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Ver3.5 |
Ver3.5 |
身長 |
改造すればいくらでも大きく |
体重 |
改造すればいくらでも重く |
一に |
チェザーレ |
二に |
チェザーレ |
三、四が |
改造 |
五に |
チェザーレ |
イラストレーター |
猫将軍 |
フレーバーテキスト |
「――結局はなぁ、どんだけ“死体を愛せるか”っつぅことやねん」 不気味な“口”が縫い付けられたシルクハットをかぶった男は、手に持った楽器のような、何かの生き物の骨のような道具を愛おしそうに弄びながら言った。 「……死体を……愛せるか……」 「せや、愛、愛するんや。魂とか生前の思い出とかそんなんより、死体そのものを愛しいと思う。それが動けばいいなぁ、ってな? ほれ、めっちゃ好きなぬいぐるみが命持って動けばええのにぃとか、そんなん思うことあるやろ? あんな感じな」 そう言ってケヒャヒャとあげる笑い声が、一本の蝋燭に淡く照らされた暗い七角形の部屋に響く。 ハットの男はグラスに注がれた赤黒い液体を飲み干すと、「おかわり、もっとないん?」と目の前の黒く横長い箱にグラスを置いた。 箱を挟んで正面に座る紳士然とした壮年の男は、いそいそと鞄から新たなボトルを取り出し、恭しく液体を注ぐ。 「おほぉ~すまんなぁ~。しっかしこれ美味いわぁ、これもあんたが作ったんやろ? こんど作り方おしえてぇな――んで、なんやったっけ……せやせや、つまりな、あんたの敗因は“愛の在り方”やねん。確かにあんたにも“この死体”への愛はあるんやろうけどな、その愛は死体そのものやのぅて生前の“こいつ”への愛、それが強すぎたっちゅうこっちゃ」 そう言いながら指でコツコツと黒い箱を叩く。壮年の男は眉間にしわを寄せてその指をじっと見つめた。 「――でもまぁ、見よう見まねでここまでやれたんは驚嘆するわ。こらもうただの死体やない。現に“こいつ”は『死の生』を得とる。動きゃせぇへんけどな――しっかし、ワイらにこの発想は無かったでぇ……それをひとりでここまでつきつめて形にしたんは正直凄い思うわ。言うたらあんた、ネクロマンサー界のニューウェーブっちゅうやつやで」 「……そう、なんですか……」 「でもな、失敗は失敗や。魂がちょびっとこっちにあるけど、残りはぜ~んぶはあの世に定着しとる。こうなってもうたらもうあかん。こっから無理にゾンビに仕上げよう思ぅても、ワイかてやっと動かせるかどうかっちゅうとこや。言葉すら話せんのとちゃう? 生前の記憶なんか絶望レベルやで……つまりな、上手く行ったとしても『生きた死体』でありながらほとんど今みたく眠っとる――いわば『眠り男』やね。クリスティアンはん、もっかい聞くけど――」 男はにやにやと笑顔を浮かべたまま、 「――それでも、ほんまにネクロマンサーになりたいんか?」 と尋ねた。 「……はい」 クリスティアンと呼ばれた壮年の男は、両手を組んだまま箱を見つめて答えた。 「……私は、どうしても彼を蘇らせたいのです。今は生きた死体のままでもいい……しかしいずれは――あなたの言う屍霊術の教義には反するのでしょうが――私の研究で、この棺に眠る彼を生きていた頃の、あの美しい姿へと……」 そう言って愛おしそうに黒く横長い箱――“彼”の眠る棺を撫でながら目を細める。 「彼は、医者であり、研究者である私の唯一の理解者でした。異端とされ、変人と排斥され続けた私を彼だけは認め、助手としてついて来てくれた。彼は私の支えであり――いやむしろ、私はそんな彼のために研究を続けていたと言ってもいい。そうして私たちは“検体”を求め、巡業の医師を称して旅をしていたのですが――あんな村、行かねば良かった……」 クリスティアンが自らの足元――黒い箱の傍らに横たわる“それ”に憎々しげな視線を送る。 「まったく思いもしなかった――そんな彼が、こんな蒙昧な村娘にたぶらかされ、愚かな逃避行の果てに命を落とすなど……」 「そうかそうかぁ……そら辛いやろなぁ……うぐっ……けどなぁ、ワイらは『生ける屍』が専門やし……」 ハットの男は言いながらめそめそと涙を流し、「帽子の口」からハンカチを取り出しそれを拭いていたが、急にハンカチを放り投げると、 「いや、あかんあかん! ワイも音に聞こえたネクロマンサーや! そんな狭義なこと言っとったら業界の未来を狭めるだけやもんな! よっしゃ、任しときぃ! この『墓場のロイド』さんがいっちょあんたを立派なネクロマンサーに仕立てたるわい!」 と勢いよく胸を叩いた。そして今度は帽子から手帳を取り出してパラパラめくり、 「そうと決まりゃあ担当死神はんを決めなあかんな……今そんなけったいな願い聞いてくれるんは……お!」 と声を上げると、燭台に照らされて長く伸びるクリスティアンの影に目を向けた。 「あんたならええやろ? 『十字架男爵』」 大きな影がぶるりと震え、中からぷかりと紫煙が流れた。
≪ニョホ! 面白いねぇ~ “死体を生き返らせたい屍霊術師”かよぉ~~ いいねいいねぇ~新しいねぇ~~≫
影から声が響き、中からぬるりと、葉巻を咥えて山高帽をかぶった、高い天井に頭をすりつけ腰を曲げる程に長身の男が現れた。 「さすが男爵はん、あんたならそう言ってくれる思ったわ!」 「ニョホホ、ロイド~~いい物件だねぇ~~~ 歓迎するぜぇ~~! それで、“土産”は何をくれるんだ~い?」 ハットの男――ロイドがクリスティアンにほれほれと手をヒラヒラとさせて言葉を促す。 クリスティアンは自分の震える指を見つめると、そっと黒い棺――その傍らに横たわり、目を閉じてゆっくりと胸を上下させる“女”を指さした。 「――彼は死んだのに、この女だけがのうのうと生き残った……絶対に、絶対に許されない……私は捧げる――私の魂と、こいつ……彼を貶めたこの女の魂を……私の大事な大事な、彼の暗愚な生きる希望を、彼の……チェザーレが真に蘇った時の悲しみを……!」 「はぁ~~ 悲しい選択やねぇ~~ 愛やねぇ~~ 涙ちょちょぎれるわぁ~~」 ロイドは再び取り出したハンカチで溢れる涙を拭きとると、それをまたもやポイと投げ捨て十字架男爵――死神ゲーデの方を向く。 「ほな、始めよか。準備どないです、男爵?」 「準備ぃ? ニョホホ、もう“終わった”ぜぇ~」 見ると、紫煙をくゆらせるゲーデの片手には、いつの間にやらコロコロと転がる、ぼんやりとひかる光球がふたつ――。 「こっちのがジェーンとかいうその女、そしてこっちがクリスティアン・ローゼンクロイツ――君の魂だね~~ ニョホ、ようこそ、不死の世界へ~~」 「おやま! さすが男爵! なんとも手が早い!」と、手を叩いて笑うロイドに、目を剥いてゲーデの持つ魂を見やるクリスティアン――横たわる女の胸は、もう動いていない――。 「おお……それが私の……魂……」 「やぁ、めでたいわぁ~~ ほなら祝いをせな! まずは『帽子』やな。このまっ黒い『シルクハット』、こりゃワイらのトレードマークみたなもんやねん。とびきりかっこえぇのを贈ったるわ! そのうち仕事が板について、『流行り唄』までできたら一人前や!」 「……私の……魂……私…わた…わ……わが…はいは…ひっ……ひひひひひ……魂を改造した……のである……チェザーレェ、待っているのであぁる……ひひひひひひ……」 ゆらゆらとまっ青な顔で立ち上がり、女の亡骸を踏みしめたまま黒い棺に頬ずりしながら笑みを浮かべるクリスティアン――その様子を眺めながら、ロイドは満足そうにグラスを傾けて、中の液体を一気に飲み干した。 「それともうひとつ、この『忌み種』もやるわ。これはあんたの夢の実現にきっと役に立つ。長くかかるやろうけど、無限に近い命を手に入れたんや。研究結果、楽しみにしとるでぇ――ほな、教会に、福音を」
* * * *
常に霧が立ち込めるその街は、日が落ちてさらに陰鬱さを増していた。 まばらな街灯は自らの足元を狭く照らすだけで、光の届かぬ狭間は闇をいっそうに濃くしてゆく。 通りを歩く人影は、その闇を避けるかのように、ひとり、またひとりと扉の中へ消えていった。 そんな街の脇道に落ちた闇の奥――目を凝らすと、髑髏を縫い付けたシルクハットをかぶった男が、にやにやとした笑みを浮かべて、側に立て掛けた黒い棺を愛おしそうにさすりながら通りを眺めていた。 闇の奥から男に語り掛ける声がした。 ≪ニョッホ~~ 精が出るねぇクリスティア~~ン! いつも極上な魂届けてくれて、嬉しいぜぇ~~~!≫ 「おぉ~、男爵殿であるか。やめるのであ~る。いつも言っておるが、その名の男は“あの時”死んだのであ~る。今の吾輩は『カリガリ博士』なのであ~る」 ≪……ムッフ~~ン、前から思ってたんだがねぇ~? 君のその『Dr.C・L・G・R』って何なんだ~い?」 「……わからんであるか?」 質問に答えるように闇から紫煙がぷかりと吹き出る。 「と~うぜん! 『Cesare・Love・Great・RosenCreuz (偉大なるローゼンクロイツのチェザーレ愛)』であ~る!」 ≪ニョッホホホホホ! イカすねぇ~~!≫ 「であ~るであ~る!」 次第に濃い霧につつまれてゆく街に、ふたつの笑い声が響き渡る。 ≪で、どうなんだ~い? あれからどれだけ経ったかね~ 100年……200年かな~? 君の愛する下僕君は復活しそうなのか~~い?≫ 「ヒヒッ……当然であ~る。研究の完成はもう間もなくなのであ~る。その為に、吾輩はこの国に“あれ”を作らせたのであ~る」 ≪ああ、あの組織だね~~? いろいろと集めてるそうじゃないか~~≫ 「であ~る、であ~る! 錬金に基づいた科学医療、そして魔術の融合――各分野の優秀なやつらを集めて、我が研究を完成させるのであ~る。ヒヒ、やっとのことであの優秀な『魔術師』を入団させたのであ~る。あとは『医者』であ~る……飛び切り腕が立ち、熱意――死を越えたいと願う底なしの欲望とも言える熱意を持ったやつが必要なのであ~~る」 ≪ニョホ、ここに~~そいつが~~?≫ 「ヒヒヒ、であ~~~る。吾輩が見るに、“あの者”は才能の金塊、吾輩に匹敵しかねん天才であ~る。あの者に“種”を植え付ければ――おっと、来た来た! あれであ~る!」 男がステッキをくるりと回しピタリと向けた先――そこには、ひとりの青年が歩いていた。無造作に長く伸ばした赤髪を結いあげたその青年の足取りは重く、まるで幽鬼のように生気がない。 ≪ニョホホ、ありゃあだ~いぶ堕ちてるねぇ~~魂が隙間だらけだぜぇ~~ 人死にかな~にか、悲しいことがあったのかね~~?≫ 闇の声がカラカラ笑っていると、それまで物音ひとつ立てず男の側に立て掛けられていた“箱”から、くぐもった声が聞こえた。 『―――人は簡単なことであっけなく死んじゃうからね。脆くて、儚くて、空しいね……博士』 声を耳にした男は慌てて箱に駆け寄り、優しく両手で抱きかかえて頬を摺り寄せる。 「おお……チェザーレェェェ、起こしてしまったであるかぁ? そうである、そうである……我が愛しの下僕よ、そうであるならば、吾輩が完璧におまえを蘇らせ、我らが世界を改造してやるのであ~る。もうすぐであ~る、いい子で待っているのであ~る……!」 言うやいなや、男はキリリとハットをかぶり直し、足早に通路から進み出た。 「そこの青年よ、待つのであ~る!」 赤毛の青年が足を止め、胡乱な目を向ける。 「お初にお目にかかる。吾輩はこういう者であ~る」 そして男が差し出した名刺を受け取り――、 「『黄金の夜明け団』……?」 「いかにもいかにも――お前、“命”を救えなかったのであろう? 吾輩も医者であ~る、同業者の悲しみは、魂の匂いでわかるのであ~る」 青年はハッとしたような目をしたが、すぐに視線を落とし、「すみません、急いでいるもので」と会釈をして去ろうとする。 足早に去る青年の背を見つめながら、男がステッキで強く石畳を叩いた。 ガツンッとした音が霧の街に大きく響き渡り、青年の背がビクリと跳ねる。 「どんなに手を尽くしても救うことができない無力さ――湧き上がる自責の苦しみ――吾輩には良~くわかるのであ~る! そんな命を救う術があ~~~る!」 青年が、足を止めた。 男はハットのつばを目深に下ろし、にやりと笑みをこぼした。
「それは『魔療術』という――興味はあ~るかね?」
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