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 ――ある時突然、地上に黒い稲妻が落ちた。

 それが飛来したのは、聖杯戦争を勝ち抜くために一族から派遣された、五組の主従が無事合流を果たした後、今後の方針を打ち合わせていた最中だった。
 工房と化した洞窟の中にまで降りて来た五条の落雷は、それぞれが過たずセイバー、ライダー、バーサーカー、キャスター、そして気配遮断していたアサシンをも捉えた。
 敵の奇襲――真っ先に浮かんだ可能性に、五人のマスターは即座に戦闘態勢に入ろうとして、異常に気がついた。
 雷を受けた彼らのサーヴァントのステータスが、倍加していたのだ。

「何が起こっている……?」

 攻撃を受けたにしては余りに奇妙な現象に、一団の長が口を開いた直後、”それ”は現れた。
 まるで先駆放電の見つけた経路を辿った、主放電のように。



  ケヒャケヒャケヒャケヒャケヒャ……



 癇に障る、子供の笑い声を悍ましくしたかのような奇怪な音を発しながら、”それ”は二十の眼光に映り込んだ。

 飛来して来たのは、発光する頭部をした人型の”ナニカ”だった。
 ステータスもスキルも、何も認識できない”それ”がしかしサーヴァントであることだけは、マスターの五人には視認できた。

 ゆらゆらと漂うように、しかし流星のような速度で現れた”それ”は、時折その輪郭を激しく歪ませながら悠然と大地に降り立って、五人の魔術師とそのサーヴァントに対峙する。

 何者だ、と長が問うことはなかった。

「■■■■■■――!!」

 それより早く、バーサーカーが暴発していた。
 咆吼と共に。ステータスの向上からか、これまで以上に狂乱したバーサーカーは怪力と狂化のスキルに加え、暗黒の稲妻によって強化された天性の肉体を駆って、最大膂力の一撃を叩き込まんと”それ”に肉薄する。

 その直前、長の視線に込められた視線の意図を、セイバーは瞬時に理解する。
 それは、この場にいる全員が、既に本能で察していたことだったからだ。

 ――あれは、あってはならないものであると。

 そして時空を司るその力の一旦を解放した空間跳躍により、セイバーはステータスで勝るバーサーカーより早く”それ”を間合いに捉えた。

 瞬閃。

 これまで以上の身体能力で放たれた最速の居合が振り切られたのと、セイバーの背後でクジラの歌声のような荘厳な音色が奏でられたのは、ほとんど同時の出来事だった。

「――何?」

 不意を衝いた空間跳躍。同時に放った最速の剣閃。
 必殺の呼吸がしかし、何の手応えもなかった事実と、その剣を振った瞬間の違和感に、セイバーが悪寒を覚えた次の瞬間、爆音が轟いた。

 バーサーカーが得物とする大戦斧。最高の筋力から繰り出されたその一撃が、大地を割った音だった。



 鋒は、標的だった”それ”に歩くついでとばかりに振られた掌で、見当違いの地点に逸らされていた。



「――ッ!?」

 ゆらゆらと、所在ない挙動で”それ”の振り上げた足が、バーサーカーの胴を抉る。その一撃で、そいつの倍以上の体格を誇るバーサーカーは、蹴鞠のようにして飛んで行った。
 驚愕の余りに振り返ったセイバー。その目の前には既に、感情の読めない仮面のような”それ”の顔が、息のかかるような距離に存在している。

「下がれ、セイバー!」

 マスターの指示。それが届くより早く、セイバーは恐怖のままに再びの空間跳躍を敢行していた。
 落雷で魔力が向上した影響か、普段ならば既に反動が来るような魔力消費でもほとんど消耗することはない。だが、その精神は普段の疲労以上に蝕まれていた。
 それをセイバーが認識したと同時、ライダーの召喚した神獣の放つ猛毒の息吹が、寸前まで彼の居た空間を埋め尽くす。
 一つの神話体系における怪物の頂点、その眷属が放つ神すら滅ぼす呪いの濁流は、セイバーの斬撃を躱し、バーサーカーの一撃を軽々と弾いた謎の怪物さえも逃すことなく、その姿を紫紺の中に呑み込んだ。

 …………だが、あの嘲笑が涸れることはなかった。

 聞く者に生理的嫌悪感を催させる笑い声の途切れぬまま、セイバーの眼前を濃霧のように塞いでいた呪毒の奔流は、跡形もなく消え失せる。

「――あの毒を飲み干しやがったっ!?」

 ライダーの驚愕が零れたのと同時。”それ”は、歩みを開始した。

「止まりなさい!」

 動揺する五人のマスターを背に庇い、キャスターが威嚇するような魔法陣を展開する。
 歯噛みするその表情からは、彼女が得意とする精神干渉も不発に終わったのだということが、セイバーにも如実に読み取れていた。
 その事実を受けたキャスターの放つ無数の魔術弾は、発光する身体に逸らされているのか、弾かれているのか、はたまた透過されているのか。一切わからないまま、何の影響も与えることができないままに、ゆらゆらと距離を詰められる。

 弾幕は無意味。それを悟った時には、セイバーは恐懼に竦む足に英雄の意志で芯を通らせ、再びこの怪物へと突撃していた。
 前進、と同時に三度目の空間跳躍。横合からの突撃と見せかけた、死角からの奇襲。
 それが、一瞥も寄越さぬ腕の一振りに弾かれる。

「ぐ……っ!?」

 死角がない――というよりも、前後がないかのような反撃に、セイバーは防御が追いつかず直撃を許し、脇腹を痛めながら吹き飛ばされる。

「■■■■■■――!!」

 そんなセイバーの転がる傍を、復活したバーサーカーが駆け抜ける。巨体を活かし、逃げ場を塞ぐようにして怪物を間合いに収める。
 優れた筋肉が生んだ瞬発力は”それ”を外し、挟撃していた神獣の尾と衝突。お互いの持つ驚異的な慣性をぶつかり合わせ、撞球のように弾かれ合う。

 狂戦士が岩肌に打ち込まれると同時、バーサーカーの宝具である、あらゆる防御をすり抜け魂そのものを刻む斧の一撃を受けた神獣が悲鳴を漏らす。外傷こそなくとも、そこにあるべき核たる霊体を失った尾の先は、壁を打つ前に壊死して霧散してしまっていた。
 そう――上位の神獣にすら通じる宝具でありながら、バーサーカーの攻撃は二度も”それ”には通じなかった。

「また……っ!?」

 外れるはずのない間合いと呼吸で、こちらからは未だ一太刀すら浴びせられていない。
 唐突に現れた怪物を前に、セイバーがその不条理の正体を推察しようとした瞬間、”それ”の頭部が発光する。

「――まずいっ!」

 悪寒のまま、セイバーは四度目の空間跳躍。キャスターの横に並び立ち、宝具である神剣の力を更に引き出す。
 そして怪物の放った螺旋の光は、セイバーの歪めた空間に沿って更に曲がり、岩壁を突き破って外に飛び出した。

”それ”の頭部から迸った放電は、一本一本はか細い放電ながらも、百万の毒蛇の群れのように展開されていた。
 それらは神剣の護りを突破することこそできなかったが、ほんの一条が掠めただけで堅固な鱗に覆われた神獣の頬を吹き飛ばし、丸太のようなバーサーカーの腕を捥ぐ恐るべき威力を発揮して、工房として強化されていた洞窟を崩落させて行く。

 暫くその猛威が続いた後。思い出したように”それ”が放射を止めるのと、全身を穿たれ力尽きた神獣の巨体が大地を揺らすのは同時だった。
 巻き上がった土砂が視界を塞ぎ、響いた轟音が聴覚を鈍らせる――それでもあの笑い声だけは、変わることなく届いていた。

 こちらを向いて両腕を広げる仕草を見せる”それ”に、柄を握る手を汗ばませていたセイバーとキャスターが反射的に身構える。
 対して怪物の見せた挙動は、背後に向けて野太い直線の光を放つということだった。

「!?」
「アサシンッ!」

 それは――その瞬間まで完全に気配を絶っていたはずの、不可視化したアサシンの霊核を的確に撃ち抜いていた。

 セイバーの初撃が躱され、ライダーが浴びせさせた神獣の息吹が通じなかった時点で、不規則な動作を繰り返す”それ”の隙を伺うために息を潜めていたアサシンはしかし、逆に攻撃に移ろうとした瞬間をあっさりと見抜かれてしまっていたのだ。
 明らかに先程乱射された光線よりも強力な一撃に急所を貫かれたアサシンは、間もなく消滅する――

「――だが、役目は果たさせて貰う」

 末期の言葉と共に、アサシンが宝具を展開する。

 彼の投擲していた四つの短剣が、”それ”を囲んだ次の瞬間。地中から洞窟の外までを取り込んだ、結界の檻が出現する。

 そしてその直後、隔離された内側の全物質が消滅した。 

 あれこそがアサシンの宝具――展開した限定空間内の物質を、それを構成する最小単位である素粒子のレベルにまで分解、消滅させる秘奥義。
 地中から天蓋まで、その結界の存在した容積だけを世界から取り除くアサシンの置き土産を受けて――

 ――中心に存在していた”それ”だけは、芥子粒ほども欠けることなく、元の座標に浮いていた。

「撤退だセイバーっ!」

 悲鳴に近いマスターの指示が飛ぶ。アサシンを失い、工房が破壊し尽くされた段になっての遅すぎるようなその決断が下されるより先に、セイバーも既に準備に取り掛かっていた。
 しかし、自分一人を短距離移動させるのとはわけが違う。ライダーとまだ息があるバーサーカーも、キャスターとマスター達も、この怪物から安全圏に逃れさせるとなれば、相応の準備が必要となる。
 既に落雷の恩恵も使い果たした。極度の集中が必要となるセイバーの意を汲み、キャスターが頷く。

「こっちよ、化物!」

 セイバーの準備が完了するまでの注意を引くため、魔力弾の斉射を行いながら、キャスターが前に出る。
 当然、それだけでは通じないことをキャスターも既に学習していたのだろう。魔術によって高速飛行し、更に惜しみなく召喚した使い魔の蝙蝠の群れで空間を埋め尽くすことによって、敵の視界を絶つことで時間を稼ごうとする。



  ケヒャケヒャケヒャケヒャケヒャ……



 それを前にした怪物は、またあの耳障りな笑声を奏でた――今度は心なしか、それまでにない歓喜が滲んだ声音を以って。

 そして蝙蝠で作られた暗幕は、その嘲弄のままに引き裂かれる。
 怪物の背中から無数に生えた、水死体のように膨れた青白い手に毟り取られて。

「な……ぁっ!?」
「キャスターっ!」

 その手の一本は、蝙蝠だけでなく、その奥にいるキャスター本体にまで届いていた。
 一本目に胴の半分を引き千切られ、続く二本目の腕が脆くなった半身を握り潰しながら、残りを丸ごと引っ掴む。
 唯一健在のセイバーは、空間跳躍の準備で動けない。そして負傷していた他の誰かが駆けつける暇もなく、キャスターを握り潰した手は怪物の胸元へと導かれ、そして空になった。

「……食われた」

 目の前で起こった出来事に理解が至った長が呟く。背後でキャスターのマスターだった女が、パートナーの残虐な喪失に耐え切れず、尻を着いたのが聞こえた。
 悲しみと衝撃に打たれる人間達の前で、”それ”は喜びを示すかのように全身を激しく歪ませる。その挙動に一層の生理的嫌悪感を催されながら、未だ準備を終えられないセイバーは予測できない次の手に冷や汗を流す。

「■■■■■■――!!」

 直後。漲る憤怒に任せて飛び出したバーサーカーは、同時に怪物の手の一本が変化した光の壁に激突する。
 瀕死の身体で、キャスターに続く時間稼ぎを買って出ようとした狂戦士もまた、一瞬でこの世界と別れを告げ、怪物の中に消えて行った。

 更に貪欲な手は伸びる。倒れ伏していた神獣の巨大な肉を引き千切り、跡形もなく捕食する片手間で、セイバーにまでその手を伸ばす。

「――ライダーっ!」

 その脅威に対して、セイバーの盾となったのは、最後に残ったもう一人の英雄だった。

「……すまねぇ、セイバー。マスター達を……」

 神たる獣とともに在った気高き英雄の最期の頼みは、最後まで残されることはなかった。

「うぉおおおおおおおおおっ!」
 光となって消えたライダーが取り込まれるのを見届け、咆哮しながらも、セイバーは皮肉にも身軽となったことで早まった転移の実行に移る。
 そんな、皆の繋いだ希望を呆気無く阻んだのは、”それ”の頭部の発光と共に奏でられた鐘を鳴らしたような音だった。

「うぁ……っ!?」
「くっ……!」

 脳を直接揺らされるが如き振動に、マスター達が一斉に膝を着いた。空間跳躍のための制御式を崩されたセイバーも、鼓膜を血で濡らしながら体勢を崩す。
 ゆっくりと頭を揺らすようにしていた”それ”が、またも前触れ無くその動作を止めると同時に断続していた音も止み――今度はアサシンを屠った野太い光条が、その胸から放たれる。
 咄嗟に空間を歪めて背後のマスター達を守りながら、光線を天へと逸らして受け止めたセイバーは、しかしそれも長くは続かないことを理解する。
 最早、逃げるだけの力もない。

(キャスター……バーサーカー……アサシン、ライダー……!)

 このままでは、仲間達が身を挺して繋いでくれた命までも、この理不尽に奪われてしまう。
 ――認められるか、そんなこと。

「――マスター!」

 一人では状況を打開できないことは、既にセイバーも知悉していた。だからこそ、かつて伝説を為した剣士は共に勝利を誓った今生の主に呼びかける。

「私に、力をっ!」

 同じく令呪を費やすならば、それは逃げるためではなく、勝つために。
 そんなセイバーの願いを受けて、耳朶から血を流しながら、彼のマスターは頷いた。

「令呪を持って命ずる。その剣で我らの未来を切り開け、セイバー!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 斯くして、奇跡の対価は支払われた。
 携えた神剣の真名を唄い、その本来の力を発揮して。
 セイバーの一閃は照射され続けていた光ごと、前方の空間を切り裂いた。

 どれほどの英雄豪傑であろうと、その伝説の描かれた紙ごと切り裂かれてしまえば無力なように……空間切断に巻き込まれたとは即ち、属する世界ごと斬られるのと同義のこと。
 故に神剣の太刀筋、その延長上にあった万物にはその一振りを防ぐ術などなく、例外なく切り裂かれていた。



  ケヒャケヒャケヒャケヒャケヒャ……



 その空間の裂け目の上を悠然と進んでくる、”それ”以外の”物体”は。

「馬鹿な……」

 背後でマスターが放心するのを感じながら、同じ心地のセイバーは力を使い果たした指先で、取り零しかけた宝具を何とか掴み直した。
 未だ裂かれたままの空間の上を、平然と進んで来る不条理の塊の正体に、ようやっと理解を及ばせながら。

「そうか……こいつは、無そのものなんだ……」

 呆然とセイバーの漏らした言葉を、マスター達が聞き取れたのかは定かではない。
 だが時空にさえ干渉する神剣を担うセイバーは、この無敵に思えた怪物の正体が、たった今自分が世界に与えた疵に近しい物であると推察できたのだ。
 最初に交錯した時に、セイバーだけが知覚できた違和感の正体もそれだった。
 こいつのいる座標には、そもそもあるべき空間がなくなっている――比喩ではなく、文字通りに。

 ……この怪物はつまり、世界に空いた虚無の穴なのだ。

 なるほど単なる無であるならば、そこには毒に蝕まれる肉体も、影響を受ける精神も、刻まれる魂も、分解される素粒子も――切り裂かれる空間すら有りはしない。
 何故なら全て、存在しないからこその”無”なのだから。
 この姿も、この世界が紙に書かれた絵であるならば、そこに空いた穴を認識しているに過ぎないのだろう。
 道理でセイバーの神剣でさえも、斬ることも叶わないわけだ――こいつはそもそも、この世界に存在していないのだから。
 だが、だがならば……ただの無だというのならば。



  ケヒャケヒャケヒャケヒャケヒャ……



 何故こいつは、こんな生物のように振舞っているというのか――?



 セイバーがそんな疑問に襲われたのと同時、間違ってぶちまけた絵の具のように、一際茫洋と輪郭を歪ませた”それ”が突然転移を繰り返し、一気に距離を詰めて来た。

 ……全ては無為と悟りながらも。戦友達との約束は、英雄としての魂は、彼に諦めることを選ばせなかった。

 そうして今を生きる人間達に離れるように言い残し、既に力を使い果たした愛剣を構えて突撃した剣士の姿は、虚空から伸びた無数の手の中へと飲み込まれて行った。






「……貴方達は集まり過ぎたのです」

 剣士の果てる様を見ながら、そんな言葉を漏らす男が一人居た。
 遅れて現れた彼こそは、五騎のサーヴァントを壊滅させた怪物、ビーストのクラスで召喚されたサーヴァントのマスターである人物だった。

「ビーストは濃い生命から消していきます。より強い者、あるいはより多い者の前に現れる……サーヴァントが最初から五騎も揃っていれば当然の帰結です」

 もっとも、マスターである彼にしても、その法則を掴めてきたのはここ最近のことであったが。

 この怪物は、エーテルによる仮初の肉体を与えられたサーヴァントをも対象として含んだ、生命の存在を感知するための黒雷を放ち、そしてその雷と結合した生命が消える――おそらくは発生源である己との、有と無の差がなくなるまで追いかけて、また次の生命を探すという行為を繰り返しているのだ。
 まるで、一度先駆電流と線条が結びつけば、互いの電位差が中和されるまで発生し続ける雷のように。

 ……かつての宇宙モデル論では、エントロピー増大則に従うと、無限の時間が経過すると、全てのエネルギーが均等に分布する状態に漸近的に到達すると考えられる。
 おそらくはビーストもまた、その本質は全ての命が等しく分布する状態に到達するために発生する自然現象なのだろう。
 それが観測者たる知性体の理解を超えているために、かつて世界各地で雷神が幻想されたように、その原因となる”ナニカ”が存在すると解釈した結果、そこにあのような怪しい獣が存在するのだと誤認してしまっているだけで。
 それでも過った認識は、人々の心に棲まう”怪獣”を作り出し、そしてその現象をサーヴァントとして呼び出せる下地となった。
 下地となって、しまったのだ。

「ですが流石は英霊といったところでしょうか。最後の瞬間まで他者のために身を投げ打つその気高き姿……それが浅ましい欲望によって血に染まる前に、美しいままに終わりを迎えることができたのは素晴らしいことです」

 そしてそんな、全ての生命の敵と呼ぶべき終末の化身をこの世界に招いてしまったのもまた、世界に終末を導く者だった。
 その名を真木清人、またの名を恐竜グリード。
 絶滅した動物や、幻想種――存在した姿を人間が目にしたことのないものの欲望から生まれた、”無”の属性のコアメダルによって怪物となった元人間。
 自らの信条のため、世界を終わらせるために生命さえも放棄した、ただそこにあるだけの「物」。
 それが真木清人という存在である故に、彼は全ての生命を滅ぼす”無”であるビーストに認識されず、今もこうしてあり続けることができていた。

 そんな真木のくすんだ視界の果てでは、最後のサーヴァントを失ったマスター達が為す術もなく、ビーストの放つ光の中に消え行く光景が展開されていた。

「……やはりあなたは、何と美しき終焉なのでしょうか」

 それをいつになく熱を帯びた視線で眺めていた真木は、そんな感想を漏らしていた。

 そう――不適格者ばかりだった欲望の器などではない。ビーストこそが、真木清人の望みそのもの。
 通った跡には何一つ残さない。全ての生命を、醜くなってしまう前に死で以って完成させる美しき終焉。

 その体現こそが、ビースト――虚空怪獣グリーザなのだ。

 そんな理想の体現から、またも暗黒の稲妻が打ち上げられる。

 無数に放たれるそれの内、実際に次の標的を見つけ出すまでには大抵多くの時間を必要とする。
 しかし今回は存外早く、次の標的を見つけたらしい。
 糸で吊るされたように回りながら、重力を無視して浮き上がるビースト――全く制御の通じない自らのサーヴァントを追うために、その身をヒトの残滓からグリードの姿へと転じさせた真木もまた、その身を空に躍らせながら。

「姉さん……今こそ、あなたの教えを完遂しましょう」

 真木清人の、そんな呟きを最後に残して。二体の終末の化身は、東京の夜へと飛翔を開始した。





【出展】ウルトラマンX
【CLASS】ビースト
【真名】虚空怪獣グリーザ
【属性】?・?
【ステータス】
筋力? 耐久? 敏捷? 魔力? 幸運? 宝具?

【クラス別スキル】

???:?


【保有スキル】

???:?


先触れの黒雷:?
 ダークサンダーエナジー。
 グリーザという現象の初期段階として飛来する、生命の反応を励起させる暗黒の稲妻。
 この稲妻を受けたサーヴァントは、幸運値以外のステータスが倍加されるが、判定で精神に恐慌状態が付与されることがある。

虚空の申し子:EX
 無という現象そのものであること。
 欲望を持つ怪獣とされているが、厳密には自然現象に等しい事象を、観測した者が無理に視覚化した存在しない存在であることの証明。
 単なる現象が生物、あるいはサーヴァントとして認識された結果装備されているスキルである。
 周辺の空間に漂うエネルギーを無尽蔵に吸収し、同ランクの単独行動以上の自立性をサーヴァントに与える。
 但し、有である実体を得た後にはこのスキルは消滅する。


【宝具】

『美しき終焉(グリーザ)』
ランク:? 種別:対生宝具 最大補足:?

 虚無の申し子。
 エントロピーの法則における熱量の均一化と同様に、生命の濃度が等しくなるために起きる事象。
 宇宙全体の生命の濃度を等しくするために、あらゆる星々の生命を無に帰す自然現象でありながら、まるで生物のように振る舞う意思なき災厄。

 そんな虚空怪獣グリーザという不条理の塊を、再現してしまったビーストの宝具。

 かつての人々が不可解な現象を妖精等の悪戯と捉えたように、存在しないものが何もかもを消してしまうという光景を目にした人々がそれを強引に知覚した結果、観測された怪獣であり、ビーストの存在そのもの。

 ただそう見えるというだけで本質は真にして完全なる無であり、その正体はこの宇宙に存在するあらゆる力も物質も取り込み消滅させてしまう性質を持った、世界に空いた穴。

 既に何もない無を滅ぼすことは決してできないことから、まさに「無」敵であると言える宝具。



【人物背景】

 意志も知性もなくただ本能の赴くまま星の生命エネルギーを求めて宇宙を彷徨う正体不明の存在。

 かつて三つの生命豊かな星を滅ぼした後、太陽系に侵入した所をウルトラマンエックスに見つかって彼と激突。この時はXの手で太陽に叩き込まれるが、その際にウルトラフレアと呼ばれる衝撃波が発生し、ウルトラマンエックスの身体はデータとなって失われ、地球では眠っていたスパークドールズの怪獣達が次々と覚醒する事態が発生することとなる。
 それから十数年の間休眠状態になっていたが、やがて活動を再開。ダークサンダーエナジーを放ってそれを浴びた怪獣を凶暴化させるなど様々な事件を誘発していた。
 実はダークサンダーエナジーとはその星に糧となる生命体が居るかを探るためのシーカーであり、それによって見つけた地球を新たな餌場と定め、本格的な活動を開始する。

 その力は圧倒的であり、完全な肉体を失った代わりに新たな形態を得たウルトラマンエックスと、ファントン星を始めとする外宇宙の超科学まで取り込んだ地球防衛組織であるXioの超兵器群の共同戦線を終始圧倒し続けた。

 しかし、ダークサンダーエナジーを払う力を持つエックスの捨身の特攻から再生した際に実体を得てしまい、その後も地球中の怪獣を全て捕食し、復活したエックスをも寄せ付けない強さを見せたものの、エックスと怪獣達が心を一つにした絆の奇跡を前に、最後は敗北を喫することとなった。



「知性体が理解できない現象を強引に認識した結果、そのような結果を引き起こす怪獣がいるように見えた」結果が虚空怪獣グリーザであり、まさしく人々の理解を越えた、人々の心から生まれた怪しい獣、つまり「怪獣」と呼ぶに相応しい存在であるが故に、ビーストのクラスに宛てがわれた。

 本来の規模はサーヴァントの器に収まるものではないため人間大にまでスケールダウンしているが、逆にその元の強大さを誤魔化すために実体を得た後ではなく、「無」という性質を持った状態が再現されてしまっている。



【サーヴァントとしての願い】

 グリーザは現象であり、意志などない。
 ただその在り方通り、そこにある生命を虚無に還すのみである。



【対策法】

 数が多い、あるいは強大な生命ほどグリーザは優先的に捕食対象にすることが判明している。
 その対象にはサーヴァントも含まれており、この東京における最強の生命は仮初の肉体を与えられた英霊である彼らであるため、主に聖杯戦争の関係者を襲い続ける。
 その性質上、大規模な集団、あるいは強力なサーヴァントとなるほどにグリーザを引き寄せてしまう危険性が向上する。

 無であるために一切の物理干渉が無効であり、干渉を受ける精神を最初から持ち合わせていない。
 当然失う命も魂も元より存在せず、空間から独立しているために空間操作すら無為と化すため、ダークサンダーエナジーを被雷しステータスが倍加、宝具の連射が可能になったとしても、正攻法でグリーザを攻略することはほぼ不可能と言って良い。
 光の巨人の命と引換に太陽に落とされ、以後何年も活動を停滞させていた逸話より、太陽の力を持つサーヴァントのみグリーザの力を弱めることができるが、それだけでは無を滅ぼすことはできない。
「無」であり「存在しないもの」であるため、現時点では活動にマスターの存在すら必要としておらず、そもそもマスターである真木のことも「無」の属性を持った物質であるが故に認識できず消滅させていないに過ぎないため、今の時点で弱点らしい弱点は存在しない。

 但し、これらの無敵性は全て、グリーザが「無」であることによって保証された特性であり、実体を与えることさえできれば消滅するアドバンテージである。
 無を滅ぼすことはできずとも、怪獣を殺す、サーヴァントを消失させることはできる。何らかの方法で実体を与えることさえできれば、「無」という性質を失った通常のサーヴァントとして現界することとなり、活動にマスターの存在が必要不可欠となるため、攻略の目を見出すことができるようになるだろう。





【出展】
 仮面ライダーオーズ

【マスター】
 真木清人

【参戦方法】
 完全なグリード化を果たした後


【人物背景】

 元は鴻上生体工学研究所の所長。ライドベンダーやバースといったメダルシステム開発の功労者。

 幼少期に両親を失い年の離れた姉である仁美によって育てられており、彼女にだけは心を開いていた。
 しかし自身の結婚により真木を疎ましく思う様になった仁美が自分を突き放した事から、仁美の眠る寝室に火を放って彼女を焼き殺し「人が醜く変わる前に、美しく優しいうちに完成させる」という歪んだ使命感に取り憑かれるようになった。

 鴻上とはメダルの持つ力に価値を見出した者同士として基本的に主従関係を保っていたが、自分とは正反対の方針を唱える鴻上の下では使命の達成を見出せず、最終的には財団と完全に決別してグリードと結託。
 その後カザリの能力によって自分自身に恐竜系コアを投入してその「器」となり、グリードの誰かを完全復活・暴走させた後、最後に自身がそのグリードを始末する事で世界を「無」に帰そうとする。
 後に暴走のリスクを承知で乗り込んできたアンクの不安定さを見込みメダルの器にしようと考え、弱体化したカザリから彼が独占していたコアを奪い取りアンクに集中させるが、アンクが映司達と過ごした日々を捨てきれないことに気づき、彼を見限る。
 本聖杯には、その直後の時間軸からの参戦となっている。



【能力・技能】

 様々な生物の欲望のエネルギーを集めたオーメダルを解析し、その力を応用した数々の兵器を実用化した天才科学者としての頭脳を持つ。
 更に融合した三枚の紫のコアメダルにより、恐竜グリードへの変身能力を得た。
 、紫の波動による周囲へのカウンター、紫色の光弾での遠距離攻撃、他のグリードに強制的にコアメダルを取り込ませるなど、異質で圧倒的な力を持っており、その戦闘力は並のサーヴァントにも遜色しないほど。

 また、神秘の塊であるコアメダルが魔力回路の代行を果たしているが、ビーストを維持できているのはスキルの恩恵によるものが大きく、ビーストが「無」である限りはこのマスター適正の有無など大した影響はない。
 仮に物体に過ぎないグリードでも、他の属性であれば元となった生物達の欲望のエネルギーを捕食されていただろうが、「無」属性の恐竜グリードである真木はビーストの捕食対象とならずに済んでいる。
 但し、何らかの形でビーストの妨害をした時には、マスターである真木も即座に排除対象と認識されるだろう。


【マスターとしての願い】
 世界に良き終末を


【方針】
 滅びを制御することなどできない。
 ただ、流れに身を任せるのみ。



候補作投下順



最終更新:2016年03月03日 12:44