アットウィキロゴ

 アメリカ、バージニア州ラングレー。首都ワシントンD.C.をポトマック川西岸から望む位置に、その巨大組織の本拠地は存在した。
 アメリカ中央情報局。
 CIAという略称で世界にその名を知られるその組織は、あるものにはまるで正義の象徴のように、あるものには禍々しい陰謀の全てがそこから発せられるのだと思われている。
 海外作戦部の極秘セクション、第13特殊作戦部にその日入った一本の電話は、受話器を取った男に失望のため息をつかせることになった。
「失敗した、だと? ――それは確かなのか? ヤスダはどうしたのだ? 死んだだと!?」
 つい荒げてしまった声に電話の向こうが恐縮の声を漏らす。詳細な状況を聞き、男は諦めたように力なく受話器を置いた。
 ターゲットは重傷だが生存、”ドール”は暴走した可能性が高く行方不明。そして作戦の責任者は自爆した。公安警察のコネをフル活用してマスコミの報道は押さえ込んだために、CIAの関与が表沙汰になるような事態は避けられそうだったが、死傷者の多さと事件の性格上、日本国内は騒然となっているようだった。
「……バカな、なんてことだ……。長官にどう伝えればいいのだ」
 電話の相手は、CIA東京支局長だった。まず失敗するはずのない作戦が未遂に終わったことが、この巨大官僚組織で生き残っていく上で大きな躓きとなるのではないか。漠然とした不安に苛まれ、ジェフリー・ペンドルトン第13特殊作戦部長は一人苦虫をかみつぶした表情になった。
 平和ボケした日本のマスコミが、周大栄が襲撃されたことの裏を読み取るとは思えなかったが、他国の諜報機関員は裏にCIAが関与していることはもちろんとして、安田ほど凄腕の工作員が失敗したことに関心を抱くに違いなかった。
”……あの、ヤスダが。ドールをコントロールできなかったのか”
 安田はかつて公安警察に所属していたが、公安内部の勢力争いに巻き込まれたあげく不祥事をでっち上げられて、公安を首になった。当時東京支局長だったジェフリーは任務上交流のあった安田の不遇と、その能力を惜しんで特殊工作員としてスカウトしたのだ。
 汚名を着せられ職も家族も失った安田は見るも無惨な状態にあった。だが、ジェフリーに拾われてからはみるみるうちに往時の輝きを取り戻し、凄腕の特殊工作員として東京支局長時代のジェフリーを支えてくれるまでになったのだった。
 その後、本国に帰還したジェフリーは”ドール・プロジェクト”の責任者に任命された。
 ”ドール・プロジェクト”はそもそも、洗脳による特殊工作員の養成と実行の計画だった。しかし、成人を洗脳し特殊工作員に仕立て上げるにはかなりの時間と費用、そしてリスクが存在した。
 人間に心、というものが存在する限り、裏切りや寝返り、精神崩壊といった不確定要素をゼロにすることは不可能に近い。試行錯誤の上そういう結論に達したプロジェクトは、ゼロからそういう人間を養成する方向にシフトされた。人工授精やクローン技術、そういった最先端科学の要素も付け加えられ、生まれたのがコードネーム”オーガスト・ムーン”だった。
 だが、カーター政権下でのCIA縮小論や、その後レーガン政権下で息を吹き返した物の、ソ連崩壊による東西冷戦の終結は、プロトタイプがようやく完成したプロジェクトにとって、大きなブレーキとなった。
 計画の中止こそ免れたものの、予算規模の縮小をなんとか食い止めるため、激戦区の一つであるアジアの拠点、日本へ完成したばかりの”オーガスト・ムーン”を投入した。
 ジェフリーが本国へ帰還した後も、日本における特殊工作の要となっていた安田は、”オーガスト・ムーン”を巧みに運用、地道ではあったが本国を納得させるだけの成果をあげ続けていたのだ。そう、今日までは。
 約50年前に発動した計画を、30年前に引き継ぎ、発展させてきたジェフリーにとって、計画にかすかな綻びが見えはじめたことは耐え難いものに感じられた。
 そのとき、特徴的なノックの音がした。声をかけてジェフリーは室外の人物を招き入れた。
「伯父さん。……トーキョーが失敗したそうですね」
 入ってきた人物は開口一番、そう言った。比較的地味で、ぱっとしない印象が強いCIAマンの中で、その男は貴族的とすらいえる容姿が印象的な男だった。
「……アーニー。伯父さんはよさんか」
 ジェフリーの言葉にもひるむことなく、アーノルド・ウィンストンは癖のある前髪を指先で跳ね上げた。
「”オーガスト・ムーン”が暴走したらしい、と聞きましたが」
 口元をかすかに歪めて笑うような表情をする甥にジェフリーはむっつりとした。
「耳が速いな。……その通りだ」
「いえいえ。ちょっとそこで小耳に挟んだもので。で、どうされるおつもりですか」
 昂然とあごを逸らし、アーノルドは今度こそ微笑みを浮かべた。
「どうもこうもない。暴走した人形は……」
「どうしようもありますまい。所詮はプロトタイプだったってことです。”オーガスト・ムーン”は」
「では、どうするのだ?」
 あざけるような甥の物言いにジェフリーはむしろ挑戦的に笑みを浮かべた。
「……部長から引き継いだドール・プロジェクトは僕の手でパーフェクトに完成しました。その成果をお見せしますよ。そうそう時間は取りません。ついでに、失敗した作戦の後始末も僕自らつけて見せます」
 甥の言葉にジェフリーは眉を跳ね上げた。
「トーキョーに行くというのか?」
「許可をいただけませんか。こればかりは、僕の独断で動くわけには参りませんので」
 ブリーフケースから一枚の書類を取り出すとアーノルドはジェフリーに差し出した。
「サインをお願いします、部長。僕が創り上げた美しいドールたちが、CIAの新しい時代を切り開く幕開けを、ラングレーで楽しみにお待ちください」
 芝居がかったアーノルドの物言いに耐えて、ジェフリーは差し出された書類を一読してサインした。
「……そう都合良く事が進むものかな」
 結局ジェフリーは嫌味を言う誘惑に勝てなかった。
 だが、アーノルドはそんな伯父の一言など意にも介さず、書類を元通りブリーフケースにしまい込むと前髪を指先で跳ね上げた。
「伯父さん、いや、部長がこのプロジェクトに関わっていた頃とはまったく違う存在になっているのですよ。我々が作り上げた”ドール”は。ご心配は、無用です」
 アーノルドは傲慢な口調とは裏腹に表情を隠すと、一礼して踵を返した。怒りを隠し切れぬ表情の伯父に満足げな笑みを浮かべ、退室する。
 一人、室内に取り残された形のジェフリーは、怒りをぶつけることも出来ぬまま、椅子に深々ともたれかかると宙を仰いで嘆息した。
”――何故、失敗したのだ、ヤスダよ”
 すでにこの世におらぬ旧友は、ジェフリーに何も応えてはくれなかった。

 

 その部屋を、アーノルドは”ラボ”と呼んでいた。
「朗報だぞ、ベイビー。トーキョーでパーティーが決まった」
 ドアを開け、室内に入るなりアーノルドはうきうきと言った。後ろ手にドアを閉め、鍵をかける。”ラボ”という呼び名とも、CIA庁舎内の他の部屋ともかけ離れたクラシカルで豪奢な内装の部屋には、ふたりのハイティーンの少女がいた。
 ひとりはショートヘアのプラチナブロンドで、むっちりとして見える白い肌の肢体をシンプルな白のタンクトップにカーキのワークパンツで包んでいた。もうひとりは浅黒い褐色の肌にブルネットの髪を長く伸ばした長身の少女だった。焦げ茶のボレロのカーディガンに胸元が同色のレースで彩られたベロアの黒いワンピース、黒いオーバーニーソックスといったいでたちで、ブロンドの少女と比べるとクールな表情と顔立ちが少し大人っぽく見える。純粋な白人に見えるブロンド少女よりは、顔立ちと肌の色が複雑な血を感じさせた。
「本当なの? ダディ!」
 歓声を上げたのはプラチナブロンドの少女だった。アーノルドに抱きつくと、同年代の少女よりも幼い顔立ちの割に、肉感的な胸を押しつけるようにしながらアーノルドの頬にキスの雨を降らせる。
「本当だとも、クリス。ようやく、お前たちの出番がきたんだ」
 ささやきながら、クリスと呼んだ少女を脇に抱えるようにすると、アーノルドはタンクトップからあふれんばかりに盛り上がったクリスの胸を揉みしだいた。ブラを着けておらず早くも固くしこり尖りはじめた先端が指先でつまみ上げられ、弾くように押し込まれる。同時に透き通るような白い肌をした首筋に唇を這わせる。
「んんっ、ダッド……んんぅ」
 ビクン、と肩を震わせ、クリスは力を失ってアーノルドに寄りかかった。息づかいが荒くなり、白い肌が淡いピンクに染まっていく。
「どうして、トーキョーに? 何があったの、ダディ?」
 長身の少女は顔立ち同様クールな口調でそう言うと、かけていたソファから立ち上がって、快楽に身をよじらせるクリスをねっとりと責め続けるアーノルドの前にひざまづいた。
 まるで当然の儀式だとでもいうように、ジェスはアーノルドのスラックスを降ろし、むき出しになったボクサーパンツの上から、はっきりと分かるほどに隆起したアーノルドの分身をしなやかな指先でなぞり、くすぐる。
「トーキョーにいる、出来損ないの”ドール”を始末しに行くんだ、ジェス。ついでに、失敗した……ミッションの後始末もな」
 ジェスと呼ばれた褐色の肌の少女は、アーノルドの言葉に瞳をきらめかせた。
「”オーガスト・ムーン”を?」
 クールに見えたジェスの表情に、ほんのわずかだが熱情のきらめきめいた何かが走るのが分かった。それはどこか昏い輝きに見えたが、一瞬にしてクールな表情にかき消された。
 すぐに、ボクサーパンツも引き下ろされ、むき出しになったアーノルドの分身にぷるりとした唇から伸びた舌先が絡み付けられる。かすかに先走りのきらめきがにじむ先端をねぶり取ると、裏筋を上下になぞった後、ジェスは口を大きく開いてアーノルドの分身を一気に飲み込んだ。
「おぉっ……。いいよ、そう……相変わらずジェスは、ブロウ・ジョブが、上手、だね」
 下半身に生じた快感にうめきつつ、アーノルドは淫楽にまみれた笑顔を浮かべながらクリスのタンクトップをまくり上げた。まろび出たクリスの双丘を両の手のひらで包み込み、持ち上げるようにこねくり回す。中指と人差し指の間に挟み込まれた双丘の固く尖った先端が、アーノルドの手のひらの動きに同調してクリスの官能を刺激する。
「くっぁぁ、んぅっ!」
 びんと背筋を伸ばしてクリスは苦しげに眉をひそめ息を吐き出した。アーノルドに耳を責められ、逃れるように顔を背ける。
「やんっ……ダッド、もぉ……我慢、出来ないっ、ちょうだいっ」
 腰をくねくねとうごめかせ、淫色に染まった表情でクリスは懇願の言葉を口にしていた。
「だめ……じゃないか、クリス、もうそんなに、なってるんだね……」
 ジェスの激しすぎるフェラチオに分身を嬲られながら、アーノルドはクリスの双丘を責めていた手のひらを徐々に下半身に滑らせていった。ワークパンツのジッパーを下ろし、腰骨のラインをなぞりながら指先をワークパンツに引っかけて引き下ろす。
 むき出しになったクリスのネイビーブルーのTバックショーツをお尻の側から引きずり下ろすと、分身を責めるジェスを制止して、ジェスの唾液にまみれ鈍く光る自身の分身をクリスの下半身にあてがった。
 ジェスは立ち上がると、クリスの身体を支えるように抱きかかえて、淫蕩に染まりきった表情をしたクリスの唇に自らのそれを重ね、強く吸い上げる。ジェスにもたれかかり首筋に腕を巻き付けて、腰をぐっと突き出したクリスの淫裂にアーノルドの膨れあがった分身がねじ込まれた。
「んんっ」
「んぅぅっ! んんっ、んーっ!」
 懇願したとおりに雄の器官を受け入れて、ビクビクンっ、とクリスの身体が幾度も鋭く震えた。だが、ジェスに唇をふさがれて甘い官能の鳴声を漏らすことも叶わず、うめき声にも似た吐息を漏らすことしか出来ない。
 ゆっくりと奥底まで到達したアーノルドの分身を、クリスの淫裂が吐き出さんばかりに締め付ける。その圧力をものともせず、アーノルドは抽迭を開始した。
 溢れかえった淫液がかき混ぜられ泡立つ音と伴って、アーノルドの肌とクリスの肌がぶつかり合うリズミカルな響きが室内にこだまする。
「ん、はぁっ……んぁっ、あ、ああ、ああ、ああぁんっ!」
 ふさがれていた唇が解放され、クリスの官能の叫声が部屋にあふれた。ジェスはクリスの上半身を支えたまま、その手のひらでたわわに実るクリスのボリューム感溢れる双丘を包み込んでこね回した。身をくねらせるクリスの首筋に唇を這わせると、チロチロと舌先を覗かせながら、時折強めに吸い付いてキスの吸着音を立てていった。
「はぁんっ、あんぅ! あっあっあっ、来る、来るっ! ああああっ!」
 二人がかりで責めあげられ、クリスはあっという間に官能の頂点に到達させられた。叫びながら全身を震わせ、数回登り詰めると糸の切れたあやつり人形のように脱力して、ぐったりと床にへたり込む。
 そんなクリスを見下ろしながら、ジェスはカーディガンを脱ぐとワンピースのジッパーを下ろした。するりと床にワンピースがすべり落ち、レースの印象が強いデザインの白いブラとショーツ姿になった。下着姿になると、黒いオーバーニーソックスがスリムかつ美麗な足のラインを引き立てる。クリスに比べれば長身と相まってスリムな印象が強いが、それでも並はずれたプロポーションは同性からも羨望のまなざしで見られるに違いなかった。
「ダッド……。私も、ダッドが、欲しい」
 頬を軽く紅潮させて、長い髪を両手で梳いてなびかせながら、厳かな口調でそう言うとジェスはアーノルドの胸に飛び込んだ。腕を首筋に巻き付けながら、アーノルドの唇に自ら進んで唇を重ね合わせる。アーノルドの手のひらと唇が、ジェスの身体をなめらかに這い回る。的確な愛撫に身をくねらせ官能の吐息を漏らすジェスの身体は、あっという間に全裸にされていた。
「どっちに欲しい?」
 アーノルドの問いにジェスは、のろのろとアーノルドから離れると、背を向けて床に四つんばいになった。汗ばみ鈍く光る褐色の肌がなまめかしい。腰を突き上げるように捧げて、ジェスはすでに淫裂と化した自らの亀裂と、排泄の為に用意されたダークピンクの窄まりを自らの指先で拡げて見せつけた。
「どっちにも……ダッドの……欲しいです、お願い……しますっ」
 視線を背け羞恥の表情に染まったジェスのささやきにアーノルドは満足げに笑みを浮かべた。
「ジェス……イケナイ子だね、君は」
 ひとりごちてひざまずき、未だ欲望がみなぎる分身をまずはジェスの淫液に潤んだ淫裂にそっとあてがった。アーノルドはジェスの腰を抱くと、そのまま一気に分身を埋没させていく。
「んっ、ぁっ」
 どこかむっちりとした印象のアーノルドの分身が、粘着性のある音とともに根元近くまで納められた。そしてその音は開始された抽迭とともに、肌と肌がぶつかり合う音と重なり合い、共鳴してリズミカルなものに変わっていく。
「あっ、ああっ、あっ、あっ、あんぅっ!」
 長い髪を振り乱し、クールな表情をかなぐり捨てたジェスの嬌声がリズミカルに、アーノルドの力強く正確な抽迭とともに響き渡る。ビクン、ビクンと褐色の肌を震わせ官能にまみれた吐息が抽迭と重なり溶け合った。
「あんっ、あんっ、あ、あ、あ、あーっ!」
 アーノルドの分身を締め上げ、うごめくジェスの淫肉が熱く燃えたように変化する。溢れる淫液が摩擦感を消しはじめた頃、細かく顫動すると同時に、ジェスは四つんばいの姿勢を保てなくなり、切なげに眉をひそめ頬を紅潮させた顔を床に押しつけるようにして、頂点に達していた。
 意識があるのかないのか、腰を突き出しぐったりとして泡だった淫液の白く鈍い輝きを露わにしたままのジェスの身体を、アーノルドは床にごろんと転がして仰向けにした。だらしなく投げ出された両脚を膝裏で抱え上げ大きく開かせて、淫裂はもちろんのこと、ダークピンクのひくつく窄まりをもむき出しに晒す。
「我慢できなかったのかい? だめじゃないか……おしおきだよ、ジェス」
 片手で構えるように分身を握りしめ、アーノルドはジェスの窄まりにその先端をあてがった。ぐっと身体ごと腰を押しつけ、分身をジェスの排泄の為の器官に埋め込んでいった。
「んぅぅっ、あっ、ん、ぐぅぅっ!」
 ジェスの背筋が弓なりになった。髪を振り乱し顔をのけぞらせて苦しげにうめく姿とは裏腹に、ジェスの窄まりは易々とアーノルドの分身を飲み込んでいた。
「ほら……根元まで、入ったよ、ジェス」
 荒々しい息づかいとともにささやくアーノルドは、ゆらゆらとうごめくジェスの片足を抱えて肩に乗せた。そして、身体全体を揺するようにジェスの窄まりを犯し始めた。
 本来収められるべき生殖器官を犯しているときほどに、派手な淫音はしない。だが徐々に、落ち着いた抽迭に合わせるように、粘りけのある液体をかき混ぜる淫らな粘着音が、ふたりがつながっている場所から伝わってくる。クリスほどではないにせよ、充分なボリュームをした褐色のジェスの双丘の固く尖った先端が鈍いピンクのきらめきを伴って揺れる。
「あぅっ、あっ、あんぅ、あんっ、ああぅっ、あんぅ、あ、あ、ああんっ!」
 のけぞりあごをそらすジェスの唇から、甘く陶酔したような淫楽の嬌声が漏れ、オクターブがじわじわと上昇していく。
 ジェスの反応にアーノルドはほくそ笑むと汗ばんだ額に張り付く前髪もそのままに、空いた手のひらを片足が快感にくねり踊るたびに見え隠れするジェスの淫裂にすべり込ませた。褐色の肌を彩る濃いブルネットのアンダーヘアの下部に走る、引き裂くようなサーモンピンクの亀裂は淫液のぬめりに輝いてしっとりと色づき、驚くほど淫らに見えた。
 すべり込んだアーノルドの手のひらは、中指と人差し指を淫裂に埋め込みながら、親指の腹で白く鈍く輝く固く尖りきったジェスの淫芯を転がした。
「ああんっっ! やぁっ、あ、あ、あんぅ!」
 突如わき起こった刺激に、ジェスの声のオクターブが鋭さを増す。もがくようにも見える無意味な腕の動き、腰を中心にビク、ビクビクン! と全身が熾りのように痙攣する。
「やっ……ダッド、ああっ、来る、来るよぉ! 私、もぉ……あああっ!」
 無意味な言葉をうわごとのように叫んで、ジェスは絶頂に達しかけた。アーノルドの分身をくわえ込んだ内臓が、異物を排出するかのようにうごめいて締め付ける。
「いいぞ……ジェ……ス、おおぉ! ああぅ!」
 一瞬、アーノルドの腰の動きがぴたりと停止した。切なげに目を閉じ何かに耐えるかのように唇をかみしめる。
「おおうっ」
 大きく息を吐き出したアーノルドは、腰を引いて埋め込んでいた分身を素早く引き抜いた。
「っ、あっ……」
 ため息めいた吐息を吐き出したジェスの褐色の肌に、アーノルドの分身から吐き出された白い精が勢いよく、間歇的に浴びせられた。褐色の肌と対照的なコントラストの白い粘液にまみれ、ジェスはそっと目を閉じ、もう一度吐息を漏らした。
「はぁぅぅ……」
 ややあって、ゆらりと立ち上がったアーノルドは、息も絶え絶えで床に転がる二人の少女を見下ろして満足げに笑みを漏らした。最初のうち忍び笑いをしていたが、徐々にそれは大きくなり、やがてヒステリックにも聞こえる哄笑へと変わっていった。


 数日後。東京――渋谷。夕刻を迎え、街は人々の喧騒で溢れかえっていた。晩秋の肌寒さも数日前の凄惨な襲撃事件も関係ないとばかりに、この街はいつものように夕闇の赤い光に包み込まれていた。
 雑踏の中をひとりの少女がセンター街を西に向かっていた。年齢は16、7才くらいだろうか。長身のすらりとした身体つきと、颯爽とした歩き方が異性同性を問わずすれ違う人々の目を引くことおびただしい。落ち着いたベージュのカシュクール風ブラウスに黒のマイクロミニ、素足にブーツといったいでたちで大きめのトートバッグを肩からかけている。かすかになびく長い黒髪と、どこかりりしさすら感じるくっきりとしたノーブルな顔立ちを、スリムデザインの茶色フレームのメガネが知性溢れるきらめきとなって、少女を彩っていた。
 突き当たった左側にあるハンバーガーショップの前で、少女は待ち合わせていた相手と落ち合った。
「遅くなってごめんなさい。待った?」
 少女が笑顔でそう問いかけると、30代後半らしいスーツ姿の男は目を丸くした。何が入っているのかと問いたくなるほど膨れあがったビジネスバッグを肩からかけている。
「君が、”なーちゃん”なの?」
 男はメッセンジャーソフトで会話したときのハンドルネームを驚きの表情でつぶやいた。眼前に立つメガネの美少女が、約束したようなことをするようにはとても見えず、男は幾度も目をしばたたかせた。
「だめ、かな?」
 小首をかしげそうつぶやく少女に男は慌てて首を振った。
「いやいや、違うんだよ、あんまりカワイくてさ、こんなかわいい子って思ってなかったから……。ね、あれ持ってきてくれた?」
 かすかに声を潜めた男に少女は目で笑いかけた。
「制服、でしょ? 持ってきたよ……」
 男に合わせて声を潜めると少女は男の腕に腕を絡み付けた。
「いこ、ここじゃなんだし」
「あ、うん」
 軽く赤面した男は、どぎまぎしつつも背筋を伸ばして少女と歩き始めた。


 数分後、いくつかの角を曲がり通りを越えて男と少女はラブホテルの一室に潜り込んだ。
 シャワーを浴び、リクエスト通り高校の制服に着替えた少女の姿に、男は興奮を隠しきれないようだった。
 濃緑のブレザーにオレンジのリボンタイがあしらわれた白いブラウス、短めのグレイのチェックのプリーツスカート、そしていかにもなルーズソックスといった姿で、ベッドの上に腰掛ける。
「これで、いいかな?」
 はにかんだように笑顔をこぼす少女に、先にシャワーを浴びていた男はホテルに用意されたタオル地の白いガウン姿で首がもげるほどに何度もうなずいた。
「いい、いいよ! カワイイねえ、ほんとにいいのかなぁ」
 落ち着きのない様子でつぶやく男に、少女は小首をかしげて笑って見せた。
「やだなー、そんなに見ないで、恥ずかしいから」
 ささやく少女に、男は浮かれた笑顔でビジネスバッグのジッパーを開け始めた。
「イヤー、いいよ、マジ、もうたまんない。よーし……」
「待って。その前に」
 浮かれる男に少女は手のひらを突き出した。
「お小遣い、くれないの?」
 男の表情が一瞬しょっぱいものに変化した。が、すぐに笑顔に戻る。
「あ、そうだね、そうだよね、ごめんごめん、ボクつい慌てちゃってさぁ」
 ハンガーに掛けたスーツの上着から財布を取り出し、一万円札を3枚取り出すと枚数を確認して少女に手渡した。
「ありがと」
 少女は無造作に折りたたむとスカートのポケットにしまい込んだ。
「じゃあ、始めようか?」
 興奮の極致といってもいい男の様子に少女は軽く苦笑した。下半身が隆起しているのがガウンの上からでもはっきり分かる。
「オモチャ使ってもいいっていうからさ、色々用意してきたよ、ほら」
 ビジネスバッグから、どぎつい色合いのバイブレータ数本と、ピンクロータが取り出される。
「それを……どうするの?」
 ほんの少し表情をこわばらせた少女の問いに、男はピンクロータを手に取った。
「じわじわ行こうよ、そういうの君好きだってメッセで言ってたじゃない。大丈夫、痛いこととかしないから……」
 男の指示に従って、少女はベッドの上で膝を立てて座らされた。後ろに手を突きじわじわと脚を拡げていく。
「恥ずかしいなぁ……」
 かすかに頬を紅潮させ、少女は顔を背けて男に言われるままになった。最初ぴったりと閉じていた膝頭が離れ、開脚される脚に合わせてスカートが徐々にめくれていく。白地に花柄の刺繍が入ったショーツがむき出しになる。
「こんな……感じ、かな?」
「あぁ、いいよ、そうだよ」
 少女の問いに焦った口調で答えると、男は少女の開脚された股間に顔を埋めんばかりの勢いで近づいた。荒々しい男の吐息に少女はくすぐったそうに身をよじった。
「やだぁ……そんなに、そばで見ないで……」
 閉じかけた少女の脚を拡げなおし、男は手にしたピンクロータを少女の股間にあてがった。
「だーめ、閉じちゃ。これから、君を気持ちよくしてあげるんだから……」
 ささやいて男はロータから伸びたケーブルの先のスイッチを操作した。小さな振動音が発生したかと思うと、少女のショーツのクロッチのあたりにふれた瞬間、音が微妙に変化する。
「……んんぅ、んんっ」
 発生した快感に、切なげに眉をひそめ、漏れそうになる声を我慢して口をつぐむ。
「どう? 気持ちいい、でしょ? ほら」
 ショーツ越しに少女の亀裂をなぞってロータをこね回す。変化する振動音に合わせるように、少女の白い脚がヒクヒクと震え、くねる。
「んぁ、やっ……だっ」
 目を閉じた少女はあごをそらして腰をうごめかした。紅潮した頬が淡いピンクに染まり、息づかいが荒いものに変化していく。
「エッチな顔になってきたよ……、”なーちゃん”はイケナイ子だねぇ~」
 ささやき羞恥をあおる男の言葉に、少女はさらに顔を赤面させた。
「やぁん、そんな……こと、言わないでよ……あ、あんっ!」
 なぞるうちにくっきりと形付いたショーツの、一番敏感なポイントを強めに刺激されて、走る快感に少女は声を抑えられなくなっていた。
「ここが一番、感じるとこなのかなぁ~。”なーちゃん”の」
 ねちっこい声の調子同様に、男のロータを操る感触が少し強いものに変化した。ぐっ、ぐっ、と押しつけられて振動音がさらに変化した。
「やぁ……んっ、声、出ちゃう、ぁぁんっ」
 反射的に脚を閉じようとする少女の膝頭を、男は手のひらで押さえつけた。
「閉じちゃだめだよ、もっと気持ちよく、してあげるから」
 男は満面の笑顔でそうつぶやくと、あてがっていたロータをベッドの上に放り出し、少女のショーツに手をかけた。
「脱がせちゃうよ、いいよね?」
 くたっとした脚をそのままに、少女はとろんとした表情でこくんと頷いた。するする……と丸めるようにショーツがはぎ取られていく。少女も、協力するかのように腰をわずかに浮かせる。丸められて裏側がむき出しになった少女のショーツを、しばし凝視した男は嬉しげに少女の眼前に突きつけた。
「すっごい濡れちゃってるよ、ほら。見てごらん……」
「そんなの、見ないよ、やだ、やめてよ……」
 顔を背けそうつぶやく少女は、よりいっそう顔を紅潮させていた。羞恥に染まった少女の表情に満足した男はにやりと笑う。
「声、出しちゃってもいいよ。”なーちゃん”のエッチな声、聞かせてよ」
 男は数本あるバイブレータのうち、黒いやや小さめのものを手に取った。バッグの中からコンドームを取りだし、手早くかぶせると再び少女に脚を開脚するように促した。
「……」
 何も言わず、顔を背けたまま少女の脚が開脚されていく。つややかさすら感じられる白い下腹部に、うっすらとアンダーヘアがけぶりすでに淫裂となった少女の亀裂が、鮮やかに彩られてむき出しになる。
「……ぐちょぐちょだよ、”なーちゃん”、もっと、ぐちょぐちょになるよ」
 歌うような口調でつぶやいて、男は手にしたバイブレータを少女に見せつけるようにして、底部のスイッチを入れた。先ほど使用したピンクロータよりも、鈍く重い振動音と、先端が微妙な動きでくねりを見せる。かぶせられたコンドームの濡れたきらめきがおぞましさすら感じる淫靡さを見せていた。
「じゃあ……行くね」
 厳かにささやいて、男は少女の淫裂にバイブレータの先端をあてがった。なぞるように、下から上に、じわりと押しつけるようにする。鈍い音が接触とともに変化する。
 先端でかき分けるような動きは、淫裂に生じていた淫液をバイブの先端に絡み付けた。亀裂の上部に白く顔を覗かせている少女の淫芯にバイブの先端が触れて少女は鋭く腰を揺らした。
「……ん、やっ、あ、あんっ!」
 びいん、と少女の背筋が伸び上がり、ルーズソックスに包まれたつま先が一瞬伸びて、丸められる。
「もうこんなに……クリがおっきくなってるよ、ほら、見てみて」
 男のつぶやきに少女は言葉を返せずにいた。間隔を開けて触れる刺激に、幾度も腰を揺らし顔をのけぞらせる。
「や……んっ、あ、あ、あぁっ!」
 声のオクターブが上がり、息づかいが荒く短くなっていく。
「気持ちいい? まだまだ気持ちよーくなるよ」
 充分に淫液にまみれさせたバイブレータを、男は少女の淫裂に押し込んでいった。逆らうような締め付けとうごめくバイブの動きのために一気に、とはいかなかったが、じわじわと黒いバイブが淫裂に侵入していく。
「んぁっ……んーっ、くぁぅっ」
 快感に脱力して、少女はぱたんとベッドに上半身を倒れ込ませた。メガネをかけた真面目そうな少女のきちんと制服を着たままの上半身と、膝を立てて開脚され、むき出しにされてバイブを押し込まれた下半身の組み合わせが異様な淫らさを演出する。
「ほーら、くちゅくちゅ言ってるね、”なーちゃん”聞こえる?」
 挿入されたバイブをゆっくりと抽迭させて、男は羞恥を煽る言葉を口にした。少女の淫肉に包み込まれて、振動音はかすかなものになっていたが、代わりに溢れかえった少女の淫液をかき混ぜる淫音がずっと大きく耳を打つほどになっていた。
「やっ、だめ、あっあっ、音、立てないで、あ、ああんっ!」
 羞恥と快感に身をよじりくねらせる少女の声に、男はふんと鼻息を漏らした。
「そんなこといったってなぁ~。”なーちゃん”がエッチだから、こうなるんだよっ」
 うそぶいて男はバイブの威力を少し強めた。
「ほ~ら、もっと気持ちよく、なろうねえ、”なーちゃん”」
「あっ、やっ、つよ、く、しない、でっ、あ、あ、だめ、イッちゃうっ」
 びくびくんっ、と少女の身体が小刻みに、鋭く震えて揺れた。つま先がびんと伸び、なすすべもなく宙をつかむようにしていた手のひらがぎゅっと強く握りしめられる。
「あ、あ、ああーっ!」
 ひときわ大きくなった叫びの後、少女はぐったりと脱力してため息をついた。
 しばらくして、次のバイブを握りしめた男に少女はのろのろと身を起こして男にうっとりと笑いかけた。
「ね、オジサン。オジサンの、入れて。本物がいい」
 淫らさに満ちた少女の懇願に男はバイブをぽとりと取り落とした。
「えっ、あ、あは、あはは、そっかぁ、オモチャばっかじゃつまんないね、そうだよねっ」
 ハイテンションな口調でガウンを脱ぐと、男はいそいそとコンドームを取り出しはち切れんばかりに隆起した分身に装着した。
「せ、制服着たまま、してもいいかい?」
 今にも飛びかからんばかりの男に少女は軽く笑いながら、こくんと頷いた。
「でも、スカートだけ、脱ぐよ。いい?」
「もちろんだよ、しわになったり汚れちゃまずいもんね、いい、いい」
 適当すぎる男の言葉を笑顔で受け流し、少女はスカートを取って下半身をむき出しにした。ルーズソックスをはいたまま、再び横たわると、大きく脚を開脚して男を誘う。
「……いいよ」
「……」
 ごくり、とのどを鳴らすと男は無言で少女にのしかかった。


「ごめんよ……調子悪いのかなぁ」
 暗い声でつぶやき肩を落とす男に、少女は優しく微笑みかけた。
「ちょっと興奮しすぎちゃった? でも、私でそんなに興奮してくれて嬉しいよ」
 それまでのテンションはどこへやら、挿入してごくわずかで、男はびくびくと身体を震わせひとり達してしまったのだった。
「あはは、元気出してよ、ちょっと休憩しよっ」
 少女のなぐさめに男はほんの少し元気を取り戻した。
「あは、あはは、そ、そうだね、まだ時間あるし……」
 乾いた笑いをこぼしながら、男はもそもそとティッシュで下半身の処理をした。
 乱れた髪をなでつけわずかにずれたメガネを直して、少女はごろんとベッドに横たわった。
「ね、オジサン。メッセでしゃべったとき、マスコミ関係の仕事って言ってたけど、ほんと?」
「えっ、そうだよ、マジマジ。いわゆる新聞記者ってやつ。でも、芸能関係とかじゃないから、多分”なーちゃん”が知りたいようなことはあんまり知らないよ」
 唐突な少女の問いにきょとんとしながら、男はぽつぽつと言った。
「じゃあ、どんな取材してるの? なんか、事件とかそういうのかな?」
 興味津々といった体の少女の表情に、男は自分が今どこにいて何をしていたのかを忘れてしまったようだった。
「よく分かるねえ、そそ、これでもさ、警視庁とか回ってるんだよ、どこの会社とかは言えないけどね」
「そうなんだ、すっごーい」
 感嘆の声を漏らす少女に男は自信満々の表情で胸をはった。
「ま、それほどでもないんだけどね」
「そうだ、あのね、ちょっと気になってることあるんだけど、オジサンなら分かるかな?」
 男は怪訝そうな顔になった。
「なんだい? ボクに分かることかな……」
「あのね、何日か前に、ニュース速報でなんか、中野の方でマンションの爆発事故があった、とか出てたじゃない? でもそれっきり何にもニュースとかでもやらないし、どうしたのかなーって気になって。もしかして、間違いとかなのかな?」
 少女の問いに男は一瞬表情を曇らせた。
「あー、その件かぁ、確かに第一報は出したんだけどね……」
 だが、その後記者クラブにて報道自粛の要請がなされた。完全に箝口令が引かれているらしく、どんなに探っても壁に当たってどうすることも出来なかったのだ。
「……もうさ、ずっと仲良くしてる警視庁の人に聞いても全然答えてくれなくてさ。これ、”なーちゃん”だから言うけど、先輩がね、なんか公安関係の事件じゃないかって言うんだよね」
 男の言葉に少女は一瞬眉を跳ね上げた。
「コウアン関係って?」
「んー。あのね、ちょっと”なーちゃん”には難しい話かも知れないけど、ほら、スパイとか、政治関係のなんか裏がある話なんじゃないかって言うんだよ」
「ウラのヤバい話ってこと? そっかー、そういうのってほんとにあるんだー?」
 脳天気に見える少女の問いに男は思案顔になった。
「そうなんだよね、デスクからも、もうこの件は終わり、首つっこむなって言われちゃってさ。だから、あー、先輩の言ってたのマジなんだって。爆発もなんか、普通のガスとかの爆発じゃなくて爆薬かなんか使われてたらしいし、それに現場からさ、男性の遺体が発見された、って話もあったんだけどねー」
「えっ、死んだ人がいるの? 怖いなぁー。それって、そこに住んでた人なんでしょ?」
 軽く目を見開いた少女の顔を見つめながら、男は耳を指でほじりながら背中をかいた。
「うん、第一報の時点で近所の人とかに聞き込みしたんだけど……」
 爆発事故のあったマンションの部屋に初老の男性が住んでいたという証言があった。普段あまり顔を合わすこともないので、その男性のことはよく知らないが、確かにその部屋に住んでいたようだとも。少し暗い印象だが、真面目そうな雰囲気の男だった、とそのマンションの他の階に住む住人は語ったということだった。
「……」
 男の言葉を聞いて少女の表情が硬く、翳りを帯びた。
「あ、ごめんね、こんな話やだよね、ごめんごめん」
 少女の表情の変化に独り合点した男は慌ててそう言った。
「ううん。ありがと、オジサンに聞いてよかった」
 少女は笑顔を浮かべた。だが、その笑顔はそれまでの少女が浮かべていたものとは全く違う種類のものだった。
 身を起こすと少女は、着ていた制服を男がいるにもかまわず脱ぎ始めた。あっという間に、ブラだけを身につけた状態になる。
「ど、どうしたの?……」
「ごめんね、もう帰る」
 冷然とした少女の口調に男は泡を食った。
「え、いや、あの、ちょっと待ってよ、まだ約束の時間まで間があるよ」
 立ち上がって少女は男をあざ笑うような表情で見た。
「もういいよ。今日はおしまい」
 侮蔑の笑みを見せつけるようにして、少女は脱ぎ捨てられていたショーツを掃き、元々着ていた服に袖を通す。
「お、おい、待てよ、金払っただろうが」
 最初あっけにとられていたが、テンパって声を荒げた男に少女は全く動じなかった。
「だから、何? 松本孝史さん。一流新聞社の、それも警視庁番とかの記者さんが、おカネ払って女子高生とこんなことしててもいいの?」
 少女は続いて男、松本が勤める新聞社の名前と、自宅の住所、電話番号をすらすらと口にした。
「な、な、何で、それ、を……」
 顔色がすっと青ざめる。呼吸停止寸前の表情で、松本はぱくぱくと口を開いた。シャワーの時に身元を調べられたのか? いや、自分の身元を証明するようなものは一切ホテルに持ち込まなかったはずだ。なのに何故、この少女は自分の身元を知っているのか。
 あり得ない事態に正常な思考が出来なくなって、松本は自然と逆ギレしていた。
「な、だから何だってんだよ? 警察に言おうってか、あのな、お前だって売春で補導されるんだぞ、学校だって退学に……」
 少女は松本に最後まで言わせなかった。
「誰が警察に言うって言ったの? そんなつまらないことしないよ。あのね、言っとくけどオジサンが会社のPCで私とメッセした時の会話のログと、IPアドレス、後はオジサンのPCでメッセが動いてる時のスクリーンショットとか、全部抜いて保存してあるから。……別にエンコーするのは勝手だけどさ、会社のPCでやるのは、まずいんじゃないかなー? 他にもいろんな女の子とエンコーしてたっしょ?」
「な、な……」
 松本は愕然としてうめき声を漏らした。
「……普通なら出来ないんだけど、私には出来るんだよ。オジサンのPCに入ってた面白そうなデータ、ぜーんぶ抜かせてもらいました。だめじゃん、あんなに可愛い奥さんと子供がいるのに、あちこちの女子高生とエンコーしてハメ撮り画像とか撮ってちゃ。悪いけど、私の言うとおりにしてくれないなら、私のも入れてエンコーしてた証拠のデータを全部、松本さんのおうちと会社に送るよ?」
 松本は気絶しそうな表情で床にへたり込んだ。マイドキュメントに保存してあった家族の写真すらも見られたのだと直感的に理解したのだ。
「そうそう、ここに入ってからの会話とかも全部録音してあるからね。じゃ、着替えて。帰ろ」
 トートバッグから取り出されたICレコーダーをひらひらと手にして、にこやかに笑った少女に、松本はうなだれて力なく頷いた。


 ホテルを出て、がっくりとうなだれ暗い表情をした松本に別れを告げると、少女は渋谷駅方面に歩き出した。トートバッグから携帯電話を取り出し、電話をかける。だがすぐに無言のまま表情を曇らせると携帯を閉じてバッグにしまい込んだ。
「……ユリカのやつ、あれほど適当なとこでバックれちゃえって言ったのに、また人の話聞いてないなぁ」
 一人ごちると、少女――黒河奈々瀬は苛立たしげに髪をかき上げ、待ち合わせに指定していたコーヒーショップに向かうことにした。
 奈々瀬がその店に入ってから40分ほど、時間つぶしに読み出した『鬼平犯科帳』の文庫本を半分ほど読み進んだ頃、待ち合わせの時間ぎりぎりにその少女は現れた。
 身長は小柄な方で、緩やかにウェーブのかかった明るい茶色の髪をツインテールにしている。くりくりとして丸っこい少女らしい顔立ちはまるで人形のようで、それを余計に際立てるようなロリータファッションで身を包んでいる。
「奈々ちゃんごっめーん、待ったぁ?」
 耳を疑うような脳天気な声で謝罪の言葉を口にする少女――赤澤ユリカに、奈々瀬は読みかけの文庫本を閉じた。
「遅い! あんた私があれほど口を酸っぱくしていったのに……」
「ごめんごめん、怒んないでよー。だってさぁ、すっごいイケメンだったんだもん、エッチも上手だったし……ユリカ、いっぱいイカされちゃったよぉ……」
 奈々瀬の隣に腰掛けてうっとりと無邪気につぶやくユリカに奈々瀬は憮然として口を尖らせた。
「何それ、ムカツク! 私がそっち行けばよかった……。私なんかしょぼいオッサンが相手だったのに」
 奈々瀬が恨み言を口にすると、ユリカは意外そうに目を丸くした。
「え、そうなんだぁ? ユリカのオジサンよかったよ、ポルシェでぶいーん、てやってきてね、お台場のホテルまでドライブしたんだよ。エッチも丁寧だったし……」

 夢を見る口調でささやきながら、ユリカ少女は胸の前で両手を握りしめてくねくねと身をよじった。
「あっそ。私なんかあれだよ? ホテルは道玄坂だし、バイブでねちっこいのはよかったけど、後がサイアク。入れたかと思ったらアーッッ!!でおしまいなんだもん、バカにしてんのかって感じ。あんなのでも結婚して子供作れるんだね」
 松本が聞けば卒倒しそうなことを口にして、奈々瀬は表情を改めた。
「……で、なんかつかめた? 安田のオジサンのこと」
 奈々瀬の問いにユリカは宙を見据えてぷるんとした唇に人差し指を当てた。情報を収集するため、ユリカが奈々瀬同様に捕まえたのは、テレビ局の報道の人間だった。
「んー、あのね、爆発事故はあったんだけど、キシャクラブ? とかっていうのでホウドウキセイって言うのがかかったんだって。それでね……」
 ユリカの話は奈々瀬がつかんだ情報とほぼ一致した。だが、それ以上に興味深い情報がユリカの口から飛び出し、奈々瀬は眉をひそめた。
「何それ。車で走っていった女って?」
 爆発事故のあったマンションから、女が運転する車が急発進するのを見た付近の住民がいたのだという。しかも爆発の直後、ということだった。
「ビンゴ、かもね」
 奈々瀬のつぶやきにユリカは口をへの字にした。
「その女の人が安田のオジサンが言ってた、”オーガスト・ムーン”なのかな?」
 ユリカの問いにすぐに答えず、奈々瀬はブラックコーヒーをすすって、小さくため息をついた。
「間違いない、と思うよ。車の車種はスカイラインだったんでしょ? 安田のオジサン、いつもスカイラインで来てたじゃん」
 ユリカは急に寂しげな表情になった。
「じゃあ、やっぱり……。安田のオジサン、死んじゃったのかなぁ……?」
 ユリカの言葉に、奈々瀬はしばらく無言で、何も存在しない宙の一点を見つめていた。
「そう……考えるしか、ないじゃん。だって、だってさ、電話してもつながらないし、メール打っても全然返ってこないじゃん……」
 少ししてつぶやいた奈々瀬のメガネの下の瞳はかすかに潤んでいて、ユリカはいつもクールな少女が感情の発露を懸命にこらえていることに気づいて奈々瀬からそっと視線を外した。
「……”オーガスト・ムーン”を探さなきゃ」
 ややあってぽつりと漏れた奈々瀬の言葉に、ユリカは視線を戻した。
「奈々ちゃん……。どう、するの?」
「安田のオジサン殺したの、多分”オーガスト・ムーン”だよ。証拠なんかないし、もしかしたら、直接手を下したわけじゃないのかも知れない。でも、でもね、きっと”オーガスト・ムーン”が何か失敗したから、安田のオジサンが死ぬことになったのかも、知れないじゃん」
 怒りにまみれた奈々瀬の言葉に、ユリカは顔を青ざめさせた。
「奈々ちゃん、でも……安田のオジサン、最後に来たとき言ってたじゃない、自分に何かあったら、”オーガスト・ムーン”を助けてやってくれって……」
 ユリカの言葉に奈々瀬はきっとした視線を向けた。
「そんなの……そんなの関係ないよ。私に必要なのは、安田のオジサンなの。安田のオジサンが、もう、いないなら、私はその原因を作った奴を許さない」
 奈々瀬はそう言うと小さく鼻をすすってかすかに潤んだ目を大きく見開き、、おろおろとする親友の瞳をじっと見据えた。
「私は”オーガスト・ムーン”を探すよ。探し出して、安田のオジサンがどうして死んだのか、聞き出さなきゃ。……もし、私が思ったとおりのことがあったなら、私は”オーガスト・ムーン”を殺して安田のオジサンの仇を討つ。必ずね」
 奈々瀬は毅然とそう言って、下唇を噛みしめた。

 静かだが凄惨な迫力をたたえた表情をした”ノワール”黒河奈々瀬の姿に、”ルージュ”赤澤ユリカは再び絶句した。

 

(AugustMoon・第4話 終)

 

最終更新:2010年05月13日 18:05