実家のレストランの跡を継ぐ決心をし、戻って来た時には既に以前のような活気はなくなっていた
近頃出来た大きなチェーン店のファミレス「アンアン」の影響だった
安い・うまい・可愛い。これがこの店のキャッチフレーズだ。
早い・旨い・安い。ならわかるが、可愛い‥というのはつまり
「可愛い」ウエイトレスしか居ない、というのがこの店の大盛況になっている原因だった
『いらっしゃい!』しかし、そこに立っていたのは客ではなかった
『なんだ…美里かよ』
『なんだとはご挨拶ね。しっかし、相変わらずガラガラね!』
腰に両手を当てた宮崎美里は、誰も居ない店内を見渡すと、つかつかと憲吾のそばに近寄ってくる
美里とは十数年もの付き合いがある幼なじみで、同い年なのでもう二十一歳になる
『ちっともわかってないなあ。まずは雰囲気よ、雰囲気。
お店から滲み出してくるような明るさがなくって、どうするのよ』
見た目には随分と女らしく成長したが、バリバリの女子大生で口が悪いのは昔っから変わらない
『あのなー‥そういう事、ライバル店でバイトしてるお前に言われたくないわっ』
『あのねえ、これでも私、憲吾の事を心配してるんだよ』
怒ったような表情で、顔をずいっと近付けてくる。
『えっ?』
髪の毛の匂いだろうか、甘い匂いがふわっと鼻先をくすぐり、憲吾は一瞬ドキッとした
『私だってさー、別に好きで「アンアン」なんかでバイトしてるわけじゃないの。
あそこの制服やスカートの裾、超短いんだから。もう制服そのものがセクハラよ』
美里は顔をしかめると、両手で双肩を抱き、ブルッと身体を震わせる
『そうなの?。おまえも大変なんだな』
『時給高くなかったらとっくに辞めてるわ。まあ…仕方ないけどね。取り敢えず先立つものがなくっちゃ』
屈託のない笑顔になる。美里はバイトをして小遣いを自分で稼いでいるのだか、そういう気苦労は全く表に出さないのはさすがだと思う
『ねえ、そういえばまかないさん辞めちゃったんでしょ。
まかないさんが居ないんじゃ大変じゃない。求人は出してるの?』
『一応、タウン誌にな』
『そんなんじゃ駄目よ。そうだ、私雇わない?看板娘になってあげるよ』
美里はパッと顔を輝かせ、憲吾の隣りに腰をおろした
幼なじみの気安さがあるのだろうが、太腿が触れ合い、憲吾は内心どきまぎしていた
ムチッとした女の太腿のやわらかさが、ズボンを通して伝わってくる
(こいつの脚、こんなにやわらかかったっけ…)
口は悪いが、黙っていれば美里もけっこう可愛いほうだ
何しろ、顔で採用を決めると言われているファミレス「アンアン」でバイトをしているのだから世間の基準からいってもかなりのレベルなのだろう
近しい存在だっただけに、これまで意識した事はなかったが
改めて見ると随分女らしく成長したものだと思う
(いつの間にか、おっぱいもすげえ大きくなってるし)
白いブラウスを持ち上げる膨らみに、憲吾はちらっと視線を落としていた
盛り上がった双乳の膨らみは、ソフトボールくらいの大きさはありそうだ
『どう?』
『いや、けっこうでかいよな‥』
『は?』
『あ…、いやいや。お前が看板娘になってくれるならでかいなと思って』
思わず胸に見とれてしまっていた憲吾は慌てて視線を上げ、誤魔化すように笑顔になった
そんな事を美里に気付かれたら、ビンタの一つや二つではすまないだろう
『でしょう。そうしたら、このお店だって一気に盛り返せるかもよ』
カウンターに肘をつき、身を寄せてくる。太腿に続き、二の腕までもが触れ合い、憲吾の頭の中は沸騰しそうになっていた
『あ、そうだ。私そろそろバイトの時間だわ』
椅子から弾かれたように立ち上がる美里。
『じゃあ、頑張って。私、応援してるから』
美里はきびすをかえすと、そそくさと出ていこうとする。
『ちょっ…待て…… あー、何だよ、こんな時に』
逃げるように店を出ていった美里を追い掛けようと思ったところに、タイミング悪く電話が鳴った
美里を尻目に憲吾は受話器を取って、最初はぶっきらぼうに出でしまったものの
『はい。え…出前。もちろん大丈夫ですよ!』
注文とわかった途端、憲吾は手のひらを返したような猫撫で声になっていた
注文してくれたのは小高い丘の上に建つ、出来て間もない近代的なツインタワーの高層マンションの住人
マンションのエントランスに立ち、パネルで部屋番号を押した。
『出前の品、お届けに上がりました』
『は―い…。ふふっ。ご苦労様』
オートロックが開く。スピーカーから聞こえてきたのはハスキーな感じのちょっと色っぽい声だ
ちょっと悪戯っぽい含み笑いが、若くてセクシーな奥さんを期待させる
玄関でチャイムを押す。ドアはすぐに開いた
『遅かったのね。待ちくたびれちゃったわ』
玄関を開けてくれたのは、匂い立つような色香を放つ、なかなかの美人だった
肩まで伸びた髪は緩やかに波打っており、やや上がり気味の瞳が魅惑的に細められている
ムチッとした身体には、ノースリーブのピッタリとしたワンピースを身につけ熟れ始めた女体の稜線が浮き出ていた。何より、胸元を持ち上げる双乳の膨らみの大きさに憲吾の視線は釘付けになった。大ぶりのナシくらいはありそうな、豊満な丘陵だ
(熟女まではいかないけど、微熟女って感じで‥若奥さんって感じで色っぽいな…〕
思わず、頬が緩んでしまう。香水をつけているのか、甘い良い匂いが鼻腔を撫でていく
『すみません、お待たせしちゃって』
『いいのよ。その代わり、中まで持って来てくれる。お代は中で払うわ』
と、妖艶に見える微熟夫人は言うと、クルッと背を向けて歩き出す
『え‥あ…はあ』
そんな彼女の妖艶さに吸い寄せられるように、憲吾は部屋に上がらせてもらった
広いリビングルームに通されると、窓からは東京の景色が一望できる。最上階に位置するだけの事はある
(すげえ…さすがに高層マンションだな)
『何か冷たいものでも飲みます?』
微熟夫人が声を掛けてきた
『あ。いえ、そんな‥ おかまいなく』
『遠慮することなんかないわ。ちょっと休んでいったら』
微熟夫人の提案は魅力的だった
『いいじゃないの。ちょっとだけ…ね』
彼女の両手が腕に回され、ソファーのところまで連れて行かれる
『さあ、座って』
『お‥俺、汚いっすよ』
『そんなこと気にしないの』
微熟夫人は憲吾の肩をおさえるようにしてソファーに腰掛けさせた。座った途端、尻がソファーに呑み込まれてしまうのでは‥と思うほど、座り心地の良いソファーだ
折角の申し出を受けることにした憲吾は、微熟夫人が出してくれる冷たい麦茶を一口飲みながら改めて室内を見渡す。家の中は光って見えるほどピカピカだし、家具や家電も高そうなものばかりだ
(やっぱり、ハイソな人達の家ってのは違うな‥)
キッチンからこちらに戻ってきた微熟夫人を、改めて見ると、彼女の細身な肢体にドキリとしてしまう
身体にピタリとしたワンピースに浮かぶ女体の稜線は、滑らか曲線描いていていかにもやわらかそうだ
『ねえ、あなたいくつ?』
微熟夫人は、憲吾の隣りに腰をおろすと脚を組んだ。スカートの裾が持ち上がり、細身ながらも魅惑的な白い太腿がチラッと見える
『え‥ああ、二十三です』
『お若いのね。アルバイト?』
『いえ‥一応、家業を継いだんで…』
憲吾の視線は、ワンピースをこんもりと持ち上げる乳房へと移動する
生地の薄いワンピースは、細身の身体の胸元が大きく開いており、白い膨らみの谷間が覗き見える
(それにしても‥やわらかそうなおっぱいだな)
今にもこぼれて出てきそうな双乳の膨らみに、ゴクリと唾を呑んだ。
『まあ。じゃあ、あなたが店主さんなの?』
『ええ、一応』
『お若いのに立派なのね』
若いのに艶っぽい微熟夫人は、スッと憲吾に身を寄せると、太腿のあたりに手のひらを重ねてきた
互いの太腿が触れ合い、大きく開いた胸元から、さらに乳房の谷間が覗き見える
もうちょっと覗き込めば、ブラジャーさえ見えてしまいそうだ
目を逸らそうと思うのだが、意に反し視線はピクリとも動かなかった
『なかなかいい体をしているのね』
微熟夫人に、太腿をマッサージするように揉んでこられて、憲吾は体を硬直させた
『何かスポーツでもやっていたの?』
『ま‥まあ。中学の頃には柔道、高校の時はバスケを』
『そう。私、スポーツマンって大好き。この筋肉のしなやかな感触…ゾクゾクしちゃう』
指先で太腿をなぞられ、背筋までもゾクゾクとしてきた
『あ‥あの…奥さん?』
なんなのだ!、これは。まさか誘惑されているのか?。
唐突な事に、憲吾は頭の中が真っ白になっていくのを感じでいた
『奥さんじゃなくって、玲香って呼んでくれる!』
さっきの表札から、大館玲香というのが彼女のフルネームらしい
微熟夫人の指は、太腿から少しずつ、股間のキワどい場所へと近付いている
しかも、そのタッチが何とも心地良いので、下腹部の辺りにモヤモヤとした感覚がたまってきている
いくら相手がお客さんでも、このままじゃ理性を保てなくなってしまいそうだ
『いや…そんな…。お‥俺、そろそろ行かないと』
『どうして? もう少し休んでいけばいいわ』
股間の膨らみに、これまで感じた事のない甘美な感触が拡がり、思わず飛び上がりそうになった
『おっ…奥さん!』
声が裏返り、頓狂な声になってしまう
『だ・か・ら・・・奥さんじゃなくって、玲香』
『いや…れ、玲香さん…お、俺…困ります』
『どうして? こういうの お嫌い?』
玲香の指がズボンの中で膨らみかけている憲吾の肉柱をなぞり上げた。
『あらっ。少しかたくなってきてるわ』
微熟夫人は嬉しそうに両目を細めると、ペニスの裏側の敏感筋に沿うように指先を往復させる
胸の奥ではイケナイと思ってるのに、金縛りにあったように体が動かなかった
微熟夫人はピッタリ寄り添い、硬くなり始めた股間の膨らみを指先で転がすように触っている
玲香のワンピースの胸元に視線を向けた。ピッタリ寄り添っているので、ブラジャーに包まれている
膨らみの大部分が覗き見える。ぽっこりとやわらかそうで、触れると吸い付いてきそうだ
『フフフ、どんどん硬くなってるぅ』
玲香は指先をちょうど亀頭型に曲げ、カリの辺りをくすぐるように刺激してくる
(いったいどうなってるんだ‥?やっぱりこんなのまずいな)
どうやら自分は誘惑されているのだ、という事だけはかろうじて理解できたものの全身を包み込んだ甘美な快感のせいで、思考能力が全く働かない憲吾は微熟夫人に翻弄されるまま、ピクピクと体を引きつらせる
『あん、すごいわ。はちきれちゃいそう』
玲香の指がいよいよファスナーに掛かる。止める間もなく引き下ろされてしまい
トランクスを持ち上げるようにして、発情した肉柱がこぼれてきた、憲吾の男の器官は理性を失いトランクスを突き破りそうな勢いで隆々とキツ立している
艶っぽい微熟夫人の誘惑に、トランクスをテントみたいにするほど硬く頂上をむいていた
『ウフフ、エッチな染みを見つけちゃった』
玲香も見過ごしてはくれなかった。微熟夫人は、指腹でチョンチョンと突っつくように染みに触れる
『あっ。れ、玲香さん!』
トランクスの布地一枚を通し、妖艶な微熟夫人の感触が伝わってくる。
『もっと気持ち良くなりたいでしょ』
再びクリクリと指先で頂上部分をこね回される。電気ショックを受けているように体が引きつった
今度はズボン越しではなくトランクス越しの愛撫なので、快感も強烈だった
玲香の指がトランクスの前の部分を拡げた。ニュッと突き出てくる感じで憲吾の肉柱が露わになった
今日初めて会った女性に、男のシンボルまで曝してしまった
いくら玲香がセクシーで妖艶だからといって、好きでもない女の人に、こんな姿を曝してしまうとは
『ああっ、す‥すごい!』
玲香の瞳が陶酔したようにトロンとなった。憲吾のペニスは十七、八センチあり、大きさに関しては結構自慢の種だったが‥だからといって、見ず知らずの女性の前で曝していいというわけではない
『こんなのよくないですよ…だっ、駄目です』
大急ぎで丸出しになった股間を隠そうとしたが、玲香の方が一歩早かった
『ああん、すごく熱いわ。興奮してるのね』
手首が返され、熟夫人の指先がキツ立する男性器官をやんわりと擦り上げる
軽く一往復擦られただけで、思考能力は、その瞬間に吹き飛ばされた
羞恥も理性もハリケーンに呑みこまれてしまったように、跡形もなくなっている
玲香は憲吾の表情を上目遣いに見上げながら、ゆっくりペニスを扱いていながら
『気持ち良い? フフフ、遠慮することないのよ』
玲香の指が肉柱を往復する度に、股間からは濃密な男の臭いが漂っている
『すごくいい匂いがするわ』
微熟夫人が半身を折り、股間に鼻先を近付けてくる。玲香の指先の感触はあまりに甘美で全身が弛緩したようになってしまっている。
もう、彼女がお客さんだとか、初めて会った女性だとかはどうでもいいような気がした
そもそも誘惑してきたのは玲香の方なのだ。ここまでされ、何も感じずにいられるわけがないのだ
憲吾は彼女のワンピースの胸元に、舐めるような視線を向ける
大きく開いた胸元から黒いブラジャーがカップごと覗き見えた
ドキドキと胸が高鳴り、股間の高ぶりが弓のように反り返った。既に男性器官は破裂してしまいそうなほど血液を溜め込んでいる。沸騰するほどの快感が、ペニスの周囲に渦を巻くピクッ!と肉柱が反応した俺は玲香をソファーに押し倒した。
妖艶な微熟夫人は驚いた様子もなく、両目を細めると、憲吾の首に両手を回してきた
そのときだった。ベランダに面した大きなガラス窓の向こうに、ピカッと何かが光ったように見えた
憲吾は反射的に顔を上げ、両目をしばたたかせた。窓の向こうには、絶好の展望と共にツインタワーのもう一方の建物も見える。そのベランダの一つから、ガラスを反射させているような光が瞬いているのだ。その、ほんの一瞬のインターバルは、憲吾に普段の理性を取り戻させた
『あん…どうしたの?。いいのよ、触っても…』
玲香が憲吾の手を取り、自らの乳房に導こうとする。しかし、飛び上がるようにして玲香の女体から離れ、剥き出しになった高ぶりを無理やり押し込めるようにズボンの中に戻す
『や‥やっぱりこんなの駄目ですよ。俺、玲香さんの事よく知りもしないのに』』
『そんな事関係ないじゃない。私あなたの事気に入っちゃったの。ねっ。私の事好きにしていいから』
再びファスナーに指を掛けようとする玲香の手から逃れるように、憲吾はソファーから立ち上がった『れ、玲香さん、結婚されてるんでしょ。家族は大事にしなくちゃダメですよ』
下半身で渦巻く欲望が消え去ったわけではないが、真剣な表情を微熟夫人に向けた
それを聴いて、プッと玲香が吹き出し、その後彼女は身体をおるようにして笑い始めた
(こっちは真剣なのに、なんだってんだ)と思いながら
『なにがおかしいんですか!』
微熟夫人は笑いながら、ソファーから立ち上がり、窓際の方に近付いていきながら
『あはは…そんなこと真剣に言う人、久しぶりに会ったわ。…ごめんなさい、ちょっといい?』
玲香はまだ笑い声を漏らしながら、ツインタワーに向かって、両手を交差させて×のサインを送る
『ごめんなさい。実は向こうの棟の奥さんと賭けをしていたの
出前持ちを誘惑出来るかって…ほら、ちょっと見てご覧なさい』
玲香はぽかんとその様子を見ていた憲吾に、窓際に置かれていた双眼鏡を手渡した
状況を理解できないまま、微熟夫人の指差したあたりを見る。向こうの棟のベランダにバスローブに身を包んだ玲香と同じくらいの年齢の色っぽい奥さんが、こちらを双眼鏡で覗いていた
先ほどチカッと光った輝きの正体を理解した。しかも、よく見ると、向こうの部屋のリビングにはピザ屋の配達員らしいのが横たわっている。ようやく笑いの発作もおさまった様子で
『あっちは成功したみたいね。でも初めてよ。私の誘惑に負けなかった人って』
滲んだ笑い泣きの涙を拭いながら、傍らに立った玲香
憲吾は発作的に右手を振り上げ、ピシャッと玲香の頬を叩いていた
ビックリして両目を見開いた表情で、自らを見ている玲香に
『こういうのはよくないです!』
本気で叩いたわけではなく、軽くなぞる程度の平手打ちだったが、自分を抑える事ができなかった
憲吾はクルッときびすを返すと、スタスタと玄関に向かっていく
慌てて微熟夫人が追い縋ってきながら
『待って!ごめんなさい!そんなに怒ると思わなかったの!』
しかし憲吾は、チラリとも振り返らなかった。馬鹿にされた気がして、腹が立っていた
『私が悪かったわ。もうこんな事しない。だから…お願い、許して』
背中から、彼女の両手が回って来るので、憲吾は立ち止まっていた
背中にやわらかな感触が伝わって来ている。きっと、あの豊満な双乳の感触だろう
ふわふわと心地良い、何とも言えない感触だった。瞬間湯沸かし器みたいな怒りは
微熟夫人の魅力的な女肉の感触によって、みるみる萎んでいった
『べつに…そんなに怒ってるわけじゃ…』
『ううん…。私が悪かったの。ごめんなさい。試すような事をして』
玲香の声が震えている。ゆっくり彼女に向き直った
『もういいですよ。俺の方こそ、ぶったりしてごめんなさい』
『いいの。あなた…男らしくってとても素敵だったわ』
玲香は表情を輝かせると、伸びをするようにしてマシュマロのような唇を重ねて来た。
微熟夫人の優しいキスに、憲吾は目を白黒させた。
『お代がまだだったわね。はい、これ』
玲香から一万円札が差し出され、慌てて憲吾はお釣りを出そうとする
『ううん。いいの。お釣りは取っておいて。時間取らせちゃったから、残りはその分』
『で…でも、こんなには…』
『お礼とお詫びを込めて、少ないけど…、お願い』
ちょっと潤んだ瞳で見つめられると、首を横には振れなかった。続けて
『今度、また出前をお願いするわね』
玲香はシナをつくるようにして、身を委ねるように寄せて来る。
彼女の女体から醸し出されるフェロモンに、思わずクラクラっとなってしまいそうだった。
ちょうどその時、廊下でドスドスとが聞こえ、大きな音を立て扉が開いた。飛び退くように玲香から離れる
『おう、帰ったぞ』
入って来たのは、一目でカタギの人間じゃないような雰囲気のわかる強面の男だった。
背筋は氷で撫でられたように寒くなる。もしあのまま玲香の誘惑に乗ってたら大変な事になっていた
『あら、あなた早かったのね。ちょうど良かったわ、今出前が届いたところよ』
玲香は悪びれた様子もなく、愛想のいい微笑みを亭主に向けている
『おう、ご苦労さん』
『あっ…ま、毎度ありがとうございました!』
一オクターブほど声が上擦ってしまうのを感じながら、ほうほうの体で玲香の部屋を後にした
(いや…でもマジで危なかったよな。まさか旦那が帰ってくるとは…。ギリギリの所で踏み留まって
良かったものの、もし彼女の誘惑に乗っていたら、今頃どうなっていたかわかったものではない)
憲吾は大きな溜め息をつきながら店への道を急いだ
(どう見てもヤクザだったもんな)
まだ心臓がドキドキと早鐘のようになっており、雲の上を歩いているようでちょっと危なっかしそうだった足元がおぼつかなかった
ポケットには彼女から貰って来ちゃった一万円札が入っている
(結局、貰って来ちゃったけど、今度出前を頼まれたらサービスしないとな)
下半身にモヤモヤとした感覚を覚え、改めて玲香の妖艶な肢体を思い出していた
年齢は、おそらく三十路前あたりだろう。しかし、微熟女ながら匂い立つような兼ね備えた、色香と妖艶な魅力を漂わせており、あんな微熟女なら全然オッケーだと思う
(おっぱいもやわらかかったしな)
背中に感じた双乳の膨らみの感触を思い出し、だらしなく頬を緩めていた
股間は、まだジンジンと痺れている気がする。あんな風に、女性に愛撫してもらうのは初めての経験だった
(いくらセクシーな奥さんでも、ヤクザの女房じゃマズいよな)
ふいに亭主の強面の顔が蘇ってきて、欲情は萎んでいく
今日の感じでは、また出前を取ってくれそうだが、次も同じように誘惑されたら…と思うと、胸が重苦しい感じになった。なまじ玲香が魅力的なだけに、次があったらもう拒む自信がなかった
『まあ、いいか。また一件、お得意様が出来たんだし』
再び、大きな溜め息を漏らしながらも、憲吾は気を取り直していた
後日、憲吾は店先で一口メンチカツを売ってると、道行く人の中に、玲香と旦那さんもいた
『あら、憲吾君。ヘー、店頭販売までしてるの』
玲香は旦那さんと腕を組んでいるのに、憲吾に気付くと嬉しそうに顔の前で手を振ってくれた
『どうぞ。メンチカツの試食やってますんで』
強面の旦那の目の鋭い視線にも全く怯まずに、一口メンチカツを差し出した。
『おう、こないだのあんちゃんじゃねえか。悪いな、…うおっ!うめーじゃねえか、おい!』
『ここの料理、結構いけるのよ』
玲香もメンチカツを美味しそうに食べながら、助け舟を出してきた
『おうっ、十個もらおう。こりゃ、店の連中にも食わしてやらねえとな!』
玲香の旦那がスーツの内ポケットから長財布を取り出す
『ありがとうございます』
メンチカツをパックに詰めながら、憲吾は旦那に聞こえないように、こっそり玲香に聞く
『あの…お店って…事務所かなにかのこと…ですか?』
『あはは。うちの人ヤクザじゃないわよ。見た目はいかにもそれっぽいけど』
『駅前のドリームランドっていうソープランド知ってるか。あそこのオーナーやってるんだよ
コンパニオンがコスプレして待ってるからよ。おにーちゃんも今度来てくれや』玲香の旦那はソープランドの割引チケットを、憲吾の手に半ば無理やりねじ込んでいった
休日、苦々しい思いを感じながらも、つい「アンアン」の店の前を何食わぬ顔して通り過ぎる
もう二時過ぎだというのに店内には、まだかなりのお客さんが入っている
(くそー。やっぱり流行ってんなあ)
ガラス張りになった店内を、隅の方からそっと覗き見る
さすがに八割方席が埋まっている。店内で動き回っているウエイトレスは噂に違わぬ可愛い娘揃いだ
何より、胸のところが強調され、スカートの裾がやたら短い制服かエロい
(反則だよ、あれは)
そうこぼしてみたものの、店に入ってみたい、という欲求が湧き上がったのも事実だった
見知った商店街のオヤジ連中も皆、ニヤニヤしながらウエイトレスのスカートから覗く健康的な太腿や、制服のブラウスの膨らみあたりをジッと見つめている
要はうちで出す料理より、エロい制服を着たウエイトレスのいるファミレスの方が魅力的だという事
『ちょっと!覗きはお断りよ』
突然、背後か声を掛けられ振り返ると、紺色のスーツに身を包んだ二十代後半くらいの縁なし眼鏡の女が立っている
『な…だ、誰が覗きなんか!』
『あら。お客のつもりなら、お店に入って頂けるかしら』
「アンアン」の本社から派遣されて来ている営業担当の能代紗江子だ
紗江子は眼鏡をキラッと光らせ、その奥の目を細める。口元には小馬鹿にした笑みを浮かべておりいかにもお高くとまっている感じだ。この店をここまで流行らせたのは、実質紗江子の手腕らしい
べつに…ただ通りかかっただけだよ』
なかなかのやり手営業ウーマンだという事は美里から聞いていた。黙って立っていればかなりの美人だと思う。しかし、高慢な態度といい人を小馬鹿にしたような冷たい眼差しといい
『おう、にいちゃん!』
いつの間にか、繁華街に差し掛かっていた。そこに立っていたのは、派手な黄色いハッピを着た
『お…大館さん?』 玲香の旦那だった
『どうしたんでえ、景気の悪い顔して』
容赦のない言葉がグサッと突き刺す
『なんでえ、くさくさしてるなら、店に寄ってけよ
なんか今日サッカーの代表戦があるとかでよ、閑古鳥が鳴いてんだ』
派手なネオンの煌めく、大館の背後の店に目を向ける。ドリームランドという看板が見えた
そういえば、大館はソープランドを経営しているのだった
『…ていうか、どうして大館さんが客引きなんか』
『若いもんばっかにやらせると、ろくな客を捕まえてこねえからな。たまには
こうして自分で現場に出てんだよ。上客は会議室にいるんじゃねえ!現場にいるんだっ、てな
がっはっは。とにかく寄ってけよ。落ち込んでるときは、パーッと遊んで忘れればいいんだよ』
大館は肩に手を掛けて強面の顔をニタッて緩ます
『それに、おにーちゃんにはうめえメンチカツ食わしてもらったしな
おめえだったら半額サービスにしてやるよ』
『いや…でも、やっぱり…』
『まあまあまあ…。ひょっとしておにーちゃん玄人童貞か?わかってねえなあ
うちの女の子と遊んでみな。素人の女の事なんか、あっという間に忘れちまうぞ』
断り続けたいのだが、断るのもちょっと怖かった
気付いた時には、大館に案内され、待合室のソファーに座っていた
黒いベストに蝶ネクタイのマネージャーらしき男が出てきて、写真の入ったリストを手渡される
『こちらの娘なんかどうですか。かなりのテクニック上手だし、抜群の身体の持ち主でお薦めですよ』
写真のコンパニオンは、どことなく雰囲気が紗江子に似ている
『あ…じゃあその人で』
勧められるまま、指名してしまう
「いらっしゃいませ!」
しばらくして待合室に現れたのは、二十代後半だろうか、年齢はちょっといってるが、
なかなかチャーミングな笑顔を浮かべるコンパニオンだった。
「暁美っていいます。宜しくね!」
「あ、はあ」
年齢的にも麗耶に近いし、癒し系な雰囲気も共通している。