041-363 鉄の道 六章 山越えの道中 @パラレル"

前話 (今章より作家名「テリー"」を「パラレル"」に改名)


汽笛の音が山にこだまし、その音を聞き狼達が振り返る。
その狼達の横をオリエントエクスプレスは駆け抜けていく、イタリア首都ローマを目指して。


「6章 山越えの道中」


「まったく、シャルルの子供好きにも困ったものだわ」
「むぅ、だからすまんと言っておろうにマリアンヌ」
肩身が非常に狭い思いをしているシャルルはマリアンヌと食事の為に8号車の食堂車「グレートブリタニア」に来ている
そこで発車時刻ギリギリに来た事をお説教中なのだ。
「まぁ無事に戻ってきてくれただけでも良しとしましょう」
「むぅ、すまん」
「まぁまぁマリアンヌ婦人その位にしておいて、美味しいお料理をどうぞ」
ちょうどウエイトレスが注文した料理を運んで来た。
「シャルル会長にはステーキセット、マリアンヌ婦人には刺身の盛り合わせ「暁」ですね」
「うむ!!ありがとう、では早速いただこうぞ!!」
「では、いただきます」
「ごゆっくりどうぞ」
ニッコリとするウエイトレスがその場を後にすると同時に
「あ、おじさんだ!!」
「ん?おーーーー、フランスで会った少年ではないか!!」
第一章でシャルルとぶつかってしまった少年ジルだった。
母親も一緒の旅行はこのオリエントでの事で今食事をしにシャルルとマリアンヌの座っている窓側の反対の窓側の席に座る。
「まぁ、あの時の少年君!この列車に乗ってたのね。列車の旅行は楽しい?」
「うん!!」
「ご婦人、どうですかな?ご旅行の方は」
シャルルはジルの母親にも尋ねてみる。
「快的で何よりです、こんな素晴らしい旅ができるのが夢のようでして。
この切符だって主人がブリタニアで働いて手にしたものですのでジルが大喜びでしたよ」
「そうですか、父親がわが社で」
「はい、いつも主人がお世話に」
シャルルとマリアンヌはそれを聞きまた笑顔になるもである、旅と言うのはこんなひょんな事からでも思い出が作れる素晴らしいもの。
特に長い時間をかけて行く列車の旅はまた格別なのだと改めて思うのだ。
「お待たせいたしました、お子様ランチとフランス料理のコースセットです」
「わぁおいしそう!!いっただきまーーーす!!」
「ふふふふ、子供は元気が一番ですものね」
笑顔いっぱいで頬張るジルをみて笑みをこぼすマリアンヌとジルの母親ミリー、それにシャルルがここにいるのだ。

食堂車だけでなくバーの方も乗客でにぎわいを見せていた。
「ビール6つ頼む」
「私は赤ワイン」
「コーラとオレンジジュースください!!」
などなど沢山の注文が殺到するもんだからルキアーノもほかのマスターもウエイターも
大忙しでお酒を作ったり運んだり、行ったり来たりが続く。
「大忙しだな、ま、これが普通なんだけどよ」
「マスター、手止めないでくださいよーーー」
「おお、わりぃわりぃ」
バーの車内を見渡し呟くルキアーノに頼みこむ仲間は大変だ、いつもの事だが「カラーズ」はロビーも兼ねているため乗客のほとんど全ての人が訪れるから混雑はあたりまえ。
「ルキアーノよ、手伝いに来たぞ!!」
「何かする事無い?」
「おおおジェレミアにアーニャ!!毎度助かるぜ、いつもの通りに頼む!!」
交代制をしいてる機関士も混雑している時には他の部署を手伝うのが常識とされている
ジェレミアはバーでビール注ぎやウイスキー作りの担当しアーニャは接客業を担当してる。
「ジェレミアさん、ビール大ジョッキで5つ!!」
「うむ、まかせい!!」
「キールロワイヤル2つ甘口でお願い、ルキアーノ」
「あいよ、アーニャ!!」


一方機関車ではノネットとライが運転の真っ最中。
「速度80km、だけどクラブの30%の力で出せるとは驚きの性能だな」
「クラブはもう30年もオリエントを牽引してきましたから、さすがに年なんでしょう?」
そう言うライは少し切ない表情を浮かべる、わずかな間ではあったがクラブは列記とした相棒であった。
操車場で言われた事だがクラブはもう後数回の牽引しか出来ずそろそろ引退かと言われたのだ。
「寂しいか?」
「ええ、相棒でしたから」
前を見ながらではライはそう言う、ノネットも同じ様に切ない気持にかられてしまう。
1年と言うのは長いようで短い、その中で各々がどういった1年を過ごせるかが問題だ
ライとノネット、アーニャにジェレミアはこのオリエントエクスプレスの牽引機関車クラブと共にこの雪の降る森の中を駆け抜けてきたのだから・・・・・。
「この景色も何十回と見て来ているが、いつもと同じじゃないんだもんな。お!?狼の群れではないか!!
ははは、こいつと追いかけっこしてるぞ!!」
「はしゃぐのは良いですけど、仕事して下さいよ?」
「ふふふふ、すまんな。この旅はいつも楽しくて」
笑うノネットの顔を見てライも思う、この旅は何度経験しても良いものだと。

毎回違う人との出会い、毎回違う風景、毎回違う風・・・・

これを感じれるのはここしか場所は無い、ライの世界はそうした経験を経て様々な色が付き鮮やかになっていくのだから。
ライは後ろに流れていく風に帽子をかぶってはいるが周りの景色と同じ白銀の髪を流しながらノネットの淹れてくれたコーヒーを狼の遠吠えを聞きながら頂くのであった。


次の日の朝、9:30
空は晴天、朝日が昨夜に降り積もった雪をキラキラと照らしている。
その景色の中で頂く朝食と言うのは何にもまして格別と言えるだろう、和洋どちらの料理も絶景で味わうのは美味だから。
「おはようございます、6名様ですね。こちらのお席へどうぞ」
3人ずつ男女の乗客を席に案内したり、家族に洋食コースの料理を運んだり
モーニングコーヒーのおかわりを淹れたりと静かにではあるが昨夜同様忙しく厨房もウエイトレスも働いている。




それまで快調に過ぎて行っていた景色がとたんにゆっくりになっていった。
「・・・・・あれ、スピードが落ちて来た」
「本当、何かあったのかしら」
急に列車のスピードが落ち始めてきたのだ、乗客達は何事かとざわめき始める。
「(おはようございます、車掌のミレイ・アッシュフォードです!列車は只今アルプス山脈のちょうど1/3に到達しました
これよりこの先に有ります国立公園「スノーガーデン」に2時間ほど停車いたします。
あと4分ほどで到着いたしますので外においでのお客様は準備の程お待ちください)」
この先に有る国立公園「スノーガーデン」は広大な面積(東京ドーム5個分)の広さを誇る公園でここで飼育されている動物と触れ合う事が出来る所だ。
本来は機関士の交代の為の一時停車でしかなかったのだがミレイの
「勿体なさすぎる!!」
の一言でここに僅かではあるが停車し動物と触れ合おう!!と言う事になったのだ。
「へーーー、そんなイベントが有ったのか。楽しそうだな」
「降りてみるか」
「ねぇママ、降りてみようよ!」
「ちゃんと厚着してからよ?」
放送で一気に車内は盛り上がりを見せた、やはりずっと列車にかんずめと言うわけにもいくまい。


その4分後


オリエントは本線からポイントで退き、公園に隣接する駅にゆっくりと停車した。
停車と同時にナナリーとミレイを先頭に乗客達が降りて行く。
「皆さん、ここでの停車時間は2時間と限られています。ですので我々車掌2人がここを案内いたしますのでご了承ください」
「なを、国立公園ですので園内にいる動物は飼育されているものが大半ですが中には野生の動物もおりますので十分注意して下さい」
ミレイとナナリーの説明の後40人の乗客を連れて公園の敷地内へと繰り出していった。

一方

機関車ではアーニャ、ジェレミアのコンビとの引き継ぎ事項の確認が行われていた。
「線路は滑りやすくなってる、連日連夜の吹雪のせいかな。けどこの晴天のおかげで前方は見やすい方だよ」
「C62の性能はクラブの3倍以上だ、少しのパワーでもすぐに80kmに達するだろうブレーキの性能も悪天候に合わせて造ってるな」
ライとノネットの挙げる項目に
「あまりパワーは上げない方が良いみたい、これから続く坂を考えるとスピードの出し過ぎは暴走の引き金になりそう」
「だがそうなると調整が難しそうだな、線路が滑りやすいのであればパワーを上げねばならんが上げ過ぎると・・・・これは運転のしがいがあるな」
アーニャとジェレミアが答える、その後も意見の交換など引き継ぎを終えライとノネットの二人は休憩に入る。
「ノネット、渡すのを忘れるところだった」
「おおすまんな」
「ライも持って来たよ」
「ああ、ありがとうアーニャ」
2人が受け取ったのは拳銃だった、ナナリーの説明にもあったが時折野生の動物が襲ってくる事が有るここで常務員は銃を携帯せよと言う決まりが有る。
「相変わらず体格に似合わない銃だなぁアーニャは」
「そうかな?ノネットこそ、そんな小さい銃似合わないと思う」
などと談笑しているアーニャとノネットを眺めながら機関車の運転席にあるドアに腰掛け銃の手入れをライはし、ジェレミアは機関車の点検に勤しむのだ。


停車してから1時間45分でミレイ達が戻りティータイムと称した外での軽食会が催されサンドイッチにコーヒーや紅茶と定番のメニューからC.Cオリジナルの物まで様々。
「まったく困っちゃうわ、昨日までの猛吹雪で玉城がノロノロ運転だなんて」
「良いじゃないですかミレイさん、こうしてのんびり出来るんですから」
先行している玉城の貨物列車が昨日までの猛吹雪であまりスピードを出す事が出来ずライ達後続の列車が現地点での停止命令が下され停車時間が延びている。
「うむ、このサラミのサンドは格別だな」
「あまり食べ過ぎるなよ、乗客用なんだからな」
「う、うむ・・・・」
心底残念そうにするジェレミアをC.Cはやれやれと笑みをこぼす。
「C.C、僕にも何かちょうだいよ」
「ああ、そうだな・・・・これ―――」
おすすめをライに言おうとしたC.Cはコートを引っ張られ言葉を止める―――
「ん、子供の狼か?しかもこの公園の」
クゥーーーーと可愛らしく鳴く狼の他にもあちこちから国立公園で飼育されている動物達が現れ食べ物を食べに来たのだ。
「はい、狼さん!」
「お食べ」
子供からご老人まで全ての人が動物達と戯れる、その光景をシャルルとマリアンヌは共に喜ばしい気持になる。
「C.Cの料理の匂いに釣られてきたな」
「でも嬉しいイレギュラーだよね、記録しておこ」
「待てアーニャよ、ご乗車の皆さん!!どうでしょう旅の記念撮影でも」
シャルルの提案に全員賛同しオリエントの客車を背に動物と一緒に並ぶ。
「じゃあいきますよ」
アーニャがカメラのタイマーを作動させライの隣に並ぶ、機関車の方を向って左手とすると左からルキアーノ、ジェレミア、C.C、ミレイ、ノネットが並び
その一つ前に同じく左からナナリー、ライ、アーニャが並ぶ。
ちなみにシャルルとマリアンヌはジルと母親のミリーの近くに並んでいる。

パシャ!!

シャッターの音と共に皆列車に乗り込むちょうどその頃に公園の飼育員が到着し動物達を引き取るかっこうとなり子供の中には泣いてしまう子もいたほどだった。
それから10分後の13:05にようやく司令室からの出発命令が下り、ミレイは乗客が全員乗っているかを確認する。
「よし、全員乗車完了!!アーニャ、行きましょう!!」
「了解!」
無線で確認を取るとアーニャは汽笛をひときは長く鳴らし列車を出発させる。
その音につられ別れを惜しむ鳴き声が聞こえ、窓を開けて力一杯手を振る子供達を優しい笑顔でライや乗務員達は見守っていた。
オリエントは滑るように本線に滑り込み一路イタリアボローニャを目指し走り始める。


それからしばらくして辺りはすっかり暗くなった18:21ごろ、オリエントは70kmの速度で快調に走って行く。
「・・・・苦い」
「毎度毎度文句は言わないでくれアーニャよ、この苦味が良いんじゃないか」
「解ってるけど苦いものは苦い」
運転席でコーヒーを飲むアーニャとジェレミアの2人、この激務に眠気覚ましのコーヒーはもはや必需品ではあるがどうもアーニャはこの苦味にまだ慣れていないのだ。

それと時を同じくして
1号車、ライとノネットの部屋では部屋の主である2人が窓にもたれながらスヤスヤと寝息を立てていた。
「・・・・ん、寝てしまったか」
目の前にいるライをみてノネットは毎度の事だがこう思う。
(無防備すぎだぞ、ライ)
「ムニャムニャ・・・・」
と口を動かすその寝顔は幸せいっぱいな顔だ、それに引き寄せられるようにノネットも笑顔になっていくのだ。
7号車のキッチンでは料理人達が全力で料理の真っ最中。
「12番テーブルのメインディッシュ出来上がり!!」
「7番テーブル、オニオンスープ1つ!!」
「6番テーブルの魚料理遅れてるぞ!!」
「今出来た!!9番テーブル、ジェラートお待ち!!」
C.Cも認める料理人や新人まで幅広くここに集い腕を奮うからこそ美味しい食事が出来上がるのだ。
「2番テーブル、和食会席と16番テーブルのお子様ディナー出来たぞ!!」
C.Cも集まる料理人に負けじと全力で作っていくのだ。
9号車のバーでも同じ様ににぎわいを見せてはいるものの昨日の夜程の騒がしさは無い,なぜなら今はミレイ企画「スノーマウンテンコンサート」を実施中。
普段は騒がしい(楽しい意味で)このバー「カラーズ」もいざ美しく静かで優しい音色に包まれるとシンとした雰囲気に包まれるのだ。

恋人と酒を飲むのもよし

仲間と飲むもよし

家族と語らうもよし

と言ったところだろう、そんな宝箱の様な客車をC62は引っ張っていく、それはまるで無限の行路を進むかのように。
「ジェレミア、そろそろ石炭の補充お願い」
「よしきた、まかせろ!!」
アーニャの指示でジェレミアはシャベルを持ち炭水車から石炭を釜戸にくべ始める。
「それにしても、相変わらずこれは重労働だな」
石炭をくべながら言うジェレミアだがそこはアーニャがぴしゃりと
「でもそれが楽し――――」
“楽しい”と言うはずなのに途中で言葉が切れたことを不思議に思うジェレミアは手を一時とめアーニャを見る。
「どうしたアーニャ」
「・・・・・・・」
当のアーニャは前を見ながら固まっている、いや、目を細めながらもプラスされるが・・・・
「・・・・・・」
そしてアーニャは頭を運転席の横にある窓から顔を出し前を見る、だがそれでも駄目なのか今度は少しのりだしてしまう
その瞬間アーニャは目を見開き、顔を真っ青にさせ叫んだのだ!!!


「っ!!!いけない!!!」


アーニャはスロットルを一気に0まで戻しめいいっぱいブレーキを掛けた!!
「アー、うおおおおお!?」
列車は機関車から客車まで全てのブレーキが作動し激しい火花と耳を突き刺す様な金属音が響きわたる
立っていたジェレミアは手近の手すりに摑まるしかない。
「くっ!!な、何だ!?」
「ッ!?うわああああ、あいて!!」
1号車にいるノネットは体を後ろにもの凄い勢いで引っ張られ、眠っていたライは前のめりで思いっきり突っ込み
「きゃあ!!」
「おわああ!?」
「くっ!?な、なんだいきなり!!」
料理中のC.C達は手にしていた包丁やらフライパンやら全てを放りだし体制を崩すまいと近くの取っ手やらなにやらに摑まる、C.Cもいきなりの出来事に動揺する。
「おおおおお!?」
「きゃあああああ!!」
「ぬおっ、何事だ!?」
食堂車のテーブルに置かれていたグラスやコップが倒れ前のめりになる人や思いっきり倒れこむ人やら
「な、何だ!?何が起こりやがった!?」
「「皆さん何かに摑まって!!」」
「カラーズ」で怖がる子供を抱きかかえる親、仲間を支えようとてを掴む人
その中でも車掌として助けようとするミレイにナナリー、驚きうろたえてしまうルキアーノ。
そしてブレーキレバーをもう折れるかと思わんばかりに握りしめるアーニャは祈るように
「お願い・・・・止まって!!」
確実に速度は落ちているがいかんせん今オリエントが通過している地点は傾斜25°の急勾配、並のブレーキ力では直には止まる事は出来ない。
C62のブレーキ性能を体で体験していないし線路は氷つき滑りやすくなっている、アーニャははっきりパニックに陥っているのと同じなのだ。


一体アーニャは何を見たのか、そしてオリエントに一体何が起ころうとしているのか


To Be Continued


最終更新:2009年07月11日 07:34
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