ここでの生活が悪かった訳じゃない。
見た目はそっくりな癖に、俺に死体集めを命じない母親。
製薬会社の社長の息子という相応の立ち位置。
学校にも行けて、サッカーもできて、友達だっている。
それでも物足りないって思っちまったのは、多分あの二人がいないからだ。

兄ちゃんとリンダ。
俺が成り代わろうとしたもの。
俺が手に入れようと思ったもの。
ひでえよな兄ちゃん。
あんたのせいで目が覚めちまった。
夢から覚めたらさ、それがどんなに幸せでも意味のないものになっちまう。
俺はあんたが羨ましいよ。
あんたならそもそも、聖杯戦争とかいう殺し合いに来る必要なんてないんだろう?
俺はさ、こんなのに参加でもしなきゃ夢は叶えれないってのに。
……やっぱり、あんただけズルいよ。
だから、そろそろ選手交替してもらうぜ。


すえた鉄錆のような臭いが鼻につく。
元の世界では嗅ぎなれていた血の臭いだ。
目の前では粒子になって消えていく女と、そいつの血を被ったまま立っている女。
立っている方が俺に呼び出されたアサシンのクラスのサーヴァント。
汚れ仕事をしてきた俺にはお似合いのクラスとでも聖杯は言いたいんだろうさ。
製薬会社の社長の息子って肩書きのせいか、すり寄ってくるどうでもいい女はいっぱいいた。
だからそいつを使ってこのアサシンとやらのスキルがどんなものなのか知りたかった俺は、上手いこと言いくるめて人気のないところに呼び出した女をこいつの餌食にした。
アサシンが被っていた血が次第に消えていく。
なにも凄い速さで蒸発していっている訳じゃない。
吸っているんだ、アサシンが肌から直に浴びた血液を。
その病的なぐらいに白い肌がみるみる内に艶を増していき、数秒後には血を被っていた痕跡なんてどこにもなくなっていた。
化け物。まさにそういう呼称が似合うサーヴァントだ。
危険生物揃いのネオケニアにだってこんなのはいないだろう。

「あんたから話には聞いたが凄いもんだな」
「吸血では魔力まで補えないのが難点ね、魔力の潤沢なマスターだったらいらぬ心配だったのだけれど」

非難がましくこっちに目を向けてくるアサシンに対して肩をすくめておどけてやる。
なんでもサーヴァントを扱うには魔力とやらが必要で、しがない薬漬けの一般人でしかない俺ではアサシンが十全に戦うには不足しているらしい。
まあ、そんな人間を呼んだ聖杯側が悪い訳で、俺にこれっぽちも非はないので謝りはしない。

「あんたの言ってた魂喰いってやつで魔力を溜めなきゃいけないって事か」
「そうね、もしくは霊地にとどまってマスターの魔力を補充できればいいけれども」
「魔術師でもなんでもない俺じゃあ期待できないんだろ? わかってるって」

魂食い。NPCやら他のマスターやらを殺し、文字通り喰う事で自分の魔力の足しにするという恐ろしい技。
俺みたいなのがマスターだと魔力の供給はもっぱらそれ頼みになるらしい。
と、なると必然的に俺はこの街の住人をこいつに捧げなきゃならない。
加えて、併せて吸血をするとなると女性の方が都合がいいと、既にアサシンの口から聞いている。
ならば当分は警察の目をやり過ごしながらアサシンと一緒に若い女を殺して回るしかないって訳だ
――なんだ、ママに命じられなくたって結局やることは何一つ変わってないじゃないか。
なら今の立場になんてしないで、ネオケニアと同じ境遇で良かったって話だ。
なんだか笑えて来ちゃうぜ。

「何かおかしかったかしら」
「ん? ああ、いやね、結局こっちでもあっちでも、やることに変わりなんてなかったんだなぁって思っちまってさ。つい、ね」

アサシンが怪訝な表情を浮かべる。
そういや俺がやってきた事なんて、まだ話した事がなかったな。
俺もアサシンから詳しい身の上話なんて聞いてないからお互い様だけど。

「ま、当分はこの東京って場所で警察にバレないよう女をあんたに食わせていかなくちゃいけないんだろ?
そういう事しかやってこなかった人生だ、簡単に尻尾を掴まれるようなヘマはしないさ」
「そう」

急にアサシンが黙り込んじまった。
おいおい、なにか不味い事でも言っちまったか?
これから一緒に戦うっていうのに、いきなり仲がこじれるような事は勘弁して欲しいんだけどな。

「あなたのそれを、止めてくれる人はいなかったのかしら」
「はい?」

急に何を聞いてくるんだろうか。
止めてくれる人?笑える話だ。
つい吹き出す。
ほれ見ろ、現に声を出して笑っちまったじゃねえか。

「ハハ、笑わせてくれるじゃねえか。なあアサシン、もしも止めてくれる人がいたらだ、そもそも俺はこんなところになんて来てないぜ?」
「……ええ、そうね。……そうなのでしょうね」

アサシンの様子がおかしい。
参ったぜ、こういう反応をするってことは間違いなくなにか思うところがあるって訳だ。
こいつの口ぶりからこいつ自身が察するところ止める側だったのか、止めてもらえなかった側なのか。
ま、さっきみたいに女を残酷に殺すサディストが止める側ってのもおかしな話だ。
おおかた後者、つまり俺と同じ側ってことなんだろうよ。
となるとこいつは、ママと俺のハイブリッド!
なんともまあとんでもない化け物がいたもんじゃないか。
どこの世界にも似たような思考や境遇の奴ってのは生まれるもんなんだな。
ま、気難しそうなこいつに対しそれで煽るつもりもないがね。
変に挑発して襲われるのも馬鹿らしい、それを防ぐために貴重な令呪を割くなんてのも間抜けな話さ。

「さあ、俺のつまんない身の上話なんてどうでもいいだろ? 別にそれが分かったところであんたに何かの足しがある訳じゃない。そろそろ帰ろうぜ、なあ?」

アサシンが無言でその姿をかき消す、霊体化ってやつらしい。
なんともまあ、なにからなにまでサーヴァントってやつは常識外れな存在だ。
こんなのをあと数人は相手にしなきゃならないとなると骨が折れる。
おまけにアサシンから聞いたクラスってやつの話だと、アサシンってのは真っ向勝負には向かない不意打ち専門のクラスだそうだ。
なら、極力俺たちがマスターだとバレないように動き、マスターを狙って仕留めていくのが定石って事になる。
なんともババを引いた感じは否めはしないが、俺のスタイルには合ってるサーヴァントともいえる。
勝ち抜くのは容易じゃないがそういう戦い方でいいっていうなら俺にだって十分目がある訳だ。

なあ、兄ちゃん。
そっちでどれだけ時間が経ったのかは知らないがあんたは元気かい?
バナナの皮でも踏んづけて気絶してやしないかい?
色々あって計画は変わっちまったが、俺の方はもう少しで選手交代の目処がつきそうだ。
だからさ、兄ちゃん。
俺が兄ちゃんに成り代わるまではせいぜい達者でいてくれよな。





【クラス】
アサシン

【真名】
カーミラ@Fate/Grand order

【属性】
混沌・悪

【ステータス】
筋D 耐D 敏A 魔C 運D 宝C

【クラススキル】
気配遮断:D
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断は解ける。

【固有スキル】
吸血:C
血を浴びることによる体力吸収&回復。
思い込みに近いが、彼女の肌は確かに若返っていた。
ランクが上がるほど、吸収力が上昇する

拷問技術:A
卓越した拷問技術。
拷問器具を使ったダメージにプラス補正がかかる。
宝具『幻想の鉄処女』を始め、裁判においてアサシンが行ったと公表された、全ての拷問・残虐行為に対してこの効果は適応される。

【Wepon】
金属製の杖、鋲付きの鎖、鞭、ナイフを始め、彼女が拷問に使用したとされる器具一式
※鋼鉄の処女は彼女の宝具として昇華されたため除外

【宝具】
『幻想の鉄処女(ファントム・メイデン)』
ランク:C 種別:対人 レンジ:0~1 最大捕捉数:1人
相手を鉄の処女と呼ばれる拷問器具に閉じ込める一定ターンダメージを与える。
絞り出した血はアサシンへと還元され、HPと魔力を回復させる。
この宝具の対象が女性であった場合、生前の逸話から威力と拘束解除の難易度が倍加する。
カーミラが使用したと言われる有名な拷問器具。
……であるが長年に渡る調査の結果、実在しないと考えられている。

【人物背景】

ーーだって、誰も言ってくれなかった!
誰もこれが間違いだなんて言ってくれなかった!
だから、私はこう成り果てたのに!
ああ、我が真の名は――エリザベート・バートリー!ーー

エリザベート・バートリーが成長し、完全なる怪物と成った存在。エリザベートの暗黒面を司る存在。
彼女が持っていた愛嬌はなく、ただただ残忍で血を追い求めた生涯を、その変名――カーミラという名で表している。

【聖杯に対する願い】
永遠の若さ

【行動方針】
少女の血を集め、力を蓄える。


【マスター】
ネク@リンダキューブ アゲイン

【マスターとしての願い】
兄貴と入れ代わり、兄貴の人生を自分のものにする。

【能力・技術】
薬漬けにされた事による痛覚の鈍化。
簡単な催眠暗示(薬物との併用で効果をあげる事も可能)。
殺人技術と隠蔽・隠密に長ける。

【人物背景】
リンダキューブ アゲインの主人公、ケンの生き別れの弟。出典は彼が悪役として暗躍するAルートより。
捨て子となりグリーン製薬の社長であるエリザベス・グリーンに拾われたネクは、エリザベスの宿願である永遠の若さの為に幼い頃から死体集めに従事させられ、次第に死体を探すよりも作る方が楽だと気付き、殺人行為に手を染める。
そんなある日、生き別れの兄の存在、そしてその兄が一般的な恵まれた人生を送ってきた事を知り、嫉妬に駆られたネクは兄と自分の人生を入れ換えることを画策する。

【方針】
正体を隠匿して東京各所で少女を遅いアサシンの強化と魔力の補充、他マスターの情報収集を行う。
アサシンの宝具の特性上、女性の主従を最後まで生き残らせるよう立ち回りたい



候補作投下順



最終更新:2016年03月03日 12:45