らせた。ゼロは彼の姿を横目に、高亥に要求を突きつけた。
『高亥殿、貴方に一時的にこの領事館の使用と、中華連邦の支援をお願いしたい』
高亥は席から立ち上がり、深く礼をした。仮面の下で、ルルーシュは黒い笑みを浮かべた。ギアスをかけた高亥はすでに彼の傀儡。裏切ることは万が一にもない。例えどんなに理不尽な要求だろうと。快く引き受けてくれる。予想通り、高亥はゼロの要求を承諾した。
「ははぁ!ゼロ様の仰せのままに」
「高亥様。黒の騎士団に味方をして、我が中華連邦に何の得が…」
「言葉が過ぎるぞ。星刻」
「……は」

(どうしてるかな。姉さん…)
王都ペンドラゴンで華やかな人波が行き交うパーティーの中、僕が最初に考えたのはミレイ姉さんのことだった。孤児だった僕を拾ってくれたアッシュフォード家のためを思って、この一年必死に頑張ってきたが、それでは姉さんの見合いが増える一方ではないかと今更気付いたのだ。
試合を終えて途端、有力貴族の方々が押し寄せてきた。今回のパーティーの主役は僕だが、それにしても、ラウンズの就任式くらいで騒ぎすぎだろう。
『ぜひ我が娘と…』とか食事の誘いの声があまりにも多くて困ってしまった。ミレイ姉さんは美人だから、僕より大変なことになりそうだ。
心の中で僕は姉さんに謝ることにした。

無名の騎士がラウンズに就任する。
僕の出世はブリタニア史の中でも例を見ない事例だった。皇帝陛下は僕が持っている『ギアス』を知ってラウンズを拝命したと思っているが、これはチャンスだと考え、とにかく自分の出来ることをした。
この一年、休む間も無いくらい多忙な日々だったが、ナイトメアの操縦はラウンズの人々に揉まれ、飛躍的に上達した。今ではヴァルトシュタイン卿に並ぶ実力だと評価されているし、政治や交渉手腕はシュナイゼル殿下からお墨付きを戴いたくらいだ。

ナイジェリア国、首都陥落し、征服。
エジプト共和国、戦争により敗北し、征服。
サウジアラビア連合国、戦争により敗北し、征服。
東インド国、交渉によって領土を支配下に置き、征服。
中アフリカ王国、王族の粛清によって征服。
オーストラリア、戦争により敗北を喫し、征服。
インドネシア連邦、全員一致の議会決定によりブリタニアの支配を認め、征服。
EU連合国の一つ、トルコ共和国、征服。
北アフリカ共和国、征服。
この一年で9カ国を支配下に置き、アッシュフォード家に僕が出来る限りの貢献をした。
周囲の人々は僕を称えていたが、そんなに大それたことだとは思わない。
僕は自分を過小評価しすぎだと言われるが、僕より自分自身を過小評価している男を知っている。
ルルーシュ・ランペルージ。
アッシュフォード学園で仲が良かったクラスメイトで、僕とスザク、そしてルルーシュはいつも3人でつるんでいた。
運動神経は僕とスザクに比べると大分劣るが、彼の思考力や的確な判断力に僕はいつも驚かされていた。チェスで僕と対等にやりあえたのは彼くらいものだった。
ルルーシュはすごい奴だ。学園を卒業したら本国に呼び出して、重要なポストに就かせてやりたい。そして、功績を立てて爵位を授かれば、ロロと自由な暮らしができる。
ルルーシュは人当たりが良くて、頭も切れる。唯一の肉親である弟を大事にする良いやつだ。
弟想いで、そこが彼の長所でもあるんだけど、ロロも年頃だ。彼女の一人や二人出来てもおかしくないが、厳しい兄の眼を考えるとロロに彼女が出来るのはまだ先かな、と思えてならなった。
考えにふけっていた僕は携帯のバイブレーションが鳴っているのに気づいた。携帯を取り出して、相手を確認した一通のメールが届いている。
(カノンさんから?)
メールを開こうとして、僕の周りにいた女性たちの声が突然止んでいたことに気づいた。ふと、僕は顔をあげた。
僕の思考はそこで止まった。
人が道を開けており、その先には一人の少女がいた。
彼女は、真紅のドレスを着ていた。
桃色の髪をした少女は唇にピンク色の口紅を塗り、煌びやかな髪留めで、いつもとは違う髪形になっていた。整った容姿は、化粧で大人びた印象を受けるが、幼さを残した面影が覗いている。
大人でも子供でもない、いや、大人でもあり子供である、魅力的な姿はまさに、
『天使』
そう呼ぶのが相応しいだろう。

「……ライとおんなじ」
「……」
いつの間にかジノが僕の横にいた。無言でジノが僕をつついてきた。周りにいた女性陣もアーニャの可憐さに気圧されていた。それも仕方がない、と僕は思う。
「とっても可愛いよ。アーニャ」
「……ありがとう」
頬を赤く染めたアーニャはとても可愛かった。


02

POPPO
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最終更新:2009年06月18日 22:19
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