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「……ほら……見える? 見えるよね? 優子のエッチな顔……」
 背後から聞こえる敦子の言葉と、洗面所の鏡に映る自分自身の、官能にとろけた表情に煽られて、優子は切なげに吐息を漏らしていた。
「んんっ、やだ、そんなこと……」
「何がいやなの?」
 冷酷な口調と、鏡の中の冷徹かつ淫蕩な視線が優子の身体を犯していく。背後から回り込んだ敦子の手のひらが、なまめかしく動いて、つんと尖った優子の膨らみの先端を弄んでいた。
「ああっ、あんんっ……、あふぅ……」
 淫情のうめきを漏らしながら、優子の腰がうごめいて敦子の腰に押しつけられる。ぬめり気をかき混ぜる異音がその度に微かにこぼれて、二人の耳を打つ。
 禍々しく、おぞましい男性器をかたどったV字型のディルドーによって、二人の身体は一つになっていた。かつて敦子が恵美とともにお互いの証を捧げあった際、使った器具と同じ物。
 それはこの店に集まった女たちが、愛し合うために持ち寄り、置いていった物のうちの一つだった。
 衛生的な面も含めて、利用するものが厳重に清掃、管理する。自然とできあがった暗黙のルールによって、それらは自由に使うことができる。ルールが守れない者はこの部屋どころか店にすら立ち入りを禁じられる。
「あっあっ、ダメ、イッちゃう……、ああっ……」
 優子の声が切れ切れになり、腰が細かく幾度も痙攣する。ディルドー越しに伝わる振動と、押し出すようなうごめきがそのまま敦子の中にも伝わってくる。
「んんっ、ダメ、だよ……」
 じんじんと生じる鈍い快感を堪えながら、敦子は軽く腰を引いて揺するような動きを止めてみせた。
 頂点に達しかけていた快楽をせき止められ、疼きと焦燥に襲われた優子は、背後から自分を犯し弄ぶ敦子に懇願の悲鳴をあげた。
「くん……ッ、ああっ、おねが……いっ、止めないで、イかせて、イかせてよぉ……」
 被虐に高ぶった優子の腰が、さらにうごめいて快楽の持続を敦子に要求する。
「かわいいっ、好きだよ、そんな言い方……。じゃあ、イかせてあげるね……」
 耳元でささやき、首筋に舌を絡めて上気した白い肌の感触を楽しんでから、敦子は汗ばんだ優子の背中にキスの雨を降らせた。そして、元通り腰を突き上げてお互いのディルドーを奥深くねじ込んでいく。
「んんぁ……」
「あ、あ、あああっ」
 ぐぅーっ、とした圧迫感が、じんわりと二人の淫裂の奥底を刺激する。
 鈍く走る痛みが背筋を駆け上がり、 内臓の奥底をえぐる感触の快感に二人の女たちはほぼ同時に身体を震わせて、そして官能の頂点に達していた。
「はんぅぅ、くぅぅんっ」
「んくぅぅ……っ」
 びんと背筋が伸び、浮遊感に包まれる不安感は優子を洗面台に、敦子は優子の身体に、とそれぞれをしがみつかせる。
 朦朧とする視界の中、快楽の波に呑まれて歪む自分自身の顔が、視界に映って、そして真っ白になった。

 めぐみと、付き合い始めて5年近くが立とうとしていた。
 途中敦子が警察学校に行くなどして、会えない期間もそれなりにあったが、それでも二人の仲は順調といって良かった。確かに寂しがりやではあるが、恵美より我慢強く聞き分けのいいめぐみは、そういった意味では遙かに大人だった。
 もっとも、当のめぐみが結局親の反対を押し切って美術系の学校へ進学したこともめぐみの寂しさを紛らわす一因になった。普通の勉強以上に、手間ひまのかかる課題に追われて、そんな泣き言を言っている場合ではなかったのだ。
 当時のふたりにとって唯一の不安要素は、敦子の正式な配属先がどこになるかであったが、運良く地元警察への配属が決まって二人は拍手喝采したものだ。
『よかったぁ……。敦子さんがどこにも行かなくて済んで』
 決定するまでとはうってかわって満面の笑顔でそう言うめぐみに、敦子もゆるむ顔を隠しきれなかったものだ。
 その後、不規則なことが殆どな生活安全課勤務のおかげで、思っていた以上に会えない日々が続いたものだが、それがよかったのだろうか。二人で過ごせるときはかえって盛り上がることが多かった。
 この日も、夜勤明けで敦子が家に帰り着いたのとほぼ同じタイミングで、めぐみが押しかけてきた。
 美大に進学していためぐみは、課題の締め切りとかで敦子同様に徹夜した帰りだった。
『あっちゃ~ん、眠いよぉ……』
 甘えた口調でしなだれかかるめぐみをなだめながらともにシャワーを浴び、泥のように眠る。
 ふたりが目覚めたのは昼過ぎだった。先に目覚めた敦子は、無防備な寝顔を晒すめぐみを背後から抱きしめた。
『んん……っ』
 寝言のような吐息を漏らすめぐみの可愛さに、敦子の中にむくむくといたずら心が湧き起こる。
『もぉ……昼だよ? 起きないの? めぐみ?』
 ささやきながら、耳元に息を吹き込む。くすぐったそうに身をよじるものの、目覚めようとしないめぐみにくすりと微笑むと、敦子は下着姿で眠るめぐみのふくよかな胸に手を滑らせた。レースが多めにあしらわれたサックスブルーのフェミニンなブラ越しに、包み込んだ手のひらで撫でるように揉み上げる。
『んっ、……ぅ』
 めぐみは微かに眉根にしわを寄せて、小さなうめきを漏らした。
 膨らみの先端を指でなぞり、押し込むように指先で転がす。刺激に反応して、固く尖り始めたそれを敦子は指でつまんでこね回した。
『やっ……だぁ……』
 吐息を漏らしてめぐみの意識がおぼろげに覚醒していく気配があった。
『いじわる……しないで』
 どこかおかしそうにそう言って、めぐみが身をくねらせる。左手はそのままに、右手を滑らせて下半身も責め始める。
 触れたそこはショーツのクロッチのあたりを中心に熱気を帯びつつあった。レースを振動させるようにひっかいてから、バックレースのボーイショーツに包まれたヒップのラインを緩やかになぞり、くすぐる。
『ぁ……んっ』
 うめいてめぐみは腰をくねらせた。吐息が荒く、そしてなまめかしさを増していく。
『気持ちいい?』
『うーっ。分かってる、くせにぃ……』
 ささやく敦子に軽く頬を紅潮させて、めぐみは顔を押しつけるようにして、甘えた。
 目覚めのシャワーを浴びることにして、敦子は半分寝ているめぐみを促して洗面所に向かった。
 バスタオルと着替えを用意しつつ、自然と視線は眠気に目をこするめぐみの肢体に向いていた。ハタチになり、大人びた体型になっためぐみはひいき目抜きにとても美しい。サックスブルーの下着が白い肌を際立たせている。
 敦子はさっきのいたずらの続きをする誘惑に抗えなくなっていた。洗面所の鏡を見ながらまんじりとしない顔をしているめぐみの背後から、何も言わずに襲いかかる。
『っひゃん……』
 不意をつかれて変な声を出しためぐみに構わず、敦子はめぐみのブラのホックを外すと、脇から滑り込ませた手のひらでブラをあっさりとめくり上げ、つんとした美麗なめぐみのふくらみを包み込んだ。
『ちょ……やだ、あっちゃ……んんぁっ』
 先ほどの刺激でくすぶっていたらしいめぐみの淫情を燃え上がらせるように、なめらかに動く敦子の指先と手のひらがうごめいて、鏡の中のめぐみのふくらみを弄ぶのが見えた。
『もぉこんなになってるね、ほら。見て、めぐみ……』
 ささやきながら、身をくねらせるめぐみの耳に息を吹き込む。羞恥の感情を煽る敦子の責めにめぐみは目を閉じ切なそうに眉を顰めた。意表をつかれ、無防備な心と身体の反応をめぐみは隠しきれずにいた。
 身をくねらせ、吐息を荒げためぐみは耳まで真っ赤に顔を赤くして、とろんとした視線で目の前に映る自らの淫らな表情から目を離せずにいた。
『ほらぁ……すごく、エッチな顔、してる……』
 淫情に溺れためぐみの耳たぶを責めながら、敦子も鏡に映る自分たちを見た。
 耳とふくらみを責め立てられ、眉を顰め、半開きになった唇から短く官能のうめきを漏らすめぐみと、淫蕩な眼差しを露骨に注ぎながらめぐみを責め立てる自分自身の姿。
『あっ……ッ、やっ、だっ、はずかし……いぃ』
 めぐみが小さく叫び、びんと背筋を伸ばして敦子に寄りかかる。
 もう一度鏡を見た。そして、敦子は一人愕然とした。
 美しく成長した恵美、いや、めぐみの姿。そして……。
 淫蕩な眼差しで、長い黒髪の少女を責める一人の女。身長170弱、すらりと伸びた長い手足と、ほっそりとした面差し、そして切れ長の瞳を持つ20代半ばの女がそこにいた。
 控えめに見ても、美貌は他の女性に引けを取らない。だが、未だ少女の持つみずみずしさを残しためぐみと比べてしまえば、若さの持つ溢れんばかりの美しさは比べるべくもなかった。
”なんで……このことに気付かなかったのか!”
 天啓のごとくひらめいた言葉が走って、敦子の頭が痺れたようになった。ぴたりと敦子の動きが止まり、力が抜ける。
 訳の分からぬ心の震えに、敦子は呆然となった。
『……? あっちゃん……?』
 急に動きを止めた敦子にめぐみは不審そうな顔をした。
『どうしたの……? 顔色、悪いよ……?』
 のぞき込むめぐみは心配そうな表情になっていた。
『だ、大丈夫……だよ……』
 言いながらちらりと鏡を見た。血の気が引き真っ青になった自分の顔が、引きつって弱々しい微笑みを浮かべている。
『だって……すごく顔色悪いよ……。寝不足、なんじゃない? 最近ずっと張り込みとかで忙しかったじゃない』
『大丈夫だってば!』
 自分でも理解できない感情の澱みが、敦子に声を荒げさせた。絶句しためぐみが口元を手で覆い、わずかに後ずさるのが分かった。
『……ごめん、なさい……』
 微かに涙を浮かべためぐみのささやきに、敦子ははっとした。
『……ごめん、大きな声出して。確かに、寝不足、なのかな』
 取り繕ったものの、怯えたようなめぐみの表情と、心中に生まれたもやもやとした感覚に敦子は声を震わせ、涙が溢れそうになるのを堪えることができずにいた。
 自分の中に生まれた、理解不能な感情。今まで積み上げてきたものが、崩れていくような不安感に敦子は押しつぶされそうになっていた。
『ごめん……。今日は、もう、帰ってくれる?』
 視線を合わせずに敦子はぽつりとつぶやいた。
 この時微かに生まれた疑念に、敦子はめぐみを見ることができなくなっていたのだった。

(Bパートへ続く)

最終更新:2006年07月19日 00:18