フローリングの床のリビング。窓から差し込む、夕日の赤い光。テーブルに置かれたグラスの水が、綺麗に光る。
「あああ……久々の休みは良いよなぁ……」
そして僕は、最近家に届いた、ふかふかのソファに体を沈めて大きな伸びをした。ああ、至福の時。
僕は、自分で言うのも何だけど、エリートだ。大手企業のバリバリの営業マンとして働いている。
月給も高いし、こうやって景色が綺麗なのがウリの高層マンションにも住んでいる。順風満帆の人生だ。
彼女?よりどりみどりで、誰にしようか迷ってるよ、ハハハ。
そして、今日は休日。久々に、どこかに出掛けるのも良いかと思ったけど、高層マンションの一番上の部屋だ。エレベーターを使えば降りるのは造作も無い事だけれど、残念ながら今日はメンテナンスでエレベーターが使えない。ここから階段で降りるとかなりツライ。だから、僕はこうしてただ時間が流れるのを楽しんでいたのだ。
こらそこ。引きこもりとか言うな。不可抗力だ。
「さて、いい加減に飯でも作るか……」
もう時刻は午後6時を過ぎている。エリートな僕は、料理ぐらい簡単に作れる。やろうと思えば、ミシ○ ランがすっ飛んで来るくらいの高級料理店だって開ける位の実力だ。さぁ、何を作ってやろうか……
ピロリロリロリ。
「ん?」
携帯に電話だ。誰だ?今から料理を楽しもうと思ったのに……。
「……非通知じゃないか」
誰からだろう。僕の携帯の電話番号なんか、会社の同僚か、もしくは上司ぐらいにしか教えてないはずだ。とりあえず、通話ボタンを押した。
『私、メリーさん。今、あなたのマンションの』
言い終わる前に、迷わず僕は通話を切った。生憎だが、僕はそういった物は信じないんだ。エリートだからね。こ、怖くなんかないよ。
ピロリロリロリ。
ま、またか。でも怖くない怖くない怖くない……。
『私、メリーさん今あな』
携帯をへし折った。怖くない怖くない怖くな
ピリリリリリリ。
くっ、今度は直接、家の電話だと?いやいや怖くない怖くなんか無い……。僕は、意を決して受話器を取った。
「もしもし?」
『ちょっとぉ!』
うおっ、何だ!? いきなり女の怒った声が聞こえた。
『ちゃんと出てよ! 私がバカみたいじゃない!』
「うっせーバーカ! メリーさんがなんぼのもんじゃい! こここ、来れるもんなら来てみろバーカ!」
ガシャン!叩きつける様に受話器を置いてしまった。いけないいけない、僕とした事が。し、小学生の悪戯に本気になって怒るなんて。とにかく落ち着け、冷静になろう。怖くない怖くない怖くない……
ピリリリリリリ。
……またか。知らない知らない。もう僕は料理をするんだ!
ピリリリリリリ。
……聞こえないな。何も。
ピリリリリリリ。
さて、トマトでも洗うか。実家の母さんが、甘くて美味しいトマトを
『出なさいよぉ!』
べチャッ。思わず、トマトを床に落としてしまった。熟れてた物だから、グチャグチャだ。
「これは……留守電?」
『いい? 次からはちゃんと出るのよ! 私、メリーさん! 今、あなたのマンションの20階に居るの!』
そこで留守電は途絶えた。20階……? まさか。さっきから、まだそんなに経ってない……。エレベーターは使えないはずだ。こ、これがメリーさん(?)なのか……?
ピリリリリリリ。
「ひっ!?」
ま、また電話だ。……思わず僕は、受話器を取る。
『私、メリーさん。今、あなたのマンションの40階に居るの』
そして切れた。マ、マズイ……こんなスピードで、来るものなのか!?
ピリ
僕は電話がワンコールも鳴らない内に受話器を取った。
「ゴルァ!悪戯がうぜぇぞおおおおお!」
そうだ、絶対悪戯だ!
『……君、どうしたんだい?』
「え……」
し、しまった! この声は……!
「しゃ、社長!? すすすす、すみませんっ!」
クソッ、なんて事だ!いつもなら社長は携帯にかけて来るはずなのに! そういや携帯はさっきはずみでへし折ったのだった。畜生!
『携帯が通じないからかけたのだが……。フッ、君は疲れているんだ。どれ、たまには長期休暇でも取ってみるかね』
ヤバイヤバイヤバイ。社長の機嫌が悪い。これは本当に……。
「……明日だけ、休ませて下さい。では」
ガチャリ。僕は受話器を置いた。フ、フフフ。ハーハッハッ!
「そうだよ。僕きっと疲れているんだ! アハハハハハハ!」
笑え。とにかく笑えば大丈夫だ……!
ピリリリリリリ。
「またかい? ハハハ、たまには悪戯にも付き合ってやろう!」
僕は高らかに笑いながら受話器を取った。
『ハァ……ハァ……あ、あなたの家……ど…こ…』
「ハハハハ、100階の1029号室だよ! 君は今どこ?」
『さっき……ハァ……かけたら……通話中だったから……ハァ……10フロア毎に電話……やめ、やめて……今…80階……ハァ…どおりで……まだ……上から……あなたの気配…してる……』
メリーさん(?)の声が途切れ途切れに聞こえる。そして――
『きゅう……』
「……もしもし? もしもし、メリーさん(?)もしもおおおおおしっ!」
――倒れた。ちょ、待ってくれ! これ、ヤバいだろ!? まさか、メリーさんはお化けなんかじゃなくて……。
「にん……げん?」
僕は、ペットボトルに水を注いで、80階へと走り出した。
「おいっ、お前っ!」
80階に到着した。長い廊下の途中に、真紅のドレスを着た小さな女の子が倒れている。
「だ、大丈夫か!?」
僕は女の子の上半身を抱き起こし、念の為持ってきたペットボトルの水を差し出した。
「み……ず……!」
女の子はその水を見ると、弱弱しく手に取り、飲み始めた。
それから、女の子の息が整うまで10分。
「ハァ……ハァ……あなた、よく助けに来たわね。私の長い悪戯歴の中で、初めてだわ」
私が倒れたのもだけど、と少女は付け加える。
「大体ね、エレベーターが使えないってどういう事よ。それのせいで私の悪戯も失敗したのよ。そもそも、100階に住むなんて非常識だわ。私は5回の通話の内に相手の後ろに立つって決まりがあるのに、100階までだと20階ずつ。辛いわ。しかも、一回通話中だったわよ。待つのもなんだから、走ってたし……」
ぐだぐだと愚痴を言う女の子に僕は、
「お前な、何で悪戯しようとするんだ」
「楽しいからよ」
……この野郎。ぶん殴ってやろうか。
「あら、レディーに暴力だ何て感心しないわね」
「うるさいよ……君のせいで、社長にも怒られそうだし」
いや、怒られるな。ほぼ間違いなく。明日……は休みにしちゃったんだっけ。明後日には怒られるんだろうな。
「……何それ。ま、良いわ。私、帰るから」
「待てゐ!」
思わず、古い感じに呼び止めてしまった。
「……何よ」
女の子は、怪訝そうな顔で振り返る。
「えーと……め、飯でも食わないか?」
「はぁ?」
ああ、自分でも何を言っているか分からない……でも。
「一人、寂しいんだっ!」
これだけは確かだ。
「何よ、キモいわね。……それでも大の大人なの?」
「うるさいっ! お前のせいで、怖くなったじゃないか!」
女の子は呆れた顔をした。クソッ、ここまで頼んでるのに!
「夜、眠れないぜ!」
「わーかったわよ……なんでそんなに偉そうなの」
女の子は、しぶしぶ了解した。よし、これで今夜は安全だ。……え? 怖がりだって? 何を言うか。もう外は暗いし、こんな時に女の子を黙って見送るほど僕も気が利かないわけじゃない。
「何ブツブツ言ってるのよ? ……さっさとあなたの部屋に案内しなさい」
そうだ。早く案内してあげなくちゃ……
「こっちだ」
僕は、先導して女の子を自室に案内した。
そして僕は女の子と結婚した。理由?好きな人を愛する事に、理由なんて要るのかい?
~END~
はい、団栗です。
文芸部が相変わらず活動中なので、一本書いてみました。
アホな主人公を書くのは楽しかったですw
メリーさんはかなりの体育会系。
それが私の見解です(ぇぁ
最終更新:2009年07月18日 21:05