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「ひッ…!」


深夜の廃倉庫に、足音が静かに響く。
男は腰を抜かしながら、必死に逃げていた。
かつ、かつ、かつ、かつ、『死神』が近付いてくる。
罪人への鎮魂歌を奏でにやってくる。


「く、来るな、畜生ッ!やめろ!」


恐怖に震えた男は、『奇妙な紋様』が浮き出た右手を必死に振るう。
尻餅を突き、後ずさりをしながら、男は戦く。
かつ、かつ、かつ、かつ、『死神』が迫り来る。
死を運ぶ者が鎌を携えてやってくる。


「くそッ…!アサシン!!来い!!アサシンッ!!!」


男は最後の頼りの綱に賭ける。
己の従者―――サーヴァント『アサシン』。
これまで男はアサシンを使い、数々の犯行を繰り返してきた。
欲望の赴くままに他者を殺し、犯してきた。
アサシンの力があったからこそ、ここまで警察にも捕まらずに犯行を続けられたのだ。
男は令呪に念じる。アサシンよ、今すぐ戻れ―――と。



「―――マスター。こっちはもう終わったわよぉ?」



しかし、アサシンは戻ってこない。
代わりに耳に入ったのは、妖艶な少女の声。
迫り来る『死神』の傍に降り立つ、もう一人の『死神』。

不敵な笑みを浮かべるゴシック風の少女は返り血に染まっていた。
右手に携えられているのは鮮血で染まった大柄な斧槍。
そして、左手に握られていたのは『生首』。
それを目の当たりにし、男は愕然とする。絶望する。

それはアサシンの生首だった。
大量の血に染まり、苦悶の表情で逝ったアサシンの成れの果てだった。

直後に生首は魔力の粒子へと変わり、砂の様に霧散していく。
男の頼りの綱は、失われた。
何もかも、終わったのだ。



かつ、かつ、かつ、かつ、『死神』がやってくる。


かつ、かつ、かつ、かつ、『死神』が足音を奏でる。


死の円舞曲(ワルツ)を奏でる。



絶望する男の首に、『死神』の手が掛けられる。
『死神』の腕に、異様な膂力が迸る。


ごきり、と。
男の首がへし折られた。






ある快晴の日。
駅にて、老人が立ち尽くしていた。
老人が見つめているのはタッチパネル式の切符の券売機だ。
使い方が解らないのか、睨む様にそれを見つめている。
どう使うのか。
何を押せばいいのか。
どうすればいいのか。
慣れぬモノを前にし、老人は立ち尽くしたまま考える。

ゆっくり。
ゆっくり。
ゆっくり。

その動きは鈍く、誰かを苛立たせるには十分だろう。
その後、よろよろと覚束無い動きで財布を取り出す。
ゆったりと千円札を投入する。
ようやく券の購入へと移行したものの、老人の後ろには数人の列が並んでいる。
手際の悪い老人への苛立ちを少しずつ募らせていた。
その時だった。


「――――おい」


一人の男が、老人の横へと現れた。
男は老人に何か小声で話し掛けていた。
その内容は誰にも聞き取れない。
恐らく老人にのみ聞こえるように話しているのだろう。
そして間もなく、男は老人に怒鳴りつけた。
動きの鈍い老人を罵倒し、怒りを吐き散らしていた。
並んでいた数人の客は表情を顰めた。
老人への苛立ちなど忘れ、怒鳴り散らす男への不快感が込み上がったのだ。


怒声が響き渡ってから、僅かな時間の後。
老人はようやく券を購入し、そそくさと改札を通っていった。
男もまた、ふらりとその場を去っていった。






《ねーえ、マスタァー?》


駅前を歩く男に、霊体化した少女が念話で語りかける。
ランサーのサーヴァント――――ロゥリィ・マーキュリー。
死と断罪を司る神・エムロイの使徒。
先程老人に怒鳴り散らした男「大藪」の従者だった。


《さっき、わざと怒ったんでしょう?》


飄々とした態度でランサーは大藪に問いかける。
ランサーは霊体化した状態で、マスターが老人と小声で交わした会話を聞いていたのだ。

「券売機の使い方に手こずっているのか」。
「なら俺がこれから演技で怒る」。
「そうすれば周りの人間の不快感は俺に向く」。

大藪は老人にそう語っていた。
列に並ぶ者達を苛立たせていた老人をわざと怒鳴り、負の感情を敢えて自分に向けさせる。
そんな捻くれた人助けを大藪は行っていたのだ。

ランサーは思う。
この男はいつもこんな感じだ、と。
マスターである大藪は聖杯戦争に消極的だ。
しかし、こと人助けに関しては極めて積極的なのだ。
以前、連続殺人犯であるマスターとアサシンの情報を掻き集めて殺しに向かったこともある。
彼らを殺しに行った理由も「犯行を繰り返して街を脅かしているから」というものだった。
大藪は聖杯戦争の参加者としてではなく、一種の人助けの為に他の参加者を殺害したのだ。
ロゥリィはそんな大藪を不思議に思っていた。


《何の為なのかしらぁ?》
《『誰かの役に立ちたい病』》


大藪はぽつりとそう呟く。


《俺のマネージャーが、以前俺のことをそう呼んでいた》


誰かの役に立ちたい病―――それが大藪を動かしているものだった。
彼は己が善人ではないと自覚している。
にも関わらず、彼は人助けを繰り返す。
元いた世界で大藪をサポートしていたマネージャー曰く、そういった類いの病だというのだ。
彼は人の役に立たずにはいられないのだ。

大藪は殺し屋であり、多くの人間をその手に掛けてきた。
人を殺した分の人助けを行うことでバランスを取り、己の心を救っている。
それ故に彼は他者を助ける。誰かの役に立とうとする。


その為なら――――『首折り男』として動くことさえも、厭わない。


ふぅん、と興味あり気なランサーの相槌を流し、大藪は懐から新聞紙を取り出す。
『東京都江東区―――で警察関係者を含む52名が殺害』
『容疑者と見られる20代後半の男性は以前逃亡中』
新聞の一面を飾るのは、凄惨な殺人事件。
およそ日本では考えられない程の猟奇的な犯罪だ。

容疑者と見られるのは20代後半と見られる刺繍の男。
彼は多くの犯行に関わり、警察関係者をも手に掛けているのだという。

大藪は記事を睨み、決意を固める。
彼は、誰かの役に立つことを望む。
その為に他者を殺すことも厭わない。
故に大藪/首折り男は標的を定める。


街を脅かす『刺繍の男』を炙り出し、殺す。


あの『帽子卿』を狙った時と同じ様に。
彼は残忍な殺人鬼を追うことを決意したのだ。
大藪は聖杯などに興味は無い。
ロゥリィの話によれば、この街は全てが紛い物だ。
それでも街には人が生きているし、現実と何ら変わらない日常が存在している。
故に彼は普段と変わらずに生きる。
首折り男として、誰かの役に立ちたい人間として動くのだ。

殺人とのバランスを取る為に人助けをし、人助けの為に人を殺す。
端から見れば、矛盾とも言えるスタンスだ。
しかし大藪は殺人鬼を野放しにはしておけなかった。
その理由は————そういう性分だから、としか言い様が無い。
こんな性分だからこそ、「誰かの役に立ちたい病」と揶揄されるのかもしれない。
それでも、構わない。
自分は、自分の意思の赴くままに動くだけだ。


くしゃり、と紙が潰れる。
異様なまでの握力が新聞紙を潰したのだ。
その瞳には、微かな殺意が籠められていた。





【クラス】
ランサー

【真名】
ロゥリィ・マーキュリー@GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり

【ステータス】
筋力B+ 耐久C 敏捷A 魔力B 幸運C 宝具B

【属性】
秩序・中庸

【クラス別スキル】
対魔力:A
Aランク以下の魔術を完全に無効化する。
事実上、現代の魔術師では傷をつけることは出来ない。
亜神としての強い神秘を持つロゥリィは強力な対魔力を備えている。

【保有スキル】
神性:A
ヒトの肉体のまま神の力を得た「亜神」。
神の使いとしての信託を受けた彼女の神性は最高ランクとなっている。
亜神は最終的に正式な神格へと至るが、ロゥリィはそれ以前の亜神としての姿で召喚されている。

不死:A
亜神としての能力。
如何なる傷を負っても決して死なず、僅かな時間で肉体の治癒・再生を行える。
ただし再生時には受けたダメージ量に比例した魔力消費を必要とする。

直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。
また、視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。

【宝具】
「殲華に咲く、戦神の眷姫(エムロイ・アポストル)」
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
神の眷属としての特性が逸話として膨張し、宝具へと至ったもの。
強烈な『死』や『血』の臭いを放つ戦場において、全パラメーターと攻撃判定にプラス補正がかかる。
殺戮によって多くの死者が発生している、熾烈な闘争が勃発しているといった状況において発動する。
状況が苛烈であればあるほど補正率がより上昇し、ロゥリィの能力が強化される。
ロゥリィはこの宝具の発動条件である『臭い』を感知することが可能であり、感知した際には性的な快楽にも似た興奮に駆られる。
血の興奮とも呼ばれるこの昂りは戦うことでしか発散できない。

「断罪の殲斧槍(ブラッドエッジ・アクス)」
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:2~4 最大捕捉:5
神の使徒たるロゥリィが振るう斧槍(ハルバード)。
単純な刃物としての切れ味や重量は凄まじく、敵を叩き斬ることを得意とする。
また数々の罪人を裁いてきた武器であるため、属性に『混沌』『悪』が含まれる者には追加ダメージを与える。

【Weapon】
「断罪の殲斧槍(ブラッドエッジ・アクス)」

【人物背景】
特地における死と断罪を司る神「エムロイ」の使徒。
腐敗した神官や盗賊の断罪を行っており、「死神」の異名で恐れられている。
神に選ばれたことで亜神と化しており、外見は13歳前後だが実年齢は900歳を越える。
のらりくらりとした妖艶な少女だが、自分の仕事や信条には非情なまでに忠実。
飄々とした態度とは裏腹に仲間思いな一面も持つ。

【サーヴァントとしての願い】
特になし。
ちょっとした退屈凌ぎのつもりで召喚に応じた。

【方針】
大藪に付き合う。
闘争も満喫したい。


【マスター】
大藪@Waltz

【マスターとしての願い】
人助けをする。

【weapon】
素手

【能力・技能】
人の首をへし折る程の凄まじい腕力。
それだけが彼の武器である。

【人物背景】
「首折り男」と呼ばれる殺し屋。
標的の首を素手でへし折る殺人方法からその異名が付けられた。
一流の殺し屋だがマネージャー曰く「誰かの役に立ちたい病」らしく、金にならない人助けをすることがある。

【方針】
連続殺人鬼である「刺繍の男」を追う。



候補作投下順



最終更新:2016年03月04日 01:56