からんころん。
からんころん。
ジャージ姿につっかけ履きの、ハゲた頭の青年が、夜の路地を歩く音。
満天の星空に、からんころんと寂しい音が消えていく。
「タマさんタマさん! ほら、星! すっごいキレーっすよー!」
つったかたったと騒がしい音が、夜空にリズムを刻んでいく。
ジャージ姿のハゲ頭の隣に、制服姿の女子高生が並ぶ。
青年が、少女の声に促され空を見上げる。
「おー、すげーな」
やや感情の起伏に乏しい青年の顔に、それと分かる笑顔が浮かんだ。
促した少女もまた、夜空を見上げて笑っていた。
「やっぱいいっすよねー、こういうの。ボク、好きなんすよねぇ」
「へえ」
「良くないっすか? 皆がピカピカーってなってるの!」
「そうだな。こんだけ多いと、夜でも明るくて便利だ」
噛み合っているのか、いないのか。
マイペースな二人はそんなことを気にせずに、ただ、夜空を見上げながら歩き続けた。
☆
「ねーねー、タマさん」
夜空を見上げていた少女が、不意に隣を歩くハゲ頭に声をかける。
「サイタマな。で、なに」
「タマさんって本当にヒーローなんすか?」
少女が目線を夜空から下ろし、サイタマと名乗った青年の顔の方に向ける。
きらきらと輝いた少女の目と、虚ろとも言えそうなサイタマの目があう。
サイタマは、再びタマさんと呼ばれたことに少々思うところがあったらしく、少し頬を掻くと、いつも通りの答えを返した。
「趣味だけどな」
趣味。
ヒーローと呼ぶにはあまりにちゃらんぽらんな背骨。
もし、本職のヒーローや悪党が聞けば憤慨するかもしれない答え。
少女は「はへー」とマヌケな感嘆の後に。
「いいっすね、それ!」
「何が」
「趣味でヒーロー! ボク、そういうの好きっす!」
何が琴線に触れたのかは分からないが、少女はとても楽しそうだった。
サイタマは、少しだけ得意な顔をして歩き続けた。
「んで、お前はなんなの」
「ボクっすか? 何度も言ってるじゃないっすか。ボクはボクっすよ、一ノ瀬はじめっす」
「でも、セイヴァーって見えるし」
サイタマの差した指の先にあるのは、『セイヴァー』という文字。
サイタマ以外の人物には見えていないその謎の文字。
少し前に出会った時から何度も聞き続けているが、結局明確な答えの得られない謎。
「んー、なんていうかなぁ……
ほら、ボクは女子高生で、英霊で、ガッチャマンで、セイヴァーかもしれないけど、でも、やっぱりボクはボクじゃないっすか」
セイヴァーが唸りながら出したのは、まるでなぞかけのような、意図不明の返答。
むんむん唸りながら「なんて言うかなーなんて言うかなー」と呟き続けるセイヴァーを見て。
サイタマは、しばし立ち止まってセイヴァーとのこれまでのやり取りを思い返し。
そうしてようやく合点がいったと言うように、朗らかな顔で悩んでいるセイヴァーにこう評を下した。
「分かった。お前、めんどくさいやつだな!」
「そっすか? けっこーわかりやすいっすよ?」
再び噛み合わない。
だが、二人はその齟齬をさして気にせずに、そのまま別の話を始めた。
☆
「ねー、タマさん」
しばらく他愛もない会話を続けながら歩いていると、再びセイヴァーから、問いが切り出される。
「なんだ」
「もし、願いがなんでも一つだけ叶うってなったら、タマさんは何願うっすかー?」
それは、下らない問いかけだった。
暇つぶしの話題にしても陳腐な、それまでの会話からも一切関わりのない問い。
しかし、サイタマは、その下らない問いを受けるとらしくもなく深く考え、考え、考えに考えて。
「……家賃」
言い終わり、手で制す。
「いや、待て。家賃があっても食費がないと……二つまとめて金? いや、最悪その辺は自力でなんとかできるとして、壊れない目覚まし時計とか……
……あ、めちゃくちゃ強い敵とかもいけるのか?」
「なーんでもっす」
後ろ手に手を組んで、二歩、三歩と先を歩いて行くセイヴァー。
その背を追いながら、小学生のような問いについて腕を組んで真剣に悩み続けるサイタマ。
十歩分ほど進むと、サイタマは顔を上げ、ため息混じりに答えを出した。
「んー……分かんないな」
セイヴァーの足が止まる。夜の街に刻まれていた弾む音色がピタリと止む。
つられてサイタマの足も止まる。
空から夜の闇が降りてきたように、二人を包んでいたものがなくなる。
スカートを翻し、セイヴァーが振り返る。きゅっとローファーの擦れた音が、やけに大きく響いた。
「あれ、タマさん意外と決めるの苦手なんすか?」
「いやいや、その時になってみないと分からないって。
今の願いだって、その時には叶ってるかも知れないし。もしかしたら明日、今よりもっとデカい願いが出てくるかもしれないだろ?
だから、もしこの先本当になんでも願いが叶うって状況になったら、その時改めて考える。もしなんもなかったら、その時欲しいもんを願うさ」
それはただの結論の先延ばしかもしれない。
根無し草のような生活を続ける彼らしい無計画さの現れかもしれない。
だが、その返答を聞いたセイヴァーは、数秒サイタマを見つめたあと、何かが腑に落ちたように晴れやかな笑みを浮かべた。
その笑顔は、ここ最近一緒にいるサイタマも初めて見る、まさに破顔と呼ぶに相応しい気持ちの良い笑顔だった。
「なんだよ」
サイタマが問いを返しても、セイヴァーは答えない。
ただ、笑顔のまま、またしても意味深な言葉を返すだけだった。
「ボク、タマさん好きっすよ。『ここにいる』って感じがするから」
「なんだそれ」
「未来でもない、過去でもない、ボクの隣に居るんすよ。タマさんは。
今も、これから先も、たぶんずっと」
セイヴァーは。
一ノ瀬はじめは。
とても嬉しそうな顔でそう言った。
だからサイタマは、水を指すようなことはせず(あるいはただ単に面倒くさかったからかもしれないが)、ただ一言。
「そうか」
「そっす!」
今度は噛み合ったのか。それとも結局噛み合わなかったのか。
サイタマが、立ち止まっていたセイヴァーのおでこを軽く叩いて彼女の隣を通り過ぎる。
セイヴァーは叩かれたところを撫でながら「へへへ」と笑って、駆け足でサイタマの背を追う。
からんころんと寂しい音が、夜空の向こうに消えていった。
つったかたったと騒がしい音が、夜空にリズムを刻んでいった。
ちぐはぐな音たちは、決して重なることはない。
街灯の作った影が踊る。一人と一人、合わせて二人分。
サイタマとセイヴァーは、聖杯戦争という異常な舞台に上げられても、それぞれがそれぞれのペースで歩き続けていた。
【クラス】
セイヴァー
【真名】
一ノ瀬はじめ@ガッチャマンクラウズシリーズ
【パラメーター】
一ノ瀬はじめ
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:E 幸運:E 宝具:EX
ガッチャマン
筋力:C 耐久:C 敏捷:C 魔力:C 幸運:E 宝具:―
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
カリスマ:―
人を率いる力。統率者としての素質。
セイヴァーのクラススキルであり、雛として目覚めた時分は彼女も確かに有していたスキル。
しかし、現在の彼女はそれを有さない。
何故ならカリスマを持つ個人が先導することを、彼女は否定したのだから。
対英雄:EX
世界をアップデートするのはヒーローじゃない。ボクらっす!
特出した英雄を否定し、万民が等しく個人であり群衆であることを世界に求めた少女。
その逸話こそが彼女のセイヴァーとしての根幹。そして聖杯より彼女に与えられた救世の力。
相手の英雄としての格が高ければ高いほど、逸話が有名であればあるほど、サーヴァントとして強力であればあるほど
相手を『世界に不必要な存在』であるとして能力を下降させることができる。
【保有スキル】
バード・ゴー:D
セイヴァーが『特定個人』として戦場に立つための姿。
彼女が問いを投げかけた『英雄』の側面。
「バード・ゴー」「自立/孤立」「文房具好き」以外のスキルと宝具の全てを一時的に失う代わりにパラメータを上昇させる。
装備などは原作どおり。アムネジア・エフェクトで魔力素質の無いものからは見えなくなることが可能。
「バード・アウト」の掛け声で変身を解けば、パラメータが下降する代わりに全ての宝具とスキルを取り戻す。
菩提樹の悟り(偽):EX
覚者は菩提樹の根本で世界についてを解き明かした。その逸話が成すスキルこそが『菩提樹の悟り』である。
第三者から見た彼女もまた、世界についてを解き明かした覚者然とした人物として映っていた。
だが、彼女は世界を解き明かしたわけではない。ただ人よりも深く世界について考え続けただけである。
覚者が「解き明かし答えを得たもの」ならば、セイヴァーは「考え、答えに近づこうとしたもの」にすぎない。
あるいは、世界中の人々の全てが持っている何気ないスキルかもしれないが、逸話と合わせて『菩提樹の悟りっぽいスキル』として再現された。
セイヴァーは必要に応じて既知・未知問わず物事の本質と向き合いその根源を探ることができる。
そして、相手を深く知れば知るほど、その相手からの干渉を無効化できるようになる。
相手の真名と逸話の全てを把握するに至れば、そのサーヴァントからの敵性干渉の全てを無効化できる。
自立/孤立:A/―
空気に流されることのない人物。
偽報や謀略系のスキルに強く、上記菩提樹の悟り(偽)と合わせれば看破も可能。
だが、彼女の行動には彼女の『意思』が宿っているため、それを曲げることは難しいということでもある。
対話:A
相手と対話ができる。
Aランクともなれば、狂化や精神汚染を持つサーヴァントとも何らかの形で対話を行うことが可能。
文房具好き:B
文房具が好き。
我を忘れるほどではないが、それでも、通常生活時についつい文房具屋によってしまうことがあるだろう。
◇◇◇・◇◇◇◇:―
いつかは空気や心と呼ばれていたもの。
彼女の有するスキルであるが、世界に対する影響力はない。
【宝具】
『七十三億の主人公たち』
ランク:― 種別:対人類 レンジ:声の届く範囲 最大捕捉:7300000000あるいは1
英雄を否定する力の根幹。
世界という物語の主役は誰なのか。このドラマの結末を決めるのは誰なのか。
そのことに気づいたならば、人々はきっと、世界を変えられる。
本来は宝具とも呼べぬ彼女の思考の一端。そのためランクは存在しない。
セイヴァーが敵サーヴァントと対話し、彼らの根幹を暴くことによって発動が可能。
彼らが特出した『個』ではなく、『群』の中の『個』であったと認識した時、そのサーヴァントはセイヴァーの領域に引きずり込まれることとなる。
この宝具自体に破壊力や世界への影響力はない。後述宝具『世界は変わる、ボクらとともに』の準備を行うためのものである。
『世界は変わる、ボクらとともに』
ランク:EX 種別:対社会 レンジ:― 最大捕捉:1あるいは7300000000
セイヴァーと宇宙人との戦いの逸話がそのまま宝具になったもの。
蔓っていた空気という名の悪魔は、『個』を『群』にすることで居場所を追われた。
漂っていた空気という名の怪物は、『群』を『個』にすることで力を失った。
彼女の行動自体は世界の問題を何も解決していない。
ただ、世界にあふれる『個』の群れに、世界のあり方を問う。
そしてきっと、その問いを受けた『個』は自分のあり方と世界のあり方を見つめなおし、一歩だけ前に進む。
この宝具が発動した瞬間、彼女の領域に引きずり込まれていた英霊は英霊ではなくなる。
彼ら彼女らは特出した『個』から、世界を彩る『群』の中の『個』になるのだ。
その変容が意味するのは、英雄としての彼らの消滅。そして、世界をアップデートする『ボクら』としての彼らの誕生。
消滅と言っても文字通り消滅して英霊の座に戻るわけではない。
この宝具に巻き込まれたサーヴァントは、その身に宿した聖杯の魔力のほぼすべてを聖杯に返上することになる。
だが、決して英霊の座に戻ることはできず、全ての戦力と逸話と聖杯戦争に関する思考を失い、魔力を持たぬNPCになり世界とともに歩んでいくことになる。
マスターはサーヴァントを失うことになるので脱落となり、彼らもまた、聖杯戦争が終わるまで世界とともに歩んでいくことを余儀なくされる。
この宝具を発動する、ということはセイヴァー自身が英霊として呼び出された自分を否定するということになる。
当然、彼女も英霊という立場を捨てて一介の女子高生NPC『一ノ瀬はじめ』となり、舞台の上で幸せに暮らし始めることとなる。
長々説明したが、つまりは彼女の自己犠牲によって上記宝具『七十三億の主人公たち』で自身の領域に引きずり込んだサーヴァントの特異な能力を全てひっぺがしてNPCまで引きずりおろし聖杯戦争から強制退場させる宝具である。
【weapon】
NOTE。
【人物背景】
ヒーローってなんすかね?
【マスター】
サイタマ@ワンパンマン
【マスターとしての願い】
その時決める。
【能力・技能】
ワンパンマン。
理不尽の塊。
闘争という土俵の上に居ないもの。
この地に呼ばれたマスターの中で最も強いかもしれない男。
流石のワンパンマンでも神秘の壁を乗り越えてサーヴァントには傷をつけられない。
ただし、神秘を纏う方法があったならば……
【人物背景】
趣味でヒーローをやっているものだ。
ジェノスと出会う以前より参戦。
【方針】
悪そうな奴は倒す。
それ以外はいつもどおり。
候補作投下順
最終更新:2016年03月03日 23:44