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Ver3.5 |
Ver3.5 |
身長 |
どっちも同じだよ! |
体重 |
どっちに殴られたい!? |
最高速度 |
疲れは半分!速さは2倍! |
元の姿 |
見目麗しき仙女 |
父 |
太山府君 |
真名 |
天仙娘娘 |
イラストレーター |
moi |
フレーバーテキスト |
雲を裂き、天を駆けるは小舟と二輪。 仲間を集め、いざ妲己の元へ向かわんとしていた太公望であったが、どこぞへと姿を消した竜吉公主と、どこぞへと落としてきた太上老君を探し、太公望と蓮華の化身、仙気を辿り見知らぬ山を二人旅――。
「ほぅれ、ナタ」 太公望が巾着から菓子を取り出し、化身へひょいと投げてよこす。化身はそれを受け取ると、きらりと瑠璃色の瞳を輝かせた。 「やぁやぁ兄ぃの月餅だ! 兄ぃのこれは絶品よ! ちょうど腹が減ったとこだった、兄ぃは何でもお見通しだな!」 「ふふ、ここはお前の鼻が頼りだからね。それ喰ってもうひとがんばりしておくれ」 「あはは、かはは! 頼ってくれてうれしいぞ! さてさてあの爺さんは、果たしてどこに落ちたかな? んぐんぐ……あの山は見覚えあるな……んぐ……そのあと川をぐぐぃっと昇って――」 化身は菓子をほおばりつつ、来た道を辿りながら鼻をくんくんとひくつかせ太上老君の仙気を嗅ぎ探す。 「あぁ~」 「どうしたナタ坊、おかわりかい?」 「ひひ、おかわりは欲しいがな、兄ぃ、老子の仙気をみつけたぞ! けどな、なんだか余計な気もついている」 そう言って、化身は額に手を当ててきょろきょろとあたりを見回した。 太公望はその様子を見て、 「ナタが警戒するなんてね、老子め中々たいした御仁をお連れようだ」 と、半目に薄い笑みを浮かべて宝貝・打神鞭を片手で構えて見せる。 その先がゆらりゆらりと宙を探った後、ピクリと跳ねた。 「お? 兄ぃ、何かわかったか?」 「あぁ、ナタ、安心していいよ。しかしまあ……これまた大層なお方が来たもんだ。どれ、一度地面に降りようかね」 「……んん? 兄ぃ、そりゃまたどういう――まぁ、いいか! 兄ぃが言うならそうしよう!」 そう答えた化身に太公望はにこりと笑いかけると、宙に浮かぶ小舟を打神鞭でちょこんとはたく。すると小船はボンとした煙と共に小さな笹の葉へと変わり、その身はひゅるりと落ちてゆく。しかし、すぐさま化身が「ハハッ!」と笑い声をあげ、足に付いた風火二輪をぎゅるんと回して先回り。太公望をがしりと受け止め、ゆるりと地面へ降りたった。 すまないねぇ、と化身の腕から降りた太公望は空を見上げた。 首をかしげてそれを眺める化身も、合わせて空を見上げてみる。 「兄ぃ、空だなぁ」 「うん、空だねぇ――あぁ、ちょこっと危ないね」 そう言うと、太公望は片手を伸ばして化身の首根っこをつついとつまみ、後ろにひょいと下がらせた。すると―― 「「どーん!!」」 甲高いふたつの声とともに、ものすごい勢いで何かが天から降ってきた。 一直線に迷いなく地面に激突したそれは、もうもうと土煙を舞い上げる。 「なんだなんだ? 何の悪鬼か物の怪か?」 化身がわくわくとしたように袖をたくし上げる――が、薄らと晴れはじめた土煙の中に居たのは、ぐったりと倒れ込む太上老君と、その上にちょこんと乗った二人の小さな少女たちであった。 「おお、老子! どこに行っていたのだ!? 今から兄ぃと迎えに行こうとしていたのだぞ? それを自らやってくるとは、さては此度の戦い、老子も楽しみにしていたのだな!?」 「あいたたた……違うわ! ちゅうかこやつらめ……哪吒太子、お前もじゃ……こないだはよくもわしを投げ捨てて――ぐぇっ!」 ぼやく太上老君に、やっと会えたとからから笑って飛び乗る化身。 それをひょいっとよけて飛び降りた少女二人に太公望は微笑みかけた。 「お久しぶりだね――といっても、あたしは“その姿”で会うのは初めてなんだが……天仙娘娘のお嬢さん方、わざわざ老子を運んできてくれたのかい?」 見分けがつかぬほどに良く似た二人の少女は顔を見合わせると、太公望を見上げ、元気よく答えた。 「そうだよ!」「そうなの!」「「でも今は『双輪の精華』だね!」」 「そうかそうか、こりゃあ失礼」 「あたしたちは太公望のこと探しててね!」「そしたら、偶然老子を見つけたの!」「きっと太公望も老子を探してると思ったからね」「老子を連れてけば太公望に会えると思ったの!」「「だから一緒に来たんだよ!」」 「ほぅ、それは助かった。おかげでこんなに早く老子に会えたよ」 「うむうむ、そうだ! 一緒に来たらそりゃ早い! こりゃあまことに助かった! ……うぉっと!」 そんな話を聞いていた太上老君は、体の上で胡坐を組んで笑う化身を「いいかげんどかんか!」とはたき落とすと、一同を見やりうんざりしたように首を振った。 「はぁ~~~ナタの糞坊主もそうじゃが……この娘娘どももち~っともわしの話を聞かんくて……。そもそもな~~た~いこ~ぼ~~? わしってさぁ、お前に頼まれた役目はもう果たしたじゃん? もう御役御免じゃん? じゃから今のうちにこっそりとっとと帰ろって思ぅとったのに、こやつら放せといっても聴きゃあせん……。ナタの坊主は放さなくていい所で放すしのぉ……もうわし絶対手伝わんよ? 悪鬼どもけしかけられたり空から落っことされたり、じじい使い荒すぎて、もうほんと、これ以上絶対付き合いきれんよ?」 「いやいや老子。ナタはともかくあたしはこの通り非力だし、偉大な指導者にして仙力絶倫宇宙一な老子が来てくれりゃあ、それこそ百仙、いやさ千仙力なんだがねぇ」 「ぬぅ……ま~~たお前はそうやってうまいこと言ってわしを嵌めよるからのぅ……しかしまぁ、本心から言うとるんだったらのぉ~~~そこまでいわれてしまうとの~~~~も少しだけ……いや、小指のさきっちょの欠片くらいだけなら、ち~~~っとは手を貸してやらんでもないがの~~~~。う~~~んけど面倒じゃからのう~~~どうしようかの~~~」 太公望は、にやにやしながらうんうん唸る太上老君を見てくすりと笑うと、ふたりの少女に向き直った。 「それで、お嬢さん方。あたしを探していたと言ったね? 何かあたしに御用なのかな?」 少女たちはこくんとうなずく。 「そうなの」「あたしたち」「「妲己ちゃんのことで話があるの!」」 「……ほぅ」 「でもあたしたち」「あたしたちのままじゃ」「「難しい話は苦手なの」」「だから」「ちょっと」「「待ってね!」」 そう言うと、少女たちは手を繋いでぎゅうっと目をつむる。すると次の瞬間、ぼふんという音と共に煙が上がり、その姿をすっかり覆い隠してしまう。煙が薄らいですっかり消えてしまうと、そこには見目麗しい女神がひとり佇んでいた。 太公望はぱちぱちと目を瞬いた。それはかつての世界で見知った姿、全ての狐狸精の長にして七天女が一人・天仙娘娘、またの名は――『碧霞元君』の姿であった。 「おやまぁ、まさか再びそのお姿を拝めるとは思わなんだ。あんたは降魔になって“世界を越える”ための代償としてさっきの姿になったと聞いたんだが……」 「ふふ、“境界”さえ超えてしまえばこの姿にもなれるのさ。改めて、久しいな、太公望」 「うん、また会えて何よりさ。飛虎さんはお元気で?」 「あぁ、お前に封神されて後、神として楽しそうにやっているよ。その父上がこの世界にご用があるようでな、私はそのお供というわけさ。妲己のことはそのついでにね。しかし――」 仙女はたおやかに微笑み、近くの岩に腰を掛ける。 「――太公望、お前は変わらないな。飄々と何にも興味を示さないふりをしながら、いつも弱き者のために何が成せるか考えている」 「……何だい? やめとくれ、あんたまで。そんな良いもんじゃないよ、あたしは」 「ふふ、そうやってすぐにかわそうとするところも昔のまま……それで、お前はかつてのように再び封神を掲げているわけだが、あの子――妲己のことも“昔と同じ”にするのかい?」 太公望は女神の言葉にわずかばかり頬を動かすと、なんともいえぬ不可思議な笑みを浮かべる。 「さぁ、どうだろうねぇ……そればっかりは、会ってみなけりゃわからないよ」 読めぬ表情で曖昧な答えを返す太公望を、女神はしかと見据えて言った。 「狐狸精の中でもとびきり跳ねっ返りなあの子が、かつてのように良くない働きをしているのは知っているよ……でもね、今のあの子は太古の神に惑わされて乾ききっていたあの頃とは違う。新参の長である私にあの子の何がわかると思うだろうが、あの子の心は“本当の痛み”を知ったんだ――それはね太公望、お前のおかげなんだよ」 狐狸精の長たる女神は、感じ取っていた。 かつて人間に憧れ、憎み、滅ぼそうとした狐精――その心に宿った、かつては無かった痛みを。 「だからね……どうか全てが終わる前に、あの子の心に寄り添ってその痛みを知ってあげてほしいんだ――わかっているのだろう? お前はあの子にとって特別な存在……かつて唯一人あの子のもとへ辿りつき、打ち負かすことができたお前なら、あの子が自分もろともすべてを壊してしまう前に、その手をつかんでやれるはずなんだ」 女神の真剣な眼差しが太公望に突き刺さる。しかし、太公望は、困ったように微笑んだ。 「うん、あたしが妲己さんを打ち負かしたってのは……少し、違うんだけどね。あたしはあの人を封じてしまったとき……そう、ただ凄く、うっかりしてしまっていたのさ。それまでは、何度も繰り返し、上手くやれていたのにね――」 かつて、かの世界で妲己が世界を滅ぼさんと暴れまわったとき、太公望は幾度となく彼女と刃を交えた。 それは不思議な関係であった。 世の全てに憎まれる悪精と救世を託された仙人でありながら、戦いの最中、妲己は太公望の前では無垢な幼子のように笑ったし、時には穏やかとも取れる表情で他愛のない言葉を語った。太公望もまた、そんな彼女を受け入れるように語り、柔らかな笑顔を返した。 そして殺し合いが終わると、別れの際にはお互いどこかもの悲しい表情を浮かべ――少し踏み込めばわかりあえるようで、しかしそうしたらすべて壊れてしまう――そんなもどかしさを目に湛えたまま戦場を後にした。 彼女は真に打ち滅ぼすべき敵ではない、そう、わかっていたのに――。 「……あの時、あの人は自分からあたしの懐に飛び込んできたんだよ。いつものように綺麗な顔で笑っていたけれど、最後のあの瞬間だけ……もう終わりたいというような、とっても悲しい目をしてた――」 太公望は何かの忌まわしい感触を思い出すように、自らの掌を見つめ、そう呟いた。 「碧霞元君、あんたは今の妲己さんの心に“痛み”があると言ったね――確かにあんたはわかってない」 言いながら、顔を上げてちらりと女神を見やると、くるりと背を向ける。 「それはきっと、ずぅっと前からあったのさ。あたしたちが気付かなかっただけで……だからあたしは今度こそ、きちんとそれを知りたいと思っているよ。あたしみたいな非力な仙人ひとりじゃまた間違っちまいそうだから――今度は仲間と一緒にね」 そう言って太公望は、かたわらでえへんと腕を組む化身と、未だうんうんと悩み続けている太上老君を見やった。 「だからね、今度は少し違う結果にできる――そう思うよ」 その言葉に宿った、優しくも強い思い――。 「そうか……やはりお前に会いに来て良かったよ。あの子のことをよろしく頼む」 そう言って女神は、ほっとしたように太公望の背に微笑かけた。 「う~む、何やら長い話だったがな、つまり娘娘はあの女狐をとても大切に思っているのだな! ならば一緒に来れば良いではないか! 女狐の行く末もわかるというものだし、兄ぃと一緒の戦いは楽しいぞ!!」 化身は無邪気な笑顔を飛ばしたが、女神は困った笑顔で首を振る。 「そうもいかないのだ、太子殿。実は私はな――」 言いかけたとき、ぼふん、という音とともに女神の体が再び煙に包まれる。 見れば、そこに既に女神の姿はなく、 「「ぷっはー!」」 再び現れた小さな少女たちが、並んで大きく息を吐き皆を見上げていた。 「何と! またちびに戻ったな!」 「そうだよ!」「そうなの!」「あたしたち大人の姿に戻れるんだけど」「ずっと大人のままではいられないの!」「「時間切れってやつだね!」」 「あははは、かはは! 面白いじゃないか! 俺様はその姿でもかまわない! さぁさぁ一緒にまいろうや!」 「ははは、ナタ、この子たちには別の使命があるそうだ。無理に連れて行くわけにはいかないよ」 化身は、「なんと、確かにそんなことも言っていたな……面白いのに残念だ」などと言いながら肩を落としていたが、太公望はその頭をくしゃりと撫でるとしゃがみこみ、少女たちに尋ねた。 「行く前にひとつ教えて欲しいんだがね。お嬢さん方、竜吉さんを知らないかい?」 「竜吉ちゃんかあ……」「竜吉ちゃんねぇ……」 「おや、やはり何か知ってたかい?」 「ほぅほぅ、さすがは兄ぃだ! 良く嗅いでみりゃ、娘娘たちからあの姉ちゃんの匂いがするな!」 そう尋ねると、少女たちはうむむと唸り、そろって腕を組んだ。 「今はねぇ」「ちょっと」「「放っておいてあげたほうがいいかもしんないよ?」」「わたしたちから」「話した方が」「「いいかもね!」」 「……そうかい」 太公望はしばらく考え込んだ後、 「うん、それじゃあ竜吉さんのことはお嬢さん方にお願いするよ。あんな人だが、今のあたしがやろうとしていることには、きっと必要な人なんだ」 と言ってにこりと笑った。 少女たちもまた、それぞれ同時に元気よくうなずくいて太公望を見上げる。 「――公主は任せよ。そのかわりどうか、あの子を救ってくれないか?」 無邪気に笑う双神の二対の目の奥で、女神が語る思いがそう告げていた。 太公望はその思いを噛みしめるように一度目を閉じると、ふぅと息を吐き、「よっこいせ」と立ち上がる。 「ナタ、老師、これで目鼻はついたわけだが――」 「ではつまり、兄ぃ、いよいよというわけか!」 「はあ~~~~~~ほんとに行くんか~~~~い……超~~めんどくさいのう~~~~」 化身が期待に目を輝かせ、その横で老子が壮大な溜息をつく。 「そうだねぇ、いよいよというべきか、ようやくというべきか……何にせよだ、これを最後としたいものだね」 太公望の穏やかな紫水の瞳には、向けた視線の遥か先――この世界を覆う脅威の中心にして、妲己の妖気を色濃く放つ『紅蓮の塔』が、小さくも、確かに映っていたのだった。
to be continued……
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