【2日目 某時刻】
【≪牙琉法律事務所≫】
褐色肌と銀髪の女が、法律事務所の窓から街を見下ろしていた。
見ようによっては、齢は十代くらいに見えるが、本来、肉体年齢としては成人に達している筈だった。
生前、『カナン』の名で呼ばれていたサーヴァント――『アサシン』。
それが、彼女だった。
好物のスティックシュガーを煙草のように咥えて、瞳に力を入れる。
そうすると、あらゆる感情が、彼女の瞳には視えるのだった。
窓の外を行きかう、サラリーマンも、女子高生も、客引きも……全てが何で出来ているのか。
彼女の眼が特殊というよりかは、彼女の『五感』全てが告げるのである。
両目に埋め込まれているのは、魔眼でも何でもない只の眼球でありながら、視界の外の情報や、数秒先の未来さえ視えてしまう。
それが彼女のサーヴァントとしての強みの一つだった。
「――」
“共感覚”
それは、本来切り離されている筈の五感が全て繋がり、干渉し合う、特殊な能力だった。
現実には、数字の色が視えたり、音楽を聞けば情景がはっきりと浮かんだり……といった例が度々報告される。
芸術家や音楽家として名の知れた人間の中にも、この共感覚を持つ者は少なくない。
ただ、あくまで多くの共感覚者は、二つか三つの感覚を繋げているだけなのだが――アサシンは、五感全てを連結させる事を可能としていた。
それは、恐ろしいまでの情報処理能力であると言えた。
背後にいる人間が如何なる動きをしているのかさえ、彼女は、視覚以外の感覚で識り、補うようにして視覚に呼び起こす事が出来る。
常人が把握できないような情報も、彼女には容易く読み取る事が出来てしまうのだ。
この聖杯戦争においては、ここにいる誰が『紛い物』で、誰が『本物』なのかも、彼女は把握する事が出来た。
多少の集中が必要であったが、雑踏を行きかう人間の内に、『マスター』、あるいは、『サーヴァント』がいるとすれば、彼女はそれを看破出来るだろう。
あそこにいるのは似非の人間もどきだとか、ここにいるのが本当の人間だとか……。
アサシンのサーヴァントとしては、『マスター殺し』も行いやすい状況だ。
気配をかなり落とした別のアサシンでさえも、カナンは感知する事が出来るかもしれない。
それほど強力なのが、彼女の瞳だった。
「……駄目だ、マスター。ここにはいない」
ただ、問題がある。
ビルの一室を借りる形で経営されているこの場所だが、日本の街並みはそこまで見通しが良くないのだ。ビルの隣にはすぐビルがあるのが東京だった。
その上、人口が密集しすぎているばかりに、あまりに情報量が多すぎる。建物の内にも、多くの人間が通っている。
すぐに他のマスターを探し出す事は、彼女とて不可能であった。
以前、渋谷にも来た事があったが、それは友人の故郷だったという事情もある。友人を守らねばならないから、仕方なく日本で活動したのだ。
それもごく短期間の話で、遊びに行くくらいの目的しか持たないのが普通だった。
その時から思っていたが――本来、この日本という街は戦争向けに作られていない。
かつて、『鉄の闘争代理人』と呼ばれた傭兵でもあったカナンとしては、この東京で聖杯戦争などやらされるのは、全く不本意だ。
通常の英霊ならば、人的被害を及ぼさない方が難しい――そんな場所だった。
これはアサシン以外のサーヴァントも同条件だが、その全員がおそらく、大なり小なり息苦しさを感じるのではないかと思う。
事実、既に、『刺青のある男』という気になる人物に大量虐殺が行われている。
本来、おおっぴらに殺し合うべきではないサーヴァントたちが、これほど目立ってしまっているわけだ。
推察するに、それは戦争と何の関わりもないただの愉快犯的な殺戮にしか思えないが、早速、『聖杯戦争』としては綻びが見え始めている。
監督役や裁定者がいるならば、迅速に対応せねばならない事態だろう。
「そうでしたか。――いえ、言う通りに働いてくれてありがとうございます」
アサシンに返事をしたのは、彼女のマスターにあたる男だった。
この事務所の経営者でもあり、名の知れた弁護士でもある彼の名は――『牙琉霧人』。
気品のある金髪の縦ロールの髪型と、銀縁の眼鏡が、彼の能力に奇妙な説得力を持たせていた。
事実、今日の法曹界においては、「最高の弁護士」などとさえ謳われている。
今日は事務仕事が多い中で、アサシンは監視、霧人は本業という形で、時間を潰していた。
それ故に、霧人はアサシンの方を見向きもしない。
彼が話しながら見ているのは、いくつかの書類だった。
アサシンは、この男の事が別段好きでも無かったが、元々傭兵だった彼女は、好き嫌いで役目を買わない事は無かった。
この男が『聖杯を得ておきたい』と言ったのだから、アサシンは理由も聞かずにそれを受諾するしかできない。
それが、雇われて人を殺してきたアサシンの
ルールだった。
それ故、相手方のマスターがどんな人物なのか知るまでもなく、見つけ次第、弾丸をぶち込むしかない。
もし、アサシンを引き当てたのが別のマスターだったならば、その時は霧人に弾丸をぶち込んでいただろう。
「マスター、今日のニュースだが――」
「刺青のある男の話、ですか?」
「ああ。……何か少しでも情報があったら教えてほしい」
アサシンは、また何となく外を見ながら言った。
今は、視覚を切り替えて、普通の人間と何ら変わる事ない景色が見えるようにしている。
だから、今、アサシンの視界にあるのはただの雑踏だ。
それを見つめながら、少し面白がってもいた。
戦争の場所としては最悪だが、ただ人が集まっている場所としては、なかなか見ていて不思議な光景でもある。
「私には大した情報は入ってきませんよ。その手の情報が入りやすいのは検察官の方です」
「……そうか」
「まあ、一応、弟が検事ですが、もう疎遠ですからね。ここで会うつもりもありません。
……いや、会ったとしても、彼が容易く情報を明け渡してくれる事もないでしょう」
アサシンは、霧人の方をちらりと見る。
彼の姿を見る時は、時としてアサシンも集中力を研ぎ澄まさねばならなかった。
それというのも、霧人には、時として、どす黒い『憎悪』の色が見えるのである。
今も、薄く黒い色が霧人に重なった。
それは、おそらく『弟』という言葉への憎しみ……。
彼の発する言葉や、微妙なしぐさから、アサシンは感情を読み通せた。
ただ、それを封じる術も霧人は知っているらしく、それがアサシンに不安を過らせる。
何としても隠し通しておきたい事が霧人にはあるらしい。
勿論、それを無視する術をアサシンは備えているのだが、この弁護士という職にある男に如何なる過去があるのかは少々気になった。
「――ただ、『刺青の男』は、やはり、サーヴァントと考えた方が良いという事ですかね」
「ああ。この街でそんな能動的な殺しを始めるのは、多分、魔術師やサーヴァントだけだ」
「なるほど。大がかりな事件がある割に、事件の件数も妙に少ないのは、そういう訳ですか」
「おそらくそうだ。感情のない人形は、傭兵や殺し屋でもない限り、『殺し』をしない」
「……」
「……ただ、気になるのはそんな事じゃないんだ。『刺青』という特徴が、少し気になる。――『男』ではないけど」
アサシンにとってそのニュースが目を引いたのは、ただ相手がサーヴァントだからという訳ではない。
刺青――それは、アサシンの左腕にも刻まれているのだが、同じく刺青が特徴の知り合いが一人いる。
その知り合いが、自分と同じく、この聖杯戦争に現界している可能性も否めないと思ったのである。
ただ、その人物が『女性』であるのが決定的な違いだ。
尤も、日本では少ないとしても、世界では刺青のある人間など珍しくも何ともない。
気にするだけ無駄だと思ったが、それでも、もしかすると、その人物がいる可能性も考えうるので、刺青のサーヴァントはアサシンの興味を引いている。
「わかりました。その事件の資料を、後で警察から受け取っておきましょう」
「出来るのか?」
「簡単な事ですよ。
事件の情報が勝手に入って来るのが検察、自ら得ようとしなければ情報を得られないのが弁護士……それだけの違いなんです」
「……なるほど」
「それに、私はこれでも警察関係者にも顔が利きますから」
霧人は、眼鏡の奥で不気味に笑って、そう云った。
何か妙な含みのある言い方で、それは、霧人の裏の顔をアサシンに確信させるに充分であった。
それは、サーヴァントにとっては、何の関係もない話かもしれないが――。
【クラス】
アサシン
【真名】
カナン@CANAAN
【属性】
混沌・中庸
【ステータス】
筋力D 耐久E 敏捷C 魔力D 幸運D 宝具B
【クラス別スキル】
気配遮断:B
自身の気配を消す能力。
完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
【固有スキル】
共感覚:A+
本来独立している筈の『五感』が全て同時に機能している、アサシンの特異体質。
文字に色がついていたり、音が形として見えたり、人間の感情を察知したりといった事が可能。
その為、『気配感知』や『千里眼』のスキルも、このスキルに内包する。
更に、アサシンは予知に近い数秒未来の出来事までこのスキルで読む事が出来る。
仕切り直し:A
戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。
心眼(偽):C
直感・第六感による危険回避。
虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。
【宝具】
『鉄の闘争代行人(テツノトウソウダイコウニン)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:1~100人
ウーアウイルスによって人為的に齎されたアサシンの驚異的な身体能力や共感覚と、これによる闘争活動から得たアサシンの戦場での逸話。
自身の『共感覚』をフル稼働させる事により、一帯の戦闘区域や敵の位置を完全把握する事が出来、それにより、全く土地勘のない場所でも地形を余す事なく生かした戦闘が可能となる。
その為、アサシンがこの宝具を用いて戦闘を開始した瞬間、初見の区域であっても、アサシンはその場で多角的な『先読み』が出来るようになり、殆ど直感で周囲を最適かつ自在に移動する。
一見すると彼女の視界に入っていない物体や事象も、彼女は嗅覚や聴覚からそれを把握し、その場全ての配置や動きをほぼ完璧に読み取り、脳内で瞬時に処理し、判断する。
また、アサシンの身体能力や戦場における知性そのものが異常に高く、その場にある武器の最適な使い方を共感覚を用いずとも理解し、駆使できる。
まさしく、五感全てが連結した共感覚と、身体能力や情報処理能力などが全て詰め込まれた、完全なる戦闘倫理。逃走の際にも用いる事が出来る。
ただし、「殺意を消す」、「気配を消す」、「感情を心の奥底に閉じ込められる」といった相手や、過度の感覚妨害は苦手とし、そうした相手には宝具を用いる事が苦手となる。
【Weapon】
『ベレッタPx4ストーム』
『ナイフ』
【人物背景】
鉄の闘争代行人と呼ばれるフリーランスの傭兵。
かつてウーア・ウィルスで全滅した中東の村の生き残りであり、抗ウィルス剤なしで症状を耐えきった初めての人物。
その結果、元々持っていた『共感覚』が大幅に強化され、五感を全て同時に使用する事ができる。
NGOの夏目に依頼され宿敵、アルファルド・アル・シュヤが率いる組織「蛇」との戦いに臨む。
以前、中東で出会った大沢マリアという女性に深い友情を感じている。
【サーヴァントとしての願い】
なし。
単なる雇われの戦争屋のようなもの。
【方針】
マスターの為に聖杯を得る方針。
まずは、他のマスターを探索する事と、『刺青の男』の調査を行いたい。
霧人に対しては不信感も大きいが、自分は雇われたものとして、感情が許す限り任務を全うする。
【マスター】
牙琉霧人@逆転裁判4
【マスターとしての願い】
聖杯の獲得。
【weapon】
なし
【能力・技能】
「法曹界でもっともクールな弁護士」、「現在の法曹界で最高の弁護士」などと言われる天才的な弁護士になれる実力があるらしい。
念動力で証人が捨てた物を浮かせたり、髪の毛を逆立てたりといった事が可能。
ポエムを詠む事ができる。
あんまり出てこない「黒いサイコロック」を発動する事も可能。
【人物背景】
32歳。職業は弁護士。
「法曹界でもっともクールな弁護士」、「現在の法曹界で最高の弁護士」などと言われる天才的な弁護士であり、主人公・王泥喜法介の師匠でもある。
また、歴代シリーズの主人公である成歩堂龍一の親友でもあり、牙琉響也の兄でもある。
優雅な立ち振る舞いで一見すると冷静だが、実はプライドが高く、自身のプライドが傷つけられると根に持つ模様。
その為、「逆転裁判4」においては、「プライドが傷つけられた」と短絡的な動機で他人を殺した後、「法の抜け穴」を利用して他者を欺いてきた。
しかし、最後には、弟子や親友や弟の突き付けた真実と、大衆の民意に敗北する。
作中最終回での逮捕後は、おそらく死刑判決を受ける可能性が高く、実質的には死刑待ち状態からの参戦。
【方針】
聖杯狙い。
聖杯によって、自らに課された罪を消し去り、自身の刑を回避する。
ただし、自身の内面は厳重に秘匿しておき、サーヴァントにも目的を隠したまま聖杯戦争に臨む。
仕事をこなしつつ、『刺青の男』の調査も行っておきたい。
【備考】
この世界では、牙琉弁護士事務所で一人で働いています。
また、霧人の感情はカナンにも見えづらいようです(「黒いサイコ・ロック」などを発動できる影響)。
候補作投下順
最終更新:2016年03月14日 01:35