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遠雷が光った。数秒遅れて雷の音が聞こえる。
少女は深々と頭を下げ、下げた時の三倍の速度でぱっと頭を上げた。

「ありがとうございました。先生には何から何までお世話になりまして」

遠雷が光った。少女と、闇夜の中、笑顔で笑う奇怪な老人の姿を照らし出した。
老人は物の怪よりも物の怪らしく「うふふふふ」と笑った。

「いやいや、礼には及ばないよ。私はほんのちょっとだけ手助けをしただけのことだ」
「そのほんのちょっとがなければ私もこの……聖杯? 戦争? でしたっけ? には参加できませんでしたから」

二人は顔を見合わせ、穏やかに笑った。
遠雷が光った。二人の笑顔を照らし出した。
老人はもとより、美しいはずの少女まで物の怪めいて照らされていた。

「魔術回路は全力で働いておるよ。常人ならとんでもないことになるが、まあ、君も大概常人ではないから大丈夫だろう」
「よく分かりませんけど、私が偉大だということはよく分かりました」
「それで良い。魔術の才より、神秘の知識より、君のそういった性情こそが聖杯戦争に向いている」

老人は帽子の庇を指で押さえ、目深に被り直した。

「それでは私はこれで」

半開きだったドアの外へ、蛇のように身体を滑りこませ、外に出た。
そのままドアを閉めようとし、残り十センチのところで手を止め、隙間から少女の顔に目を向けた。

「君が『強ければ強いほどいい』と言ったからね。あれはとびきり強力なサーヴァントだ」
「ええ、強ければ強いほどいいと思います。相手をぶっ殺すにしてもその方が殺りやすいと思いますし」
「うむ。それはその通りなのだが」

遠雷が光った。帽子の下から覗く老人の眼は雷の光よりもギラギラと光っていた。

「強いものほど制御するのは難しい」
「なんて言いましたっけ……そう、令呪というのがあるんでしょう?」
「そうだな。手に余るようなら使ってみればいい。経験は若者の糧となる」
「どういう意味でしょう?」
「そのままの意味だよ。最後に少々説教臭くなるが」

老人は薄く口を開いた。鋭く尖った犬歯が遠雷の光を反射した。

「神とは理不尽なものだ。理不尽だからこそ人は神を畏れて崇めたのだ。君は理不尽を友としなさい」
「先生は難しいことをおっしゃいますのね」
「なにせ年寄りだからね。それでは今度こそさようなら。岸田君によろしくね」

パタンと扉が閉まった。少女はしばし老人の去った後を見詰め、やがて俯き、肩を震わせ、顔を上げ、腹の底から大声で笑った。

「いひ、いひ、いひひひひ――っ! あははははは――っ! やった! やった! やった!」

少女――式野は愉快や愉悦を通り越して狂おしく笑った。
世界は自分を中心にして回っている。聖杯戦争とやらも全く負ける気がしない。
勝てば世界は自分のものだ。誰も彼もを傅かせ、跪かせ、この世の全てを掴み取る。金も地位も怪奇も神秘も全てを手にする。

本来であればオカルトマニアというだけの女子高生に参加できるような催しではないらしい。
が、怪奇研究家として名高い賀露川十三郎の力を借り、よく分からないことを色々してもらって、とにかく参加できるようにはなった。
代償としてオカルト研究会の男子生徒若干名は若さを賀露川に捧げることとなったが、他人の若さ程度勝利の前では些細なことだ。
最強のサーヴァント。そして最高のマスター。この組み合わせで勝てない理由がない。聖杯はもう目の前にある。

一しきり笑ってから深く息を吸い、こほん、と小さく吐き出した。
たとえ優秀な部下を従える優秀なボスであっても油断は死を招く。今までの怪奇体験でそれは実感していた。
ただ優秀というだけでなくクレバーさも持ち合わせている真の意味で優秀な式野であればそのようなミスはおかさない。

「でも……」

冷静になって思い起こしてみると、賀露川は不吉なことを口にしていたような気がする。
あの老人は不吉という言葉を擬人化したかのような見るからに不吉な人物ではあったが、今日の別れ際はいつも以上の不吉さに満ち満ちていた。

「よし」

式野は踵を返し、玄関から客間へと静かに移動、音を立てずに横開きの戸を開き、部屋の中で座っていたサーヴァントと目が合った。
不思議の国のアリスに登場するハートの女王様のような格好をした少女だ。
美しくはある。睫にハートの飾りをつけるとは妙なセンスだ、とは思うが、まあ美しい。
式野のサーヴァントであるからには美しさも必須条件ではあるので、その点についてはいい。

「こんばんは」
「うむ」

少女は偉そうに頷いた。こんばんは、という言葉に対しての返事として「うむ」では不適当ではないだろうか。
式野は眉を寄せた。賀露川が「神がどうこうだこうだ」と言っていたのはこういうことなのだろうか。
神、というにはあまり有難味は感じられない。賀露川が言うのだから強くはあるのだろうが、見た目ただの女の子にしか見えない。
「キャスター」というクラスも真正面から戦って強い、というものではないという説明をされたような覚えがある。
式野はテーブルを挟んで少女の前のソファーに、どしん、と座った。

「あなたって強いの?」
「お前は何を言うておるのじゃ」
「いや、何をって……強いのかなって」
「愚者の問いかけだから愚問とは言うたものよ」

むっとしたが、式野が怒りを表すより先にキャスターは鼻で笑った。

「妾は偉大なる神の現身。那由多の魔法を使い無限の世界をおさめる。その妾が弱いとでも思うてか、戯けめ」

なんとく強そうな感じはする。しかし口で言うだけなら誰にでもできるのではないだろうか。

「できることなら強いっていう証拠を見せて欲しいんだけど」
「無礼者! 貴人に対し証拠を見せよとは何事か!」

キャスターは右手に作った拳でテーブルを殴りつけ、分厚い樫のテーブルが恐ろしい音を立てて真っ二つに割れた。
木屑と埃が舞い踊る中、式野は「テーブルは気が付いたら割れていた」という両親(現在旅行中)への言い訳を考えていた。

「いや、うん。証拠はいいわ。だいたい分かったから」
「うむ。一度は許す。妾は寛大ゆえな。しかし無礼は二度許さぬ」
「それより作戦考えましょう。私達がどうやってこの聖杯戦争を勝ち抜くか」
「それなら既に考えておいた」
「へえ、どんな作戦?」
「敵に先んじた情報収集こそが戦の要よ。妾はそれを怠り猿どもに噛みつかれたことがある」

思ったよりまともなことを言っている気がする。まあキャスターというだけあってそう愚かでもないのだろう。

「というわけで、お前は斥候として近辺を偵察してくるのじゃ」
「うんうん……うん?」

式野は首を捻った。何かがおかしい。

「いや、ちょっとそれ違うよね?」
「なにが違うと申すか」
「私がマスターであなたがサーヴァントじゃない?」
「うむ」
「私の命令であなたが動くんじゃないの?」
「何をのたまうかと思えば……」

キャスターはあきれ顔で肩を竦めた。

「マスターサーヴァントなどというものは所詮呼び名に過ぎん」
「はあ」
「妾は上に立つ者、即ち将。将が斥候をするものか。将に仕えるお前が偵察をしてくるのだ」

式野は首を捻った。やはりおかしい。

「もし私が偵察をしてくるとして」
「うむ」
「うっかり敵に出会ったらどうすればいいの?」
「しかと撃滅してくるがよかろう」
「いや、だって……他のサーヴァントとかもなんかそういう英雄とかなんでしょ? 私じゃ勝てなくない?」
「愚かなことを申すでない。妾の僕たるお前がその辺の木端にどうして遅れをとろう」
「いや、私一般人」
「謙虚であるということが美徳とは思わぬように。己の正しい力量を伝えてこそ真なる美徳じゃ」

式野は理解した。こいつが理解していないということを。
それから数度に渡って自分は戦闘能力を持たないこと、敵と出会ったら苦も無く殺されることを説いたが、キャスターは聞く耳を持ってくれない。
自分が優れているのだから、自分のマスターである式野もまた優れた存在だと決めてかかっている。

「おお、そうじゃ」
「あ、気ぃ変わってくれた?」
「外出の前に紅茶と茶菓子を用意せよ。不味ければ相応の処分を下す」

これはもう話にならない。
話にならないならば、やるべきことは一つしかなかった。掌を返し、右手の甲を自分へ向けた。
そこにはタトゥーのようなかっこよさげな模様が描かれている。
これをどうにかしてなんとかすればサーヴァントに言うことを聞かせることができるらしい。確かそんな説明だったと思う。
その時だった。

「クビヲハネヨ!」

机の残骸を蹴り上げてキャスターが立ち上がった。
式野は呆然とキャスターを見上げた。その美しい顔は憤怒に歪んでいる。
蹴り上げた残骸が落ちてくるよりも早く、キャスターが式野に向かって一歩踏み出し、右手をとった。

「クビヲハネヨ!」

令呪をつまみ、むしり取った。

「ぎゃあああああああああ!!!」
「クビヲハネヨ!」
「ぐえええええええええええ!!!」
「クビヲハネヨ!」
「うごおおおおおおおおお……って、あれ?」

皮を剥ぎ取られたものだと思っていたが、痛みはない。恐る恐る目をやると出血もない。
右手の甲は破壊もされず右手の甲のまま存在している。ただ令呪のみが失われていた。
キャスターは腰に提げた汚い袋へ右手を突っ込み、忌々しげに舌打ちをした。

「なんという汚らわしいものを持っておるのじゃ。これは妾が預かっておく」
「え、ちょっと、私の令呪……」
「さあ、さっさと紅茶と茶菓子を準備せよ。妾に我慢をさせることは罪悪と知れ」
「私の令呪……とれるとか聞いてない……」

タトゥーに見えたものは、タトゥーではなくタトゥーシールだった。
式野は立ち上がり、キッチンへ向かった。キャスターには背を見せていたため、歯を食いしばった表情が見られることはなかった。

(このままだと死ぬ……まあ死ぬ……だいたい死ぬ……クソッ、このままで済ませてたまるか……!)

式野の辞書に諦めるという文字は存在していなかった。危機に陥れば後輩を蹴り落としてでも切り抜ける。
どうにかしてサーヴァントが前に立つフォーメーションを作らなければならない。
そのためにすべきことは、そう――口車だ。

「お茶菓子、豆大福にしようと思うんだけど。あれ、すごく美味しいから」
「ほほう」
「でも今ストック切れてるのよね。散策ついでにお買い物いかない? 豆大福以外にも気に入った物があれば何でも買ってくれていいから……」





【クラス】
キャスター

【真名】
グリムハート@魔法少女育成計画JOKERS

【ステータス】
筋力A 耐久A 敏捷A 魔力A 幸運C 宝具EX

【属性】
秩序・悪

【クラス別スキル】
陣地作成:―
そんなことはできないが、本人はできると思っている。

道具作成:―
本人は当然できると思っているが、できるわけがない。

【保有スキル】
軍師の指揮:―
本人だけがスキルの存在を確信している。

軍略:―
こんなスキルを持っているわけがないということくらい少し付き合えば分かることだ。

女王の精神:C
人間でいう精神異常に限りなく近い、周囲の空気を読めなくなる精神的なスーパーアーマー。
たとえ自分やマスターに危険が近づこうと前線へ出ようとはしない。直接戦うことは恥だとすら考えている。
自分と直臣(マスター)以外は猿程度にしか考えず、残酷な行為も娯楽の一環として行う。

神性:B
神霊適性を持つかどうか。ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされる。
元々は神霊そのものであるが、現身として魔法少女に落としこんでいるためランクが低下している。

魔法少女:EX
魔法少女である。変身というものをしないため、このスキルを解除することはできない。
一人につき一つ固有の魔法を使う。排泄や食事が不要となり、人間を超越した身体能力を持つ。
魔法のかかっていない毒物なら完全に無効、精神的にも人間時より強くなっている。
グリムハートは特別製の超高級魔法少女であり、通常の魔法少女を魔法でも身体能力でも遥かに上回っている。
精神的に折れたり曲がったりすることがないように作られているため、あらゆる精神的攻撃に抵抗を持つ。

【宝具】
『礼儀知らずは相手にしないよ』
ランク:EX 種別:対全 レンジ:― 最大捕捉:―
無礼者からのあらゆるコミュニケーションはグリムハートに影響を及ぼすことがない。
会話、物理攻撃、精神操作、魔法、全能の力、範囲対象だろうと常時発動だろうと全てをシャットアウトする。
無礼者の声はグリムハートにとって猿の鳴き声にしか聞こえず、
グリムハートが何を言おうと、無礼者には「クビヲハネヨ」と聞こえてしまう。
グリムハートにとっては自分以外のあらゆる存在が無礼者であるため、
特別に許可を与えない限り、ありとあらゆるものがグリムハートに通用しない。
神霊の現身である魔法少女「プク・プック」に対抗すべく生み出された魔法。

【weapon】
『なんでも入る袋』
中が別の次元に通じている汚い袋。一人で持ち上げられるサイズであればどんな物でも入れることができ、重量を無視する。
動きを封じるわけではないため、生き物を捕まえておくならあらかじめ縛っておく等する必要がある。

【人物背景】
「魔法の国」を支配する偉大なる三賢人の一人、シェヌ・オスク・バル・メルの現身たる魔法少女。傲慢で残酷で自己中心的。
自分こそが貴い存在であると信じて疑わず、貴人は将として構えることがあっても兵として動くことはないと直接戦おうとはしない。
本人は「我こそ稀代の名将」と妄信しているが、実際は愚かで的外れな指揮を乱発する最低最悪の将であり、勝ち戦も負け戦にしてしまう。
本来ならばブルーカラーにこそ向いているのだが、そのことについて指摘できる者は彼女の周囲に存在しない。


【マスター】
式野会長@死人の声をきくがよい

【マスターとしての願い】
金と地位が欲しい。

【能力・技能】
美人でスタイルの良い眼鏡少女。オカルト研究会の会長だが、知識は付け焼刃。

【人物背景】
郷土史研究会でオタサーの姫をしていたが、怪事件に遭遇して以降オカルトに興味を持ち、会をオカルト研究会に改め、引き続き会長をつとめる。
何事にも自分本位で生き残るためなら平然と他人を犠牲にし、脅迫や銃刀法違反といった犯罪行為も息を吸って吐くようにやってのける。
ホラー漫画におけるあらゆるフラグを踏み潰し、絶対に死ぬような状況でもなぜか生きている。特技は記憶を自分に都合よく改ざんすること。
「ゴミみたいな性格だけど美人」とオカルト研究会の後輩である小泉から評された。

【方針】
サーヴァントを騙しつつ、どうにかして上手い事使いたい。



候補作投下順



最終更新:2016年03月03日 23:29