【享楽】アレイスター(R)
基本情報
名前 【享楽】アレイスター
種族 魔種
ジョブ マジシャン
召喚コスト 30
<タイプ> 大戦士
タイプ ウィッチ
HP 400
ATK 30
DEF 60
覚醒
超覚醒
アーツ 有(アームズ)
CV 木村 珠莉

アビリティ
召喚 なし
覚醒 なし
超覚醒 真揮『ポコちゃん』
攻撃力が上がり、自身が戦場に出ている間、自身と同じ種族の自使い魔の攻撃力を上げる。さらに、【アームズ】「ポコデュラボー」が使用できるようになる。
ARMS ポコデュラボー
【アームズ】ターゲット中の敵ユニット1体に「移動速度が下がり、受けるダメージが上がる」効果を付与する。この効果は、対象がゲートへ帰還、またはマナタワーへ駐留するまで持続する。
効果時間 対象が帰還・駐留するまで
wait時間 30秒

ステータス
状態 HP ATK/DEF
召喚 400 30/60
覚醒 450 50/80
超覚醒 500 160/140

DATA・フレーバーテキスト
+ Ver3.?
Ver3.?
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イラストレーター
フレーバーテキスト
|(from “Ver.KK 【哭】アンダーテイカー / Ver.KK 【追憶】ハイド”)


 『正義は狂い、殺意は紅い涙を流す』



―――チッチッチッ。

 古びた洋館のホールに、小刻みに音が絶え間なく落ち続ける。
 まだ日が高くないのか、明かり取りの窓から差し込む光は淡く、館内は薄暗い。その所為もあって、小さなその音はくっきりとした輪郭を保ち、ホールに自らの存在を強く主張し続けていた。
 ホールの中央、幾本かの細い光の柱が落ちている大階段には男が一人。苛立たし気に膝を揺らしながら頬杖をついて座り込んでいる。

―――チッチッチッ。

 揺れる膝のリズムと音が合っている。どうやら音は、この男の目深に被ったフードの奥から漏れる“舌打ち”のようだった。
 では、男は何に対しそれ程苛立っているのだろうか――間違いなく、その“視線の先”に対してであろう。
 そこには、派手に色とりどりの布を組み合わせ、背に縫い留められた狼の頭が目を引く風変わりなローブを着た女が、絨毯にぺたりと座り込み、鼻歌交じりに人形をいじっていた。
 “クマのぬいぐるみ”、であろうか。女の周りには大量の人形が山と転がっており、女はそのうち一体の足を持ち上げて揺らしたり、手をくねくねと曲げ、振り、体をひっくり返したり、抱きしめたり――その度に、「わあ~」だの「きゃ~」だの「うふふふ」だのといった、楽しそうな頓狂声を上げている。
 すると突然、バッと人形を持ったまま両腕を突き出し、「ん~~」と目を細めて眺めると、何が気に入らなかったのか、急に興味を失ったようにそれをポイと人形の山に放り投げてしまう。そして、

「ギュルポコちゃ~ん、あのポコちゃんとって~」

 そう女が人形の山の一つを指さす。すると別の山の中から黄色いグレムリンが人形たちを跳ね飛ばしながら飛び出して、いそいそと女の指定した人形――『ポコちゃん』を運んできて手渡した。
 そうしてまた同じように人形をいじくり回す――女は、かれこれ数時間、それを際限なく繰り返しているのであった。

「あはは~、この子いいかも~」

 今度の人形は、今までの中では比較的長くいじっていたものの、結局また投げ捨てて新たな人形を手に取ったところで、 

―――チッチッチッ……チィッ!!

 とうとう堪りかねた男が口を出した。

「おーーーい」
「ポコちゃ~ん、は~い、ばんざ~い♪」
「ぅおーーい、アレイスターさーーーん?」
「きゃ~、ポコちゃん逆さだね~、頭にワタ詰まっちゃうね~」
「いーつまで続くんすかそれ? いい加減にしてくれませんかねーー!? 『ボクたちの永遠はココにあったんだー』的な展開趣味じゃないんで、とっとと仕事しくださいですよおおお…………って、おい、聞いてんのか!? この脳髄フンワリ女!!」
「………」

 ホールに響く大声にやっと気が向いたか、女――アレイスターは男の方に顔を向けた。

「お、やる気になった?」

 が、その視線は男のすぐ傍に落ちていた人形を凝視しており、

「ポコギュルちゃ~ん、次そっちの~~」

 とグレムリンを向かわせた。

「こーのヤロウ……」

 男は下を向いて肩を震わせると、傍にやって来たグレムリンが人形を拾おうとする寸前で、サッとそれを掴み取って立ち上がる。そして、グレムリンが高く持ち上げられた人形を必死に跳び上がり奪い取ろうとするのを他所に、キッとアレイスターを睨みつけると、

「オレは忙しいんだよ!! いつまでもここでオメェに構ってらんねぇの!!」
「あ~、ギュルちゃんに意地悪しちゃだめだよ~」
「テメェこそオレに意地悪しちゃってるってんだよ! ったく、こーーーんな気色悪ぃ人形のどーーーこが可愛いいんだか」

 と手に紫炎を灯し、人形を一瞬で焼き尽くした。

「あ……」

 アレイスターがポカンと口を開け、グレムリンが何やら慌てて部屋から飛び出していく。
 そのままアレイスターは焼けこぼれて階段に落ちた人形の布片を、まっ白な灰になるまで眺めていたが、

「ポコちゃんを…………いじめたわねえええ!!」

 勢いよく跳ね立って両手を広げると、空中に、流れるように素早く複雑な魔法陣を描き始めた。

≪――遍く星々の銀の輝きより来たる、その名は牙、その名は爪、その名は獣――ポコデュラボー!!!≫

「わっ! 馬鹿!」

 すると、男がボンッと白い煙に包まれ、

「ほーら、君もポコちゃん♪」

 男の立っていた場所に、フードを被り体中に紋様が描かれた“クマのぬいぐるみ”がぼてんと落ちた。
 ぬいぐるみはヨロヨロ立ち上がると、その場で跳ねながら抗議するようにキーキーと鳴き喚く。
 しかし、ニコニコ笑みを浮かべながら階段を上って来たアレイスターはそれをむんずと掴みあげると、手足をバタつかせて抵抗されるのもお構いなしに、ぬいぐるみの顔を横に引っ張り広げたり、お腹をぐいぐい押し込んだりしていじくり回した。
 そうして一通りもてあそんだ後に、「ん~、やっぱり可愛くない。ダメポコね」と投げ捨てると、元居た場所に戻って座り、再び人形をいじり始めた。
 投げ捨てられたフードのぬいぐるみは、初めはジタバタ手足を動かして再び立ち上がろうとしていたものの、次第に動きが弱々しくなり、ついにはまったく動かなくなる――が、しばらく後、ボフンと煙を上げて男の姿に戻った。

「くっ――――かあああああ!! テンメこのヤロウ!! 死んじゃったかと思ったじゃねぇか!!??」
「死なないわよ~。ポコちゃんは“生きた魂”が可愛さの秘訣なんだから~」

 いきり立って足を踏み鳴らす男を背に、女は人形をいじりながら何事でもなさそうに言葉を返す。

「つーかこのオレのスペシャルなバディを変形させるとかよぉ、いってぇ第何位階の変身魔法だってんだ!? もろもろホーーント滅茶苦茶だぜ、テメェはよ!!」
「え~~、そ~お~?」
「そうですぅ! ホイホイこっちのスカウトに乗って来やがったと思ったら、ちょっと目ぇ放してる隙に“結社”抜けてどっか行っちまうしよぉ。カリガリのヤロウがギャースカ怒りまくってたぜ?」
「ん~~? あ~、“あそこ”ね~。初めは面白そうかな~って思ったんだけど~、あの人たち“死んだ人間生き返らせる~”とか“永遠の命~”とかそうゆうのばっかりしててつまんなかったんだも~~ん」
「だも~~ん、じゃねぇよ! そのまま行方知れずで気が付きゃ“紅蓮側”にいたとかどうかしてんだろ!? そうかと思ったらいつの間にか“こっち”戻ってきてて、手当たり次第に人形こさえやがって……」
「ん~~、この世界にいっぱいいた素材ちゃん~? “人間じゃないオジサン”たちが~、“こっち”の子たちだって知らなかったのよね~~。あとほら~、『レムギアの牙』の子たちって“いけめんくん”ばっかりじゃな~い? それだとかわいいポコちゃんできないし~? それに~、あたしが契約したテオちゃんも“こっち”来ちゃったしね~~」

 そう言いながら、またもやいじっていた人形を放り投げる。

「はぁ……まぁいいや。んで、どうなんだ? “奴”ぁホントにここに来るんだろうなぁ?」

 仏頂面でそう吐き捨て、ドンッと再び階段に座りこんだ男の言葉に、

「失礼ね~~」

 と口を尖らせたアレイスターは、ローブから数枚のカードを取り出して扇のように広げた。

「わたしの占いはぜったい当たるも~~ん」

 そしてカード越しに、先程投げ捨てた人形に向けて妖しい視線を送った。
 あの継ぎはぎだらけの不格好なぬいぐるみたちに、いったい何かあるとでもいうのか――いや、あった。
 投げ捨てられ、何気なく散らばったように見える無数の人形たち――しかしよく見れば、それらは精緻な魔法陣を描いているではないか。そして先程の一体で、それは完成されていた。
 にわかに人形たちがブルブルと震えだし、魔法陣が淡い輝きを帯びていく。

「ほ~ら、“引っかかった”♪」

 だが、嬉しそうにするアレイスターに対し、男の顔は曇ったままだ。 

「“また引っかかった”、な。そうやってここ来たの何匹目だって話だよ。関係ねぇ「村人A」から「皇帝ちゃんの使い魔B」まで、当たり構わずドンドコ呼び寄せやがって……そこらに転がってるタコちゃんの殆どがそうだろが」
「“タ……コ”? むぅ~~~ ≪――遍く星々の銀の輝きより来たる――≫」
「んあ!? あ~“イコ”ちゃん? あ、“イボ”ちゃんか?? あ、そうそう、“ポコ”ちゃんだ! オレはもうポコんなくていいから! な! はぁ~、か~~わいいな~ポコちゃん!?」

 慌てて取り繕う男に、アレイスターは振り上げた腕を下ろしたものの、頬を膨らませ、

「だ~って~、あたしポコちゃん作ってただけなのに~、み~んなでい~っぺんに怖い顔して追っかけてくるから~、少しず~つポコちゃんにしてあげられるように、あちこちに『転送陣』仕掛けちゃたんだも~ん。あれだけ仕掛けたら、迷い込んじゃう子だっているし~、仕方ないよね~、ポコちゃん」

 と人形の手足を激しく振り動かした。

「仕方なくありません! ったくテメェはどこまで本気なんだかわかりにきぃんだよ……とにかく、今度は成功させてもらうぜ?」
「だ~か~ら~、占いも完璧だし~、今回の『ポコちゃん魔法陣』は正しく“銀の星の運命”にとらわれた子を――――ほ~らね♪ バンくんの心配は無駄無駄なのでした~~」

 そう笑みが浮かべたかと思うと、人形で組み上げられた魔法陣から強い光の柱が立ち昇った。

「どうだかなぁ……」

 男が渋面で階段から身を乗り出して、光の中に目を凝らす。

 そして、
「なんだよ、やりゃあ出来るじゃねぇか」
 男――バン・ドレイルは、ニヤリと笑みを浮かべた。



 * * * *



 自らを包み込む眩い光が薄らいできたところで、右手に巨大な義手を付け、やけにクラウンの高いハットを被った男は、ゆっくりそのツバを持ち上げた。
 そこは、古びた洋館の中のような場所だった。
 只ならぬ状況であることは、ひと際濃くホールに充満する霊子の量が告げていた。
 霊子の発生源は二つ。こちらを見つめている二人―― 一人はホール中央の階段に座るフードを被った男、そしてもう一人は、床に敷かれた絨毯に座り込み、大量の人形に囲まれたローブの女だ。
 次いで男はすぐ傍らに目を向け、そこにもう一人、“棺”を背負った細面の青年が無事でいることを確認して、安堵の息をつく。そして、「どうかな? エリオット」と語りかけた。

 ローブの女をじっと見つめるエリオットの視線は、彼の緊張と、問いの答えが「肯定」であることをハットの男に伝えていた。

「間違いないよ。ジキルさん、“あの女”だ」
「良かった……きっと、“残り時間”は少ないだろうからね」

 死の淵から蘇った怪人“アンダーテイカー” ――エリオット・マーカス・ジュニア。
 記憶を失い“極端な正義”を宿す“魔療術師”――エドワード・ジキル。

 二人は、エリオットの“顧客”であった女魔術師・アレイスターを探していた。
 エリオットは「朽ちない死体」となった想い人・ルディアンを蘇らせる為に、ジキルはルディアンを蘇らせることが、彼の心の奥底に沈む“切なる衝動”の正体を明らかにすると信じるが為に――そして、ルディアン蘇生の鍵となるのが、アレイスターの識る『生きた魂の保管法』なのであった。
 だが、二人がアレイスターの元を訪れたとき、彼女の屋敷はもぬけの殻であった。唯一その行方の手掛かりとなりえたものは、屋敷に残された“魔法陣”のみ――そして二人は魔法陣に触れたことで“異世界”へと転送され、それぞれの世界を彷徨うことになる。
 それでも彼女を追い続けた二人は、奇しくも互いに“紅蓮の運命”に出会い、その糸に絡め引かれるようにして再会し、今、ここに至ったのであった。

「魔術というものに触れたときからある程度の“経験”は覚悟していたけどね、ここまでの道程は軽く想像を上回っていたよ。それを思えば、この終着点は案外静かなものだね」
「ああ、けど、あのフードの方ってさ……」
「うん――」

 ジキルはハットのツバの奥から、階段の男に鋭い視線を送ると、「あれは、きっと『混沌』だ。今の私たちに“紅蓮の力”はない。慎重に行こう」そう、言った。
 その視線に応えるようにフードの男――バン・ドレイルが立ち上がり、大仰な調子で両腕を広げた。

「いや~、良かった良かったぁ~!」

 そしてゆらゆらと体を揺らしながら階段を下りてくる――

「会えて嬉しいいぜぇ、『第五席』君よぉ!」
「はじめまして、ミスター。私たちは自分たちの力でここに辿り着いたつもりでいたが、その様子だと、どうやらあなた方に“招かれた”だけのようだ」
「お、聡いねぇ。そうそう、招いちゃったのよ。オメェが“居なくなった”って聞いたときはまーーじ焦ったけどなぁ――どぅわ!!」

 ――が、語るバン・ドレイルの体を押しのけて、アレイスターがジキルたちの前に走り出た。

「わ~~、ジュニアくんだ~~! 久しぶり~~♪」
「テメ! 今オレが不敵にかっこいい感じで喋ってたろ!?」
「え~~、だって~、この子はい~っぱい死体売ってくれて~、“ポコちゃんづくり”に貢献してくれた協力者くんなんだよ~、ねぇ~ジュニアく~ん♪」
「あぁ!? どーーーうでもいいわ!!」
「バンくんにどうでも良くっても~、あたしにはどうでもあるんです~~」

 にわかに始まった二人の口論は、一見滑稽な道化のショーのように見える。しかし、それぞれが纏う濃く不吉な空気は拭いようがなく――ジキルが慎重な様子で目配せをすると、エリオットが頷き、進み出て頭を下げた。

「覚えていて下さり光栄です、ミス・アレイスター」
「あら~~、な~んだか立派な話し方するようになったのね~♪ それにこんなところまで来られるなんて~~、あ、もしかしてキミが『五席』くんなの~?」
「はあ? 違ぇだろ、そっちだそっち。赤い髪の方!」
「ん~~?」

 アレイスターは首をかしげて、バン・ドレイルが指さす方――ジキルを横目で見やった。

「ふ~ん、君がね~~。じゃあジュニアくんは~、ど~して『五席』くんと一緒に“来れた”の~? あの『転送陣』はあたしに用があって~、あたしに“いい星”を巡り合わせてくれる子たちだけを運ぶように作ったんだけどな~~」
「それは私がお答えします、ミス」

 ジキルもまた、一歩進み出る。

「どうやら『第五席』とは私のことを指しているようですが、私はエドワード・ジキルといいます。訊ねたいことがあり、私たちはあなたを探していました」
「へ~~、何を訊きたいのかな~?」

 にこやかに笑みを浮かべてはいるものの、その不気味な眼差しはまるで心が読めず、むしろ覗く者の心を吸い取るようで――しかしジキルは、目を逸らすことなくはっきりと告げた。

「『生きた魂の保存法』――私たちには、蘇らせたい死者がいる」

 その真剣な声音に、アレイスターはひどく顔を歪めた。

「え~、あたしそういうのはぁ――」

 しかし、
「こちらをご覧頂きたい」
 ジキルは構わず続けると、エリオットに頷きかけ、背負った棺を下ろさせた。

 そして、棺の蓋が開かれた。

 中には少女が横たわっていた。
 ふわりと柔らかそうな、少しクセのついた美しいブロンドの髪に、白い肌。
 その肌に血の色は感じられず、胸に振幅の上下もない。
 棺に入っているのだから当然死体ではあるのだろう。だが、その肢体の艶やかさには、どこかそうと信じることを抗させるものがあった。

「ん……それぇ……」

 棺の中をよく見ようとアレイスターが身を乗り出したところで、その肩をバン・ドレイルが掴んだ。

「はいはい、なんかシリアスになりかけのとこごめんなさいねー。残念ながらこのネジゆるなお姉さんはポコとかペコとかいうお人形さんにしか興味持てない可哀そうな人なのよ~。そんなことよりさぁ――」
「面白そう……」

 しかし、アレイスターはその手を払いのけると、

「……はい?」

 大きく見開いた瞳を輝かせて、少女を食い入るように見つめた。

「いや、だからさ、そんな暇はねぇって……」
「お も し ろ そ う!!」

 有無は言わせないとばかりにバッっと手を広げて変身呪文を唱えようとするアレイスターに、バン・ドレイルは「ぐぬっ」と口を思い切りへの字に曲げると、「……んじゃ少しだけな、手っ取り早くお願いね」と渋々再び階段に戻り腰を下ろす。
 一方「うふふ~」と気分良さげにステップを踏んだアレイスターは、軽快に棺に駆け寄り、改めて中を覗き込んだ。そして興味深げにじろじろと棺の少女を眺め回すと、

「ねぇねぇ~、この子“どうなってる”の~~?」

 と訊ねつつ、触れんばかりに手を伸ばす。しかしエリオットが気分悪気に少し棺を下げたところで、

「お気づきになりましたか――」

 ジキルが、棺の前に体を滑り込ませた。

「この人は死んでいる。しかしその体はどれだけ時が経とうと朽ちることなく、形を保っているのです」
「ん~~、つまり~、魂は体に無いけど~、どこかに『生きた魂』があるってことね~」

 ありえない事象を語るジキルの言葉ではあった。しかしアレイスターは少女に目を止めたまま、
さも何事でも無さげに、そう答える。

「その通りです。彼女の魂はどこかで、何者かに“生かされている”。そして――」

 ジキルは、そこらに転がっている人形を見渡した。

「そういった類の技が、どうやらあなたの“人形”にも使われているようだ」

 その指摘に、アレイスターは「ふふ~ん」と自慢げに鼻を高く上げた。

「そうよ~~。でも言っとくけど~“その子”はあたしじゃないかな~。あたしは“そんな体”作れないも~ん。あたしのポコちゃんは体を変身させても~、“本人の魂”が入ってたらすぐ元に戻っちゃうのよね~。だから“他の人の魂”と入れ替えてお人形さんにするの~。そうするとね~、あちこちがあべこべになって~、組み合わせ次第ですっごく、すっご~~く色んな継ぎはぎ模様ができるんだよ~。その魂に“生きてる”って思わせるのが~、可愛く長持ちさせるコツなのね~~。でもこの子の体って~、魂入ってないのに“そのまま”なんでしょ~? しかも一度傷ついてるのに~、綺麗に“修復”されてるよね~~?」
「はい――『魔療術』といいます。私が施術しました。しかしまだ完璧なものではなく、本来ならば定期的にメンテナンスをすることではじめて検体の維持が可能となるのです。しかし、この少女はそれをすることなく肉体を維持できている。それは、『生きた魂』が保存されているからに他ならない――そこで考えたのです。人の体は、魂が死を自覚すると共に崩壊を始めてしまう――だがもしこの少女のように、死を迎えた魂に“生を錯覚”させたまま保存しておくことができれば、肉体が生存不能な程の損傷を受けていたとしても――」
「ん~~、『魔療術』で体を治してから~、“生き返らせる”ことができるってことね~~。その子も“魂を見つけることさえできれば”、ってわけだ~~。でも~、一度離れ離れになっちゃった肉体と魂をきちんとくっつけるのって難しいんじゃないかな~? あたしのはただ『入れ物』に放り込んでるだけだし~」
「その通りです。『再結合』の壁は高い……しかし、『魂』と『肉体』、それぞれを“生かしたまま”保存しておくことがでれば、その方法を探す時間が稼げます。そして『生きた魂』の仕組みがわかれば、その研究速度は飛躍的に向上することでしょう」

 ジキルの力強い視線に押されるように、アレイスターは棺から離れた。

「なるほどね~~。それで、あたしの術式を知りたいんだ~」
「是非とも」
「ん~~、どうしようかな~~」

 アレイスターは口に指をあてて首をかしげると、もう一度、ジキルの体越しに棺を覗き込んだ。
 眠る少女を見つめる、その目は――。


 頬杖をついて階段に座り、白けた目で一連のやりとりを眺めていたバン・ドレイルはため息を吐いた。

「ほーらなぁ、ぜってぇこうなんだよ……時間ねぇって言ってんのによぉ」

 そう呟くと大きく鼻から息を吸い、もう一度「はあ~~~~」と盛大に嘆息する。

「そんじゃどうすっかなぁ…………ぁぁぁあああ! 果っっってしなく面倒くせえええ!」

 言いつつ『機甲グリモア』を取り出すと、「……えーと、どうすんだっけ……これあんま得意じゃねぇんだよなぁ……」などと一人ごちながらページをめくり始めた。



 * * * *



「教えてあげてもいいけど~~、代わりにぃ~」

 首を左右に振りながら話すアレイスターの目が細く吊り上がっていき、

「その子、ちょうだい♪」

 酷く邪な享楽に満ちた。

「なっ……!?」

 にわかにエリオットが色めき立ち、それを制するようにジキルがさらに前に出る。

「ミス、それは出来ない」
「え~~そうなの~~? じゃあ売って? ねぇ~、いいでしょジュニアく~ん。いつも売ってくれたじゃな~い。ポンドでもドルでもいくらでも出すよ~? その子で作ったポコちゃん見たいんだ~。その子にね、オジサンの魂ぃ……ううん、人間じゃない子の魂とか入れたら~、ど~~んなポコちゃんになるかワクワクぅ――」

 言い様、突然アレイスターが駆けた。

「ミス――!」

 ゆったりとした口調からは想像出来ない速度で遮るジキルを躱し、首を目いっぱい傾けたまま棺に手を伸ばす――が、「ガチンッ!!」とその先に光が弾け、飛び退る。
 見ると、手が伸びていた空間に、棺を守るように「黒い鎖」が突き立っており、それを宙に浮く魔法陣がガチリと咥えこんでアレイスターを守っていた。
 鎖を辿ると――その根元は、突き出されたエリオットの腕に吸い込まれてた。

「エリオット……!」
「駄目だ、ジキルさん。やっぱりそのクズは話の通じる相手じゃない。初めからこうするべきだった」

 そうアレイスターを睨みつけるエリオットの左目が黄色い光を放ち、肌が徐々に灰色がかった緑色に変色していく。

「わ! わわわ~! その体どうなってるの~? それ“変身”じゃないよねぇ? 完全に“作り替わってる”よね~!? それも『魔療術ぅ』~? いいな~! 面白いな~! ジュニア君ももらっちゃおっかな~!」
「……冗談じゃない」

 アレイスターの戯言に激しく抗議するように、悪魔の如き姿へと変じたエリオットから無数の鎖が伸びた。

「ならあたしも~~、ち か ら ず く~~♪」

 笑みを浮かべるアレイスターが空中にウィッチズ・ルーンを描くと、鎖は全て標的に届く直前にあらぬ方向へと曲がり、壁や床に突き刺さってしまう。
 そのままアレイスターは、両手で舞うように次々とルーンを重ねて魔法陣を組み上げ、詠唱を始めた。

≪ザーザース、ザーザース、ナーサタナーダー、ザーザース――遍く星々の輝きの彼方、捧ぐ魂を糧に、銀の星の深淵より門開き来たれ――≫

 すると、そこらに転がっていた人形たちが、メキリメキリ、耳に刺さる異音に体を震わせながら宙に浮かび上がった。そして布の手足に脈打つ筋が浮かび上がり、生々しい肉を得たように伸びていく――その手に分厚く捻じ曲がった長い人の爪が生え、口元からは巨大な乱杭歯が覘き、ガチガチと不吉な音を噛み鳴らす。
 それらが数十、ぴたりと空中に制止したかと思うと、一斉にエリオットに襲い掛かった。

「くそっ……!」

 エリオットの全身から吹き出す闇が幾筋もの鎖と化して、迫る人形たちを貫いていく。しかし、腕がちぎれ、頭を半分吹き飛ばされようとも人形は止まらず、エリオットにその爪が振り下ろされる。
 赤い光が瞬き、グシャグシャとした悍ましい音と共に無数の欠片が絨毯に飛び散って染みをつくった。
 エリオットは――無事だ。つまり、周囲に落ちた肉片は人形のものということか――そしてその中央には、いつの間にかエリオットを守るように、チリリと赤い電光を纏ったジキルが巨大な義手の右腕を掲げていた。

「ジキルさん……大丈夫なの?」
「すまない。自分では何とも……けど、『11号』ですぐに抑え込むよ。それからもう一度交渉だ」

 ジキルはそう告げたが、「あ~~~! ポコちゃんたちが~~~!」と頭を抱えて人形たちの残骸へと駆け寄るアレイスターを睨みつけ、エリオットは首を振る。

「あいつはおかしい。言葉は通じないよ」
「それでも、さ――力に任せるだけだと、怖くてね」

 そう語る間、一心不乱に飛び散った欠片を集めていたアレイスターの背中が急にピタリと止まり、首だけくるりと振り向いてジキルを見た。

「ねぇ、今のも『魔療術』~?」
「……私流のアレンジは加わっているけどね」
「ふ~~~ん……すごいね~! 速いね~! “肉体強化”かな~? でも詠唱しないんだ~。短くても詠唱混ぜた方がも~~っと速くなると思うけどな~~」
「すまないが、問答は後でお願いするよ」

 再び赤い光が瞬いた。
 ジキルはまさに瞬きの間に高速でアレイスターとの距離を詰めた。

「……?」

 ――筈だったのだが、ジキルの足は距離半ばで止まっていた。
 その隙に、さらに増えた人形たちがぞわぞわとジキルの体に群がっていく。駆け寄ったエリオットが鎖を揮ってそれを引き剥がそうとするが、数の多さにまるで追いつかず、逆に自らも人形に囲まれてしまう。

「――それなら……!」

 ジキルが義手に仕込まれたスイッチを素早く操作すると、今度は違うパターンの電光が瞬いた――が、何故か、それはすぐに儚いスパークとなって空中に霧散してしまった。

「……『13号』まで――――ぐっ!!」

 急に視界が低くなった。とうとう突っ伏す形で人形たちに抑え込まれたのだ。

「んふ~ふ~♪」

 その視界に、ウィッチズ・ルーンを指に灯したまま、しゃがんでジキルの顔を覗き込むアレイスターの機嫌よさそう笑みが映り込む。

「君~、いいセンスしてるけど~、無駄だよ~~?」
「……無駄?」
「そ~、無駄だし“無理”なの~。その『魔療術』ぅ? 基本になってる術式が~、あたしの考えたやつなんだも~ん♪」

 ジキルはその言葉の意味を測りかねて眉根を寄せたが、細い記憶の糸を辿って思考を巡らせ、すぐに何かを思いついたように目を細めた。

「なるほど……ミス・アレイスター、あなたの正体は『エリファス・アレクサンダー・クロウリー』――『黄金の夜明け団』の『初代魔術博士』というわけだ」
「あ~、それ懐かしい~! そうだよ~。だから~、君があそこで学んだ魔術を応用してる限り~、ぜ~~んぶ解呪できちゃうんだ~~♪ それにしても君、記憶無くなってもそういうのは覚えてるんだ~。“それ”、良く出来てるね~~」

 アレイスターはそう言って立ち上がると、

「さ~て、君はバンくんにあげるとして~、ジュニアくんもいい感じだし~、棺の子と合わせてステキな素材が二つも~♪ 今日はとってもいい日だなぁ~~」

 とステップを踏みながら距離をとる。
 ジキルは人形たちの戒めから何とか抜け出そうともがきながら、その背に問うた。

「……それ程の力で、あなたは何を成そうと……?」
「え~~、特にないかな~」
「では何故……人を……」
「ん~、“ポコちゃん”のこと~? う~ん、しいて言えば~~」

 アレイスターは立ち止まると肩越しに振り向き、

「――楽しいから?」

 と、無垢とも、享楽とも、威圧とも、なんとも取れない不安定な笑顔でジキルを見下ろした。

「………」

 不意に、鎖の音と共にジキルを押さえつける圧力が軽くなった。アレイスターが会話に気を取られている隙に、エリオットが人形の戒めを破ったのだ。

「ジキルさん、一旦引いて立て直そう!」

 エリオットがジキルに駆け寄り肩を抱く。

「………………」

 しかし――


「……“悪人”め」


 ジキルの顔がエリオットに向くことはなく、アレイスターを睨むその瞳は赤光を放っていた。

「ジキルさん……おい!」

 エリオットが抑えこむようにジキルを抱える腕に力を込めるが、ジキルはまるで意に介すことなくその腕を振りほどいて強引に立ち上がる。

「あらら~?」

 その異様な様子に気付いたアレイスターが振り返り、ウィッチズ・ルーンを描いて再び人形たちをけしかけるが――

「……ゥウ……ヴ……」
「あら~~」
「……ヴ、ヴゥゥウウウ!!」

 再び纏ったジキルの電光は、アレイスターのルーンに静められることなく、人形たちはいとも容易く引き裂かれてしまった。
 そのままジキルは不気味な唸り声を漏らしつつアレイスターへと迫っていく――。

「クソッ、“イッち”まった……あんたにはまだやってもらうことがあるんだ……遠慮はしないからな!!」

 エリオットが体から闇を膨れ上がらせ、ジキルの体を貫かんばかりに鎖を放った。
 だがその全てが、ジキルを覆う赤い電光に触れるや否や、先から消滅してしまう。
 一方アレイスターは、

「あ……ああ~~!? それ『忌み種』?? 臨界越えちゃってる~~!?」

 とその様子に頬を赤く染め、口に手を当てて高揚していた。

「いいな~~! すごいな~~!! そ、それじゃ~あたしも~『極界魔法』使っちゃおっかな~~♪♪ ≪ト、メガ、テーリオン、ザメラク、エコエコ、ケルヌンノス――≫」

 詠唱と共にアレイスターの周囲の大気が揺らぎ始め、それが次第に強い旋風をつくり上げていく。
 そしてそれに抗するようにジキルの電光も激しさを増していき、赤い電光の弾ける音と風の唸る音が交差し、混ざり合い、飽和して――――――突然、その全てが霧散し、ホールに静寂が落ちた。


「はーーーい、喧嘩止めーーー!」


 見ると、声の主――バン・ドレイルが立ち上がり、煌々と光を放つ機甲グリモアを掲げていた。

「あのよぉ……いいかぁオメェら。オレたちは“崇高な使命”てやつのために、これから協力し合ってかなきゃいけねぇの、わかる? なのにホーーントオメェらは自分のことばっかでよぉ……」

 そしてフードの上から頭を掻きながら、さも辟易とした様子で数段階段を下りた。

「ジキルくんもさぁ、ホントなら今頃そこらへんしっかりわかってるはずだったんだけどなぁ……そーれが穴の開いた袋みてぇにポロッポロポロッポロ、記憶やら思い出やら落っことしてきちゃうからこういうことになっちまうんだよ。オメェを作り上げんのにね、たーーくさんの人件費と結構な手間暇ってのが掛かってんの! 貴重な『忌み種』まで仕込んでんのよ? そこんとこ良く理解して欲しいわ。だからよ、そのままぶっ壊れてもらうわけにゃいかねぇだろ?」

 虚を突かれたからなのか、それともグリモアの発する光の所為か、一同は身じろぎひとつすることなく、黙ってそれらの言葉を聞いている――いや、ジキルの口からは低く唸り声がこぼれていたが、それもバン・ドレイルの、ホールに良く響く声に飲み込まれてしまっていた。

「“記憶”、大事よ? “『正しい心』とそれを捻じ曲げちまう『鬱屈した闇』”、な。そういうのが無ぇと『鍵』にゃなれねぇのよ。つまりよ、記憶を失くすなんてなぁナンセンスなの。そんなわけで――デキるワタクシは、これを用意してきました!!」

 そうバン・ドレイルは踵を鳴らして宙に敬礼した後、グリモアをなぞって空間に紋様を呼び出した。そしてその中に手を突っ込むと、「よっ……こらせ!」とずるずる重そうに何かを引きずりだし、階段の下に放り投げた。
 どさりと鈍い音を立てて無様に転がったその影は、人――であろうか。

「さぁ出番だぜ? テメェの不始末だ。始末はとーぜん“テメェら”でつけな」


 * * * *


 古びた洋館のホールに、五人――。
 床に敷かれた豪奢な絨毯に立つアレイスターが魔法陣を組み上げようとしていた手を止め、彼女にまっすぐ対峙した位置でエリオットが宙に鎖を漂わせている。その中間で、バラバラにちぎれた人形の破片に囲まれ、正体を失ったジキルが低く唸って体を揺らし、三人を繋ぐ線の対角上に何者かが横たわる。そしてそんな一同の様を、階段に立つバン・ドレイルがグリモアを片手に睥睨していた。
 そのまま暫く、それぞれは互いの次の動きを窺うようにじっとしていたが、

「……おい」

 その停滞を、エリオットの声が破った。

「何が始まるのか知らないけど、僕らは――」

「おーっと動くんじゃねぇぜ、“鎖”くん。テメェは“保険”にするわ。勝手にトンズラは許さねぇ」

「……保険?」

 エリオットがジリリと警戒して後ずさりつつ、鎖を放つタイミングを窺う。纏う電光が静まっている今ならば、ジキルを“鎖”で引き寄せられるかもしれない。エリオットにとって、彼はまだ“必要”なのだ。

「知るかよ。なんのことさ」

 エリオットの返事に「チッ」と舌を打ったバン・ドレイルは、ちらりとグリモアに目をやった。そして先程よりも光が弱くなっているのを確認すると、姿勢を崩し砕けた表情で両手を広げた。

「落ち着けって、なぁ? いろいろ巻き込まれちゃったテメェの気持ちも分からんでもねぇがよぉ、今、テメェは生きてるよなぁ? つまりよ、すぐ殺しちゃってもいいところを、こうしてオレが生かしてやってるわけだ。それって“ちゃんと”してりゃあ暫くは安全ってことだろ?」
「……わかってるぞ。お前、『混沌』の眷属だろ? 人じゃないお前なんかに、僕らの何がわかるってんだ?」

 バン・ドレイルはやれやれ、といった風に息を吐き、目を細めて棺を見ると、

「“ルディアン”」
「……っ!?」
「正解だろ? その棺桶ガールの名前だぜ。しかもまぬけなテメェは『Rudien Vare(ルディアン・ベール)』だとか思ってるみてぇだが、そいつは“読み違え”だ。その女の本当の名は『Rudien Vane(ルディアン・ヴェイン)』」
「何で……」
「何でもさ! 『混沌』に連なるオレちゃんはなーんでも知ってんだよ! その女の“姉ちゃん”のことだって知ってるぜ? それに――その女の魂が、今“どこにあるか”もなぁ」

 エリオットの喉が嚥下した唾に震え、鎖がその動揺を表すように不安定に揺れる。

「……嘘をつくな。馬鹿にしやがって……」
「嘘なもんかよ! そもそもよぉ、こっから逃げてどうするつもりだ? まさかその死体ちゃんがマジで永遠にそのままだとか思っちゃってんのかよ。オレの見たところその体も“完璧”じゃねぇ。良く出来ちゃあいるが、じわじわダメになってってる。よく見てみろよ、ほら、その兆候が出てるぜぇ? そいつをずぅっと見てきたテメェなら違いに気付くだろう?」

 そんなわけがない。これまでそんなことは――そもそも、今棺の蓋は“閉じている”のだ。この男は、一体何をもってそんなことを言うのか――しかし、どうにも嫌な予感が頭を巡り、エリオットは恐る恐る棺の中を覗き込んだ。
 見た目は――変わらない。彼の守り通してきたルディアンのままだ。
 それなのに、気の所為なのかもしれないが、いや、それでも感じてしまった。ほんの僅かな――腐臭を。

「“思い過ごし”なんかじゃあないぜぇ? “不死身”のオレが言ってんだ。間違いねぇんだよ。けどよ、そいつが『死体』だってんなら“完璧に維持”する方法も無くはねぇ」
「……どう……しろってんだよ」

 必死に絞り出したようなエリオットの声に、バン・ドレイルがニヤリと笑みを浮かべた。

「今からよ、そこのジキルくんの記憶を戻さなきゃなんねぇんだ。そういう治療にゃあ魂に刺激を与えんのが一番、ってよ。『ショック療法』ってやつな? そこに転がってる“そいつ”がそれをやんだけどよ、失敗した時にゃテメェをジキルの前でぶっ殺す。逆効果かもしんねぇから今すぐにゃやらねぇよ? ただ最後までいい子にお付き合いしてくれりゃあ、『死体』のスペシャリスト――腕のいい『ネクロマンサー』を紹介してやってもいい」
「………」

 話にならない、非常に理不尽な提案をされているのは十分理解できていた。なのに、エリオットの心は何故かその言葉を受け入れてしまったようで、“鎖”が消え、灰緑の肌も人のそれへと戻っていってしまう。
 その様子を見たバン・ドレイルは、再び「ふぅ~」と息を吐き、

「アレイスターさーーん」

 今度は、目の端でこっそりしゃがみこみ、床に魔法陣を描き進めていたアレイスターに声を掛けた。

「なーんですか“それ”? 転送魔法陣? まさか逃げようってんじゃねぇだろうなぁ? オメェの仕事は“もうひとつ”残ってんだろうが。プロなら最後まできっちりやりきれよ。じゃなきゃ――“契約破棄”だぜ?」

 その言葉に、先程までの反抗的な態度はどこに行ったのか、アレイスターは「う~~」と口を突き出しながら渋々立ち上がる。
 バン・ドレイルはそれを確認すると、

「さぁて、最後はテメェだ。テメェはとんでもねぇことしてくれたよなぁ。テメェが、何をして、今から何をしなきゃならねぇのか“おさらい”といこうか。」

 階下で身を震わせて起き上がろうとする影に言った。

「テメェは『使徒』だった。使徒ってのは『混沌』の為に働く、それが仕事なわけだよなぁ。そんでテメェのミッションは『候補』を『鍵』に仕上げることだったんだが――その点、カリガリくんは良くやってくれてたぜぇ。ちゃーんと『候補』見つけて『忌み種』渡してよ、その上自分の望みを果たすことも視野に入れた組織作って、『鍵』が育ちやすい環境まで用意してくれちゃったってんだからよぉ、まったく出来た子だぜぇ……」

 影は返事をしない。代わりに、紡がれる言葉に反応して自身の形を取り戻していっているかのように、“黒い影”が剥がれ落ちていく。

「ところが、テメェはどうだ? その『忌み種』にこっそり手ぇ加えて、ジキルの“闇”に関わる記憶を“種”に食わせやがった! オレもぬかったぜぇ……テメェに憑かせた『リッパー』が、まさか『バルゼバブ』のババアのお抱え医師で、ババアの“『忌み種』改造”に一枚噛んでやがったとかよぉ……けどなぁ、“聞こえてた”だろう? にわかな知識で半端なことすっから“こんな風”に壊れちまうんだぜぇ?」

 バン・ドレイルが大げさに嘆息しつつ、親指でジキルを指す。

「『鏡』も気に入ってくれたしよぉ、テメェはわかりやすくひん曲がってて、見どころあると思ってたんだけどなぁ。まったく残念だぜぇ……そんなわけでよ、『アブ・オーウォー・ウスクェ・アド・マーラ(最初から最後まで)』な、こいつの効果もそろそろ切れちまう。“テメェら”の時間も残り少ねぇ。さっきも言ったがよ、『ショック療法』だ。ジキルが完全にぶっ壊れる前に、ちゃっちゃと食われた記憶が『忌み種』から吐き戻されちゃうくれぇ“強烈なの”をかましてくれよ。“テメェら”ならできる――そうなんだよなぁ、眼鏡?」

 その声が向けられた先で、影が削げ落ちてすっかり人の姿となった男が、ふらつく脚で立ちあがり、

「……ジョン…アターソンだ」

 と、ずれた眼鏡を直しつつ答えた。

 そして、バン・ドレイルの持つグリモアの光が消えた。

「ヴ……ヴ、ヴ、ヴ……」

 同時に体を揺らし俯いていたジキルが顔を上げて一同を見回す。

「ヴゥゥゥ……ヴァァアアアア!!!」

 その瞳は、先程よりも強く、相手が誰であろうと構わない、ただ殺意だけで塗り固められた赤い光を爛々と放っていた。
 そして巨大な右腕の義手が太く赤い電光を纏い、それが弾けると共に、横に走る稲妻のように駆けた。
 まず狙われたのは、やはりアレイスターか。赤く伸びた稲妻が――しかしそれは、アレイスターに至る半ばにて炸裂し、止まった。

「いいよー、眼鏡え。そのまま調子出して行こうかぁー」

 気の抜けた拍手ではやし立てるバン・ドレイルの歓声を受けたのは、ジョン・アターソン――体の半分を緑色に染めた彼が、右手の指先に生やしたナイフでジキルの凶爪を受け止めていた。

「……やぁ、エドワード……久しぶり」

 しかしその言葉に反応はなく、ジキルの目はアレイスターへと向いたまま――にも関わらず、振り下ろされた爪は、邪魔者を排除しようと激しい力で重く下へと押し込まれていく。
 ジョンは咄嗟に左手を添えて右腕を支えたが、押し返すことは適わず、敢えなく片膝を突いてしまう。

「エド……僕がわからないか? 僕がこんなところでこうしているのはさ……まぁ、全部僕の所為なんだけど――う、ぐぅっ!」

 突然その右腕が、不自然に肩から真っ直ぐ下がり、ボトリと――落ちた。
 別段ジキルの爪がそれを削いだわけではない。文字通り“落ちた”のだ。自ずと、まるで腐り落ちるように。
 しかしジョンは、構わずすぐさま左手にナイフを生やしてジキルの義手を受け直す。

「ぐっ……はは、驚いたかい? “契約のツケ”ってやつさ」

 弱っているのだ。細胞が、確実に――それでも体を震わせながら気丈に笑みを浮かべてみせるが、やはり、ジキルの赤い瞳に彼の姿は映っていない。その瞳から目を背けたいのか、既に体力が限界なのか、辛そうに目をきつく閉じて頭を下げたジョンは、

「やっぱり……そうだよな――アレイスター!」

 そのままの姿勢で背後に向かって呼びかけた。

「お前も“こう”なりたくなかったら奴との契約は守った方がいいぜ――“彼女”を、出してくれないか?」 
「………」

 アレイスターは――すっかり事態に興味を失くしてしまったようで、特に反応することなく髪先をいじりながらその声を聞き流していたが、「おーら、ご指名だぞー。仕事しろー」というバン・ドレイルの言葉に促されて渋々腰を上げ、

「う~~、気に入ってたのにぃ……できる限り治してあげたしぃ~、服だってちゃ~んと錬成してあげたしぃ~、長持ちするように大事な星ちゃんで作ってあげたのにぃ……」

 とぶつぶつ呟きながら空中に魔法陣を描き始める。そしてその中から、赤と紫の布を斑につぎ合わせ、胸に星形のアクセサリーをつけた人形を取り出すと、ぷうと頬を膨らませながら放り投げ、ウィッチズ・ルーンをかざした。
 すると、人形の腹が風船のように膨らみ――

「――ふぅ」

 眩い光と濃い煙が立ち昇り、それが薄らぐと、女が浮かんでいた。
 ジキルとよく似た、しかしクラウンが半分程のハットを被り、胸にキラキラとした星形のメダリオンを下げている。それに目が行くのは、服らしい服を身に着けず、その周りに露出した艶やかな仄白い肌故か。
 女は下を向いたまま、自身の鮮やかな赤い髪の先をつまんで眺めると、ゆっくり顔を上げ、

「なんだよ――怖い顔しちゃってさ」

 と、ジョンと対峙して揺れる、もう一人の赤い髪を見た。

「……おい……やれるな? “ハイド”」

 背後にその出現を感じたジョンが、顔を向けず、全身を震わせてジキルを押し止めながら語りかける。

「わからないけど、やってみるよ――なぁ、あたしはどれくらい眠ってたんだ?」
「けっこうな時間だな……僕の体を見れば……わかるだろ?」
「本当だ。お前、すごくボロボロだ」
「“厄介だ”って言ったろ……見てわからないか!? いいから代われよ!」
「ん……ああ、そういや、そんなこと言ってたっけ」

 言いながら、ハイドがおもむろに手をかざした。
 するとジキルを囲うように三冊の『本』が現れ、その表紙にガバリと“口”が開かれる。そして“口”から発せられた赤い光が、ジョンを圧し潰そうとするジキルの義手を弾き飛ばした。
 衝撃でジキルがよろけ、その隙に転がる様にしてジョンが距離を取りつつハイドの傍に寄り、息荒く膝を突く。

「“彼女”は……?」
「だから、わからないよ」
「……おい。僕同様、お前の“時間”だってほとんど残ってないんだ。この時の為に奴らに頼み込んで、お前の体を維持させてきたんだぞ? ここを乗りきらなきゃお終いなんだ。僕たちも――」

 二人は、再び体勢を整えて赤い電光を纏い始めたジキルを見つめた。

「――彼も」

 先程の『本』の攻撃が気を引いたのか、ジキルの視線がハイドに向いた。
 ハイドも怯むことなく見返して前に出る。
 ジキルは何かを探っているようで――また“悪人かどうか”だろうか――しかし今度は直ぐに仕掛けてこない。

「ふぅん……本当にわからないんだな、あいつも」

 ハイドはその場を動かず、今度は自分の左右に『本』を呼び出して赤い光を放った。
 二筋の衝撃がジキルの脇を掠めて通り過ぎる。

「……ヴゥ……」

 それに機械的に反応するように、ジキルが体を傾けゆらりと一歩踏み出した。
 だがまだ、仕掛けて来ない。
 いったいどういう――ハイドはジキルが誰かを傷つけるところを直接見たことはなかったし、こんな風にやり合うのも当然初めてだった。いったいジキルはどう人を殺すのか――どんな力で、どんな速度で、どんな、敵意を込めて――。
 まずは動きを止めた方が良いのだろうが、もう一度だけ反応を見てみようとジキルの足元に光を放つ――

「……?」

 が、ハイドは小さく首をかしげた。放った光が、狙いよりズレた空間を捻じ切ったからだ。
 しかしその一射で今度こそスイッチが入ったか、

「……ヴ……ヴヴ……」

 ジキルの纏う電光がにわかに数を増してゆき、交互に運び始めた脚はハイドとの距離を徐々に詰め始めた。

「………」

 ハイドは軽く後退しつつ、先に出した三冊の『本』を全てジキルの前に回り込ませる。そしてそれ以上近づかせまいと、今度は機械の手足を撃ち抜くつもりで、左右合わせ五冊の『本』全てから光を斉射した。
 しかし――それらは全て、的外れの方向へと飛び、消失した。

「え……」

「……ヴヴ…ヴヴヴゥゥゥゥゥ……!」

 さらにジキルの歩調が速くなり、すれ違いざまに一番手前に浮かんでいた『本』が斬り裂かれた。同時に、“焦り”なのか、常に無表情なハイドの目元に小さな皺が刻まれる。
 その様子に、

「クソッ……何やってんだあいつ!」

 ジョンが立ち上がり声を荒げた。

「おい! いいから、早く“あいつ”を出せ! さんざん試したろ!?」
「………」

 しかし、ハイドは苦しそうに顔をしかめたまま、さらに『本』を呼び出すばかりで――。



 一方、再び階段に座り込んで事態の推移を眺めていたバン・ドレイルは、またもや「チッチッチッ」と舌を打ちつつ、苛立たし気に膝を揺すっていた。

「おいおいジョンくんよぉ、全然ダメじゃねぇか。やっぱ人間ってなぁ信用できねぇ。魂のメカニズムが不安定すぎるんだよなぁ……はぁ~~、やっぱさぁ、手っ取り早くバシッと目の前で知人が殺されちゃったりする方が効くんじゃねぇの?」

 と一人ごちつつ、ちらりと階下のエリオットを見やる。


 そのエリオットは――葛藤に顔を歪ませていた。

(助けに入るべきなのか……でも、どっちの――)

 ルディアンを蘇らせるために今まで共に協力してきたのはジキルだ。そのジキルが正体を失い暴走している。それも今まで見たことの無い程に……。もはや今回ばかりは正気を取り戻せるか分からない。それを、突然現れた『混沌』側らしき二人が攻撃している。二人はジキルの知人で彼の記憶を取り戻そうとしているようだが――それに手を貸すということは、『混沌』にルディアンを託すということで――。
 そう混乱し、ただ、事態を見守ることしかできないでいた。

 そしてアレイスターはというと、いつの間にか階段に上がり、バン・ドレイルの横に座り込んでいた。

「ねぇバンく~ん、これいつまでやるの~?」
「ああ? ジキルが記憶取り戻すまでだよ」
「でも~、彼って~、あの『ハイド』って子の体使って“違う子”を蘇らせようとしてたんだよね~?」
「ああ、『エマ』とかいう女な――確かにそこらへんをとっとと思い出して闇ブーストかけてくれっと『鍵』としちゃOKなんだけどなー。このままじゃ『種』に飲まれてお終いだぜぇ……」
「でも~、その子の魂も~、あの子の体の中にあるっぽいんだよね~?」
「でもでもうるせぇな……それがどうしたよ!?」
「ん~~」

 アレイスターは頬杖をつき、改めて階下で争う三人を見つめると、

「じゃあ、やっぱり無理なんじゃないかな~~」

 そう、退屈そうに欠伸をこぼした。



 * * * *



「ハイド! “あいつ”を呼べ!」

 焦るジョンの声がホールに響き渡る。
 しかし――

「やってるよ……」

 ハイドは体を固くして、迫るジキルを見ているしかできないでいた。

「呼んでるんだ……でも――」

 瞬きもせずハイドを赤く光る眼で見つめたまま、ジキルが『本』を斬り裂きつつ近づいてくる。もはや、あと数歩でその爪は彼女の白い肌に届くだろう。

「ここにきて、ふざけるなよ……!」

 堪らず駆け寄ったジョンがハイドの腕を掴んで下がらせると、左手の甲で思い切り頬を打った。

「おい、どうした! 出て来いよ――“エマ”!!」

 勢い倒れ込んだハイドは身を起こすと、口の端から流れた赤いものを拭い、

「やってるって……言ってんだろ!!」

 赤い衝撃と共に大量の『本』を呼びだした。
 その衝撃でジョンは階段下まで吹き飛ばされ、呼び出された『本』たちが唸りを上げてジキルへと飛んでいく。そして“表紙”の口を大きく開くと噛みつくようにジキルに纏わりつき、その体を何重にも抑え込んだ。
 だがすぐに、チリチリといった音と共に、その隙間から細い煙が立ち昇り始める。ジキルの電光が内側からじわじわ『本』を焼いているのだ。ならばこの戒めも、程なく解かれてしまうことだろう――。

「クソッ、どうしたってんだ……!!」

 ジョンが床を殴る――そこに、

「ねぇ~ジョンくんさ~~」

 と、頭上から気の抜けた声が降ってきた。
 振り向いて階段の上を仰ぐと、そこに座るアレイスターが、

「人の魂って~、“一つの体に一つだけ”が“ルール”なんだよね~」

 退屈そうにハイドを眺めながら、そう言った。

「いったい何の話だよ」
「なのにあの子が動けてるのは~、あの子の中で二つの魂が~、“一つ”としてバランスとれてるからだと思うんだな~。『五席』くんとハイドちゃんの魂は元々一つなわけだから~、今はお互い“欠けてる”わけなんだけど~、『五席』くんの魂は『忌み種』が補完してくれてるみたいだし~? でも~、ハイドちゃんのは“欠けたまま”なんだよね~」
「……何が言いたい」
「だからハイドちゃんは~、エマちゃんの魂が目覚めて“完全な形”になるとはじき出されて消えちゃうし~、エマちゃんの魂を抜き出しても~、形を保てなくてやっぱり消えるしかないんだよね~。あの子もそれわかってるんじゃないかな~」
「それって、つまり……」

 アレイスターは一つ欠伸を挟んでから、眠たげに目をこすり――


「あの子ぉ、消えたくないんじゃない~?」


「うげ、マジかよ。めんどくせぇ……」

 アレイスターの横で話を聞いていたバン・ドレイルが辟易とした様子で顔をしかめ、額に手をつく。

「………」

 ジョンは改めてジキルと対峙するハイドを見た。
 後ろからでその表情を見ることは出来ない。
 しかしその荒く息を吐き肩を上下させる背中は、日常殆ど無感情でいるハイドが感じているであろう、今までではあり得ない程の焦りと緊張をありありと物語っていた。

「まさか……なんで今さら……」

 ジョンは考えた。考えるしかないし、今ここで、最速で、最善の“答え”を出すしかないのだ。
 ハイドは始終「消えたい」と言っていたし、ジョンもそれならそれでよく、そうではない可能性など気に掛けたこともなかった。
 “あの日”、ジキルのアパートメントでジョンがハイドを消そうとしたとき、彼女は激しく抵抗した。そのときはただの“敵意”かとも思ったが、後にそうではなく、彼女は「ジキルによって消されたい」と強く思っていることがわかった。
 だからこそ、今まで協力させてこられたわけだし、今がその正念場なのだ。
 今、ハイドはジキルと対峙している。しかしあのジキルはジキルであって、“ハイドの望む”ジキルではない。『忌み種』に特定の記憶を喰われ失っており、ハイドが三週間共に過ごし、「こいつならちゃんと消してくれる」と認識したあのジキルではないのだ。

(それでも、「ジキル」だからこそ“敵意”を向け切れていない……? いや――違うのか……)

 “敵意”――ハイドの敵意を表す、『本』。
 以前、ハイドはあの『本』を自身の“殺人衝動”だと言っていた。
 暴走したジキルを抑え込み、その記憶を取り戻すことは、きっとエマの完全な覚醒につながる。アレイスターの言う通り、それが「誰の手にも因らない自身の消滅」を意味すると捉えているのならば、あの『本』があそこまでジキルに決定的な攻撃をできないでいるのも頷ける――しかし、それは“すぐ”のことなのか? “望むジキル”に戻る方が先かもしれないではないか。
 だがどうあれ、あの『本』の動きを見る限り、ハイドが何がしかの理由で「消滅」を忌避しているのはやはり確定的なのであろう。
 心境の変化の原因――いや、それよりも重要なのは、ジキルの魂に呼びかけられる者は、きっとエマしかいないということだ。
 そのエマが表に出ることを、ハイドが無意識に封じてしまっている。
 だとしたら、“答え”は――

「おい、アレイスター」
「ん~?」
「“聞こえてた”ぞ。本当にできるのか?――『生きた魂の保存』」
「ん~、できるよ~」
「そして、魂の無い“死体”なら保存できる――そうだな? バン・ドレイル」
「ああ? ……まぁ、オレがやるわけじゃねぇけどなぁ」
「ならアレイスター、今すぐ、“ハイドの魂”を“移せ”!」
「え~~、できるけど~、もう“空のポコちゃん”無いから移す先がぁ……」

 言いながらアレイスターはハイドを見つめ、

「あ。あるかもぉ……ええ~でも~、あの“星ちゃん”貴重なやつだし~、そもそも無理矢理だし~、“片っぽだけ”とかは無理かな~、それは自分で“選んで”くれないとね~」
「どういう意味だ……教えろ! どうすればいい!?」
「え~~~」

 階段を上り激しく詰め寄るジョンに、身を引いてアレイスターが口を尖らせたところで、

「はあ~~~、めんどくせぇ!!」

 ダンッ、とバン・ドレイルが階段を強く踏み鳴らした。

「いいからとっととやっちまえ! アフターサービスもプロの仕事の内だろが!? オレは忙しいんだよ! とにかく――い そ げ」



 * * * *



「ヴゥ……ヴゥアアア!!」

 ジキルが吠え、とうとう全ての『本』が消し飛んだ。
 ハイドは小さく唾を飲みこむ。
 もう、ハイドの前に、ジキルを止めるものは何もない。
 その時、突然ハイドの体が鈍く光り始めた。

「……うぅ!」

 同時に体の奥底から何かが突き上げてくるような、胸を掻き毟りたくなるような、えも言われない不快感が全身を襲う。
 誰かが、自分に何かをしたのか――背後を振り返ると、階段でアレイスターがウィッチズ・ルーンを幾つも描き重ね、複雑な魔法陣を組み上げていた。

「ぐっ……なんだよ――」
「ヴゥゥアアアア!!!」

 ハイドの洩らした苦鳴交じりの言葉を、ジキルの咆哮が掻き消す。
 まずい――そう思った瞬間、ハイドの脇を何者かが駆け抜けて、駆け出そうとするジキルに正面から組み付いた。
 ジキルは更なる咆哮を上げ、激しい電光を放つ。
 大量の煙と肉が焦げる匂いが漂った。それはもちろん彼に組み付いている者――ジョンから立ち昇るものだった。

「……聞けハイド! いいか、今お前に術が掛かってる! イメージしろ! その胸の“メダル”にお前の魂を移すイメージだ!」
「………!」

 絶え間ない不快感と緊迫した状況、突然のジョンの言葉、全てがない交ぜになって混沌とし、ハイドはただ顔を歪めることでしか応えられない。

「“お前を消さないでおいてやる”って言ってんだ! “お前の魂”をその“メダルに移す”! そうすれば――――っ!?」

 その時、さらに激しい電光が弾け、ジョンの半身を焼いた。

 眼鏡が吹き飛び、ジキルを抑える左の腕と顔の半分が無惨に焼けただれる――それでも、ジョンは放さない。

「ヴ……ヴヴ……」

 しかし、ジキルはまるでその存在を認識していないように、ただ自動的に、強引にジョンの体ごと足を前に運び、押し進み始める。

「なんだよ……」

 とうとう、ジョンの腕が放れた。

「エドワード!!」

 そしてその腕は、

「たまには……僕の気持ちもわかれよ!!」

 ジキルの顔面を思い切り殴り飛ばした。
 ジキルの上体が揺れる――しかし、それより大きく体を斜めに傾かせたのはジョンの方だった。
 グシャリという嫌な音を立てて倒れ込んだ彼の左足は、ドロドロに溶け崩れていた。

「ちくしょう……早くしろおお! ハイドおお!」

 それでも必死に叫び上げるジョンに、ハイドは苦悶の表情を湛えたまま、

「エマは……どうなるのかな」

 そうポツリと漏らした。

「だから、お前が“抜ければ”エマが出て――」
「……でもさ、この体はもうすぐお前みたいに崩れちゃうんだろう? そうしたらここに残ったエマは――そう……したらさ――」
「――おいっ!!」

 声が裏返り、絶叫にも似たジョンの声がハイドの言葉を遮った。
 ハイドが顔を上げると、半身を焼かれ、右腕と左脚を失い、床に突っ伏したまま――それでも左腕を突っ張って身を起こそうとするジョンの視線が突き刺さった。


「ごちゃごちゃ考えてるなよ、メス豚が」


 傷と、血と、涙がぐちゃぐちゃに混ざった、それでも強い意志を託そうとする声と、視線が、


「“あいつ”は、絶対に消えない」


 そうはっきりと告げた。


「ヴアアアアアア!!」

 ジキルが吠え、赤光ともに床を蹴った。今度こそ、魔療術によって強化された身体が瞬光の速度で撃ち出される。
 果たして、ハイドはジョンの視線をどう受け止めたのか、

「確かに――ごちゃごちゃして、あたしには難しいな」

 目を閉じ――。
 瞬時にハイドの前に移動したジキルの、最大限に赤く帯電した巨大な義手が、背中側の地面に着きそうな程に振りかぶられて―― 

 ハイドは――頭を下げていた。

 目を閉じたまま、その凶爪を甘んじて受けようと言わんばかりに――いや、違うのか――その両腕は開かれ、指先が見えない何かをつまむように優雅に持ち上げられている。左足を斜め後ろに軽く引いてクロスし、右膝を軽く曲げ、さらに頭が下がる。
 それは何かの作法のような――そう、“彼女”の“とっておきの挨拶”だった。

 そして彼女は顔を上げる。

 浮かべられた微笑みは至極穏やかで、ジキルを見上げるその目は、相手がどのような姿であろうと、どのような業を背負っていようと包み込む、ただ純粋な、愛おしい者を見る目だった。
 そうして差し出された彼女に手に、振り下ろされたジキルの義手の爪先が――そっと、置かれた。
 わずかに肉が焦げる音がした。しかし、そんなことは気にならない程に静かな空気だった。
 まるで、今からホールに静かなワルツが流れ、恋人たちがダンスを踊り始めるような――。

 ジキルの瞳から赤い色が抜け落ちて、


「……エ……マ……」


 涙のように頬を伝った。


 そして彼女は――


「ごめんな」


 なんというか、困ったような笑みを浮かべていた。

「なんだか、少ししかダメだった」
「……ハイ…ド……」
「あたしはさ、お前を泣かせることはできそうだけど、“あんな風”に笑わせることはできなそうだ」
「……僕は……」
「今度、練習してみようかな、エマみたいにさ――でも、もう無理か」

 少しだけ、ジキルの爪を握る白い手に力が入る。

「なぁ、あたしが“この体”を生かしてやるよ。だから、あとはお前がなんとかしろ。できるよな?」
「……うん……」

 消え入りそうなジキルの返事に、ハイドは安心したような、少しだけ、諦めのようなため息を吐くと、


「バイバイ、ジキル」


 そう言って、ふわりと羽のような軽さで後ろに倒れた。
 ジキルが慌てて身を乗り出し左手で抱きとめたが、もう、その体は冷たくなっていた。
 仄白い肌から輝きが失われ、代わりに胸に乗った星形のメダリオンだけが光を灯していた。
 鈍く、それでいて温かい、命を得たような光を。



 * * * *



 ジキルが目を開けると、少し離れたところで誰かが座り込み項垂れていた。
 地べたに腰を下ろし、膝を立てて、その間に頭を深く下ろしている。

(あの細い背中は――エリオット)

 二人が共に旅をしていた時、夜にエリオットがそのような格好で考え事をしているのをよく見たが、なんだか今のシルエットには違和感があった。

(ああ――無いんだ)

 いつも抱えている、棺が。
 次いでサワリと真上に人の気配を感じたので首を巡らすと――やはり知った顔が彼を覗き込んでいた。
 その顔はジキルが目覚めたことに安堵したようで、でも、とても疲れたような目をしていた。

「やぁ――――」

 ジキルは言いかけ、

(……誰だっけ――――知っているのに――)

 言葉を止めたが、その男は特に気にする風もなく、

「大丈夫かい?」

 と、熱の有無を確認するためだろう、軽くジキルの額に右手の甲を当てた。
 男の目の印象が、ジキルの知る彼よりも少し柔らかかったので気付かなかったのか、声を聴いたら、すぐに彼が誰なのか思い起した。

(――ジョン――そう、ジョンだ――あの、ジョン・アターソン……)

 ジョンはいつ頃からか、よく手袋をするようになった。それが、今日は外されている――そんなことを思いながら、頬に当てられた少し血色の悪い右手を眺めていると、

「――ああ、“これ”か。“契約条件達成”の報酬だってさ。脚や顔も、奴が直していった。“これからもしっかり働けよ”ってさ、ご丁寧に眼鏡までね。正確には“戻した”だけらしいが……何なんだろうな、『混沌』ってのは」
「……奴……?」
「バン……あのフードの男さ。もう行っちまったよ。なんでも“忙しい”そうだ」

 ジキルはまだ意識がはっきりしないようで、わかったような、わからないような、どちらともつかないぼやけた表情でジョンの話を聞いている。

「やっぱり、どこか傷むかい?」
「そうだね……あちこち。筋繊維かな……でもなんだろう、顔も痛い」
「ああ……それは……」

 ジョンはなんと説明したらいいだろう、といった風に眉を寄せた。
 しかし、傷んでいる、というのならばむしろ周囲の状況だろう。
 彼らが居るホールは、あちこちに布だか肉だか知れない不気味な破片が無惨に散ちらばり、床や絨毯、壁が焼け焦げ、割れ、破壊の残滓に満ち満ちていた。
 その中で一人は横たわり、一人はその傍で膝を突いてしゃがみ込み、一人は彼らに背を向けて座り込んでいる―― 三人の居住まいは、一見部屋の様子によく溶け込んでいたが、彼らの妙に落ち着いた雰囲気は、その景観を皮肉めいた風刺画のようにも見せていた。

 ジキルは深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出してから、

「ごめん……これでも、驚いてるんだ。君がいることに……」」

 そう言った。しかしジョンは至極穏やかな声で、

「わかるよ、パブリックスクールからの付き合いだぜ?」

 と返す。
 そして、少しだけ沈黙を置いてからジキルが、

「なんだか……すごく疲れたよ……」

「だろうな」
「ジョン……」
「ん?」
「……エマに、逢えたんだ」
「そうか」
「たぶん……なんだけどね」
「そう」
「……けど……そうだ……ハイドを……」
「うん」

 話すうちに、まっ白なキャンバスに少しずつ色が置かれて行くように、ジキルの脳裏に先程の“赤い目”で見た出来事が描かれて行く。

「……いろいろなことがあって……一遍に思い出すと、ぐちゃぐちゃで……ハイド……そうか……」

 そしてジキルは、目を閉じた。

「ジョン……君は、全て知っているんだね」

 ジョンもまた、目を閉じる。

「ああ、知ってる」
「それなのに――」

 ジキルの言葉をジョンは待つ。
 身を固くして、宣告を待ち受ける罪人のように。
 再び落ちた沈黙が息苦しく、膝の上に乗るジョンの拳が小さく握られる。

「――今、君がここに居てくれて良かった」

 ジョンは目を開いた。

「そう……そうかい」

 そう答えると、細く揺れるような息を吐き、そしてゆっくりと腰を下ろしてから膝を抱え、その中に、顔を埋めた。
 彼の仄かに身を震わせる気配に目を開けたジキルは、心配気にジョンの方へと顔を向け、

「なんかごめん……あとでゆっくり話そう」
「ああ――僕も全部、話すよ」

 そう膝に頭を埋めたまま答えるジョンへと左手を伸ばし――そこでやっと、自分がその手に何かを握っていることに気付いた。
 しっかりと握り込みすぎて固く軋む指を開くと、そこにあったのは「星形のメダリオン」だった。
 突然――頭のキャンバスの全てが埋まった。
 ジキルはぐっと身に力を入れ、痛みを押して上体を起こす。

「……ただ、ひとつだけ聞かせて欲しい。ジョン、“彼女”は、どこに――」
「――連れていかれたよ」

 返事は、別の方向から返ってきた。
 声の方を見ると、エリオットが背を向けたままジキルに横目を向けていた。

「その“バン・ドレイル”とかいうフードの奴に――僕のルディアンも一緒にね」
「連れていかれた……」
「“担保”だそうだ。あんたと僕が、奴らにしっかり協力するように、って」

 そう話す目は、とても昏い。

「エリオット……」

 ジキルは、改めて手に握るメダリオンを見つめた。
 魔術の触媒として使う、ウィッチズ・ルーンが薄く彫り込まれた純銀のメダリオン――何か、鈍い光を放っている。
 それが、つうと何者かに持ち上げられた。

「あは~、起きたんだ~~」

 見上げると、いつの間にかジキルを跨いで正面に立ったアレイスターが、メダリオンをつまみ上げていた。

「これ持って気絶しちゃったから~、“ショック”が強すぎたのかと思ったよ~。でもちゃ~んと記憶戻ったみたいで良かったね~~」

 ジキルは思わずメダリオンへと手を伸ばしたが、アレイスターはさっと後ろに飛び退り、いたずらっ子そうな顔で「ふふ~ん」とそれを高く持ち上げて揺らす。そして興味津々といった様子でメダリオンを覗き込むと、

「あ~~、やっぱりね~、ここに入ってるのは“エマちゃん”だ~~」
「――エマ……」

 その言葉に、ジキルは断片的に浮かんでいた記憶の絵を的確につなげ、はっきりと理解した。

「エマの……“魂”が……」

 そして少し逡巡したものの、立ち上がり、思い切った様子で訊ねた。

「ミス――教えて欲しい。ハイドは消滅したのだろうか?」

 アレイスターは、「ん~~」と顎に手を当て、

「どうだろ~? でもあの体に残ってても~、きっと意識は保ててないだろうし~、いつかは消えちゃうと思うよ~。“選ぶ権利”はあの子にあったんだし~、自分を移せばよかったのにね~、なんでそうしなかったんだろ~?」
「それは――そのメダリオンになら、彼女を消滅させずに移せるということだろうか?」
「ふふ~ん、これ“体”じゃないから保存するだけだけどね~~。でも~、“完全なエマちゃん”がこの中にいると“ぶつかっちゃう”から~、先にエマちゃんをどっかに避けないと無理かな~~」
「そう……なのか――」
「エド……」

 考え込むように下を向くジキルに、ジョンもまた立ち上がり――

「そんなこと聞いてどうするのさ」

 そうエリオットが口を挟んだ。

「彼女たちの体はもう僕らの元にないんだ。魂だけあったって……僕はどうかしてた。なんであの時……」
「ん~~大丈夫じゃないかな~? バンくんが『サービスでキレイに保管しといてやるぜぇ』って言ってたじゃな~い? あの人~、そういうところ変にきっちりしたがるからね~。『混沌』ちゃんのサービスなんか~、受けてもろくなことにはならないだろうけど~~」
「ろくなことって……あんた、それをわかっててよく笑ってあいつらに付き合ってられるな」
「だめ~? 別にいいんじゃない~?」
「そんなわけ……」
「あたしは楽しければいいの~。自分がしたいようにしたくて~、面倒なことはやらないし~、君たちもそうでしょう~? そう見えるけどな~~」
「何がだよ?」
「だって、ここに居る人たち~~」

 アレイスターは一同を見回すと、

「み~~んなろくでもない“悪人”じゃな~~い」

 そう、さもあたり前のように言って笑った。
 彼女に言葉を返す者は無く、居たたまれない静寂が流れたが――

「……そうか」

 そこに小さく、クスリと笑い声が混ざった。
 笑ったのは――ジキルか。

「そういうのは、あまり考えたことがなかったかな」
「エドワード……?」

 ジョンが心配げに見つめる中、ジキルは一人そのまま肩を揺らしていたが、

「うん、わかりやすくていいよ――それなら、何も諦めることはない」

 暫くして落ち着くと、周りを見回して傍に落ちていたハットを見つけて拾う。そして――

「私は行くよ。ミス、案内してくれないか?」
「行ってどうするのさ」

 今だ背中を向けているエリオットが訊ねる。

「“しっかり協力をするように”、なんだろう? ならそうするよ。そして――私は彼女とルディアンの体を取り戻そうと思う。『ネクロマンサー』の知り合いなら私にもいてね……取り戻して、魂を『再結合』する方法を探す」

 それを聞いたエリオットは少し黙って下を向いていたが、

「そうしてもらわなきゃ困る」

 そう言って彼もまた、立ち上がった。

「僕はルディアンが戻ればなんでもいいんだ。“紅蓮のやつら”のこともどうでもいい。あんたも、“後でやっぱり”は無しだよ?」

「うん……どうやら私たちは、“世界の運命”と言える程の、とてつもなく大きな流れに巻き込まれてしまったらしい」

 そしてジキルはハットに着いた埃を掃い、

「けどね、生憎、私の世界はとても小さいようだ」

 そう目深にハットを被ると、アレイスターに向かって頷きかけた。

「それじゃ早く行こ~~。疲れたし~、『ポコちゃんお風呂』入りたいし~~」

 そうと決まればと、アレイスターは小さな石をローブから取り出してしゃがみこみ、いそいそとカリカリ床を削って転送魔方陣を描き始める。
 その前で佇むジキルの背中をじっと見つめていたジョンは、彼の肩にそっと手を置き、

「いいんだな、エドワード」

 と訊ねた。
 瞬間、ジキルは微かに体を揺らしたが、振り向くと垂れた赤い髪の隙間からジョンを見て、


「うん――どうやら、それが“僕”らしい」


 そう言って、やはり、困ったような顔で笑った。 |

考察
超覚醒アビリティ中のトライブサポートはATK+10
アームズの固定値増加量は+3。速度低下は微々たる程度
【紅】魔威太のアビリティの追加ダメージでもこの増加量は加算される。他の多段ヒットする使い魔でも同様の効果が見られるかは要検証(イセリア・クイーンやダブルヒットを持つ使い魔など)
ツクヨミのマテリアルと合わせると8ダメージの増加ができる上に速度低下も重なるので全凸において一考の余地あり。というよりも、恐らくそれを想定したアビリティ構成であろう。
なお、スリップダメージでは加算されない。(アシュトンのアーツやポイゾアタックなど)

キャラクター説明
本文


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最終更新:2020年02月21日 13:22