雨が、降り注いでいた。
時刻は0時を回っていた。
街には雨が降り注ぎ、湿った匂いが漂う。
大衆は家屋で静まり返り、雨音のみが響き渡る。
ざあざあと雨粒の音が絶え間無く反響を繰り返している。
静まる街。響く雨音。世界は、騒々しい静寂に包まれていた。
傘に雨粒が弾かれる音が男の耳に入り続ける。
雨に打たれる夜道を、傘を差した壮年の男が歩いていたのだ。
警察官の制服に身を包んだ男はやつれた表情を浮かべる。
結局、今日も大した『収穫』は無しか。
警官―――藤田 茂はそう心中でごちり、とぼとぼと夜道を歩き続ける。
《今日も一人で見回りか、フジタ?》
《ああ…色々と気になっててな》
藤田の頭の中で声が響き渡る。
それは数日前に藤田の下に現れた『従者』の声だ。
彼は聖杯戦争の参加者として、藤田の元に参上したのだ。
従者は己を『ライダーのサーヴァント』と名乗った。
《例の『殺人鬼』か》
ライダーの念話に対し、藤田は無言で頷く。
藤田は東京都江東区での大量殺人事件の容疑者とされる『刺繍の男』について調査していたのだ。
正義感が強く厄介事に首を突っ込みがちな性分の藤田は独断で捜査を繰り返していた。
勤務時間外にも周辺での捜査を行い、情報や証拠の収集に当たっていたのだ。
この街に潜む殺人鬼を捕らえる為に、彼は警察官として奮戦していた。
ライダーを召還する以前、NPCとしてロールを行っていた頃から藤田は殺人鬼を追い続けてきた。
記憶を失っていた時期から彼は正義感に突き動かされていたのだ。
しかし、収穫は一向に得られず。
今日もこうして徒労に終わったのだ。
はぁ、と溜め息を吐きながら藤田は雨雲の空を見上げる。
殺人鬼の尻尾は一向に掴めない。
証拠は愚か、有力な情報さえも得られていない。
結局、一人の力では限界があるのかと藤田は考える。
同僚や部下に協力を仰ぐか―――否、無理だろう。
自分は署内でも浮いた立場の人間なのだから。
刑事ドラマを気取って厄介事に首を突っ込み、時代遅れな正義感を振り翳す老いぼれ。
それが自分/藤田茂の立ち位置だった。
《フジタ…焦る気持ちは解るが、余り急き過ぎるな。
無理をし過ぎるとお前の心身への負担にもなる》
《…あいよ。解ってるさ》
自身を労る様なライダーの言葉に、藤田は渋々とした態度でそう答える。
無理をし過ぎれば身体にも心にも毒になるだろう。
そんなことは、藤田自身が解っていた。
しかし、彼自身にもどうすることも出来なかった。
これが自分の性分であり、自分には警官としての仕事しか残っていないのだから。
「独りぼっちになっちまった日にも、こんな雨が降ってたよなあ」
ぽつりと、雨音に混じるように藤田が呟く。
妻と娘から縁を切られたあの日と同じ様な雨だ。
どこか物悲しく、寂しく、酷く寒気がする様な。
そんな雨はまるで涙の様に降り注ぐ。
ライダーから事情は全て聞いている。
自分は聖杯戦争とやらに巻き込まれてしまったということ。
聖杯戦争には数十組ものマスターとサーヴァントが参加し、互いに殺し合う儀式だということ。
勝ち残った果てには聖杯という奇跡の願望器が得られるということ。
聖杯があればあらゆる願いが叶うということ。
ライダーは包み隠さず、全てを語ってくれた。
(仮にもし、聖杯ってえのが手に入って…本当に何でも願いが叶うなら…)
あらゆる願いを叶える万能の願望器。
全ての祈りに応える魔法の如し道具。
そんなものが本当に手に入ったとすれば。
本当に何でも願いが叶うとしたら。
(あいつらともまた、やり直せるのかね)
迷惑を掛け続け、そして縁を切られた妻や娘と。
また、やり直せるのではないのだろうか。
(……出来るかってんだ、そんなこと)
そんな思考を振り払い、藤田は後ろ髪を掻きむしる。
何を馬鹿なことを考えているんだ、と自分の思考に心中で悪態を付く。
妻子とやり直す。その為に他の参加者を皆殺しにする?
そんなことが出来る訳が無い。
自分は警察官だ。正義の側に立つ人間だ。
私欲の為に殺人を犯すなど、あってはならない。
―――そもそも、妻子に逃げられたのも全部自分のせいじゃないか。
自分が仕事にかまけて、熱心に働き続けて、それでこうなったんじゃないか。
警官としての正義を全うすることが全てだと思っていた。
厄介事であろうと何だろうと、そこに事件があれば駆け付けるのが警察官だと思っていた。
だが、そのせいで自分は妻や娘を蔑ろにし、迷惑を掛け続けた。
職場でも「無能な理想主義者」として白い目で見られ、次第に孤立していった。
終いには、妻子から縁を切られた。
全部自分のせいだっていうのに、他の連中を皆殺しにして綺麗さっぱり無かったことにするのか?
そんなもの、余りにも都合が良すぎる。
出来る訳が無い。やっていい筈が無い。
全部自分のせいだということは解っている。
こんな性分だからこそ空回りしてしまうということも理解している。
だというのに、またこうして厄介事に首を突っ込もうとしている。
自分の胸の内の正義感に火が付き、事件解決の為に独りぼっちでこうして駆け回っている。
この街も紛い物で、守る意味なんか無いのに。
結局自分は、どこまで行っても馬鹿な男だ。
「馬鹿は死ななきゃ治んねえ、たぁよく言ったもんだよな……やんなっちまうよなぁ……」
警察官、藤田茂。
彼は正義に燃える巡査部長だった。
職場では孤立し、妻子からも離縁され。
気が付けば、彼の居場所はこの世の何処にも無くなっていた。
男は、『帰る場所』を見出せなかった。
◇
藤田の背中を見つめ、霊体化したライダーはやるせない感情を抱く。
彼のもとに召還されてから数日は経過している。
そんな日々の中で、ライダーは藤田茂という人間を見つめてきた。
藤田茂は、正義に厚く。
藤田茂は、善良で。
藤田茂は、どうしようもなく孤独だった。
彼は警察官として余りにも真っ直ぐだった。
事件の匂いがあれば進んで首を突っ込もうとした。
お人好しで正義感の強い性分に突き動かされていた。
それ故に、彼は孤立していた。
過去の失態と、時代遅れな正義感。
それらが藤田と言う警察官の評価を落としていた。
曰く、彼は過去にその性格が災いして犯人を取り逃がしたことがあったという。
ライダーのサーヴァント、マウンテン・ティムは藤田を放ってはおけなかった。
正義漢でありながら決して報われない、一人の警察官を哀れんでいた。
マウンテン・ティムは既に生前への悔いを残していない。
彼は
ルーシー・スティールに想いを伝えられた。
叶わぬ愛と知っていても、その感情を告げられただけでも良かった。
ルーシーという『帰る意味』を見出し、最後まで彼女の為に戦うことが出来た。
後の事は
ジャイロ・ツェペリとジョニィ・ジョースターが全てを受け継いでくれた。
その結果、ルーシーは最後まで命を落とす事無く生還した―――と、『座』において知ることが出来た。
故に彼の心に後悔は無い。帰る場所を見出し、己の役割を全うしたのだから。
だが、藤田はどうだ。
彼はその性格が裏目に出て妻と子に逃げられてしまった、と言っていた。
以前にそのことを藤田は愚痴るに零し、その後はぐらかしていた。
しかし、やはり聞いてしまった以上は気にしてしまうのだ。
そして藤田は職場においても孤立し、理解者さえ存在しないという。
彼は帰る場所を見出せず、孤独な旅路を進んでいた。
マウンテン・ティムは藤田茂という男を救いたかった。
彼の帰るべき場所を共に探してやりたかった。
だが、今のティムにはどうしようも出来ない。
空虚と孤独を抱える男をどうすれば救えるのか。
どうすれば聖杯という手段に頼らず、道を見出せるのか。
ティムにはまだ解らなかった。
雨の夜道を歩く藤田の背中は、余りにも寂しげに映った。
【クラス】
ライダー
【真名】
マウンテン・ティム@ジョジョの奇妙な冒険 第7部「スティール・ボール・ラン」
【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷C 魔力E 幸運D 宝具C
【属性】
秩序・善
【クラス別スキル】
対魔力:E
魔力に対する抵抗力。
無効化はせず、ダメージ数値を多少軽減する。
騎乗:C+
乗り物を乗りこなす能力。
乗馬において卓越した技能を発揮する。
その他にも現代の一般的な乗り物を一通り扱える。
【保有スキル】
伝説の牧童:A
カウボーイとしての伝説的な技能。
彼の前では馬ですら頭を下げ、敬意を払うと言われる。
ありとあらゆる馬や牧畜を手懐け、使いこなすことが可能。
また馬が残した僅かな痕跡からその状態や蹄鉄の正確な形状、更には馬と乗り手の心理状態などを分析することが出来る。
ただし幻獣種といった異次元の生物を乗りこなすことは不可能。
単独行動:B
魔力供給無しでも長時間現界していられる能力。
Bランクならばマスターを失っても二日程度の現界が可能。
カウボーイとして毎年三千頭もの牛と旅をしていたという逸話に基づくスキル。
【宝具】
「旅人は荒野を駆ける(ゴースト・ライダー・イン・ザ・スカイ)」
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
生前のティムが乗りこなしていた愛馬。
数千キロもの長い旅を共にしてきたことから、発動時の魔力消費が極めて少ないという特徴を持つ。
それ以外に特筆すべき能力は持たないが、伝説のカウボーイであるティムにとってある種の象徴とも言える宝具。
「困難に立ち向かうもの(オー!ロンサム・ミー)」
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~20 最大捕捉:10
荒野の異常現象「悪魔の手のひら」に立ち会ったことで獲得したスタンド。
縄を媒体に発動し、縄上で自身の肉体をバラバラに分解する能力を持つ。
バラバラにした肉体は縄で繋がれ、縄の上を自在に移動することが出来る。
他者の肉体も触れることで投げ縄上でバラバラにすることも出来るが、発動時の隙が大きく戦闘では余り実用的ではない。
またティムは投げ縄の達人であり、宝具を用いずとも卓越した投げ縄の技量を発揮することが可能。
【Weapon】
投げ縄、拳銃
【人物背景】
大陸横断レース「スティール・ボール・ラン」に参加したカウボーイ。
彼の前では馬も頭を下げると言われる程の伝説的な牧童。
かつては騎兵隊に所属していたが、その時に「悪魔の手のひら」と遭遇しスタンドを獲得している。
レース中に殺人事件が発生したことで臨時保安官として任命される。
ルーシー・スティールに想いを寄せ、彼女を守る為に合衆国大統領の部下ブラックモアと交戦したが敗死した。
【サーヴァントとしての願い】
ジャイロ・ツェペリとジョニィ・ジョースターに全てを託した為、生前に悔いは無い。
【方針】
今はフジタが放っておけない。
出来ることならば彼の力になりたい。
【マスター】
藤田 茂@SIREN2
【マスターとしての願い】
人殺しをしてまで願いを叶えたくない。
【weapon】
拳銃
【能力・技能】
警察官であるため、拳銃による射撃の技能がある。
ただしゲーム中で素手の状態では突き飛ばししか出来ず、体術はそれほど強くない模様。
異界ではないため幻視(視界ジャック)は不可能。
【人物背景】
夜見島出身の警察官。52歳。本土勤務の巡査部長であり1986年の人間。
元々は警部補だったがお人好しな性格が災いして窃盗犯を取り逃がし、降格させられた過去を持つ。
また家族を省みず厄介事に首を突っ込み性分だった為に妻子からも疎まれていた。
善人ではあるものの、そんな性格が裏目に出て結果的に空回りをしてしまう報われない性分の持ち主。
夜見島のある噂から事件の匂いを嗅ぎ付け、単身で帰郷した所を怪奇に巻き込まれる。
【方針】
今は殺人鬼や聖杯戦争について調査する。
殺し合いには乗らないが、今後具体的にどうするのかは未定。
候補作投下順
最終更新:2016年03月04日 01:57