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 東京から大洗までは、電車でどのくらいかかるだろう。
 そう思い、インターネットで調べたことがある。
 結果は100分ほどだった。友達と語らいながら移動していれば、あっという間に到着する距離だ。
 それでも帰ろうとする度に、常に何かが邪魔をして、道を阻んできた。
 そうしているうちに、記憶を取り戻してから、一週間が経過していた。
 その頃にはいよいよ、西住みほも、この聖杯戦争なる争いから、逃れられないのだろうと観念していた。

(遠いなぁ)

 瞬きの間に過ぎ去るような、100分ぶんの距離があまりにも遠い。
 目の前にあるはずの学校が、取り戻したはずの学校が、生まれ故郷の熊本よりも、ずっと遠くに感じられる。
 今一度調べ直した、電車の乗換案内のホームページを、ぼんやりと見つめながら、みほは思った。

「――そろそろ、考えは固まった?」

 そんな彼女の物思いを、背後からの声が遮る。
 とはいえかけられた女の声は、友人に向けるような、気さくな響きだ。
 声の主は分かっていた。故にみほは驚くことなく、ゆっくりと椅子を回して振り返った。

「ライダーさん」
「ごめんね、邪魔しちゃって。でも、そろそろ一週間くらい経つし、聞いておかなきゃと思ったから」
「いえ、いいんです」

 自室に現れた訪問者に、軽く微笑を浮かべて、返す。
 聖杯に観測された、英霊の魂を、模倣し現世へと形成した使い魔・サーヴァント。
 そんなオカルトめいた存在でありながら、彼女のもとへ召喚された女性は、妙に人間くさく振舞っていた。
 もっともそれはそれで、同居するみほにとっては、ありがたい話ではあったのだが。

(この人と一緒に戦うのが、私の巻き込まれた聖杯戦争)

 古代ブリタニアの女王、ブーディカ。
 それが騎兵(ライダー)の称号を得て、戦車と共にやって来た、西住みほのサーヴァントだ。
 とはいえ彼女の乗る戦車は、みほ達が慣れ親しんできた、近代兵器のタンクではない。
 小型の馬車のようななりをした、チャリオットと呼ばれる古い兵器だ。
 このあたりは、古代戦史に詳しいカエサルの方が、よく知っているかもしれない。
 彼女のソウルネームの由来となった、ガイウス・ユリウス・カエサルは、ローマを相手取ったブーディカにとっては、憎むべき怨敵に当たるのだろうけども。

(ここにいたのが、ダージリンさん達じゃなくてよかった)

 どちらかと言えば、この英霊に相応しい人間は、別にいると思っている。
 英国淑女を標榜する、聖グロリアーナ女学院のライバル達の方が、ブーディカと並び立つ姿も様になるはずだ。
 とはいっても、これは戦争だ。危険で身勝手な殺し合いだ。
 自分が巻き込まれたのは遺憾ではあるが、そうしたベストカップリングが、実現することなく終わったことには、みほは間違いなく安堵していた。
 マスターがサーヴァントを引き寄せるのではなく、サーヴァントがマスターを引き寄せる、なんて現象が、本当にあるのかは知らないが。

「それでさ。みほはこれから先、どうする? この聖杯戦争で、どうしたいと思ってる?」

 そのサーヴァントが問いかける。
 古代の戦場を戦い抜いた、歴戦の英霊が問いかけてくる。
 お前はいかにして戦うのかと。
 願いを叶える聖杯と、どのようにして向き合うのかと。

「……私は、この戦いには乗れません。勝つためではなく、聖杯戦争を止める……そのために戦いたいと思います」

 一拍の間を置いて、口をついたのは、否定だ。
 みほは聖杯を手に入れるために、戦うことはできないと、そうはっきりと口にした。

「いくら願いを叶えるためとはいえ、そのために人の命を奪うのは、間違っています」
「うん。まぁ、真っ当な答えだ」
「それに私にも、意地があります。やっと見つけた、私の戦車道を、裏切ることはできません」

 これまで共に戦ってきた、全ての人々のためにもと、言った。
 願いならとうの昔に叶えた。
 大切な仲間達の学び舎は、戦車道大会で優勝することで、何とか守り抜くことができた。
 ならば十分だ。望むものは見当たらない。
 そうでなくても、利己的な理由で、他人の命を奪うことは、どう考えても許せそうにない。
 勝つことだけを考えた、冷徹な戦車道を否定した、西住みほならではの意地だ。
 思えば、こんな男勝りな言葉は、初めて使ったような気もした。

「戦車道、か……」
「ライダーさん?」
「ああ、うん。ちょっとね。そんな平和の形もあったんだなって、そう思っただけ」

 穏やかに笑いながら、ブーディカは言った。
 戦車道がどういうものなのかは、以前に話したことがある。
 概念がだいぶ変わったとはいえ、多くの血を啜ってきた戦車が、今は平和な競技にも使われているというのは、大層な驚きだっただろう。
 人の命が失われることなく、互いを讃え合う笑顔で、締めくくることのできる優しい戦争。
 それは今のみほにとって、かけがえのない大切なものだ。決して穢されてはならない尊いものだ。
 きっとブーディカも、そんな風に、受け止めてくれたのだろうか。

「……うん。みほの気持ちは、よく分かったよ。だからあたしでよければ、手伝ってあげたいと思う」
「いいんですか? 聖杯を使う権利は、確かサーヴァントのライダーさんにも……」
「あたしはいいんだ。ブリタニアが平穏でありますように……って願いは、きっと聖杯がなくても、叶えられるものだから」

 望みならある。
 けれどそれは必ずしも、聖杯にかけるべきものではない。
 現代の大英帝国に生きる、ブリタニアの子供達が、きっと自分達の手で、叶えることができることだ。
 戦車道に青春をかけ、互いに肩を組んで笑い合う、西住みほ達がそうであるように。

「だけど、道は険しいよ。申し訳ないけれどあたしは、割と地味な英霊だから、苦戦しちゃうこともあるかもしれない」
「私達の戦いは、いつだってそうでした」

 ライダーさんが頼りないという意味ではないですよ、と付け足しながら、みほは言う。
 これまでの道のりも、決して楽なものではなかった。
 ゼロから戦車道を始める仲間達。強豪校にはとても敵わない、余り物のオンボロ戦車。
 それでも皆で力を合わせ、小さな勇気を束ねながら、頂を目指して駆け上がっていった。
 自分だけのためだったなら、決して越えられなかった壁も、想いを重ねて飛び越えていった。
 どんな異常な状況下でも、それだけは変わらないと思えるものだ。

「それだけじゃない。これは戦車道とは違う。下手を打てば死んでしまう。そういう戦いだよ、聖杯戦争は」
「っ」

 それでも、ブーディカから釘を差された時、一瞬、体が強張った。
 そうだ。戦車道と違うということは、つまりはそういうことでもある。
 殺すことが目的ではないから、戦車は戦車しか狙わない。
 たとえ視界を確保するために、戦車長が身を乗り出していても、砲弾が当たることは滅多にない。
 そんな幻想を吹き飛ばすのが、正真正銘の戦争なのだ。
 姿を晒した戦車長へ、これ幸いと狙いを定め、容赦なく命を奪うのが、聖杯戦争というものなのだ。
 故に敗北は死に直結する。
 誰かの命を奪うだとか、奪わないだとかだけではない。自分自身の命ですらも、奪われてしまう戦いなのだ。

「……覚悟の上です」

 それでも、決意は曲げなかった。
 不利が死のリスクを高めるとしても、引き下がるわけにはいかないと、言った。
 両手を膝の上で揃え、まっすぐにブーディカを見据えながら、西住みほはそう宣言した。

「………」

 しばし、英雄は沈黙する。
 本物の戦を未だ知らない、高校二年生の少女を、真剣な面持ちで見据える。
 そこに何を見ているのか。あるいは何を見定めているのか。それはみほには分からない。

「……今分かった気がする。あたしがどうして、君のところに呼ばれたのか」

 意外にも、次の一言は、笑顔と共に放たれていた。
 世間知らずの青二才を、けれど英雄は責めることなく、穏やかな微笑と共に受け止めていた。
 呆気に取られたみほのもとへ、ブーディカはゆっくりと歩み寄る。
 そして両手を優しく伸ばし、みほの両手を包み込むと、自身の胸の高さへと運ぶ。

「ごめんね。意地悪なこと聞いて怖がらせて、無理に我慢させちゃった。きっと色々と、いっぱい溜め込んじゃう子だったんだね」

 そう言われて、みほは初めて、自分の手が震えていたことに気がついた。
 死への恐怖を悟らせまいと、無意識に震えを己が手で抑えて、胸の内を隠していたのだ。
 また、誤魔化して背負い込んでしまった。
 これまでずっとそうしてきたように。もうそうする必要はないのだと、仲間に縋っていいのだと、理解させられたはずだったのに。

「大丈夫だよ、無理しなくても。お友達はいないけど、みほの弱さと心細さは、代わりにあたしが受け止めてあげる」

 沈黙し平静を保つことが、強さだと思っているのなら、そんなものは必要ない。
 心が壊れるくらいなら、弱くてみっともない姿を、晒してくれて構わない。
 右手をみほの手から離し、そっと頭を撫でながら、言う。

「頼りない勝利の女王でも、泣いてる子供を守るくらいなら、きっとできるはずだから」

 私はそうやって生きてきた。
 その想いに殉じて散った。
 そうして英霊の座に召されても、私のやることは変わらない。
 そういう性分であるのなら、守るために戦いたいという、その心に従って戦う。
 女の子一人守れないようでは、勝利の二つ名を名乗る以前に、英雄として人として、きっと失格だと思うから。
 そう宣言するブーディカの姿は、何よりも眩しく、美しかった。
 その優しさと気高さは、現代にまで語り継がれる、伝承の英雄に相応しいものだった。

「あ……」

 駄目だ。泣きそうだ。
 久々にそんなことを思った。熱を持った目頭が、雫で潤むのを感じた。
 同年代の仲間達に、勇気づけられたことはある。
 しかし背の高い大人の女性に、こうして暖かく包み込むように、慰められたのはいつぶりだろう。
 これが母性というものならば、ちゃんとした戦車道に取り組むよりも、ずっと前に見たきりかもしれない。
 未だ仲直りできていない、凛々しくも厳しい母親が、かつて見せてくれた優しさ。
 もしかしたら、心の底で、ずっと求めていたかもしれない記憶が、フラッシュバックして心を揺さぶる。

「君の友達のところには、責任持って送り届ける。だから力を合わせて、笑顔で帰ろう。みほを待っている人達のところへ」

 膝をつき、みほを抱き寄せながら、ブーディカは優しく言葉をかけた。
 神話の時代に燦然と輝く、大英雄にも負けないほど強く。
 泣きじゃくる子供を優しくなだめる、一人の母親のように暖かく。
 ぽんぽんとみほの背を叩く、古のブリタニアの女王の言葉が、今は何よりも頼もしかった。

「……はい」

 待ってくれている人達がいる。
 それは大洗女子学園に、共に通った仲間達。
 それは遠い熊本の故郷で、自分を想ってくれているかもしれない家族。
 その人達に会うためにも、絶対に帰らねばならないと思った。
 この英雄の心遣いを、無駄にしてはいけないと思った。
 死後の安寧を妨げられ、聖杯を使う権利も阻まれてなお、手を差し伸べてくれた彼女にも、応えなければならないと誓った。
 一筋の涙を流しながらも、ブーディカの体を抱き返す、西住みほの顔は、笑っていた。





【クラス】ライダー
【真名】ブーディカ
【出典】Fate/Grand Order
【性別】女性
【属性】中立・善

【パラメーター】
筋力:C 耐久:B+ 敏捷:C 魔力:D 幸運:D 宝具:B+

【クラススキル】
対魔力:D
 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

騎乗:A
 騎乗の才能。幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自在に操れる。

【保有スキル】
女神への誓い:B
 古代ブリタニアにて信奉されていた、女神アンドラスタへ捧げる勝利の誓い。
 ブリタニアを害する存在――特に当時敵対していた、ローマの英霊に対して、ダメージ補正が加えられる。

戦闘続行:A
 往生際が悪い。
 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

【宝具】
『約束されざる守護の車輪(チャリオット・オブ・ブディカ)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:? 最大捕捉:?
 自らと同じ「勝利」の名を冠する片手剣。
 たが、あくまで勝利を確約するものではない。可能性のみをもたらす不完全な戦車。
 真名解放と共に結界を展開し、味方を守ることができる。守護者に相応しい堅牢な宝具。

『約束されざる勝利の剣(ソード・オブ・ブディ力)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
 自らと同じ「勝利」の名を冠する片手剣。
 だが、かの星の聖剣とは異なり、勝利も約束されない。完全ならざる願いの剣。
 優れた威力を誇る剣だが、セイバークラスで現界しなかったが故か、特別な効果を有してはいない。

【weapon】

 ラウンドシールドを装備している。

【人物背景】
一世紀での古代ブリタニアの若き戦闘女王。ブリテンの「勝利の女神」の伝説となった人物。
衣装はゲーム中シナリオに準拠し、第2段階のものを着用している。

夫であるプラスダクス王の死後、自身と国、そして二人の娘を蹂躙された彼女は、国の守護とローマへの復讐を誓う。
若き戦いの女王となったブーディカはローマに対して反旗を翻し、諸王をまとめ上げ、大規模な反乱を巻き起こした。
その反乱はローマに衝撃と大打撃を与えたが、最後にはネロの軍勢に敗北し、落命した。

ただし、近代以降の英国において篤く祀られている彼女は、過去の戦いの折の激しさを失っている。
英霊として在るブーディカは、本来の彼女、すなわち慈愛の女としてこそ剣を振るう。
ブリタニアを、故郷を想う、母の力として。

【サーヴァントとしての願い】
強いて言うなら、ブリタニアの平穏。

【基本戦術、方針、運用法】
ザ・中位サーヴァントと呼ぶべき性能。本人も自虐した通り、派手な戦果は期待できない。
マスターがその戦術眼を最大限に発揮できれば、勝利の可能性もなくはないのだが、生憎と今回の目的は、積極的に勝ちにいくことではない。
生存能力の高さは折り紙つきなので、しぶとく攻撃を耐えつつ、好機をうかがうことを心がけよう。
「絶対金枠鯖なんかに負けたりしない!(キッ)」という心意気こそが肝要である。


【マスター】西住みほ
【出典】ガールズ&パンツァー
【性別】女性

【マスターとしての願い】
聖杯戦争を止める

【weapon】
なし

【能力・技能】
騎乗(戦車)
 戦車の乗組員としてのスキル。車長のスキルを保有する。
 少なくとも高校一年生の頃には、既に車長を担当していた。

軍略
 一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
 ただし、あくまで人死にの出ない、競技による戦闘においての話である。
 時に慎重に、時に大胆に。たとえ限られた兵力であっても、戦術と腕を尽くして、十二分に活用することができる。
 もっとも、その下地となっているのは、西住流の正統派戦術であり、常に奇策に走りたがるわけではない。

【人物背景】
関東の県立大洗女子学園に通う、高校二年生の少女。
熊本に本拠を置く戦車道の名門・西住流の次女でもある。
長らく戦車道から遠ざかっていた、大洗女子学園の戦車道チームを再建させ、全国優勝へと導いた。

非常に温和で優しい人物。戦車を降りている時は、ふわふわしていて、むしろ危なっかしい印象すら与える。
ひとたび戦車に乗れば、西住流仕込みの、冷静沈着な隊長へと早変わりする。
かつてはその優しさ故に、チームを敗北へ追い込んでしまったこともあるのだが、
現在は人命・勝利の双方を両立する判断を、冷静に下せるようになっている。
決して勝利を諦めはしないが、それ以上に、仲間を見捨てることをしない。何だかんだで芯の強い人物。

好きなマスコットキャラクターは、喧嘩を売ってはすぐボコボコにされるヘタレキャラ・ボコられグマ(通称ボコ)。
コンビニが好きで、用がなくとも30分くらい、品揃えや値段の変化を眺めて楽しむことができるという、奇っ怪な趣味を持つ。

【方針】
人殺しは絶対にしない。聖杯戦争を止める方法を探す。



候補作投下順



最終更新:2016年03月03日 12:49