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Ver3.5 |
Ver3.5 |
身長 |
1.62meter…くらい? |
体重 |
えと…51㎏くらいだったかと… |
秘められた性格 |
笑い出すと止まらない |
性質 |
知識が広い |
苦手 |
なぞなぞ |
特技 |
お茶のブレンド |
イラストレーター |
kera |
フレーバーテキスト |
――それは、糸紡ぐ青い車。
くるくるとせわしなく回り、新たな命の運命を紡ぎだす。
紡がれた、キラキラと輝く糸――その出来栄えを見て私は小さく頷いた。
「うん、上出来かしらね。こういう糸はあまり紡ぎ慣れないのだけれど、今回も上手くできたみたいでよかったわ」
紡ぎあがったばかりの細く、けれど強く美しい輝きを放つこの糸は、他者の運命に介入し、導く糸。
それをそっとつまみ『運命の糸』へと押し当てると、細い糸は溶けるように絡まってゆき、取り込まれていった。これでこの糸の“持ち主”の運命に、本来ならば無かったはずのささやかな“きっかけ”が生まれたはずだ。
「これで、あの子も少しは楽になったかしら……?」
あの子――長年の友であるアストレイアの言葉を思い出す。
世界を虚無へと導く『13の鍵』と、それに対抗する『13の剣』。その『剣』の捜索という大役を担うことになった彼女は、私の元へと辿りつくなり倒れ込むようにしてこう言った。
――クロトぉぉ……もう無理ぃ、助けてぇぇ……
どうやら、捜索は上手くいっていないらしい。
察するに、どこの誰なのかもわからない『剣』たちを探して、片言の『予言』と持ち前の『世界の危機を感じ取る神性』のみを頼りに世界中を飛び回り、やっとのことで見つけ出したと思ったら、あっさり断られたり、話も聞いてもらえなかったりと、それはもうえも言われぬ苦労をしている――きっとそんなところなのだろう。
長い付き合いだ。稀にこのようにすがってくる彼女の半泣き顔をみれば、それはすぐに分かった。
そうして、私は妹たちと共に、彼女に協力することになった。
当然『運命の女神』が、恣意的に運命を捻じ曲げるなど褒められたことではない。
しかし、私はそう選択した。困っている友だちを助けたいと思ったことも確かだったが、それに加え、彼女の口から語られた世界の危機は、この世界の全ての者が手を取り合って立ち向かわなければ乗り越えることはできない、たとえそれが直接的な好転の糸口とはならないとしても――そう感じたからだ。
ただ、一度動き始めてしまった運命に後から介入することは決して簡単なことではない。『運命の女神』と言えど、全てを意のままにすることなどできやしないのだ。
私にできることはそう――
「こうして、“きっかけ”を作ってあげることくらい……」
私が紡ぎ生み出すのは運命の始まり――泡のようにぽっと浮かびあがった『命』に、『運命』という道を与えてこの世界に降誕させるだけ。その運命が、少しでも上手く糸を手繰っていけるように、ほんの手助けをするくらい――でも、その一助が何かを起こすかもしれない。 小さな蝶の羽ばたきがやがて世界の反対側で大きな風を起こすように、運命は連鎖的に繋がり、広がっていく。その方向さえ間違わなければ、たとえ小さなきっかけだろうと導かれる結果はおのずと正しいものになるのだ。
あの“雪色の女の子”のときもそうだった。
彼女は、自分の行く先を運任せに決めていたようだったけれど、彼女が従ったプカックと呼ぶ槌の倒れた方角――つまり、そのときに吹いた一陣の風こそが、私の作った“きっかけ”だった。
その結果として彼女はたくさんの得難い出会いをし、時に危険な目に遭いながらも、最後は“剣”として目覚めたのだ。
「ウフフ、そうは言っても、実際に何が起こるかは、起きてみるまで私にもわからないのだけれど」
私は何も具体的に起きる事柄を指定しているわけではない。“良い結果になりますように”と願いを込めて、細糸を重ねているだけだ。それ故、“きっかけ”がどのように発現して、どう事態が展開していくのか楽しみでもある――というのは、少し不謹慎だろうか。
「――さて、そろそろね」
先ほど紡ぎ、重ねた糸が運命に影響し始める頃だ。
私はその結果を見届けるべく部屋の片隅の大きな水甕の前に立ち、その水面をそっと撫でる。
すると、ゆらゆらと波立つ波紋の向こうに人の姿が映し出された。
その人物こそ、さっき私が手を加えた『運命の糸』の持ち主であり、これから私の生み出した“きっかけ”によって動き出す渦中の者だった。
東国の出身らしき服装に帽子、何よりも美しく艶やかな黒髪と整った顔立ちが目を引く美女――しかしその顔色には、色白と言うより、もはや色が抜け落ちてしまったと言ったほうが適当と思うほどに生気が感じられなかった。
「彼女が、安倍晴明さん……」
彼女の『運命の糸』にそっと触れてみる――
彼女の心は、深い絶望に蝕まれていた。
幼い頃から抱き続けてきた大願を、師に“無意味なもの”と吐き捨てられ、生きる意味を見失い、足元すらおぼつかない状態だった。
このまま失意の底より抜け出すことができなければ、彼女はほどなく『剣』としての資質を完全に失ってしまうだろう。いや、それだけならばまだいい。ともすれば、心の闇に付け込まれ『鍵』として利用されてしまうかもしれない。
「でも、きっと大丈夫……私の作った“きっかけ”が、あなたを良い方へ導いてくれるはず」
昏い瞳で落ちる滝にじっと目を向ける彼女を痛ましく思いながらも、私は彼女を見つめ続けた。
瞬間――小さなつむじ風が吹いた。
「フフ、始まったわね……頑張って」
つむじ風は晴明の立つその頭上、切り立った崖上から拳ほどの石を落下させた。
「…あ……」
そして、そのすぐ下方にある大樹へと直撃する。冬枯れして脆くなった大樹の枝は衝撃で容易く折れ、さらに太い枝を巻き込んで落ちてゆく。
「……あら?」
その落ちゆく先には、晴明が立っていた。
気付いた晴明は間一髪、咄嗟に滝壺に臨む崖際へと飛びのき事なきを得た――ように見えたが、崖際の足元は滝から吹き上がる飛沫でぬかるんでおり、彼女はそのまま足を取られ――
「……あらあらあら?」
バランスを崩した彼女はそのまま崖下の滝壺へと真っ逆さまに落下、たっぷり数秒後にバシャアアアン!! と、激しく水の跳ねる音を響かせた。
「……あらあらまぁまぁまぁ」
そのまま視点を彼女の落下した崖下へと移すと、その高さに思わず目が眩みそうになる。 目を凝らしてみても彼女の姿は見えず、待てど暮らせど浮上してくる様子も無い。
「……」
「…………」
「………………えーと……どうしましょう」
私はゆっくりと頬に手を当て、うーんと考え込んだ。 アストレイアに頼まれたのはあくまで『剣』候補たちの手助けであって、間違っても暗殺ではない。ただ、この事態のきっかけとなったつむじ風は、間違いなく私の作りだしたもののはずだった。だとしたら――
「…………彼女の国には、“禍福はあざなえる縄の如し”という言葉があるそうね」
幸せと不幸は表裏一体。成功と失敗もまた同じ。縄のように寄り合い、代わる代わる訪れるもの――そう、今は不幸な事故にしか見えないけれど、きっとこれが転じて幸せな未来に繋がる。
「フフ、つまりあとは晴明さんの頑張り次第というわけね。きっとそう――なはず」
運命の女神である私の強運を信じましょう。
さて、彼女の物語をできれば結末まで見届けたいところだけれど、そういうわけにもいかない。まだまだやるべきことはたくさんあるのだ。
私は次の仕事に取り掛かるべく、手元の糸を手繰る。 「次は……快活な騎士とその従者さん、この糸にしようかしら」
そうして私は鼻歌まじりで、新たな運命の糸への介入を始めた。 |
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