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――これは一体、どういう状況なのだ?



聖杯戦争の参加者たるマスター候補の中にあって、その男は例外中の例外と呼ぶべき存在だった。
原則、全てのマスター候補は一度NPCとして埋没し、日常の中で違和感に気づいた者がマスターとして目覚めることができる。
ならば男がこの世界に呼ばれたその瞬間から覚醒していたことは必然の事象であったに違いない。

「守護者としてでも、サーヴァントとしてでもなく、一個の生命として呼ばれたというのか……?
それにこの令呪、まさかオレがマスターの側だと?どうなっている?」

在りし日は聖杯戦争に巻き込まれたマスターとして、死後はサーヴァントの一柱となって駆け抜けた「元」アーチャー。
英霊エミヤは守護者として抑止の輪に組み込まれた存在であり、一人の人間として市井に埋没するなど有り得るはずもない。
故にエミヤは極めて速やかに違和感に気づき記憶を取り戻すことに成功した。元より人間とは存在の階梯が違う、というのも理由の一つではあっただろう。

この世界の身分までご丁寧に用意されていた。
どうやら東京で休暇を取っているフリーランスの傭兵、という設定のようだ。まあ間違ってはいまい。
しかし聖杯戦争が行われることは間違いないだろうに何故何らの知識も付与されないのか?
本来呼ばれるはずのない存在をマスターとして呼んだが故の弊害だとでもいうのだろうか?

「全く、前回の召喚の時の事故でもあるまいし――――――何だと?」

自分で口に出した、否、記憶から出した事柄に驚愕を覚えた。
覚えている。覚えている。覚えている。第五次聖杯戦争にサーヴァントとして召喚された時の記憶全てを。
英傑たちとの戦い、己が望みを果たすために凛を裏切っても盤面を整え、過去の自分を消し去ろうとした。
だが、叶わなかった。いや、元よりそうする必要などなかったのだ。
そう、地獄に落ちようとも、誰かを救うために走り続けたこの道は決して間違いなどではないと気づいたから―――



「馬鹿な、何故記憶を持ち越している?座に戻るよりも前にこの世界に引っ張られたのか?」

サーヴァントというものは聖杯戦争での記憶を座に持ち込むことはできず、ただ「そういう事実があった」という記録が残るのみである。
にも関わらずエミヤには第五次聖杯戦争の記憶が鮮明に残っている。
考えられるとすれば、サーヴァントとしての己の魂が座に帰るよりも先にこの世界に引き寄せられた、という可能性ぐらいか。
これが聖杯の意思だとすれば、何の意図があって英霊をマスターの側として確固たる肉体を与えて配したのかまるで理解が及ばない。
確かにエミヤは英霊の中でも下から数えた方が早いほど格に劣る存在ではある。
しかし人間の魔術師と比較してしまえばその差は天と地ほどもある。
これではバランスを著しく欠くのではないか?それともこの世界にはエミヤに並ぶような力を持つマスターが何人も存在するのか?

「抑止力も、魔術師もオレを縛ることはない…ならばオレはどう動くべきなんだろうな」

これから起こるのが聖杯戦争ならば、無数の惨劇が起こり血が流れることは間違いない。
聖杯に懸ける願いなどは元よりなく、自らの手で叶えようとした悲願も最早必要ないとわかった。
ならば許されるのだろうか。もう一度、正義の味方として在ることを。

「なあ、名も知らぬサーヴァントよ」
「やっぱり気づいてたか。悪いな、そろそろ顔を出そうかと思ってたんだが」

エミヤの背後から実体化し、姿を現したのはまさしく勇者と呼ぶべき風貌の黒髪の青年だった。
マスターに与えられたステータス透視能力から見える数値はアベレージ以上、容姿からして東洋の英雄といったところだろうか。

「どうもそっちは色々事情が混み入ってるみたいだな」
「ああ、正直に言って混乱しているよ。君は事情を知っているのかな?」
「いくらかはな。どこから話したもんか……」



エミヤとレイラインで繋がったサーヴァントが話すところによると、この世界は聖杯によって再現された東京であるとのことだ。
住民もまた再現された存在…ゲームで言うところのNPCとでも呼ぶべき者たちであるらしい。
そして何と、マスターとサーヴァントの数は把握できないほどの多数に上るという。

「…この聖杯は凄まじいまでのリソースを備えているようだな。
だがこれは街中で聖杯戦争を開催するのとはわけが違うぞ。何故現代の日本の首都を再現する必要がある?
そもそも、我々にこれほど高度に文明的な殺し合いを強いること自体聖杯に何某かの意思が介在している証左ではないのか?」
「答えてやりたいのは山々なんだが、俺も見てもいないことまではわからねえからな。
それともう一つ、さっきざっと東京を見回してみたんだが魔術回路もないマスターが結構いるみたいだ。
俺は生まれつき眼が良くてな、そういうのはわかるんだ」
「なるほど、私以上の千里眼の持ち主というわけか。さしずめクラスはアーチャーといったところか」
「おう、東方の大英雄アーラシュとは俺のことよ。
ま、実際はそう大したもんでもないけどな」

今はマスターとして立つエミヤとて本来は英霊である。
故に、遥か東方の英雄であるアーラシュについても知識を有している。
その身を犠牲にして大地を割り国境を作ることで、自身以外の血を一滴も流さず、敵も味方も一人も取りこぼすことなく救い、長年に渡る戦争に終止符を打った男。
ペルシャ神話全体で見ても間違いなく上位に位置するであろうほどの大英雄。
ある意味において、エミヤシロウの理想を実現してみせたとも言える英霊が目の前にいる。


「ふ、彼のアーラシュ・カマンガーが大したことのない英雄なら私などは塵芥以下だろうよ」
「そんなことはない」

弓兵は真っ直ぐにエミヤの瞳を見据え、静かに、しかし明確に断言した。
見透かされている。我知らず、エミヤはそんな感想を抱いた。

「お前はやるべき時に、やるべきことをやって、多くの民を救ったんだろう。
なら、お前は誰に劣りもしない立派な英雄だ。そうだろ、錬鉄の英雄?」

言い切るその瞳には一切の虚飾はなく、さりとて責めるでもなく柔和な笑みを浮かべる。
苦手なタイプだ。セイバーともランサーとも異なる、率直でいて大らか、穏やかなこの男相手ではエミヤの皮肉も通じそうにない。

「それで、方針はどうする?」
「そうだな、私は経験上聖杯というものをどうも信用できなくてね。
君は先程魔力を持たぬマスターがいると言ったな。それはつまり、私を含め自らの意思に依らず聖杯戦争に放り込まれた者がいるということか?」
「ああ、間違いないと思うぜ」

アーラシュの持つ千里眼は世界や人の有り様の全てを見通す。
ホテルの屋上から街を見下ろし何人かのマスターを視認しただけで聖杯が無差別にマスターを選別しているであろうことは見て取れた。
事実、視認したマスターたちの中には困惑の念を抱いている者が少なからず見受けられた。聖杯戦争自体を理解していない者も、だ。

「ならば、私はこの聖杯を破壊することを第一に行動するつもりだ。
死者たる英霊だけを扱き使うだけならまだしも生者をも無差別に招き入れ殺し合いを強いるなど、最早聖杯戦争それ自体が災厄だ」

本来の聖杯戦争は魔術師たちが死の危険を承知で自ら参加する儀式であり、そこで命を落とすのは端的に言って自業自得に過ぎない。
中には聖杯戦争の存在自体を知らぬ、魔術回路を持つだけの人間が聖杯に見初められ令呪を授かることもあるがあくまでそれは例外であった。
だがこの聖杯は違う。最初から素養の有無に関わらず無差別にマスターを選別し聖杯戦争に参加させている。
聖杯の汚染の有無は定かならずとも、その一点だけでエミヤにとって聖杯は度し難い悪徳としか映らない。

「なるほど。つまり望みもないのに巻き込まれた民を守るってことだな」
「いや待て、何故そうなる。話を聞いていなかったのか君は」
「聞いてたさ。だがな、もう少しぐらい素直になっても罰は当たらないだろう?
今のお前は抑止の守護者じゃなく、今を生きる人間の守護者になることだって出来るんだからな」

やはり苦手だ。何もかもを見通すこのアーチャー相手では普段の調子を維持できない。
というより、これほどの眼を持っていれば少なからず人格が歪みそうなものだがどういう精神構造をしているのか。

「ふ、ならば一つ乗せられてみようか。口にするのも恥ずかしい限りだが生前の私は正義の味方というやつに憧れていたのでね」
「その意気だ。いっちょ東京を救ってやろうや、マスター」

夜空には無数の星が輝いていた。思えば、生前の日々は届かぬ星に手を伸ばすようなものだったか。
答えを得た。その記憶を奪われずに今一度仮初めの生を得たのなら、もう一度無様な足掻きをしてみるのも悪くはない。


―――少し寄り道になったが。オレもここで頑張ることにするよ、遠坂。


あの少女に恥じぬように在ろう。
無様な結果に終わるとしても、きっと意味はあるはずだ。





【クラス】アーチャー
【真名】アーラシュ
【出典】Fate/Prototype 蒼銀のフラグメンツ
【性別】男
【属性】混沌・中庸

【パラメーター】
筋力:B 耐久:A 敏捷:B+ 魔力:E 幸運:D 宝具:B++

【クラススキル】
対魔力:C…魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
Cランクならば魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。

単独行動:C…マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。マスターを失っても、一日は現界可能。

【保有スキル】
頑健:EX…如何なる病にも毒にも侵されず、数多の戦いにおいて傷を受ける事すらなかったと謳われる肉体の頑強さ。
西アジアの神代最後の王、マヌーチェフル大王をして、替え難き至宝と賞賛した旧き神代の恩恵である。対毒スキルを付与し、耐久力を向上させる。

千里眼:A…視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
このランクでは透視や読心、未来視をも可能とする。

弓矢作成:A…複数の矢を瞬時に作成する能力。
最大で空を埋め尽くす万単位の矢を作り出し、山をも削り取る威力を持つ飽和射撃を行う。
中距離戦闘でも五十程度の矢なら瞬時に作り出せる。


【宝具】
『流星一条(ステラ)』
ランク:B++ 種別:対軍宝具 レンジ:4~999 最大補足:1000人
ペルシャとトゥランの両国に「国境」を作り、争いを終結させた究極の一矢。2500kmにも及ぶ射程距離と文字通り「大地を割る」威力を持つ人ならざる絶技。
その性質から、一点集中ではなく広域に効果を発揮するため対軍に分類されるが、純粋なエネルギー総量は対城宝具に、魔力総量は対国宝具にも及ぶ。
だが究極の一矢と引き換えに五体四散して落命したように、この宝具はアーラシュの霊核をもって行われる「壊れた幻想」の特性が付与されているため、一度放てばアーラシュ自身が消滅する「特攻宝具」としての側面を持っている。

【weapon】
深紅の大弓と矢。
矢は近接戦闘で直接手に持って使うこともある。

【人物背景】
古代ペルシャにおける伝説の大英雄。
西アジアでの神代最後の王とも呼ばれるマヌーチェフル王の戦士として、六十年に渡るペルシャ・トゥルク間の戦争を終結させた。両国の民に平穏と安寧を与えた救世の勇者。
異名はアーラシュ・カマンガー。英語表記すればアーラシュ・ザ・アーチャー。
アジア世界に於いて弓兵とはすなわち平穏をもたらせしアーラシュをこそ指し示す。現代でも彼は西アジアの人々に愛されている。
伝説において、アーラシュは究極の一矢によってペルシャとトゥランの両国に「国境」を作り、大地を割った。その射程距離、実に2500km。
人ならざる絶技と引き換えに、彼は五体四散して命を失ったという――

【サーヴァントとしての願い】
聖杯に懸ける願いはない。
人を超えた力を持つ者が民の生命や平穏を脅かすのを阻止することが自分の役割と信じるのみである。

【基本戦術、方針、運用法】
宝具の使用は脱落とイコールのためスキルのみで戦うことになる。
近接戦闘にも耐え得るがやはり本領は中距離以遠での射撃戦にこそあるので、弓兵のセオリーに従って運用するべき。
接近を許した場合はエミヤに前衛を任せ後方から援護射撃を行うという手もある。



【マスター】エミヤ
【出典】Fate/stay night
【性別】男性

【マスターとしての願い】
聖杯は信用ならないため、破壊する。
同時に、もう一度正義の味方として人々を守りたい。

【weapon】
各種投影宝具

【能力・技能】
『無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)』
錬鉄の固有結界。
自らの心象風景の中に相手を誘い込む大魔術であり、彼の場合、そこには彼の記憶に蓄えられた無数の剣(複製品)が存在する。
また彼は複製品を投影する際、その武器に篭められた記憶をも同時に再現するため、その武器に応じた持ち主の戦闘経験を発揮できる。

英霊としての魔力、身体能力
本来人間ではなく英霊であるため現代の魔術師のそれとは比較にもならない魔力を有する。
また、今回のエミヤの身体能力は第五次聖杯戦争におけるステータスに準じるものとする。

【人物背景】
本作の主人公、衛宮士郎が世界と契約し死後英霊となった存在。
抑止の守護者として使われるうちに精神が摩耗し、いつしか自分殺しを願うようになった。
しかし第五次聖杯戦争において過去の自分である衛宮士郎に敗北し、答えを得る。
今回のエミヤは第五次聖杯戦争(凛ルート)の記憶が継続している。

【方針】
聖杯の破壊を第一とするが、最悪の場合は信用できるマスターを生き残らせ聖杯を託す。
自身の生存に関しては最初から度外視。



候補作投下順



最終更新:2016年03月14日 01:30