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Ver3.5 |
Ver3.5 |
全長 |
普段はカエル並み |
重量 |
普段はカエル級 |
最高速度 |
動く必要なし |
知識 |
遍くを知る |
知恵 |
万物に通ず |
在り方 |
知っているだけ |
イラストレーター |
猫将軍 |
フレーバーテキスト |
少彦名神を探す大国主神は、多邇具久神の元を訪れていました。 「ようタニグク。ちぃと聞きてぇんだが、スクナの野郎が今どこにいるか知ってるか? …ああ、違うか、どこにいるか“知ってる”な」 すると、蛙神は小さな体を自慢げにそらせながらゆっくりと答えました。 「ゲココ、確かに手前は知っておる。何故なら、手前はな~んでも知っておるからの。手前はど~こにでもおるし、な~んでも見ているからの」 どこにでも存在しこの世の全てを見通すと言われる神は、そう言うと大国主神の頭にぴょこんと飛び乗りました。 「では、行こうかの~。手前も、久しぶりに旨い酒が飲みたいわい」 こうして、多邇具久神に導かれるままに、少彦名神を探しに旅立った大国主神でしたが、山を越え、谷を越え、何故か行く道を邪魔する様々な怪物を退治したりと、その道のりは思いのほか遠く険しく、ようやく少彦名神を見つけたところは見たこともない景色の広がる世界でした。 「……ってなわけで、お前さんの一大事とようやっとたどり着いてみりゃ、のんきに酒盛りかい。良くみりゃ知らねぇあんちゃんにヤタ公まで… こりゃあいってぇどうなってんだ?」 「あれ~れ クニちゃん ひ~さしぶり~」 ご機嫌な様子で杯を傾けている酔神の傍らには、酔いつぶれて眠っている見知らぬ若者と八咫烏がいました。大国主神はどういうことかといぶかしみましたが、細かいことは考えてもしようがないとばかりに、やれやれと息を吐き、どかりと腰を下ろします。続いて蛙神も大国主神の頭からぴょこりと飛び降りました。 多邇具久神はその若者の顔を見て少しだけ考える素振りを見せましたが、やがてひとりで勝手に納得したようにゲコリとひとつ頷きました。 「よもや世界まで渡るはめになるたぁ、さすがの俺も思わなかったが――ま! とにかく今は再会を祝して、乾杯だぁな!」 お~、と少彦名神が気の抜けた声でぴょんと跳ねると、ぽんぽんといくつもの酒樽と極上の肴が現れます。 「ゲココ、な~んでも知ってる手前も、これには抗えんのう」 酒樽へと飛び込んだ蛙神を皮切りに、三神は飲めや飲めやと酒樽を空にしていきながら、少彦名神の身に起きた変事について聞きました。 しかし、酔っぱらった少彦名神の話はいまひとつ要領を得ず、肝心なことはわからずじまい。おそらくは全てを知っているしているであろう蛙神も、ゲコゲコと笑うばかりで語る様子もありません。 「ぷはぁ! …しっかし、キナくせぇ話なことには違ぇねぇなぁ」 大国主神は杯を勢いよくあおると、眉をひそめました。 「神々たちのかどわかしと王を導くヤタ公に、それに連れてこられた人ひとり…」 そこまで言って、大国主神は酒樽で泳いでいた蛙神をつまみあげて、その顔を覗き込みました。 「おい、タニグク、どーせお前さんは知ってんだろ? このあんちゃんはいってぇ何もんだ? 今起こってることに関係あんのかい?」 しかし、蛙神はどこ吹く風と、赤ら顔を浮かべ、すぃ~と宙で平泳ぎ。 「手前はな~んでも知っておる、が、知っておることを話してしもうたら、知っておったことが変わってしまうからの~ 伊弉諾様の次女にも聞かれたが~ な~んでも知っておる手前は な~んも答えんかった~ 酒を飲んでもしゃべらんもんはしゃべら~~ん…ゲヒック」 気が向いたこと以外、何も話そうとしない蛙神に、大国主神は頭をかきましたが、やがてにやりと笑うと、良いとこを思いついたとばかりに、ポンと手をたたきました。 「う~んダメだ! 俺ぁやっぱりむずかしいこと考えんのは向いてねぇや! はぁ~ こんな時にモノの奴がいりゃあなぁ。こういうのは、年がら年中御山に引きこもってなんだかんだとつまらんことを考えてる、あいつが一番向いてるんだよなぁ~」 「お~い~ね~ た~まにはモノちゃんよ~びだ~すか~! ウ~ズメ~もどっかで会ったしね~ み~んなで飲~めば~ ヨッホホイホ~イ」 すると、蛙神は、赤ら顔を青くして、突然ぴょこんと飛び上がりました。 「――ゲココ!? コリャ大国! そりゃあ、お主の片割れの大物か!? あの蛇神か!? たわけやめんか! な~んでも知ってる手前も、蛇だけはだめなんじゃ~! あやつも手前が苦手だろうが、手前もあやつはダメなんじゃ~! ぬぅ… 仕方なし、少~しだけ手前の知っておることをお話ししよう…」 そう言うと、多邇具久神は、この世界で起こっている、この若者を含む十六人の紅い瞳の者たちの、紅い力を巡る動乱と、その裏でうごめく闇の存在について話しました。 「なるほどねぇ… 紅蓮の力に、ふたつの十と三同士の戦いか… どうやら俺たちにも十分関係がありそうな話だなぁ」 「こ、これ以上はしゃべらんぞ~」 「いいや、十分だ! ありがとうなタニグク! …ふふん、こりゃあ、新しい国造りの匂いがぷんぷんとするぜ。ぃよっし!! おいスクナ、あんちゃんとヤタ公を起こしな――」 そう言うと、大国主の尊は、背負った七支刀をどかりと地面に突き刺し立ち上がりました。 「――そうとくりゃ… まずはみんなで国造りの前祝いだああああ!! 」 「お~!」 「ぬぅ~ それには手前も抗えんのう~」 笑う神々の宴は、まだまだ終わりそうにありませんでした。
~『紅蓮古事記』 其の参の④~
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