春休みが終わって新学期が始まり、敦子たちは3年生になった。
リボンタイはオレンジからエンジになり、一新されたクラスメイトたち。そして、敦子と恵美は引き続き同じクラスとなった。
昼休み、例によって裏庭で二人は弁当を拡げていた。新しいクラスになってからは、以前のような後ろ暗いいじめは影を潜めていたが、それとは関係なく二人はほぼここで食事を取っていた。人気のないこの場所は学校で二人きりになれる数少ない場所であったからだ。
それに、春休みの間に庭木が剪定されていて、以前とは違い多少日当たりがよくずっと過ごしやすくなっていた。
「今日、あったかいね……」
「ほんとね。どっか行きたいなぁ」
食べ終わった弁当を片づけながら、少女たちはささやきあって、微笑み合う。
春休みの間、可能な限り一緒に過ごしていたふたりの親密さは、以前よりさらに深まっていた。お互いの家に行き来するのはもちろん、週末ともなれば恵美の家に泊まることが多くなった。
「ふふ……」
ぴったりと寄り添い、手を握りあってベンチに腰掛けながら恵美が笑みを漏らした。ふわりと髪を揺らして、敦子の方に頭を寄りかからせる。かすかに漂う甘い香りは敦子とまったく同じだった。
「何?」
「その前髪の感じ、すごくきれいにまとまってる。私の思ったとおり」
敦子をほめたのか、自画自賛なのか分からぬ恵美のささやきに敦子は苦笑いした。
「恵美が昨日やってくれたの、朝から再現するのに必死だったんだよ。でも、ちゃんとできてるでしょ?」
「うん。私がやるよかいいかも。敦子センスあるね」
「そんなことはないと思うけど」
照れくさくなって、敦子は笑みを浮かべた。
親交が深まるごとに、恵美の影響とアドバイスを受けて、敦子は2年の時よりも垢抜けて見えるようになった。
以前はそれほど気にしていなかった髪型や眉など細かなポイントを手入れすることで、自分でも驚くほど印象が変わっていくことが嬉しくて、敦子は恵美にますます傾倒を深めていった。
外見の変化は、敦子自身にも大きな変化を与えた。
恵美と会うまでは、身長の割に子供っぽい野暮ったさが抜けきれず、どこか貧相な感じに見える少女だったが、この頃はほんの少しからだつきが丸みを帯び、大人っぽい印象が顔立ちにも芽生え始めてきていた。
そして何より、きつく暗い印象しかなかった瞳に、柔らかくあでやかな雰囲気が備わりつつあった。
「だから、最初に言ったでしょ、敦子はきれいだって」
ある時そう言って、恵美が自慢げに笑ったことがある。
そうはいっても、敦子としては恵美のほうがずっと可愛く美しい少女であるという感覚をぬぐい去ることはできなかったので、どうしても謙遜してしまうのだった。
「……ね、図書室、行かない?」
「ん? ……うん、いいよ」
不意にささやくようにそう言った恵美に、敦子は校舎に設置された時計を確認していた。
昼休みが終わるまで、あと30分ほどあった。
昼休みは貸し出しの受付こそしていないが、閲覧は自由だった。それでも、余り人気のない図書室には、敦子と恵美を除けば10名ほどしか生徒たちの姿はない。
ずらりと書架が立ち並ぶ突き当たり、日光を避けるためにあえてカーテンが閉められている外国書のコーナーに、二人はいた。
薄暗い上に重厚で厳めしい外国語のタイトルばかりが並ぶ書架のあたりは、生徒たちからは余り人気がなく、人通りも少ない。どこかかびくさく、古書の持つ独特の匂いが立ちこめる空間は今日も人っ子一人いなかった。
「ふふっ」
忍び笑いをしながら、目を閉じてキスをせがむ恵美に、敦子は一応人目を忍びながら、書架の陰に隠れるようにしながら、敦子の唇に唇を重ねた。
音がしないように細心の注意を払いながら、舌と舌を絡め、吸い合う。
「んんっ、もぉ……。我慢できないんだから」
「だって……キスしたかったんだもの」
小声でささやく敦子に悪びれない口調で、恵美は舌を出した。
図書室も、ふたりにとっては数少ない、校内で睦み合える場所の一つだった。昼休みだけでなく、放課後になっても状況は余り変わらない。
ぴったりと寄り添ったまま、白々しく本を探すふりをしながら、恵美は敦子の手を自分の腰に導いた。
「あんまり……時間ないよ、恵美」
「いいよ。でも、敦子に見て欲しいんだもん」
甘えた口調で、ささやくように言う恵美に、敦子はおそるおそる恵美の誘導に従い、スカートの中に手を忍び込ませた。もちろん、視線は書架をさまよって、いかにも本を探していますよ、というふりをする。
「……? なあに?」
なるべくスカートをめくらないようにするには、敦子はしゃがみ込むしかない。下の段に立ち並ぶ背表紙に視線をやりながら、敦子はそっとスカートの中の恵美の腰に手を触れた。
恵美の肌の、柔らかな感触と、ほんのりと暖かいスカートの中の空気に、すこしだけ敦子の体温が上昇する。
「……めくってみて、いいってば。どうせ誰も来ないよ……」
かすかな声で、大胆なことをささやく恵美に、敦子は少し目を剥きながら、軽く深呼吸して立ち上がる。
「……知らないよ」
周囲を確認してから、なるべく自分の身体を盾にするようにして、敦子は恵美のスカートをゆっくりとめくっていった。白い恵美の太ももが徐々にあらわになり、そして、隠れていたお尻がむき出しになった。
「……!」
視界に飛び込んだ光景に、敦子は息を呑んで絶句した。
「へへ……。どぉ?」
照れているようにも自慢げにも見える微笑みを浮かべて、恵美は敦子を見た。
白い、レースが多めにあしらわれたショーツ。だが、可憐な外見の少女には似つかわしくなく、大胆すぎるその形状に敦子は慌ててスカートから手を離していた。
「やん、もっと見てよ……」
不満げな恵美に敦子はどぎまぎとして応じる。
「だって……」
恵美が身につけていたのは、Tバックの下着だった。大胆なカットでむき出しになった肌の色と真っ白なショーツのコントラストはさすがに衝撃的すぎた。
「良いでしょ、ネットの通販で買ったんだよ。敦子に見て欲しくて、うずうずしてたんだ……」
無邪気にそう言う恵美に敦子は唖然とした。
「ばか、他の子に見られたらどうするの……」
「だから、体育の授業がない今日着てきたの。それくらい私だってわかってるって」
甘えた視線でそう言う恵美に敦子の淫らな感情が徐々に刺激されつつあった。
「知らないから……」
口ではそう言いつつも、敦子は再び恵美のスカートをめくっていった。
再び、むき出しにされて恵美の腰が少しだけ揺れる。軽く赤面し、紅潮した肌の色を見て敦子はくすりと笑った。嗜虐心を刺激されて、敦子にくすぶりつつあった淫らな感情に火がつくのが自分でも分かる。
めくり上げたまま、敦子は大胆に指先を伸ばし、恵美のお尻をなで始めた。Tバックのせいで、むき出しにされたラインを、なぞるように、くすぐるように微かに撫でていく。
「……っ」
軽く腰を震わせて、恵美が目を閉じた。敦子の手の動きに合わせて、切なそうに眉をひそめ、口元に手を当てて声が漏れないようにする。
敦子も、より身体を恵美に密着させて、小柄な恵美の身体を隠すように寄り添わせる。声を殺しながらも、荒くなる息づかいを堪えきれない恵美の反応にほくそ笑んだ。
敦子は、スカートをめくっていた手を恵美の上着に伸ばすと、ボタンを一つだけ外し、できた隙間に滑り込ませた。そのまま、ブラウスの上から恵美の片方の膨らみを指先で掻くように撫でていく。
同時に、下半身を責めていた指先は、TバックのTの字を書く布地部分に攻撃の対象を移していた。布地の上から、お尻の割れ目をなぞっていく。
「……っ」
ピクン、ピクン、と恵美の身体が小刻みに震えていく。
どちらも、一番敏感に感じる部分はけして責めない。届きそうで、届かないあたりを、あえて敦子は責め続けた。
切なさをたたえた恵美の視線が、敦子に何かを求めるように動いても、敦子は素知らぬ顔でそれを続ける。
「……くぅ……ん」
押し殺すようなうめきとともに、恵美の膝が震えて、敦子にもたれかかるようになった。
下半身の、その部分をまとう空気が熱気と湿り気を帯びてくるのが分かったところで、敦子は遠くに見える図書室の時計を見た。
授業が始まるまで、あと5分ほど。
「……教室に、帰ろ。授業始まっちゃう」
言いながら、すっと恵美の身体から離れる。
「……ッ、えっ、でも……」
微かに潤んだ瞳で、恵美が口を尖らせるのが分かった。
「もう、時間無いもの。帰ろ」
冷たい口調でそう言うと、敦子は何事もなかったように教室へ向かう。恵美は慌てて身支度をすると、敦子の後を追った。
その日、授業が終わるまで、敦子は恵美の身体に指一本触れることはなかった。5限目こそ自分たちの教室での授業だったが、6限目は音楽で教室移動であり、空き時間などないに等しかったからだ。
授業中、どこか落ち着かない様子の恵美を、敦子は基本的に無視し続けた。なぜなら、そうしなければ敦子自身にもくすぶる淫情のときめきと疼きを、堪えることができなかったからだ。
放課後になり、帰り支度を終えた敦子は、どこか不機嫌そうに見える恵美の表情に軽く笑みを誘われた。軽く頬を紅潮させた、どこに出しても恥ずかしくない美少女は、淫情に疼く身体をもてあまし、解放されたくてどうしようもなくなっているに違いなかった。
「……帰ろッか? 恵美」
あえて明るく声をかけると、恵美は少し表情を弛緩させて、無言で頷いた。そのまま近寄り、敦子の手を取る。
「……帰ろ、敦子ぉ……」
やや弱々しい口調でそう言う恵美に、敦子はもう一度微笑みを浮かべた。
「うん……」
しばらく何も言わぬまま、二人は校門をくぐった。二人と同様に、家路を目指す他の生徒たちの喧噪に包みこまれて、恵美はようやく口を開いた。
「ずるいよぉ、敦子……」
「何が?」
わざとらしくそう言う敦子に、恵美の表情が曇る。
「わかってる、くせに……」
そうやって、口を尖らせても恵美の美しさは変わりない。むしろ、余計に愛らしく可憐に見える恵美に敦子は自分の中の何かが激しく淫情をかき立てられるのを感じた。
自然と、恵美の手を握る力が強くなる。敦子も、もうこれ以上我慢できなくなっていた。