+
|
Ver3.5 DS |
Ver3.5 DS |
身長 |
1.75[meter] |
体重 |
62kg |
移動力 |
物陰を滑るよう |
創設したもの |
ジグラト |
標的 |
リータ・パティス |
属性 |
女性にモテる |
イラストレーター |
lack |
フレーバーテキスト |
赤いローブをまとった『影』は、廃墟の上から、すぐ真下で行われている“決闘”を見下ろしていた。
目の前で戦う数人の戦士たちは、皆相当な手練れであり、通常、このような場所に誰かがいれば、その存在に気付くのが当然であった。しかし、その『影』は特殊すぎた。その気配は、限りなく透明に近く、驚くべきその技は、『影』が動いたとしても――たとえ声を発したとしても、誰もその存在を感じとることができなかった。
『影』はこの場に潜み、戦況を見つめ続ける。時折、何かが気になるのか、ローブの上から自身の首元、そして頬を撫でる所作が目につく。
――早くこい…
『影』は、獲物を待っていた。
――早く…お前に……
その獲物を求め、『影』は、普通の人間では体験しえぬ「時」を彷徨ってきた。狩りの瞬間は、もうそこまで迫っている。故に、その瞬間への期待を噛みしめるがごとく、『影』はこれまでの“時間”を思い返さずにはいられなかった――。
* * * *
ザフー暗殺者ギルド――『ザフー教団』の教義に反目する者を人知れず抹殺するためにつくられた組織。『影』の記憶はそこから始まる。そこでの『影』の名はエランといった。
『影』はギルドに、「家族」を奪われ、「自由」を奪われ、ただ、心のない暗殺者見習いとして育てられていた。
そんな中で、出会った少女がいた。少女は、同じ暗殺者見習いとして『影』と共にペアを組まされたパートナーだった。その少女は、『影』から見るとおっとりとしていて、技術も拙く、とても暗殺者に向いているようには思えなかった。
初めは、足手まといで、嫌でしょうがなかったのを覚えている。
しかし、共に訓練や任務を行っていくにつれ、『影』は少女に、奇妙に友情めいた感情を持つようになっていった。
『影』と少女は、暗殺という心無い行為をしているにも関わらず、その最中であっても、たわいない話で笑い合うことができた。今思えば、そのようにすることで、ごくわずかに残っていた人間性をぎりぎりのところで保っていたのかもしれない。
しかし『影』は、結局は自分の方が先に一人前の「アサシン」となり、少女はその過程で死んでしまうのだろうな――ぼんやりと、そう思っていた。
そして、「アサシン」となる試験の当日、事件は起きた。
それは『影』にとっては簡単なミッションだった。いつものように少女にサポートをさせ、3人殺し、試験を突破した証である『銀のメダイユ』をもらう――ただそれだけのはずだった。それで「エラン」という未熟な人間の名前を捨て、名も無き純粋な「アサシン」へと昇華するはずだった。
しかし、結果はそうならなかった。血にまみれ、空を見上げることになったのは『影』の方だった。ほんのちょっとのかけ違い――仕方のない、ただ運がなかっただけの何てことない事故だった。
『影』は首に重傷を負っていたため、少女にとどめを頼んだ。しかし、少女はおろかにも武器を無くしてしまっていたので、首を絞めて終わらせるように指示した。少しの恐怖はあったが、本当に、最後まで世話の焼ける――最後はそんなことを思いながら、そこで果てた――はずだった。
しかし、『影』は目覚めた。アジトのどこかではあるようだが、見たことの無い場所だった。そこは、暗殺者ギルドという闇の中に隠された、さらに深い闇――用済み、裏切り者と判断されたアサシンを殺すための暗殺者を「製造」する場所だった。
稀に特別優秀な暗殺者見習いが消えることがあったが、どうやら、そういった人間たちは皆ここに送り込まれていたらしい。『影』は、少しだけ得意になったが、そんな風に思えたのはほんの一瞬だった。
その訓練は――なんと表現したものか… 地獄があるのなら、そこの方がきっとまし、そんな風に思うしかない過酷なものだった。毎日、昨日まで隣にいた誰かが死んでいった。そして、その誰かを手にかけるのは自分――課せられたものは、『仲間殺し』の練習――。
逃げることなど毛頭できない。だから、死んでそこから逃げたかった… しかし、死なせてもらえなかった。死のうとしても、薬により施された不死化の秘術が、普通の人間のようには死ぬことすら許さなかった。
結局、『影』は生き抜き、アサシン殺しの暗殺者――「チェイサー」となった。
そうして、「チェイサー」としての初めて標的に出会った時、『影』は驚愕した。
その標的は――あの少女だった。
彼女はすでにあの時の名前を失い、「アサシン」となっていた。
始めは、「生きていたんだ」――そう、思ってしまった。そう思い、声をかけた時、返ってきた返事は、“刃”だった。
斬られた頬から濡れ落ちる赤いものの温度を感じながら、『影』は理解した。少女は、自身の名と共に『影』のことも忘れてしまったのだ、と。
そのように訓練されたのだとは分かっていた、しかし『影』は許せなかった――なぜ、自分だけが覚えている……!
「チェイサー」は、「アサシン」と違い、記憶を消されない。それは、仲間を殺すのに必要なことだからだ。「仲間殺し」は忘れてはならない――仲間を殺す恐怖や罪悪感を越えたところに、喜びと、使命を見出さねば、それを神聖な行為ととらえることができないからだ。だが、『影』は忘れたかった。「チェイサー」になど――あんな過酷な場所になど行きたくなかった。
――あの時、お前がちゃんと殺してくれていたら… それなのに、なぜお前はのうのうと生きて「アサシン」となり、そして、それすらも捨てようとしている――!
それから『影』は少女を憎悪し、追い続けることとなる。
『影』から逃げおおせた少女は、その後、大陸に現れた『紅蓮の王』と共に戦い、『影』もまたそれを追い続けた。
しかし、その戦いの終盤、聖都ザフーが<契約の天使>の放つ粛清の光に飲まれた時、『影』もまた、その光に飲まれ――消えた。
「――そうして、また私は生き残ってしまった… この世界に流れ着いていてから、どれくらいたったのだろうな… この世界は、私たちがいた世界なんかよりよほど綺麗でね。ドロドロに汚してやりたくなった私は、『ジグラト』なんてものを作り、ギルドの真似事なんかもしてみた… でもね、やっぱり、ダメだった… 何をしてもダメなんだ。お前を殺さないと、私の魂は、痛くてダメなんだよ…」
“決闘”に目を向けながら、そうひとり呟いて、『影』は首をさする。
「けどね、驚いたよ。そんな中、この世界に、あの“紅蓮の王”が現れたんだ。わかるか? 私がどれだけ狂喜したか。この百数十年、こんなに昂ったことはなかったよ。紅蓮の宿命は知っている――なぁ、お前は、“ここ”にくるんだろう? だからさ、いろいろ仕掛けたよ、本当に…いろいろね…」
『影』はゆっくりと赤いローブの首元を緩め、
「――楽しみだよ… 早く会いたい… お前は私のものだ。お前の命を刈り取りたい… そうすれば、きっと忘れられるんだ――なぁ、私は、“まだ”自分を「エラン」だと認識できてしまっているんだ――」
そっと首元の傷を撫でる。
「あの時の、お前の手の感触がさ、まだここにあるんだよ。お前が、殺してくれなかったことを、この体が覚えてるんだ――」
『影』は感情が高まったかのように身をそらす。赤いローブが内側から切り裂かれ、一瞬で繊維ほどまでに細かく切り刻まれた布片が、煙のように舞った。
「どうか、今度こそ私に殺されてくれ… そして、私…“ぼく”の名前を忘れさせてくれよ――」
中からのぞいたものは、血よりもなお鮮やかに赤く染まった、二振りの半月刃――
「なぁ、お願いだよ――リータ」
そう少女の名を呼び、『影』は目を細めた。 |
|