「トランプ配り」とは

 「さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」に対して、次のように考えます。
 まずお皿を5枚、用意します。次に、りんごを、まず1個ずつ、それぞれのお皿に乗せます。2回目、3回目も同じように配っていけば、「さらが 5まい」で「1さらに りんごが 3こずつ」という状態になります。
 皿にりんごを乗せていくと言うより、トランプで、カードを参加者に順に配っていくのを想像するのが、わかりやすいでしょう。
 このようにして、5個ずつ3回なので5×3=15も、その文章題に対する正しい答えだとする解き方を、「トランプ配り」といいます。

注意点

 トランプ配りは、正解とされる式(上の例では、3個ずつ5枚の皿なので、3×5=15)と比べて、かけられる数・かける数が入れ替わるだけでなく、それぞれの数量(付随する単位も)が変わるという違いがあります。また算数・数学では基本的に、式に単位をつけません。そのため、採点者からすると、かけられる数・かける数の意味を理解せず、並べて「×」でつないだものなので間違い、とみなされます。
 トランプ配りは、直接的に交換法則を使用せず、かけられる数・かける数を入れ替えた式も正しいと主張することができるという点で、興味深いアプローチです。なお、かけ算ではなく、等分除の理解では、学校でも用いられます。そのように理解したのちに、かけ算においても同様に適用可能とするような、主張や授業・出題の事例は見当たりません。
 トランプ配りの適用を困難にする出題も、あります。一つは連続量×分離量となるタイプで、「池のまわりにはたが立っています。はたは6本です。はたとはたの間は、どこも8mです。池のまわりは、何mでしょう。」といった出題例があります。分離量どうしのかけ算でも、「ボートが 3そう あります。1そうに 2人ずつ のって います。ぜんぶで 何人 のって いますか。」に対しトランプ配りの要領で人を乗せていくと、1人がボートに乗った状態で2人目を待つ、そんなボートが何そうもあるという状況となり、場面を通して、適用が困難なのを学ぶことになります。

適用対象

 国内外の文献で、トランプ配りを等分除の意味の理解で活用する事例が記されています。
 トランプ配りをかけ算に適用できることは、遠山啓、森毅、矢野健太郎の記事・書籍に見られます。授業例は、見当たりません。

文献

  • 文献:遠山1961では、トランプ配りは等分除包含除それぞれの指導系統に入っています。10年後の新版(文献:遠山1971)では、等分除の説明にのみ使用されています。該当箇所の執筆者はともに,岡田進です。
  • 遠山啓が1972年に書いた「6×4,4×6論争にひそむ意味」が有名で、「40年前からの論争」といった形で現在でも使われます。文献:遠山1978 116頁には「ミカンを配るのに,トランプを配るときのやり方で配ると,1回分が6こ,それを4回くばるのだから,それを思い浮かべる子どもは,むしろ,6×4=24という方式をたてるほうが合理的だといえる。」とあります。
  • 文献:矢野1984では、遠山啓について語る記事の中に、「カード式配り方」という小見出しの文章があります。矢野がラジオ局に「4掛ける6でなくて、6掛ける4でもよい」という説明をする必要が生じて、トランプ配りの方式をひねり出しました。後日遠山は、「実際、矢野君の言うように考える子がときどきあるんだよ。われわれはこのような配り方を、カード式配り方とよんでいるがね」と言っています。
  • 文献:森2009 67-68頁には、遠山が取り上げたのと同じ文章題で、6×4=24を正解とするための答案の書き方として、「1人に1個ずつ配ると6人に対しては6個必要になる.1人当たり4個にするためには,それを4回繰り返さなければならない.∴6個/回×4回=24個」とあります。トランプあるいはカードといった名称は、記事の中には出てきません。
  • 文献:Greer 1992では、乗法的構造についての10個の図的表現の最初に、文献:Anghileri 1988の紹介として、"partitive division of 12 objects by dealing out, as in card games"(279頁)があり、●を用いた図(281頁)が掲載されています。
  • 文献:前川2011 66頁の学習指導案には、「1個ずつ置くか,2個ずつ置くかという置き方ではなく,置いた結果に着目させる」として、トランプ配りをしてもたし算の式は1通りとなるよう展開しています。
  • 文献:田中2013 103頁では、わり算の導入授業を話す中で、3つの封筒に4回、おはじきを入れたときの総数について「4×3」の式を示しています。これは、4+4+4というたし算の式や、12÷3=□ ⇔ □×3=12による等分除を背景にしたものと思われます。

外部リンク

最終更新:2013年07月31日 06:37