SON団
それは、憂鬱な期末テストが終わり、
青春の1Pに刻まれるであろう思い出が作れる夏休みに突入した初日の事である。
長期の休みであろうと、コンビニみたいに年中無休で
活動する俺達SON団は、いつもの喫茶店に集っていた。
「・・・明日の予定は海」
我が団の静かながら傍若無人な団長様はいきなりこんな事を言い出した。
やれやれ、どうしたものか。
「私の見解では夏休みとは、
青春という名のアルバムの1Pに思い出というメモリーを刻む事の出来る絶好の機会」
そんな事淡々と言われてもな。
朝比奈さんを見て見れば何と言えばいいのか、
とりあえずほんわりした感じで楽しそうにしているし、
ハルヒはハルヒでいつもの元気さを振りまいていて、
「大賛成!」とか嬉しそうに言ってるだけだし、
古泉はいつものニヤケ顔で団長を見つめているだけだ。
わーったよ。行けばいいんだろ。
なーんて俺が承諾した理由は、実はと言えばそんな絶好の機会が俺には無いからであった。
我ながら情けない。ああ、どうせ暇な夏休みだったんだ。
一瞬この団で思い出が作れるかどうかも怪しいと思ってしまったのだが、
マスコット的存在の朝比奈さんの水着姿も結構気になるし、ハルヒも居る。
ついでというのも何だが古泉がいる。
すまん、どうも古泉は邪魔みたいな感じしかしない。
そんな事を考えていると、
「聞いて」
我が団の団長は言った。
「明日の海の予定は『世界を大いに盛り上げる為の長門有希の団』
通称SON団の団長長門有希の名にかけて楽しい思い出にしてみせる」
頼もしく見えたのは俺だけか?
いや、そうじゃないな。ハルヒも「いよっ、団長!」とか言ってるし、
朝比奈さんはパチパチと拍手したりしている。
古泉は言うまでも無い、ニヤケ顔で見ているだけだった。
皆、頼もしそうな視線で見つめていたさ。
我が団の団長、長門有希の姿を。
翌日。
俺達は、駅で待ち合わせをしていた。
不覚にも俺が一番最後に来てしまい、
「遅いから罰金。海の家で皆に何か食べ物を買う事」
と言われちまった。
やれやれ、いつの間にこんな嫌がらせみたいなルールが決まっちまったのか。
「私が一番最初の不思議探しの際に決めた事」
分かったって。
そんな怒っているようなオーラで喋るのはやめてくれ。
プレッシャーがキツいんだよ、お前。
「それでは海へと向かう」
長門はそれだけ言って電車が待つプラットホームへと向かった。
流石に日曜日なので結構混雑していたが、長門とハルヒは上手い事人ごみをかわしていた。
朝比奈さんが何度か流されそうになったが、古泉が助け出していた。
畜生、古泉、その役を俺と変わるんだ。全員の荷物持ちとなってる俺とな。
海へ到着した。
俺達は早速水着に着替えて、海へと繰り出していた。
海水を飛ばし合ったり、懐かしのスイカ割りをしたりして遊んでいた。
不覚だが、楽しくないと言えば嘘になるな。
俺の最大の目当てであった(不審者じゃないからな)水着姿も見れたしな。
一番期待していた朝比奈さんは長門が選んだであろう華麗な水着を身に纏い、
ハルヒもハルヒで中々のプロポーションで着こなしていた。
長門は・・・
「・・・長門」
「何?」
「似合ってるぞ」
「・・・・」
返ってきたのはデジャブを感じる無言だ。
長門は自分が選んだんだろうな、花柄の可愛い奴を着ていた。
ふぅ、こいつは対有機生命体コンタクト用ナントカとかじゃなくて、
単なる対有機生命体萌え萌え用ナントカ・・・
すまん、失言だったな。決して変質者とかじゃないからな。
それはそうと、古泉は海の家に俺の財布を持ってアイスか何か買いに行っている。
畜生め、パシられる位ならお前が払えばいいだろうに。
「お待たせしました」
俺が胸の内で噂をしているとその古泉が帰って来た。
俺は条件反射的に財布を古泉の手から奪い、中を確認した。
外は夏なのに財布の中には冬が訪れていた。
待て待て、昨日母から払われて無かった
月2000円の小遣い3か月分が到着したばかりなんだぞ。
朝にはホックホクの春が到来してたんだよ。
今日はもしもの時の為に樋口一葉(つまりは5000円)一人連れてきたんだ。
何で擬似ルイーダの酒場から俺の仲間の樋口一葉が消え失せているんだよ。
職業?知るか。おい古泉、お前は一体何を買いやがったんだ。
「アイスですが」
どんなだよ。
「今『高い』と話題のマンゴーアイスですよ」
と微笑みの貴公子という仇名がついてそうな奴がしそうな微笑みで返答しやがった。
おい。ちょっと待て。今日ほどお前に殺意が沸いた日は無いぞ。
その内SON団をハーレム状態にしても構わないんだぞ?
すまん、自重するよ。いいな、サツを召喚する必要もないからな。
「皆でおやつにする」
長門は命令も小声でしか言わないので、仕方なく俺が海で戯れていたハルヒと朝比奈さんを呼び出した。
おいおい、団長さんよ・・・それじゃ何かの集団を統率するのは難しいんじゃないか?
そんな事言ったらどんな事をされるか分かったものじゃないので流石に控えておいた。
長門はぺろぺろとマンゴーアイス(古泉に問い質したら1000円とほざきやがった)を舐めていた。
朝比奈さんも長門と大差ない食べ方だが、違うのはスピードであった。
無論長門が圧倒的に早いのだ。ハルヒですら勝ててないからな。
食べるというコマンドしか知らないハルヒがな。
古泉?知らん。あいつの顔は当分見たくない。
俺は若干涙目でその高級マンゴーアイスとやらを大切に時間をかけて舐めていた。
食い終わる前に砂の上に溶けて落ちてしまったよ。畜生・・・
アイスに未練を残していた俺を残して女3人はまた海で遊んでいた。
古泉がボードゲームにやたらと誘ってくるのを鮮やかにスルーし続けていた俺は、
パラソルの影で休んでいた。
「ふぅ・・・」
溜息が出た。
そうさ、海の中に3人の天使が居るじゃないか。
憂鬱も吹き飛ぶような奴がな。名前は言わなくてもいいだろう。
朝比奈さんを除いた2名も今日ばかりは天使、と言ってやっても構わないさ。
長門も良い提案をしたよ・・・とうんうんと勝手に一人でうなずく俺だった。
青春の1Pに思い出が刻めたかどうかは各々考えるとして、夕暮れを合図に帰り支度をしていた。
名残惜しい自分がここに居た。アイスの事じゃない。
勿論、もうあの3人の水着姿がもう見られない事である。
財布じゃないさ。
古泉が何やら言ってるようだが、俺は無論無視を貫き通している。
というか古泉って誰だ?とまで言ってやろうか?
俺と古泉を除いた団員は既に荷物をまとめて私服姿に戻っていた。
長門は制服だったが。
ふと、長門がちょいちょいと手招きをしているのが見えた。
俺が小走りで駆け寄って行くと、
「全員が解散した後、いつもの喫茶店にあなただけ来て」
だとよ。
一体全体どういうことだろうな。
バスで駅前まで戻ってきた俺達は、解散した。
俺と長門だけは解散した5分後にまた戻って来ていた。
「・・・・」
長門は無言で突っ立っている。
どーしたもんか・・・俺に先導しろって事なのだろうか?
仕方なく俺が先に喫茶店に入ろうとすると、服の裾を弱い力で掴まれ、
「団長であるわたしが先に入るのが普通」
と言われた。やれやれ。
店内に入った。
外が明るいと言ってもそれは夏だからであって、時間的にはいい加減に夜なので客もあまり見当たらず、ほぼ貸切状態だった。
俺と長門は適当な席に着き、コーヒーを注文した。
よし長門。本題に入らせていただこうか。
「何で俺を呼んだんだ?それも他の奴等全員帰して。他の人に言えないような理由でもあるのか」
長門は首を縦に振った。
「その理由は何だ」
「私の事に関する事」
「他の人に聞かれたくないお前の事?」
長門は首を縦に振る。
「何だよそれ」
10秒位間が空いた。
「少し」と言っても相当に長く感じられた10秒だったが・・・
長門は少し溜めながら言った。
「私の」
うむ、私の?
「・・・・水着姿」
それがどうしたんだよ。
「どうだった?」
げふんっ、げふんっ!
いきなり何を聞きやがる。飲んでるお冷を吹き出す所だろう・・・
どうもこうも、無論似合わないなんて言う奴はいないだろう。
いたら絞首刑か何かにしてやっても構わんぞ。
いくら感情があまり分からない情報ナントカ体に
造られた対有機生命体インターフェースやら何やらでもあろうと、
そんな似合わないなんて言われたら傷つくというものだろう。
「似合ってたさ」
俺がそう言うと長門は、
「・・・また見たい?」
げふぉんっ、げふぉんっ、げほぁおあ!
今度こそお冷を吹き出してしまった俺は慌ててナプキンで机を拭いて、深呼吸した。
いかんいかん、卒倒するかと思った。
大体分かると思うが、
俺は女子(例え宇宙人であってもな)とのコンタクトスキルは皆無なんだよ。
そんな俺がそんな事を聞かれたらご覧のような痛いリアクションしか出来ないんだよ・・・
っと、ここはどう答えておくべきなんだ・・・?
少々間を開けさせて頂こう・・・
翌日。
夏休み初日に俺は、朝から部室へと向かっていた。
元々集合日であったし、あんな夢見たんじゃ眠れないだろう。
夕べはあの胸クソ悪い灰色空間に次ぐ最低な夢だったからな。
見知りあった女子とキスの次は見知りあった宇宙人の水着姿だと?
フロイト先生も大爆笑な分かりやす過ぎる夢だったよ。
ああくそ、最低だ最低だ最低だ。
だからと言って部室へ行っても何が解決するんだろうね。
俺は文芸部室の扉の前に立ち、ノックした。
「・・・・・」
返ってきたのは無言だった。じゃあ大丈夫だな。
麗しのエンジェルが着替え中で嬉し恥ずかしなイベントは起きないだろう。
俺は扉を開けた。
部室を開くと、文芸部室の備品の様な存在の長門がいつもの様に分厚いハードカバーの本を読んでいた。
長門は俺に見向きもせずに本を読んでいる。
「よう、長門」
俺が挨拶すると長門はゆっくりと顔を上げて、
「おはよう」
と言ってくれた。
俺は長門がまた本に視線を戻す前に聞いてみた。
「なぁ長門」
「何?」
「もしかしてお前・・・このSOS団の団長になってみたいか?」
無論、あんな夢を見てしまったから聞いてみたくなった質問である。
返ってくるのは無言だけかと思っていたが、
「出来るなら」
という返答が返って来た。ほう、何か意外な返答だな。
ふと、俺は長門の腕に何かが巻かれているのが見えた。それは・・・
「長門・・・それ」
俺が見たのは、『団員』と書かれた腕章だった。
長門は俺を見て、
「どう?」
と聞いてきた。
無論、返す返答は一つさ。
「似合ってるぞ」
その長門は、夏休みの初日に見た幻の長門だったのかもしれない。
===END===
あとがき
ただの団栗の願望(爆破
Tardisから、「小遣い月2000円は少ないだろう、高校生だし」
という指摘が・・・あうう、痛い、痛すぎる指摘だ(おま
これ書いたのは中学の頃だからな・・・
ま、いっか!(この野郎
最終更新:2009年03月20日 20:28