――打ったか。
――打ったさ。
彼は打ったのだ。
サーヴァントというものは、世界という知性が記録した帳面を聖杯が覗き見て、勝手なフィルターを通して再現したものらしい。
とりわけ奇跡を起こし英雄と呼ばれる者は、そのお眼鏡に適いやすい。
奇跡というのは人を救うものかもしれないし、人を殺すものかもしれないし、時代を切り開いたり、人類の価値観を変える何かを見つけたり作ったり、
あるいはベースボールのの世界大会の9回に、逆転のセンター返しを放つというものかもしれない。
この場合、奇跡というのは結果である。有り得べからざるいくつもの奇跡を経過して残されたものもあるのかもしれないが、
奇跡とは可能性の極限小を抜けて辿り着く極限大の希少性を持つ物で、いくら重ねても極限はなので一緒くたに奇跡といってしまって構わないだろう。
人間ならざる巨大な知性ならば、あるいは観測する単位を広げて自明にできうるのかもしれないが、英雄の起こした奇跡を記録、語るのは人間である。
「俺はレスキューだ。契約に従い、参上した」
「その契約というものがボクには何なのか理解できませんし、アナタもレスキューというより野球のユニフォームを着たおじさんじゃないですか」
「俺がここにいると迷惑かね」
「おじさんが唐突に女の子の部屋に現れると言うのは警察沙汰ですし、少なくとも今は着替えが出来ないので困ります」
「これが事件であるというのは間違いないな」
一日目。マスターに なった少女、輿水幸子は身支度をし、登校した。
サーヴァントも霊体化し、随伴する。
「出たのはいいですがアレ明らかにボクの部屋じゃないですし、というか、知らない家ですし、なんなのでしょう?」
「これが聖杯戦争というものらしい」
「ひえぇ!? 声が! 頭の中からおじさんの声が!」
レスキューは規則正しい。
夜明けと共に起きだして、一人でひたすら素振りをしては走りこむ。
いい加減飽きたところで霊体化し、マスターに随伴しうろつき、あるいはマスターが出掛けないならばうろつき回らない。
日暮れと共に再び素振りと走りこみを行った後、マスターが布団にくるまるのを見届ける。
「学校にも美城プロにも知らないヒトばっかりでなんだか疲れました」
布団の中で少女は言う。
「でも、ここが本当にボクの知ってる東京ではないドコか、っていうのは分かりました」
少女は布団の中で小さな体をさらに縮こまらせ、震えている。
「こんなにカワイイボクが困ってるのに、プロデューサーさんは何をやってるんですか……」
レスキューのサーヴァントから投げかけられる言葉は無い。
少女が嫌がるので、彼は律義に部屋の外に出ていた。
物理的な妨害により互いの声が届く事は無い。
霊体的には繋がっているのでその気になれば交信できるのかもしれないが、彼は屋根の上で熱心に素振りをしていたので、気が付かなかった。
東京。
とある都市の名前でこの都市の名前。人が降るという話は寡聞にして知らないが、地理の試験にも必ず出る程に、誰もがみんな知っている。
世界有数のメトロポリスであるこの都市は、前を見るならビルが林立、横を見るならビルが視界を遮り、背後にはビルが構え、
空を見上げてもやはり視界のどこかにビルが闖入するといった有様で、それ以上に人間が視界に入る。
そんな中、昼の間、とにかく上を向き続けるのがというのが彼の仕事であり、サーヴァントとして与えられた使命だ。
昼に限られる理由は単純で、闇の中の落下物は見定めがたいからにすぎない。
空から降ってきた人間を打ち返したというのがレスキュー・チームの四番であった彼の持つ逸話であり、ファウルズという町に語り継がれる伝説だ。
それは、いつ、町のどこに降るともしれない人間に対して行われ、これは奇跡としか言い表わしようがない。
いつ、と言っても一応はおおよそ一年に一度という範疇はあるのだが、不定期であることには変わらず、
まして十字のメインストリートと、それを挟み立ち並ぶ百戸程の家屋、施設とひたすらに退屈で広大な麦畑の広がるファウルズの
どこに落ちるともしれない落下物を打ち返したのだから、とんだ奇跡である。
事実、その後のファウルズで落下する人間を打ち返したという記録は皆無であるし、ファウルズ以外でも皆無である。
そもそも人間というものは突然空から降って落ちてくる生物ではないし、レスキュー・チームはバットを持ち歩かない。
彼が所属していたのはレスキュー・チームであり、ベースボール・チームではない。
奇跡の記録はレスキュー・チームとしての活動のもので、残された記録はホームランでもヒットでもなく、ファウルだ。
レスキューの宝具というものは奇跡であり、そして彼は、ただ、起きた奇跡に対し副次的なものとしてここにいる。
世界と聖杯の手ですでに奇跡は成っているのだが、しかし、奇跡だけ起こしては、
ルール的にも、見栄え的にも良くないので、
なんとなしに男にレスキューというクラスとマスターが与えられ、そんな彼はなんとなしに空を見上げている。
故に無銘。重要なのは奇跡で、後の形はなんでもいいのだろう。
付け加えるならば奇跡を緻密に再現するのは自殺行為にあたる可能性が高くなるので脚色されている。
ただ、身元不明の人間を打ち返したという有様のみが事実である。
なので無銘。彼は生きる時分に因果と結果を知りえたのかもしれないが、それは奇跡の再現という点においてはどうでも良い事だ。
オール。ライト。
逆に言えば、レスキューがいる以上、この聖杯戦争のいつか、どこかで、奇跡は起こったのだ。
カモン。
K・B・Y・D。
カワイイボクと、野球、ではない。
【クラス】レスキュー
【真名】無銘@オブ・ザ・ベースボール
【属性】混沌・善
【パラメーター】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:E 幸運:E 宝具:EX
【クラススキル】
医術:-
救助活動には必須の技能。彼はレスキュー・チームの四番だ。
騎乗:-
救助活動は緊急を要する。現場に迅速に駆け着ける技能は必須である。
【固有スキル】
肉体改造:E
レスキュー・チームの四番として、素振りと走りこみは欠かせない。
【宝具】
『誰が為に棒に振る(オブ・ザ・ベースボール)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
奇跡の再現により、聖杯戦争において「空から降る身元不明の要救助者を打ち返した」という事実を確定させる。
聖杯戦争の性質上、身元不明の要救助者とは、今を生きる人間としての記録を持たないサーヴァントである。
どのような理屈で人が降るのかは、彼は知り得たかもしれないし、得なかったのもしれない。
知っていようがいまいが、人が降るという事象は彼が成す所ではなく、しかし、聖杯に呼び出されたサーヴァントである以上、
聖杯戦争の期間中のいつか、聖杯戦争の会場のどこかで、サーヴァントが空から地面に対し、垂直に落ちてくる。
当然いつ、どこから要救助者が降るかなどレスキューの知る所ではないが、再現という性質上、彼は必ず打ち返す。
起きたという事実に時空や因果が介在する余地は無く、レスキューが拉致監禁されて手足をもがれダンボールに詰め込まれていようが、
既に聖杯戦争から脱落していようが、彼自身が降る事になろうが、彼は現場に辿り着き、打ち返す。
結果は残された事実から逸脱する事は無く、どのような物理耐久力、不死性、奇跡の逸話を持ち合わせようが、
要救助者は決して救われることはなく、助かることもない。
この奇跡の再現の後、彼はバットとクラスを失う。
【weapon】
バット。
【人物背景】
円城塔著作の短編、「オブ・ザベースボール」の主人公。
おおよそ年に1度程度、人が降る事で有名な町「ファウルズ」のレスキュー・チームの四番。ベースボール・チームではない。
【サーヴァントとしての願い】
何かを救助する。
【マスター】
輿水幸子@アイドルマスターシンデレラガールズ
【マスターとしての願い】
まだ聖杯戦争に理解を示していない。
【能力・技能】
世界で一番カワイイアイドル。
【人物背景】
アイドル。14歳。
世界で一番カワイイ。
候補作投下順
最終更新:2016年03月03日 23:04